一ピクセルの恋   作:狼々

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プロセカがサービス開始しましたね。
久々にスマホで音ゲーやってますが、思ってるよりできなかったです。
やはり親指勢には厳しいのか。

ここらあたりから、受験終わった後に書いた部分がでてきます。
いうて変わってなさそうな感じがしなくもないって感じてきました。感じが感じてきた。


運命操作

 人間は未知の存在にすこぶる弱い。

 知能を持ったがために、その知識の及ばない領域に困惑し、混乱する。

 実際、今まさに俺が陥っている状況は、それに当てはまるのかもしれない。

 

「貴方。勝利宣言をしていたところ申し訳ないのだけど」

「なんだよ」

「貴方の負けは、既に決まっているのよ。そこの天狗が耳打ちするかと思ったけど、そう」

 

 俺という人間は、彼女という吸血鬼の存在に潜む不確定要素を無視できない。

 先程からの口ぶり。恐らく。いや間違いなく。

 

 ──()()()()()()()()()()()

 

 ポーカーというゲームの性質上、手持ちのカードがバレることで背負うディスアドバンテージは計り知れない。

 リスクを負うはずの手札交換だが、そのリスクを回避しえる手立てがあるわけなのだから。

 

「あまり焦らないことね。手遊びが増えているわ」

「俺の癖なんだ。暇があるとすぐこうだ」

「はいはい。咲夜、配りなさい」

 

 彼女の号令に従い、トランプが素早く両者の元へと滑る。

 滲む手汗ごと強く握り、意を決してカードをめくる。

 続行か、決着か。この手札次第では、どちらにも転ぶのだ。

 

 頼みの綱である五枚のカード。

 それは中途半端にもツーペア。可もなく不可もなし。平々凡々。

 極端に強弱がはっきりすれば良いものを。こんな微妙な組み合わせが一番困るというのに。

 思わず溜息を吐きながら、テーブル下へカードを持った手を追いやる。

 

「そんなことをしても無駄。貴方、ツーペアでしょう?」

「やっぱ見えてんのか。ペテンにも程があるだろ」

「いいえ。そういう運命になっているもの。当然のことよ。全ての事象は異なる道筋を辿りながらも、一つの事実へと収束するの」

 

 何を言っているのだろうか。

 俯瞰すると、ただカッコつける中二病の発言だ。

 だが彼女の風貌は、その片鱗すら見せない、もっともらしいものだった。

 

「聞きたければ、そこの天狗に聞くことね」

「……話していいんですか?」

「ええ勿論。私が言うのだから」

「彼女は──レミリアさんは、『運命を操る程度の能力』の持ち主です」

 

 コイツも能力持ちの一人。なんとはなしに予想はしていた。

 しかし、運命操作だと? 

 あっさりと告げられた真実とは、その語られる軽さ以上に深刻なものだった。

 

「ふざけんなよ。それじゃ俺の勝ち目は──」

「ない。万に一つ、虚数の彼方にすら存在しないわ」

 

 彼女の目は、冷徹をそのまま体現したようだった。

 嘲笑も、憐憫も、愉悦さえ含まない。

 ただ鋭く、冷たい双眸。アイスピックの形をした氷。

 削られる側が削る道具に似るだなんて、そんな馬鹿馬鹿しいことが、どうやら現実化するらしい。

 

「だから、さっさとオープンしなさい。時間の無駄よ」

 

 互いに交換する時間も省略。俺は苦肉の策を投じ、カードを伏せる。

 ディーラーが開く吸血鬼の組は、スリーカード。

 俺の役をわかっていて、一つだけ強い役を揃える。大変に意地の悪い魔物だ。

 

「えっ……!?」

 

 驚嘆の声を上げたのは、射命丸だった。

 なにせ、吸血鬼の役はスリーカード。

 対するの俺の役は、ツーカードではなく、フルハウスなのだから。

 

「お嬢様、もういいでしょう?」

「ええそうね。この勝ちは譲ってあげる。その隠してあるカードを出せばね」

 

 観念して、卓上に四枚のカードを放る。

 

「抜き取っていたのはわかっていたわ。だいぶ手際は良かったけれどね。いっそのこと、貴方の能力を使ったらよかったのに」

「使っても使わなくても同じだからな」

「まあ、それが──」

「それが運命だから、だろ?」

 

 彼女の台詞を遮り、強引に言葉を繋ぐ。

 できる限り余裕綽々を装いつつ。

 

「この一勝、見逃したことを後悔させてやるよ」

「それは楽しみね」

 

 時間を稼ぎつつ、考える。

 あと一勝。あと一回分の勝ち筋さえ見出だせばいい。

 出来レースを狂わせるその一勝を、模索する。

 

 俺の心境が筒抜けなのか、メイドはさっさとカードを回収し、今までよりもずっと速くカードを混ぜる。

 ゲーム終了を()かすように、十枚の札が投げられた。

 

 吸血鬼が己が分の五枚を取る前に、能力を使った。

 彼女の視線が卓に落ちた瞬間を狙って。

 彼女に続いて俺もカードを見るも、ハイカード。

 どうやら俺に勝たせるつもりは毛頭ないらしく、容赦がない。

 

「…………」

「三枚交換だ」

 

 俺のカード交換が終わっても、役は変わらずハイカード。

 これもスカーレットの言う、『運命操作』というやつだ。

 予想はできていたが、この能力をフル活用されると、本当に勝ち目などないのだ。

 

「お嬢様、交換はいかかなさいますか?」

「……二枚、交換」

 

 スカーレットは訝しげな顔をして、交換を命令。

 メイドもなにやら不審そうに二枚を渡した。

 

 それもそうだ。

 能力を隠す必要はないため、自分の好きなカードを最初の五枚で揃えてしまえばいい。

 しかし、この二枚の交換。

 この行動が意味することは、能力の不発だ。

 

 合図もなしに、二人でカードを表に提示。

 結果は、互いにハイカード。

 だが、俺の方がランクが高かったため、この勝負は俺の勝ちとなった。

 

「運命が変わった、どうして……?」

「操るんじゃなかったのか? なんにせよ、こちらには好都合だ」

 

 未だ彼女の困惑顔は消えない。

 そんな中、次のゲームに用いる十枚が配られた八ゲーム目。

 また彼女が札を手に取る前に、能力を使用。

 一瞬こちらを見たが、俺の目を捉えられてはいなかった。

 

 俺も合わせて自分の役を見るが、またもハイカード。

 手札が五枚として、ハイカードになる確率は、50%と言われている。

 つまり、残り50%はワンペア以上となる確率なのだが、ワイルドカードの存在を加味するとその確率はもっと高くなる。

 こうもハイカードが出続けるものか、と運命とやらを嘆きそうになった。

 

「……三枚」

「俺は二枚で」

 

 たとえ交換しても意味がないことはわかっているが、それでもほんの少しの確率に縋ることに。

 すると、驚いたことに、ハイカードからワンペアへと役が昇格。

 彼女を見るも、まだ怪訝そうな顔をやめていない。

 

「どうした。さっきから浮かない顔して」

「貴方には関係ないでしょう」

「大アリさ。こちとら命賭けてんだから」

「……うるさい。さっさとオープンしろ」

 

 先程よりも高圧的な言動だ。

 ヴァンパイアという種類が元来こうあるのか、焦りによる不安からか。

 どちらにせよ、俺がゲームの流れを崩しつつあることに変わりはない。

 

 命令に従い、平然とカードを表にして出すことに。

 彼女も同じくカードを開くが、彼女の役はハイカード。

 俺はワンペアに昇華したため、このゲームも俺の勝ち。

 

 これで、戦績は四勝四敗となる。

 必然的に、次のゲームが最終戦だ。

 

「どうして……まさか、いや、でも……」

 

 彼女はそう呟いた途端、何かを決意したような顔つきになった。

 いや、何かからずっと目線を動かしていない。

 その「何か」こそ、俺の目に他ならない。

 

「もう能力を使おうなんて考えないことね。色が変わるまで、見続けるから」

「さっきまでも使ってないっつーの」

 

 白を切りながらも、メイドのシャッフルは止まることを知らない。

 手際良く配られた札を確認するまで、彼女は宣言通り、俺の双眸から目を離すことはなかった。

 

 だが、彼女は詰めが甘かったらしい。

 ずっと、この時が来るか、来ないかもしれない刹那を狙い続けた。

 彼女が手元の五枚を確認しようと、卓に置かれたカードを表にした瞬間。

 その一瞬だけ、絶対に視線は自らのカードへと向く。

 

 それを見逃すことなく、能力を発動。

 彼女の手札は既に視界に入っているため、彼女の札は変えられなかった。

 仕方がないが、勝負を左右する一戦のため、俺にできる最善がこれだろう。

 

「……ふん、やっぱり狂いはなかったわね」

「ああ。お前の言う通り、運命とやらは狂っちゃいない」

 

 事実、最後の二戦で、彼女は本来ならば俺の役よりも強い役を引いていた。

 だが結果として、俺の白星が上がっていることもまた事実。

 

「いいえ、おかしいわ。運命が狂うわけがない」

「能力を過信するなよ。運命はいくらでも変わるさ。バタフライ効果ってご存知?」

 

 バタフライ効果。有名な運命改変現象の名称だ。

 蝶の羽ばたきのような些細な出来事でさえ、後に続く未来系を大きく揺るがす種となりえるということだ。

 同列に並ぶバタフライ・エフェクト、という名は有名すぎるだろう。

 

「変わらない。変わらないために操作するんだから」

「じゃあ、そいつは運命を逸脱してる、つまり偶然の産物だな」

「貴方、能力を使ったでしょう? 隠さなくてもいいわ」

 

 当然、俺の能力が疑われるわけで。

 

「使ってないさ」

「これ以上は無駄な足掻きというものよ。あまり面倒なことはしたくないの」

「じゃあ、どうしてそう思う? そのカードの印刷が本物でないという確証があるのか? それを問い詰める方が野暮ってもんだ」

「それは……」

 

 彼女は口をつぐんだ。

 そう、できるわけがないのだ。

 

 俺の能力で化かしたのは、カードの絵柄だ。

 彼女の本当の役は、ワンペアではなくストレートだ。

 だが、今の彼女らには、それを証明する手立てはない。

 

 この能力がフルに発揮されるのは、同物体間の錯視だろう。

 ちょうどこのトランプのように、同形の何かに能力を使った場合、視覚以外での判別が難しい。

 

 三戦目と四戦目、頭を抱えて目を隠した際に、能力は発動していたのだ。

 俺の手札のうち、できあがる役に干渉しない一枚の絵柄だけを変更していた。

 彼女は「どうして」と口にはしたものの、忠言することはなかった。

 

 そして、彼女は密かに疑問を持つわけだ。

「運命」がいたずらに変わったのかも、と。

 一枚くらいなら、設定した運命からズレることも、ありえない話ではない、と。

 

 そうして自分の能力に疑心暗鬼になる。

 勝負の一戦や二戦程度なら、少しの疑いの心さえ持ってもらえればそれでいい。

 自分と相手の役を変えつつ、二勝をもぎ取った、というわけだ。

 

「今だけは寛大になってあげる。認めれば、貴方を殺さないでおいてあげる」

「冤罪だな。第一、お前は俺の目をずっと見てただろ。色は変わってない。それはお前が一番わかってるはずだ。だよな、ディーラーさん」

「そうでしょうね。能力使用の是非はともかくとして」

 

 あくまでも中立の立場を貫く十六夜。

 ここで暴露されたら逆にキツかったが、彼女はプレイヤーではないと自身で表明している。

 この一件に関しては、権限が及ぶことはない。

 

「……次で最後よ。絶対に負けない」

「そうか。勝とうが負けようが、次が最後なのに変わりはないさ」

 

 とはいえ、やはりまずい状況であることに変わりはない。

 次の一戦まで能力使用が疑われないようにいけば僥倖だったのだが、やはりそう上手くはいかなかった。

 あと一回で勝敗が決するとなれば、俺の能力に疑いをかけるのは自然なことなのだから。

 

 この一戦を勝ち取る(すべ)を、まだ俺は見出だせていない。

 しかもスカーレットは俺の目を見る解決策を取るため、彼女の手札は操れない。

 とにかくまずい。非常に厄介な事態となっている。

 こうなれば、俺の手札しかいじれない。できることが限られている。

 

 十枚が配り終えられ、同じような流れで能力を使う。

 俺のカードは、当然のようにハイカード。

 三枚の交換を申し出たが、その結果は変わらずハイカードのまま。

 対する彼女は、また交換する素振りすら見せない。

 

「思ったのよ。私の能力は絶対。自分の能力を疑う必要なんてなかったのよ」

「ああそうだな。お前の敗因は、自分の能力を信じなかったことだ。一瞬でも疑ったのが間違いなんだよ」

 

 考えられる限りの最善を尽くす。

 であれば、これしか取る手立てはない。

 

「では、お二人共、カードを表に」

 

 一斉に、カードを卓上へ。

 そこに整然と並ぶ風景は、その静けさとは裏腹に、到底実現しえないものだった。

 

「え、え……!?」

 

 驚嘆を隠しきれるはずもなく、射命丸は声で感情を(あらわ)にする。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それも、()()()()

 

 ありえない。二人が同時にロイヤルストレートフラッシュなど。

 しかも同じスートとなれば、それは不可能の域となる。

 トランプの構成は、一つのスートに関して言えば、同じ数字のカードが出ることはない。

 なので、この状況ができあがる確率は極めて低いどころではなく、()()()()()()()()()の一言で十分だ。

 

「ええ、ええそうでしょうね。こうなると思ってたわ。私の手札は変えられないものね!」

「スートが強い順って言われたことを恨みそうになったさ。でも、あんたの札が正しいとは限らない」

「それはないわ。ずっと、貴方の目を見ていたもの。私が役を確認する直前までね」

「断言はできないだろ。その前に能力を使っていた可能性はないのか? 今度こそ、運命が曲がったのかもよ」

 

 俺に見えた唯一の勝ち筋が、このスペードのロイヤルストレートフラッシュ。

 別のスートでロイヤルストレートフラッシュを組んだとしても、スートが強い順で勝敗が決定するため、意味がない。

 彼女が自身の手札に干渉できないと理解したならば、スートの要素を含めて最強の役を揃えてくることはわかっていた。

 だから、こうせざるをえなかったのだ。

 

「どうする、もう一回やるか? 多分、またこうなると思うけど」

「これが最後の忠告よ。能力を解除したら、殺すのは勘弁してあげるわ。貴方の善戦に免じてね」

「御冗談を。あんたこそ、負けを認めるべきだと思うけどね。そっちが約束守るとも限らないし」

「そう。少し手荒にはなるけど……咲夜」

 

 吸血鬼が合図すると、十六夜がナイフを構えてこちらへとにじり寄る。

 あえて彼女が能力を使わないのは、こちらに歩いてくるまでの間に恐怖心を植え付けるためだろうか。

 

「貴方の能力は、誤認を引き起こすもの。貴方の意識が飛べば、それもなくなるはずよ」

 

 ヴァンパイアは、無慈悲にそう告げる。

 言い終わるのと、十六夜がナイフを振り下ろすのは、ほぼ同時だった。

 

 ──そして、後ろでずっと見ていた射命丸が十六夜の腕を掴んだのも、ほぼ同時だった。

 

「貴方が間に入るのは、いかんせん理解し難いですね」

「当たり前です。眼前で見知った人間が死ぬのを呆然と見るのは趣味じゃないので。止めるのが普通だと思いますが」

「あら、そう。咲夜と私が二人でかかれば、貴方といえど、死ぬわよ? 容赦をするつもりなんてないから」

「私が死ぬ死なないの問題ではないですから。死ぬとわかっていても、止めるべきかと。それに、こうやって殺し合いに発展しないための弾幕ごっこでしょう?」

 

 妖怪の殺気というものは、狂気的だった。

 咲夜からは、主人からの命令に過ぎないからか、そこまで感じることはない。

 だが、スカーレットと射命丸の間に走る稲妻は、この空間から酸素を奪っていくように、俺の息を詰まらせる。

 

 もしスカーレットの言葉が真実ならば、彼女は相当な強さだ。

 十六夜が強者であることは身をもって理解している。

 彼女に殺害の意思があるのならば、本当に射命丸は殺されるかもしれない。

 

 そして、ヴァンパイアの両目が示す答えは、イエスだった。

 人を喰らう目。あまりにも凶暴で、自ら進んで見ることさえ本能的に避けてしまいそうだ。

 

「わかった、降参だ。解くよ」

 

 両手を上げながら、能力を解いた。

 俺の五枚のカードがゆらめき、元のハイカードへと变化した。

 

「少しだけ驚いた。情は誰にでもわくものね」

「そんなんじゃねーよ。目の前で殺し合いされんのが不愉快極まりないだけだ」

 

 溜息を吐きながら、両手を力なく上げることにした。




ありがとうございました。

東方ロストワードのイベントはFGOみたく日次開放になってましたね。
サクサク進めたいって気持ちはあるし、ノーマルしか開放されてないのに課題はしっかり25回までのがあるってのはこれいかに。

せめてハードとかルナティックのステージも開放してほしかったところではあります。

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