一ピクセルの恋   作:狼々

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どうも、狼々です!

今日誕生日でした。
ツイッターのフォロワーさん達からも、ゲーム仲間からもおめでとう言ってもらえて嬉しかった(*´ω`*)

では、本編どうぞ!




第2章 紅魔の施し
悪寒、曰くそれは電撃である


 射命丸と昼食を取った後、亜音速で帰宅。

 便利そうで聞こえは良いが、あくまでも聞こえだけだ。

 そこに利便性など感じる余裕もなく、ただただ身体にかかる非現実的な流風に気圧されるだけ。

 

 景色を楽しむ暇も、言葉を発する時間も、何もかもをショートカット。

 唯一切り落とされないのは、目に入る光が夏の太陽であるという視覚情報だけ。

 声を出そうとするならば、自分の喉奥に流れ込む空気で大変なことになってしまう。

 それを忌避する俺は、何度か経験をした亜音速飛行全てを、口を閉じて乗り越えていた。

 

 壁を越えた後の畳の感触は、何よりも尊い気がしてならない。

 こうしてあぐらで座る時が、幸せを感じずにはいられないのだ。

 

「……なあ、本当に飛ぶ速度、どうにかならないのか?」

「なりますけど、それだと速く帰れないじゃないですか」

「少しでいいから遅くしてくれ、頼む」

 

 そうでなければ、このままだと俺の寿命の縮む速度まで急加速してしまいそうだ。

 音速を超えて残りの寿命が減るなど、考えたくもない。

 妖怪の一年と、人間の一年では重みが違う。

 射命丸の寿命が一年消えることと、俺の寿命の一年が消えるのは、明らかな差が存在する。

 

 別に例えるならば、選挙だろうか。

 選挙区によって有権者数の差がある故に、「一票の格差」ができあがる。

 意味合いとしては掠りもしないが、一事象としては似通った部分もあるのではないだろうか。

 

「大丈夫ですよ、直に慣れますから」

「これに慣れるってのも複雑な心境なんだが?」

「そんなことを言っていては、急がない新聞配達者など、風上に置けないですよ」

「別に極めたいわけじゃないんだが」

 

 新聞配達が好きで好きでたまらない。

 新聞、と耳にしただけで興奮で手足が震えてくる、というのならばまだわかる。

 しかしながら、生憎俺は新聞狂信者でも活字中毒者でもない。

 

 速達の限りを尽くそうとも、そもそも手伝わなくともよいわけだ。

 楽ができるならそれに越したことはなく、わざわざ苦を経験する必要はなし。

 慣れる必要だって、義務だって全くもってないわけで。

 

「いいえ、私の右腕となってもらう以上、極めてもらわないと困ります」

「右腕どころか爪にすらなる気はないので、誠に勝手ながら貴方様のお誘いには首を縦に振りかねます」

「何を今更。将来を誓い合った仲じゃないですか」

「結婚みたいに言うな。誓った記憶すらないぞ」

 

 俺の記憶が正しければ、そんなことを仄めかすような発言は一切していない。

 射命丸から得られるものが何かないか、というものが狙いだ。

 そこに衣食住の保証の対価、という責任感がないわけではない。

 

 だが、本当にそれ以上でもそれ以下でもない。

 別に移住ができるなら考えるし、生計が立てられるなら一人暮らしでも一向に気にしない。

 射命丸の家と限定することさえ不要なわけだ。

 

「ちっ、ダメでしたか」

「お前は何がしたいんだよ」

「いやぁ、やっぱり新聞を一人で配るのは、中々骨が折れるのですよ。単純に人手不足です」

 

 まぁ、発行部数と釣り合わないのは、手に持ったあの重さと厚さですぐに察せる。

 どう考えても、五人は欲しいだろう。

 彼女の言うことは、あながち嘘でも笑いものにもならないのは事実。

 

「で、他に人を雇えばいいだろう? どうしてそうしない」

「人件費とか諸々かかるじゃないですか」

「ちょっと待てよ。それは俺に対して『給料要らない便利なゼロ円労働ロボット』って言いたいのか」

「……えへへ」

「えへへじゃねぇよ」

「で、でもでも、生活費とか生活費とかあるじゃないですか」

 

 確かに、そこを挙げられるとぐうの音も出ない。

 実際こうして生きながらえているのは、他ならない射命丸の手助けあってだ。

 感謝すべきところだが、素直に感謝をすると妙に癪に障る。

 

 胸を張り、得意気になったあの顔は、見ていて腹が立つ。

 いくら感謝しているとはいえ、あの表情を見ると思うと、礼の一つさえ躊躇われる。

 一種の魔法のような何かと勘違いしてしまいそうだ。

 

「それはその、間違っちゃいないな」

「でしょう? 私が養う側なのですから、せめてヒモではなくヒモ手前くらいにはなりましょうよ」

「一学生にヒモ卒業を要求するか」

 

 そう、幻想入り前までは、れっきとした高校生をやっていたのだ。

 何が楽しくてこの状況から仕事へ身を入れなければならない。

 俺としては不思議でならないのだが、その辺りはどうだろうか。

 

「いいじゃないですか。これ以上下がる成績なんてないでしょう?」

「あからさまに侮辱だよな? 俺の成績なんてゴミとでも言いたいのかよ」

「そこまで言っていないじゃないですか。せめて『ないも同然』ですよ」

 

 殆ど同じな気がするのですが気のせいですかね妖怪様。

 ゴミすら残らないという意味では、むしろ酷くなっていないだろうか。

 

「ところが残念! この前に受けた夏の全国模試の順位では、脅威の()()()なんだよなぁ!」

「えっ……?」

 

 そう、実は意外と優秀だったりしたり。

 自分で言うのも何だが、これでも勉強はしている方だ。

 遊びより勉強と、勉学に関しては努力を惜しんだ覚えはない。

 

「嘘……な、なん、で……?」

「ちょっと? 『何で』って聞こえた気がするんだけど? 空耳だよな?」

 

 何で、とは自分の固く決めた意志や不変の真理が揺らいだときに言うような言葉だ。

 まるで俺が頭悪いみたいなイメージが、根深く付いているように。

 空耳であると、聞き間違えであると思いたい。

 

「そりゃそうですよ。どうして貴方みたいな方が……」

「言い過ぎだろ。俺だって心を持った人間だぞ」

 

 俺が淡白な人形であるかのように、平然と罵倒を続ける射命丸。

 わざとなのか、無意識下での発言なのか。

 後者だとしたら、相当に性格と(たち)が悪いだろう。

 

「いや、何というべきなのでしょうか。向こうの世界ではずっと不良の一部かと」

「ここまで来ると、俺は本当はどんな印象を持たれているのか気になってくるわ」

 

 別に俺に対して、射命丸がどんな感想を抱こうとも、気にもならないし留めない、留まらない。

 そのはずだったが、最早突飛すぎて逆に聞きたくなってくる。

 

 少し口と性格が悪いだけだ。

 頭にきたらすぐに手を挙げるほど暴力的な性格ではない。

 

「ん~……利益だけきっちりもぎ取ろうとする、ヒモ予備軍?」

「あながち間違っちゃいないから困る」

「ヒモは否定してくださいよ」

 

 何か少しでも現実との差異があれば、せめて一言程度は指摘できたのだが。

 完全に不一致とも言えないので、首を縦に振らざるを得ない。

 ここで横に振ると、俺が働きたい症候群の社畜みたいになるので、しようにもしたくない。

 

「まぁ、なんやかんや言って、手伝ってくれるのでしょう?」

「手伝ってやる、もとい手伝わないと俺の生活が危ぶまれる」

 

 そう、忘れてはならない。

 俺がどれだけ態度が大きかろうとも、この家の一番の権力者は射命丸だ。

 

 元々俺が居候する形なので、どちらに主権があるのかは一目瞭然。

 泣こうが喚こうが、絶対的な権力差は埋まることはない。

 全ての決定は射命丸ただ一人に(ゆだ)ねられていて、俺の存在すらもどうにだってできる。

 

 外へ放ることも、奴隷まがいのことを強いることだって。

 それこそ、本当に俺を煮るなり焼くなり、殺すなり。

 最後は彼女自身が否定しているが、いつ何があってもおかしくない。

 妖怪という存在そのものが、そもそもの非現実なのだから。

 

 目前にしている物を非現実と称するのも、おかしな話ではある。

 が、「あやかし」という言葉は、あくまでもフィクション。設定でしかない。

 現実か非現実かと問われると、後者の方が間違いなく答えとしては適切だ。

 

「そうそう。私の言うことは全てそうやって聞いていればいいのですよ」

「はいはい、わかりましたよ射命丸様。ご要望はなんでしょうかねぇ」

 

 皮肉めいて、半ば自暴自棄とも思える忠誠の台詞。

 中身が空気であることには何も変わりがないが、後の射命丸への対応には。

 

 ――そうもいかない。

 

「では、まだ聞いていない貴方のことを教えてください。外の世界での生活、()()()()などを」

「…………」

 

 沈黙は、重りを引っさげて俺の全身へと容赦なく吊るされた。

 口を開こうにも、意識ではなく体が拒絶反応を起こしてしまう。

 冷や汗が、悪寒が、鋭利な痛覚が、まるで電撃のように駆け巡った。

 

 明らかな様子の変化に、射命丸さえも戸惑っている。

 それもそうだ。さっきまで威勢たっぷりだった俺が、いきなり顔を白くして黙り込むのだから。

 観察眼云々の話ではなく、誰にだって不具合、「バグ」には気付いてしまう。

 

「あ、あ~、いいんですよ。言いたくないことは言わなくても。人には秘密の一つや二つは当然ありますし、野暮なことを無理矢理聞くような真似は――」

「悪い、少し取り乱したな。何でも聞いてくれ」

 

 やはり、この能力は便利極まりない。

 自分の見せたくないもの、差し替えたいものを即座に引き出せる。

 それはもう、人間とは別種の何か。ピエロにでもなった気分だ。

 

 使った瞬間の浅い罪悪感と浮遊感、そして胸を抉られる鈍痛。

 思い出すだけでも吐き気がするのに、使わずにいられない。

 慣れというものは、確実に身体を蝕むという事実を、今更ながらに痛感した。

 

「……いえ、やはりそれは後にしましょう。まずは、幻想郷の生活に馴染まないと。貴方の能力も、まだ完璧に使いこなせるわけではないのですから」

 

『欺く』能力は、何も万能というわけではない。

「自分」という枠組みを越えることはなく、他者へと成り代わることはない、という制限。

 それは迷わせることなく、力を自分の物にできていない証だ。

 

「ただ、貴方が楽になった時でいいです。少しだけ気が向いて、心も落ち着いたら、話してくれると嬉しいです。報道者としてではなく、一個人として」

「……まぁ、気が向いたら、な」

 

 気が向く、なんてことはあるのだろうか。

 のしかかる罪から逃げるために、あるいは罰を軽くするために。

 (よこしま)で自己中心的な目的のために、告白する。

 その可能性だって、ないわけではないのに。むしろ、こちらの方が高いのに。

 

「では、夕食まで能力の考察といきましょうか! ほれほれ、その地味な能力を早く見せなさいよほらほら~」

 

 重苦しい雰囲気を打開したのは、彼女の小さく抑揚のついたいつもの声だった。

 今回は、助けられたというべきなのか。

 それとも、要らない配慮を押し付けられたと言うべきなのか。

 

「何が地味だよ。限りなく有用だろが。少なくとも、お前が持っているであろう能力よりも優秀だぞ」

 

 言葉にはできない分。

 せめて、態度で表すことにしようか。

 

「あれ? 私も能力があること、言ってましたっけ?」

「いや、推測だ。周りの奴ら皆持っているからな。妖怪様が持たない訳ないってな」

 

 幻想郷最速が、一般妖怪だとすると、聞いて呆れる。

 まず一般と妖怪が結び付くとも考えにくいが。

 

 恐らくだが、射命丸は妖怪のヒエラルキーの中でも上位に位置すると考えてよさそうだ。

 裏付ける確たる証拠はないが、低いカーストにいるとは考えにくい。

 彼女特有の態度の大きさや振る舞いは、下位の者が真似してできるようなものではない。

 

「えぇ、言う通り持っていますよ。『風を操る程度の能力』が」

「えっ何それ強そうかっこいい」

 

 前言撤回。射命丸の方が断然上だわ、これ。




ありがとうございました!

最近更新遅くなって本当に申し訳ない。
更新の程は、ツイッターで毎回告知しています。
ID載せときますね(*´ω`*)

→@rourou00726

狼々@ハーメルンってユーザー検索しても出てくると思います。

ではでは!

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