~E・S~転生者は永遠を望む   作:ハーゼ

55 / 72
第五十話 死を呼ぶ福音《前編》

「受け取れないってどういう事かな?箒ちゃん。この紅椿は間違いなく最強の機体だよ?」

 

「姉さんがそう言うのならその機体が最強の機体であることは紛れもない事実なんでしょう」

 

「な~んだ!ちゃんとしんじてくr「尚更受け取れません」―――えッ!?なんでなんで?」

 

ISの開発者である篠ノ之束が作った専用機、それはすなわち世界中が喉から手が出るほど欲しがるものである。

それを前にして受け取らないという箒。

必然的に周りからは疑問の視線が集まる。

 

「力というのは制御できなければただの暴力です。私はまだまだ未熟故に受け取る資格はありません」

 

「資格?そんなもの必要ないし、箒ちゃんは前よりもしっかりと力をつけているじゃん。それに紅椿は私が箒ちゃんの為に作ったんだから好きに使っていいんだよ?」

 

「私の為に作った?そもそもそんなこと頼んでませんし、私は自分の力で自身の道を切り開きます!もう兄さんと姉さんに頼ってばかりの私のままじゃ嫌なんです!」

 

自然と箒の声は大きくなり、離れた者にも聞こえるほどの大きさになっていた。

ざわついていた者達も息を呑み、ビーチを静寂が支配した。

それほどまでに今の言葉には力が籠っていた。

 

「・・・・あっちゃ~、そこまで拒否られちゃうとお姉ちゃん寂しい」

 

その沈黙をやぶったのはやはり束だった。

場の雰囲気に流されるようなら天災とは言われない。

 

「でもまぁ、箒ちゃんの成長もまじかで見れたことですし良しとしよう!ということで束さんは帰るのであった」

 

そう言うと束の横にニンジン型のロケットが展開され、紅椿も待機状態となり束の手に収まる。

ロケットに乗り込み扉を閉める直前、扉の動きが止まり、束が顔を出す。

 

「あっ、そうだ。束さん予想的には箒ちゃんは紅椿を絶対に受け取ると思うよ」

 

それだけ言い残しロケットは飛び立っていった。

その光景にやはり生徒たちは呆然とする。

 

「手を止めるな!さっさと自分のすべきことをなせ!」

 

しかし、千冬の言葉が一言入るだけで誰もが手を動かし始める。

一人を除いて。

 

「篠ノ之、お前もさっさと作業に戻れ」

 

「私が受け取る…?ありえない…」

 

まるで千冬の声が届いていないのか、箒は一人呟いている。

その表情は困惑に満ちている。

いくら声をかけても無駄だと察した千冬は箒に近づき肩に手を置く。

そうすることで箒はやっと千冬に気が付く。

 

「篠ノ之、束の奴が言っていたことは気にするなとは言わないがそれで平静を失うな」

 

「はい…」

 

「それと―――」

 

千冬の声が箒以外には聞こえないであろうほど小さくなる。

 

「さっきの言葉、雄二も喜ぶだろうよ」

 

「!千冬さん」

 

僅かに残っていた迷いも消えたのか、箒の顔に笑みが浮かぶ。

 

「織斑先生だ、馬鹿者」

 

「いたっ!す、すみません」

 

強烈なデコピンが箒の額を襲う。

赤くなった額を両手で抑え、少し涙目になる箒。

 

「わかったのならさっさと作業にm「織斑先生っ‼」―――どうした?」

 

ただ事ではない、摩耶の様子からそれを瞬時に感じ取る千冬。

 

「こ、これを」

 

「・・・・・・これは」

 

摩耶から渡された端末に目を通した千冬の表情が険しくなる。

 

「あの、織斑先生。何かあったのでしょうか?」

 

近くにいた箒はその変化にいち早く気がついた。

 

「機密事項だ。―――全員、注目!」

 

一言返事を返すと千冬はパンパンと両手を叩き生徒全員を振り向かせる。

 

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止。各班ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機すること。以上だ!」

 

「え…?」

 

「ちゅ、中止?えっ?特殊任務…?」

 

「どういう状況!?ねぇ!だれかわかりやすく!」

 

不測の事態に一同はざわざわと騒がしくなる。

しかしそれを、千冬の声が一喝した。

 

「とっとと戻れ!以後、許可なく室外に出たものは我々で身柄を拘束する!いいな!」

 

『は、はいっ!』

 

全員が慌ただしく動き始める。

その表情には不安の色がみえる。

 

「専用機持ちは全員集合しろ!織斑、衛宮、天馬、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰!―――更識はサポートだ!」

 

『はい!』

 

「・・・・・ッ」

 

ISパーツを運ぶ中、箒は一人唇をかみしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは現状を説明する」

 

旅館の宴会用の大座敷に専用機持ち及び教師陣が集まったことを確認し、切りだす。

現在の状況はこうだ。

 

1、アメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS【銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)】が制御下を離れ、暴走

 

2、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することが判明。時間にして五十分後

 

3、学園上層部からの通達により我々が対処することが決定

 

4、教員は訓練機を使用して海域を封鎖、よって作戦の要は専用機持ちが担当

 

「――――――以上が我々の現状だ。」

 

現状説明を終え、専用機持ちを確認する。

代表候補生はこういった事態における訓練はしてるため覚悟ある顔つきをしている。

衛宮は多少の戸惑いはあるが覚悟は決まっているといった顔。

天馬は動じず、軽く笑みまで浮かべている。これは少し危険だ。

そして一夏は――

 

(明らかに動揺しているな。無理もないか)

 

だが、事態は深刻だ。

あまり構ってやることもできない。

 

「それでは作戦会議を始める」

 

 

会議を初めて数分後、出た答えが

 

『一撃必殺の攻撃力を持った機体でのアプローチ』

 

福音は超音速飛行を続けているためアプローチは一度きりなためこれしかない。

全員の視線は一夏へと注がれる。

 

「あんたの零落白夜しかないってわけね、一夏」

 

「それしかありませんわね。ただし、問題は―――」

 

「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね」

 

「エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいと思う」

 

「尚且つ目標に追いつける速度のISでなければいけないな」

 

「ってことは、超高感度ハイパーセンサーが必要っぽいな。アイアスじゃ無理そうだ…」

 

「お、俺が行くのか!?」

 

『当然』

 

まぁ、こうなるだろうな。

一夏はこのような事態想定したこともないため取り乱す。

まだ覚悟も決まっていないうちに話が進められたのだから当然だった。

しかし、この作戦に零落白夜は不可欠。

 

「織斑、これは訓練ではなく実戦だ。覚悟がないなら、無理強いはしない」

 

あぁ、きたない…

私は本当にきたない大人だ…

 

(こう言えばこいつはやる気になる…)

 

それをわかってて私はこの言葉を口にした。

逃げ道を無くした。

 

「――――やります。俺がやってみせます」

 

ほらみたことか…

一夏の中からは既に迷いは消え、確かな覚悟が宿っている。

そしてその一夏を見て心のどこかで嬉しがっている自分に苛立つ。

私は姉として―――

 

(いや、今の私は姉ではなく教師だ。しっかりしろ、私が迷えば生徒たちを危険にさらすことになる)

 

「よし、それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」

 

「それなら私のブルー・ティアーズが。ちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージが送られてきていますし、超高感度ハイパーセンサーも搭載しています。超音速下での戦闘訓練も二十時間あります」

 

「ふむ・・・・それならば適任―――」

 

だな、と言いかけたところで馬鹿みたいに明るい声が遮る。

 

「待った待ーった!その作戦ちょっとストップなんだよ~!」

 

そいつは天井から逆さに頭を生やしていた。

妙にあっさりと引いたため怪しいと思っていたが。

このタイミングで現れたということはまさか――――

 

「・・・山田先生、室外への強制退室を」

 

「えっ!?は、はい。篠ノ之博士、とりあえず降りてきてください…」

 

「とうっ!」

 

軽やかな身のこなしで着地する束。

その束を山田君は連れ出そうとしてくれるがするりとかわされてしまっている。

 

「ちーちゃん、もっといい作戦が私の頭の中でお披露目を待ってるよ~!」

 

「・・・・出ていけ」

 

思わず頭を押さえるほど嫌な予感がする。

場をかき乱すことに関してこいつの右に出るものはいない。

 

「ちっちっち、ここは断・然!紅椿の出番なんだよ!」

 

「なに?」

 

紅椿だと?

こいつはまた何を企んでいる?

 

「紅椿のスペックデータを見てみて!パッケージなんてなくても超高速機動ができるんだよ!」

 

束がそう言うとモニターは全て紅椿のスペックデータを映す。

どうやらここの機材は乗っ取られたようだ。

 

「展開装甲をこう、ちょちょいっていじれば完璧ってね!」

 

「なるほどこいつは全身展開装甲でできているのか」

 

「そうそう、さらに発展させたタイプでねこれは、攻撃・防御・機動といった用途に応じて切り替えが可能なのだ~!あっ、これが第四世代型の目標なんだっけ?いや~束さんがさっそく作っちゃった、てへっ」

 

『・・・・・・』

 

代表候補生たちは静まり返って言葉も出ない。

 

「なになにこの雰囲気?通夜か何か?」

 

通夜のようになるのも当然。

各国が莫大な資金をつぎ込んでいる第三世代競争は全くもって無意味ということになるのだから。

 

「言ったはずだ束。やりすぎるなと」

 

「えっ?そうだったけ~?夢中で忘れてたよ~」

 

はぁー、また随分とやらかしてくれたものだ。

 

「で、どうどう?紅椿を使うってのは?」

 

「確かにそれがベストだ」

 

『!?』

 

私の言葉にオルコットだけでなく、この場にいる全員が驚く。

 

「その紅椿の操縦者がいないという点を除けばな」

 

そしてほっ、と息をはく。

全く、皆何を早とちりしているのか。

 

「何言ってんのさ。紅椿は箒ちゃんの専用機なんだから誰が乗るかなんて決まってるじゃん!」

 

「お前は数十分前の会話も覚えていないほど馬鹿ではないだろう。篠ノ之は紅椿には乗らないし、望まない者を乗せることはしない。協力する気があるのならその機体を私にでも貸せ」

 

「ん~それはできないかな。紅椿はすでに箒ちゃんしか動かせないように生体認証の設定しちゃってるし、それに――――」

 

「ごちゃごちゃと御託はもういい!さっきから聞いていればやれ白式だの、やれ紅椿だの、全く笑わせる。こんなやつ片付けるの俺様一人で十分だ!」

 

天馬が束の言葉を遮った。

 

「零落白夜?第四世代?そんなもの俺の機体の前ではブリキのおもちゃに過ぎん」

 

「・・・・・・・」

 

まずい、束の奴に大口を叩きすぎだっ!

他のことなら聞く耳すら持たないだろうがISについては別だ。

 

「ふ~ん、そんなにすごいんだね!君の機体は。束さん気になる~」

 

なんだ…?

いつもの束なら既に骨の一本や二本は折っているはずだ。

させるわけないが。

 

『Prrrr....Prrrr....』

 

チっ、間の悪い…

 

「でないの?ちーちゃん」

 

まただ…

いつもなら「私がちーちゃんと喋っている時に邪魔するなんてめちゃ許せんよなぁ~」とか言って発信相手にハッキングの一つでもするはずだ。

 

「・・・・はい、こちら対策本部、織斑千冬です。何か状況に変化が?」

 

『___________』

 

「はい」

 

『_________________』

 

「はい?今なんと?」

 

『___________________』

 

「っ!しかし、それは!」

 

『___________________』

 

「・・・・・わかりました」

 

なんてことだっ!

 

「あの、織斑先生一体上層部はなんと…?」

 

「・・・・作戦行動の指示だ。具体的な内容とそのメンバーを言い渡された」

 

「それで一体、なんと?」

 

「作戦は我々の考えていたものと同じだが我々の考えていたメンバーとは違う」

 

通達されたメンバーの名前を発表していく。

 

「白式――織斑一夏、ギルガメシュ――天馬零士、そして―――」

 

最後の一人は――――

 

「紅椿――篠ノ之箒」

 

ありえない名前がでてきたのだった…




福音戦に入れなくて正直すまんかった…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。