一ピクセルの恋   作:狼々

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お久しぶりです、狼々です。
ちょうど一年と八ヶ月ぶりくらいでしょうか。

受験終わりました。詳細は活動報告をご覧ください。
簡潔に申し上げると、国立受かりました。

一人暮らしが始まるので、更新ペースは不定期になると思います。

よかったら、これからもよろしくお願いします。


弾幕人生に光あれ

 射命丸の後に続いて、外へ。

 空は数え切れないほどの深緑に覆われ、昼下がりの陽光は姿を消していた。

 葉と葉が風で揺れ、擦れ合う音がどうにも耳に心地が良い。

 

「……先程はすみませんでした。私の不用意な詮索、本当に申し訳なく思ってます」

「どうした。やけにおとなしいというか、急に礼儀正しくなったな。俺としては助かる限りだ」

 

 神妙な面持ちで、少し俯いている彼女。

 元気がすっかり剥がれてしまったような、活力消失状態。

 俺とは決して目を合わせようとせず、ただ地面だけを虚ろに見つめていた。

 

「私にだってわかりますよ。聞いてよかったのか、悪かったのかくらいは。本当は、貴方へ最初に質問したときに察するべきだったんですから」

 

 最初、というと。

 ネタを目当てに取材をされたあの日だろうか。

 

 乾いた笑いを見せた彼女は、一層に空虚のオーラを漂わせている。

 物悲しい青を見せていた。

 今にも散っていきそうな脆い花を見ている気分だ。

 強風に吹かれ、根から地面と絶たれそうな花。

 それを見つめているにつれて、俺まで心が痛くなってくる。皮肉を言える雰囲気でもなくなってきた。

 

「……機会が来たら言うつもりだ。ただ、もう少し待ってほしい」

「わかりました。さて、切り替えましょう!」

 

 胸の前で手を叩き、自分へ戒めるように。

 ぱっと笑顔になった彼女は、やはりいつもの表情と変化がない。

 しかし俺には、一瞬だけ断罪に対し許しを()う処刑人に見えた。

 

「切り替えるって、具体的に何すんだよ」

「貴方を弾幕に慣れさせようかと。受ける意味でも、放つ意味でも」

 

 弾幕ごっこは、聞いた上では立場が二つに分かれる。

 一方が、相手のスペルカードを避ける側。

 一方は、自分のスペルカードを発動させる側。

 

 同時に二つの立場に立つことはあれど、どちらの側にも属さないというのは、棒立ち以外にはないはずだ。

 決闘の枠として採用されている以上、双方が立ち尽くすなどありえない。

 必ずどちらか、もしくは両方の境遇となる。

 

 弾幕ごっこで勝利を収めるには、その両方を平均的に鍛えた方が合理的だ。

 例え片方を鍛え抜いたとして、それを破る相手と対峙した際、為す術がない。

 作戦を選択できる権利は、持っておくに越したことはないだろう。

 

「まず、能力に頼らずに私に一発だけ弾を打ってください。精度と放出の鍛錬です」

 

 十メートルほど離れて、射命丸がこちらへ両手を振り始めた。

 能力に頼らず、ということは確実に射命丸を「的」として狙わなければならない。

 霊力量が極わずかである以上、数撃ちゃ当たる戦法は不可能。

 

「あいよ~……そらっ」

 

 心臓の血液を右手の平から押し出すような感覚で、霊力を放出。

 木漏れ日に照らされた一発の弾の色は、明確な黒。

 昨日のように暗黒に馴染むことなく、はっきりとした暗黒を誇張していた。

 

 速いとも遅いとも言えない速度で、射命丸との距離を着実に埋めている。

 数秒経って、もう少しで当たるだろうというところで。

 突風に吹かれたように、射命丸の体から大きく逸れて、森の奥深くへと消えていった。

 

「どうしました~? ちゃんと狙ってくださいよ?」

「わかってるよ、おらっ!」

 

 今度は左手も右肘の内から抑えて固定。

 落ち着いて標準を合わせ、霊力を吐き出すイメージを明瞭に。

 血流からエネルギーの塊が鼓動する鈍い刺激は、まるで腕の中に心臓があるようだ。

 

 満を持して、掌に溜めておいた霊力弾を射出した。

 今度は色も深い黒となっていて、密度が先程よりも高いことは一目瞭然。

 不規則に揺らめいていた輪郭も、気のせいかシャープな線が見えている。

 

 ──が、しかし。

 またも射命丸に触れる直前に、何かに引かれるように大きくブレた。

 

「──センスないなぁ」

「何か言ったか!」

「何も言ってませんよ、次いきましょ~」

 

 だんだんと射命丸の対応も適当になっている。

 つい数刻前の沈んでいた表情が嘘のようだ。

 しかし、本当に嘘かと言われると首を縦に振ることはできない。

 脳裏にちらつく、物悲しさを纏った()()()()笑みを完全に否定するのは、俺には不可能だった。

 

 頭を振って考えを振り切り、両の腕を構える。

 今度こそ手のひらを遠くの射命丸に重ね、弾を直進させようとしたとき。

 

「……おい。出なくなった」

「えぇっ、切れるのはやっ!?」

「『切れる』って、霊力がか?」

 

 俺の問いかけに、一切の躊躇いなく天狗は頷いた。

 その前に見せた驚き様は、今まで見た彼女の中で一番感情的だったのではないだろうか。

 

「ま、まさか()()()二発で終了だなんて思ってもみませんでしたよ」

「俺も自分の限界の圧倒的低さと、お前に対する苛立(いらだ)ちが全然隠しきれない」

「いや、でもこれはさすがに……」

 

 真剣な顔付きをしたと思えば、少し俯いて考え始めた。

 あの射命丸でさえ、こうして頭を抱えるほどの問題なのだろう。

 それはもう大問題だ。無視なんて到底できるはずもない。

 基準がわからない俺にできることは、基準を知ることのみ。

 

「普通はどのくらいなんだよ」

「まず普通の人は弾幕を出しませんが、そうですね……勝つことを視野に入れるなら、軽く数え切れないくらいは必要不可欠です」

「さようなら俺の弾幕人生」

 

 終わった、終了、解散。

 諦めるしかない。何が『常人よりも多い』だ。

 あの時の霊夢の言葉が、嘘だったのではないかと疑いを隠しきれない。

 

 勝つことは不可能。

 制限時間ずっと逃げ回るという手段もあるが、逃げられるかはさておき、そもそも時間制限があるのだろうか。

 ともかく、俺が自ら勝ちにいく戦法は潰えたわけだ。

 

「だ、大丈夫ですって、多分。恐らくきっと何とかなると思われますよ、ええ」

「推測だらけの意味がない励ましをどうも」

「未来のことを考えるのもいいですが、霊力切れじゃあ少なくとも今日は練習できませんよ」

 

 二発で霊力切れ。それがあと何日続くのだろうか。

 リロードできないFPS。弾の再装填さえも許されない一人称視点シューティング。

 

「……クソゲーかよ」

「まあまぁ、明日になれば霊力も戻ってるでしょうから、そう焦る必要はありませんよ」

「一日かけてやっとこさ二発の弾を込める銃なんて聞いたことないぞ」

 

 弾丸の製造にこだわり持ちすぎだろ。

 それか超低速リロードのリボルバー。

 威力が高い分有用性があるが、現実では威力どころか当てる技量もないときた。

 

「そこら辺の水鉄砲の方がまだ使えるな」

「ほらほら、そんなこと言わずに希望を持ってください」

 

 いいじゃないか、水鉄砲。

 水があれば汲み放題だ。弾が尽きることは、水溜りが源のときなど以外には殆どない。

 いきなり発射した水が横に逸れることもないので、大分当たりやすいことだろう。

 

「よし、避ける方をやってみましょう! ね?」

「……地上でなら」

 

 曰く、「避けるには飛行が必須」とのこと。

 どう考えてもフライングができるはずもなく。

 万が一できたと仮定して、それを持続させてさらには自在に動き回る必要まである。

 当然、経験がゼロの俺には到底不可能なわけだ。

 

 ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 飛行を諦め、意地でも地上のみで戦い続ける。

 空に地の利は殆どないので、そういう点では優位に立てるのだから。

 だから、決して自分に対して言い訳や口実を付けているのではない。

 

「じゃ、軽くいきますよ。それっ」

 

 射命丸が地に足を着けたまま、弾幕を発射。

 確かに数え切れないほどの弾の数。

 俺とは異なり、赤と青の二色に分かれた弾幕が、円状に形を保ったまま押し寄せてくる。

 速度は想像していた以上に遅く、人が歩行するほど。射命丸がコントロールしているのだろうが。

 

 ──しかし。

 

「い、意外と密度があるな」

「そうそう、弾の間を縫うように動くんですよ」

 

 どうやら本当に、『弾の幕』そのものだ。

 円状とはいえ、地面に対して平行に円状なのだ。

 一つの円につき、入るタイミングと出るタイミングの計二回を避けなければならない。

 

 それを、人ふたり分もない隙間を見つけ、くぐらないといけない。

 特に二回目が難しく、入った後すぐに出る場所を探さなければ、当たってしまう。

 

「ふうん、思ったより避ける方はできますね。では、スペルカードにいきましょうか」

「えっ、いやまだ地上だからマシなだけで──」

「岐符『(あめ)八衢(やちまた)』」

 

 唱えて一秒もしないで、灰色の弾幕が射命丸を中心に、同心円状に広がった。

 が、俺の前はこちらに広がった八の字型に空いている。

 それを認識した瞬間に、拡散した弾幕が青色に変わった。

 

 何かがある。そう覚悟をしたときには、既に思考は手遅れを飾っていた。

 弾幕が()()()()落下し始めたのだ。

 決して直線に落ちることもなく、ランダムに散らばった。

 

「……俺にどうしろと」

 

 せめて幸いなのは、速度がやや遅めなこと。

 出入り口を見つけやすい──が。

 難があるのは、やはりその弾の軌道。

 パターンがないので、どうしてもこういうことがある。

 

「あ~……こりゃ無理だ」

 

 避けた先に、()()()()()()()()()

 規則性がないことは、すなわちどのスペースにも弾が飛んでくる可能性があるということ。

 例えそれが、他の弾が進む先だとしても。

 その進行先が、俺の避けた方向。つまるところ、()()()()()()()わけだ。

 

 弾に当たって、多少の衝撃と共に後ろに突き飛ばされた。

 少し押し出されたくらいで、数メートルも宙を舞ったわけではない分、よかったと言えるだろうか。

 背中から陽光を溜めに溜めた地面に抵抗なく倒れ込み、空に浮かぶ青色のカーテンを仰ぐ。

 

「まだまだ、ですかね?」

「……ごもっともで」

 

 こちらを覗き込む射命丸に、陽光を遮断するように目を覆い隠して答えた。

 蒸し暑い。夏というものは、いつまで続くのだろうか。

 鋼鉄さえも凍りつく季節になれば、少しは成長できるのだろうか。

 

 根拠のない推測に、重い溜息を吐くばかりだ。




ありがとうございました。

実はこの前・後書きを書くのは三回目です。

一回目に上げる話を間違え削除、二回目は混乱して正しい話を上げているも、間違っていると思って削除。

いつまで経っても、私は私みたいです。

よろしければ、これからもよろしくお願いします。
今作品でも、別作品でも。

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