目が覚めてから数日が経った。
今日はクラスの皆と先生がお見舞いに来てくれた。
夏休みだというのにわざわざ来てくれたのだ。
「雄二〜早く元気になるといいな!」
「元気になったらサッカーやろうぜ!サッカー!」
「は?雄二は俺達と野球するんだよ。」
「違うわよ!雄二くんは私たちとお菓子作りするんだから。」
ワイワイガヤガヤ
「はーい、皆病院では静かにね。暮見くんは怪我してるんだからなおさらね。」
先生の一言でみんなが静かになる。
久しぶりに見るこの光景に心が穏やかになる。
「ごめんね。暮見くん。騒がしくしちゃって。」
「いえいえ、俺も静か過ぎて退屈してましたから。」
先生が気遣ってくれたが俺としては大歓迎だった。
「ヨッシャー!じゃあ、怪我なおったらサッカーも野球もお菓子作りも全部やろう。」
俺の言葉に皆は大喜びだ。
それからは他愛のない話をしたり、お見舞い品として果物を貰った。そして気がつくと皆が帰る時間になっていた。
「じゃあな〜雄二〜。」
皆が帰り、一気に病室が静かになる。病室にいるのは俺と先生だけだ。
「あれ?先生は帰らないんですか?」
「うん、ちょっとね。暮見くんと話したくて。いいかな?」
考えてみれば今日はクラスの皆と喋っていて、先生は見守りっぱなしだった。
「もちろん。俺も先生と話したかったんで。」
そして俺と先生はしばらく話をした。久しぶりの先生との会話は楽しかった。
「それで、えーっと・・・・」
急に先生が喋りにくそうにしはじめた。めずらしい。
先生は基本言いたい事はハッキリ言う人だ。
「どうしたんですか?」
「えっ!いや・・・・大丈夫なの暮見くん?その・・・ご家族が・・・」
先生が心配して聞いてくる。なるほど、言いづらそうにしていた理由がわかった。
「大丈夫。ってわけじゃないですよもちろん。皆が死んじゃって、すっごい悲しいです。」
「暮見くん…」
先生が悲しそうな顔をする。そんな顔しないでくださいよ。まだ全部話してないんですから。
「でも、クヨクヨはしません!」
「えっ!」
あっ、先生の驚き顔初めて見たかも。ラッキー。
「俺が今生きてんのは父さんと母さんのおかげですし、生きられなかった妹のためにもクヨクヨせずに頑張ろうって思います!」
俺が宣言仕切ると先生が急に抱きしめてきた。
「せ、先生!?」
先生のたわわなあれがあ、あたってますって!?
具体的にいうとおのつくあれが。
「よく言った!がんばったね。」
先生が俺をやさしく褒める。先生の声は震えていた。
「先生泣いてるんですか…」
「そりゃ、泣くでしょ。教え子がこんなに立派なこと言うんだから。」
そして抱きしめながら頭をなでられる。
「先生、恥ずかしいです。」
嬉しいがさすがに恥ずかしい。
「泣かせたんだからもう少し我慢しなさい。」
それからしばらくして先生は俺のことを離した。
ふぅー、やばかった。なにがとは言わんが。
「じゃあ、私も帰るわね。・・・暮見くん、その心を忘れちゃだめよ。大事なものだから。」
そう言い残すとまた来るわねぇといいながら先生は何も無かったかのようにケロりとして帰って行った。
★
抱きしめ事件の次の日。
俺の元に一人の女性が訪れてきた。
栗色の長いポニーテールがとても似合っているナイスバディーなクール美女だ。
「君が雄二くんね。」
「はい、そうですけど。」
はて?俺はこんなクールビューティーなお姉さんと知り合いではない。お知り合いには是非ともなりたいが。
「お父さんに似てるわね。」
「父をご存知なんですか?」
話を聞くとこの女性は父さんの知人で弁護士さんなのだという。
「なるほど、父さんの知り合いだったんですね。でも、知ってるかも知れませんが父さんは・・・」
「もちろん知っているわ。知ったからこそ私は雄二くん、あなたに会いに来たのよ。」
ますます意味がわからん??
「わからないのも無理はないわ。それを今から説明するのだから。」
俺の様子を察して、弁護士さんは説明を続けていく。
弁護士さんいわく、
父さんは弁護士さんにある依頼をしていたそうだ。
その依頼とは父さんに何かあったときに遺産などの金銭面を確実に家族に相続させること。
何故そんなことを頼まれたかというと父さんと母さんは親戚の反対を押し切って結婚したらしく、親戚からの印象が悪いからだそうだ。因みに父さんと母さんはどちらも両親が亡くなっており味方がいないとのこと。
初耳なんですけど…そういえば親戚とかにあったことねぇ…
で、話は戻って本来それは母さんが相続するはずだったのが今回の事故で受け取ることができるのが俺だけになってしまった。よって俺に会いに来たんだと。
「わざわざこんなガキのために申し訳ないです。」
「そんなことは気にしなくていいわ。それより君、ほんとに小学生?」
ドキッ!?
「あ、当たり前じゃないですかー。どうしてそんな変なこと聞くんです?」
あはは…と笑いながらきり返す。
嘘は言ってない。俺は今小学生なのだから。しかし、心臓バッキバキである。
「いえ、なんていうか君の態度がとても小学生に見えないほど落ち着いていたもんだから。それに今の話を理解できていたし。普通、君ぐらいの子じゃあ、わからないわよ?利巧なのね。」
ドキドキッ!?
「り、利巧だなんて、そんなことありませんよ。知っていたのだってテレビでやっていたのをみたことあったからで。」
常識的に考えて俺の精神が子どもじゃないと考える人なんていないと分かっているのに今、心臓の鼓動はめちゃくちゃに速い。なんともいえない緊張感がある。
コナン君ってこんな気持ちなのかもな。
「謙遜なんてしなくていいのよ?私としてもスムーズに話が進むから。」
はい、っと言って一つの封筒を渡してくる。
良かった気にしてなさそうだ。
「その封筒の中には君の父親の直筆で書かれた遺書に近いものと暫定的な相続額をだした紙が入ってるわ。確認して。」
そういわれ、封筒を開けると二枚の折りたたまれた紙が入っていた。
一枚目を見てみるとびっしりと書かれた手紙だった。
内容は簡単にいうと自分になにかあった場合、遺産は全て、妻または子どもに渡すことを約束する文とその相続の正当性などを書いたものだった。手紙の最後に父さんの名前と実印が押してある。
二枚目はいろいろと数字が書かれた紙だ。視線を一番下にずらしていくと暫定での相続額が乗っていた。
え~っと、頭の数字が2でゼロが1,2,3,4,5,6,7…8つ。・・・1,2,3,4,5,6,7,8つ…
「に、に、二億ぅ!?」
思わずベッドから転がり落ちかけた。
詳細を見ると資産や保険、土地や建物代もろもろ含めて二億円もあるのだ。
やはり数え間違えではない。
「通常の相続と比べると3~4倍以上あるわ。で、今のところ他に聞きたいことはあるかしら?」
聞きたいことは何個かあったが
「あるんですけど、それよりも少し一人にしてもらえませんか?」
今は一人になりたかった…
「もちろんいいわ。一人で整理する時間も必要でしょうから。そうね30分ほど席を外すわ。足りるかしら?」
「えぇ、十分です。」
俺がそう言うと弁護士さんは病室から出ていき病室には俺だけになった。
★
今、おれには考えなくてはいけないことがある。
それは俺の
俺がもらった特典は三つ。
一つ目は、【顔と頭を良くする】
これは確認できている。今の顔は父さん似のイケメンだ。頭の方は物覚えがすごくよくなったりしている。
二つ目は、【基本なんでも平均以上こなせる丈夫で健康的な体】
これについても確認できている。恐らくこの特典による影響で俺は身体能力が上がっていたり、病気にもかからない。あとはコツなどをすぐにつかめる。
三つ目は、【お金が欲しい】
これはいままでなに不自由なく暮らせていたのとよく財布やお金を拾う(ちゃんと交番に持って行く)のが特典の効果のあらわれだろう。
以上三つが俺の特典だ。
しかし、一度聞いたことで理解できなかったことはなく、身体能力については俺は現時点で中学3年レベルほどの能力を発揮できるし、料理はそこそこの店で出せるほどのものを作れる。
これらのことで俺は鍛えたりといったことはしてない。ただ普通に過ごし、普通に調理してただけだ。
なにを伝えたいのかというと俺の特典は
そして三つ目の特典だけ異常性を確認できていない。いままでは三つ目には異常性がないと思ってきていたが、
今手元には俺に二億円が相続される内容の紙がある・・・
二億円という
もし、偶然ではなかったら?それの意味するものとは?
「俺の…せい…なの…か…?」
一気に吐き気がせりあがってくる。俺はベッド横にあるタライをとって、
「オエェ‼ウエェ‼」
吐き出した。吐いて。吐いて。吐き出し続けた。
胃の中身はとっくに空っぽのはずなのに壊れた蛇口のようにとまらない。
そして胃が飛び出るんじゃないかと思うほど吐いたところでようやく止まった。
病室には酸っぱいにおいが充満している。
「ォエ…ゲホッ…ゲホッ・・・」
口元を拭い、視線を上げるとフルーツバスケットに入っている果物ナイフが見えた。
それをのどにに突き刺せば人など簡単に死ぬだろう。
「ハァ・・・ハァ・・・」
気が付くと果物ナイフを両手で握り、自分ののどに向けていた。
『そうだ、やれっ‼』
勢いをつけるためナイフをゆっくり引く。
『俺はいちゃいけない存在だ。』
ナイフをゆっくりとさらに引いてく。
『生まれてくるんじゃなかった…』
ナイフをピタッと止め、標準をあわせる。
『転生なんかせず、あのまま死んだままにするんだった。』
そして、思いっきりナイフをのどに突き立t『暮見くん、その心を忘れちゃだめよ。大事なものだから。』
「ッ!?」
ピタッとナイフは首の目の前で止まる。
『何している?はやく死ねよ‼』
心ではそう思っても、体はピクリとも動かなかった。
「でぎない・・・」(できない)
吐き続けたせいか、干からびた声しか出ず、うまく喋れない。
それと同時に涙と鼻水があふれ、ぐちゃぐちゃになる。
「こごで…じんだら…うらぎるごとに…なる…がら…」(ここで…死んだら…裏切ることに…なる…から)
ここで死んだら気にかけてくれてる先生やクラスの皆、治療してくれた医者の先生や看護師のお姉さん、最後まで元気をくれた妹、そしてなにより俺を守ってくれた父さんと母さんへの裏切りになる。
「だがら・・・じねないッ‼」(だから・・・死ねないッ‼)
しかし、自分は許せないため、いまだにナイフは首元にかざしてある。
いまかいまかとナイフを持つ手が待っているようにみえる。
すると、
「何?・・このにおい?」
「ここから?・・暮見さん、入りますよ。」ガラガラ
二人の看護師が入ってきて異臭に顔をゆがめた後ギョッとした。
「暮見さん!?何してるんですか!?やめなさい!」
「ッ!?私、人呼んできます‼」
やめなさいと言われてもそんな簡単にこのナイフはおろさない。
自分への怒りからおろせそうにない。
このまま突き刺せたらどんなに楽なんだろう?
ボーっとナイフを見つめながら考える。
『臆病者!死にたくないだけだろう!』
そうかもしれない。いや、きっとそうなのだろう。想いを語っておきながら情けない。
『なら死ね。今すぐナイフを突き立てろ。』
それはとても魅力的な提案だが、それだけはできない。
『じゃあ、死んだ三人にどう詫びる?』
わからない。どう償えばいいんだろうな…
『わからないんだろ?じゃあ、死んで詫びろ。きっと喜んでくれる。』
喜んでくれるかもな?でも死ぬのはただ自分が楽になれる方法だ…
『はぁ~、いいから・・・早く!死ねよぉ‼」
気が付くと俺はナイフを振りかぶっていた。
そして自分を刺そうとして、いつの間にか来ていた大人たちに取り押さえられた。
俺はそれに抵抗せず、ただ、ただ、考えていた。
(おれはどうすればいいんだ・・・・)
やっぱり救いなんてなかったんや・・・・
あっ!そうだ!(唐突)
次回ついに原作キャラが出ると思います。
お楽しみに~
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