リアルが忙しくなかなか手をつけられませんでした。
次話からは週一を達成できるように頑張ります。
「ああああぁぁぁぁ!!」
「なんだ!?」
ボーデヴィッヒの様子がおかしい。
一体どうしたんだ。
「ほぅ、VTシステムが起動したか。」
「!?」
VTシステムだって!?
確かそれって…
「何あれ…」
ボーデヴィッヒのISの形状が変化し、黒い泥のようなものになる。
そして泥はボーデヴィッヒを呑み込んでいき、新たな姿を形作っていく。
その姿はブリュンヒルデを模しているように見える。
「最悪だ…」
完全に頭から抜けていた。
色々あって忙しかったがなんでこんな大事なことを忘れてるんだ俺!
(とにかく何とかしないと。状況は最悪だが落ち着け、まずは相手の観察だ。)
奴の方を視る。その手には雪片が握られており、奴の周りを何か大きなものが一つ浮遊している。
あれはなんだ?あいつの武器は雪片だけのはずだ。
『試合は即刻中止!選手はすぐにピットまで下がれ。教師部隊が対応する。』
奴の姿が完全に定まると同時に織斑先生からアナウンスが入る。
(このまま何もしないで下がった方がいいのか…?)
そんな考えが頭に浮かぶ。
下手に動くよりその方が良いのは明らかだ。
「思っていたよりもつまらんな。ただの醜悪な泥人形ではないか。」
俺が迷っている間にも天馬が行動を始めた。
十本もの武器が奴に射出される。
それを奴はたった一本の剣で全て弾いた。
「ッ!?」
「嘘だろ…」
なんて奴だ、あの数を全部弾くなんて…
これには天馬も動揺を隠せないでいる。
そして奴が天馬の方を向く。
「ッ!天馬、逃げろ!」
「ふざけr___」
一瞬だった。
確かに天馬と奴の距離は離れていたはずだった。
しかし、気がつけば天馬がアリーナの壁まで吹き飛ばされており、天馬がいた場所に奴がいる。
そこから奴は様子を伺っているのか動きを止める。
「天馬!」
「グッ、人形ごときが…!」
壁まで吹き飛ばされた天馬だが、幸いエネルギーには余裕があるらしく、大丈夫そうだ。
「よかった、でも一体何が…」
「・・・・恐らく瞬時加速だと思う。それもほとんど見えない程の…」
奴と俺らとじゃそれほどまでにレベルが違うってことか…
(そのレベルの動きはどれぐらいの負担になる?そもそも取り込まれているだけで相当な負担がかかってるんじゃ…)
わからないがあれがノーリスクなんてことは絶対にないだろう。
それがわかったならやるべきことは決まった。
「シャルルは先に下がっていてくれ。」
「隼人と天馬はどうするの…?」
「天馬の奴はどうせ下がれって言っても聞かないだろうし、俺も加勢する。ボーデヴィッヒを助けないと。」
ここは物語の世界じゃない、俺達が生きている現実だ。
ボーデヴィッヒの命の保証はどこにもない。
だから一刻も早くボーデヴィッヒをあのシステムから解放する。
それが今俺がやるべきことだ。
「なら僕も一緒に戦うよ。あれを相手にするなら少しでも戦力が必要でしょ?まぁ、隼人が僕を弱いと思っているなら別だけど。」
「まさか、そんな訳あるか。これ以上ないくらい頼もしい。でも、いいのか?これは俺の我が儘だ。何もせずに先生達を待った方がいいかもしれないし、危険なことだ。」
「うん、確かに僕達が戦う必要はないのかもしれないし、勝てるかもわからない。でも、それでも隼人はラウラさんを助けたいって思ったんだよね?」
「ああ。」
「それだけ聞ければ充分。隼人がラウラさんを助けるなら僕はその背中を守る。それが僕のやりたいことだよ。さぁ、一緒にラウラさんを助けよう。」
俺の前に立ち、手を差し伸べてくるシャルル。
「・・・ありがとう、シャルル。俺の背中は任せた!」
背中を誰かに預ける、そんなこと考えたこともなかった。
(馬鹿だな、俺って…)
これほどの仲間に頼らなかったなんてほんとに馬鹿だ。
剣を握る手に自然と力が入る。
(こりゃあ負けられないな。)
奴に向かって一直線に向かう。
それに対し奴もこちらに反応し始める。
「シャルル、天馬、援護頼む!」
「任せて!」
「俺様に指図するな!」
剣と銃弾の嵐が奴に殺到していく。
それすらも奴は弾き、躱す。
しかしこれで動きを制限でき、瞬時加速は使えないはずだ。
「ハァッ!」
二本の剣を振り下ろすが止められてしまう。
実際に剣を交えると奴のレベルの高さを改めて実感させられる。
そして気がついた時には反撃をされていた。
(速いし…重い…!)
シャルル達の援護で追撃は免れたが今のは精神的にくるものがある。
渾身の攻撃を容易く受け止められ、反撃された。
しかもその一撃がこっちよりも優れてるってんだから嫌になる。
「衛宮、引っ込まないならせめて俺様の盾にぐらいなって見せろ役立たずが!」
「お前だってもう少しこっちのこと考えて射出しろよ。すれすれのとこ飛んで来たぞ!」
「二人ともそっち行ったよ!」
「「グッ…!」」
いつの間にか接近してきていた奴から攻撃を受ける。
天馬は盾で俺は剣で防ぐが威力を殺しきれない。
「言い争ってる場合じゃないらしいぞ、天馬。力を合わせないと負けるぞ。」
「チッ!共闘など癪だが今回は特別に俺様の力を貸してやる!感謝しろ。」
天馬が武器を射出し、俺が奴の攻撃を受け止める。
そこにシャルルがライフルで攻撃していくことで着実にダメージを与えていく。
しかし同じ作戦が何度も通じる相手ではなく、シャルルが狙われ始めた。
「グゥッ…!おい、このままだと先にこっちがやられちまう。なにか策はないか!」
シャルルに斬りかかった奴の攻撃を滑り込みで受け止めることに成功する。
しかし、その分こちらも負担が大きい。確実にこっちがやられる。
根本的にレベルが違うのだ、なにか策がないと勝てない。
「俺様は天才だ、とっくに策など思いついている。」
「ホントに!?内容は?」
「貴様たちが知る必要はない。貴様らはさっきと同じように攻撃を続けろ、タイミングは俺様が計る。」
教える気はないってか。
まぁ、どっちみちその策に頼るしかない。
「信じるからな天馬!任せた!」
「口ではなく手を動かせ。」
そう言って先ほどと同じように天馬は武器を射出する。
それに合わせこちらも攻撃する。
そして反撃を受け止める。
射出、合わせる、受け止める、射出、合わせる、受け止める、射出、合わせる、受け止める…
(ほんとに策があるんだよな…?)
少し心配になって来た…
・
・
・
・
数十秒後、その時がやって来た。
「今だ、全力で剣を振るえ、衛宮!」
天馬から指示が来た。
恐らく今振るっても攻撃は当たらない。
しかし、俺がすべきことは天馬を信じて全力の一撃を出すことだ。
「ハッ‼」
俺の剣と奴の剣がぶつかり合う。
(もっと、もっと振り切るんだ!)
骨が軋むほどの力で剣を握り、押し入れる。
(グッ…あと一歩、死んでも押し勝つ!)
あと一歩足りないところに横からライフルの弾が奴を襲う。そのお陰で奴が少しだけ体勢を崩す。
「うおぉぉ!」
均衡は崩れ、俺が剣を振り切る。
その攻撃によって奴を十メートルほど吹き飛ばした。
そしてその先には
「よくやった、上出来だ。」
天馬が既に武器を展開して待っている。
武器は奴を包囲するように展開されている。
今まで見せたことがない展開の仕方だった。
(これを天馬は狙っていたのか…)
全方向からの一斉掃射、それが天馬の隠し玉だった。
「消えるがいい。」
武器が奴に殺到し、時には爆裂し、奴がいた辺りは煙に包まれた。
「勝った…よね!」
「これならいくらあいつでも捌ききれないだろ。」
「ク、ククッ、ハハハハハハ!所詮人形!俺様に勝てるはずもなk_____?!」
天馬が、いや、ここにいた全員が固まった。
その理由は簡単なことだ。
「嘘…」
煙が晴れるとそこには奴が佇んでいた。
その正面には先程まで一度も使おうとしていなかった謎の浮遊物。その浮遊物には複数の剣や斧が突き刺さっている。
「あれでカバーできない所を防いだってこと…? 」
「チッ、死に損ないが!」
天馬が新たな武器を展開する。
今あれに攻撃するのはまずい気がする。
「待て天馬!迂闊に「黙れ!」」
制止の声も天馬には届かず、武器が射出される。
その攻撃は先ほどのような包囲射出ではなく、一方向からの単調な射出。
もちろんそんな攻撃は奴には効かない。
浮遊物がすべての武器を防ぎ切った。
「今のってまるで…」
「
あの浮遊物は盾だ。
それもアイアスと同じ性能を有した…
しかし、本来そんな装備を奴はしていないはずだ。
「学習したのか…?」
「まさか…いや、そんなことって…」
恐らくボーデヴィッヒが俺と戦っている間に奴はアイアスを学習し、作り出したのだろう。
つまり奴は…
「まだまだ強くなるかもしれないってことか…?」
「そんな…」
戦うほどあいつは学習して強くなっていくかもしれない。
ここで絶対に止めなければいけない。
(でも・・・どうやってだ・・・?)
俺達のコンビネーション攻撃も防がれた。
二度目は通用しないだろう。
「___るな…」
「天馬?」
「ふざけるな!貴様はやられるべき敵なんだ!おとなしく俺様にやr___」
空中に武器が展開されたと思ったら天馬が壁まで吹き飛ばされており、ぐったりと動かない。
そして既に奴は目の前まで来ている。
(瞬間加速ッ!?)
目の前に全力で剣を振るうが、奴は既にいない。
同時に後方から大きな音が鳴る。
「シャルル!?」
後ろを向けば離れた壁に叩きつけられ、動かないシャルルが見えた。
気がつけば黒い死神は横にいた。
(あ、やられる…)
振り上げられる剣がゆっくり動いている。
しかし体は全く反応してくれない。
『右に避けろ。』
「ッ!?」
咄嗟に身体を右側に捻る。
振るわれた剣は身体すれすれのところを通過していく。
振るった直後の隙ともいえない僅かな時間で全力で距離を取り、防御態勢を整える。
「誰だあんた…」
突然
声からして男。
『おしゃべりしている暇があるのか?敵から目を離すな。』
「ッ…」
正体不明な奴から正論を言われるとなんかイラっとくる。
しかし、男の言う通りだ。
少しでも気を抜けば瞬間加速の餌食だ。
『勝ちたいのならよく聞いておけ。いいか、奴が瞬間加速を使うときには僅かに右に傾く。』
右に傾く…
信じてもいいのか?こいつは正体もわからないような相手だ。
(しかし、さっきはこいつの声がなければやられていた…)
罠かもしれないがこのままではどっちみちやられる。
ここは一か八か賭けるしかない。
奴の身体が右に傾く。
そして気がつけば目の前まで来ている。
(左から来るッ!)
右手の剣をギリギリ挟み込むことで衝撃を和らげ、左手の剣で奴を斬りつける。
斬りつけられた奴は少し距離をとり、様子を伺っている。
(事実だった!)
男の言っていたことに偽りはなかった。
少なくとも敵ではないらしい、ひとまずは味方と考えていいだろう。
『さて、多少信じられるようになったところでレッスン2だ。』
ここまで計算通りか。
まぁ、情けないがこの男が頼りだ。
『考えて動きすぎだ。もっと感じ取れ。』
「は?ちょ、どういうk『そら、来たぞ。』あぁクソッ!」
接近してきた奴の攻撃を防ぎながら男の言葉の意味を考える。
(感じ取れって何をだよ!)
奴の攻撃がかすり、じりじりとエネルギーが削られていく。
(クソッ、速すぎて次の軌道がわからなくなって・・・・・そうか!)
考えすぎってのは相手の動きを全部予測しようとしていたことか。
今回みたいな考えている暇のない奴が相手の場合これじゃあ対処が間に合わない。
じゃあどうするのか?それもすでに言われていることだ。
(相手の動きを感じ取るんだ。神経を研ぎ澄ませ。)
予測できない部分の相手の動きに神経を研ぎ澄ます。
先ほどに比べると被弾が減ってきている、しかしそれでも反撃する余裕まではない。
(まだ駄目だ。感じ取るだけじゃ駄目だ。)
反応速度で負けているから反撃できない。
ならば相手が動く前に行動を感じ取って対処していけばいい。
「――――
感じ取れ、相手がどう動くのか、何をするのか。
同調しろ、相手の動きに、速さに。
身体に熱いものが流れている。
身体は火照り、いつも以上の働きをしてくれている。
(いける、奴がどう動くのかがわかる。)
次々と斬りかかってくる攻撃をいなしていく。
そして隙ができたところを斬りつける。
「今のままじゃやっぱり駄目か。」
しっかりと剣で衝撃を和らげられている。
あくまで防御ができるようになっただけで俺の攻撃の技術は上がっているわけではない。
『動きが鈍い、自身のイメージを明確にしろ。常にイメージするのは最強の自分だ。』
最強の自分…
イメージしろ。あいつと正面から戦っても一歩も引かず、押し勝つ俺を。
そのために必要なものをそろえろ。
「――――
相手の動きを投影しろ。
自身を塗り替えろ、あいつと戦える自分に。
技術を読み取り、取り込め。
「――――
――――技術投影、全工程完了
「ハッ!」
鋭く重い攻撃を奴に繰り出す。
先ほどまでとは違い、剣の力が拮抗している。
いや、技術とイメージが一体化しているこちらの方が上をいっている!
斬りつけた手ごたえがしっかりと感じられる。
「やっと、まともに一撃入れることができた。」
それから何度か斬りあい、着実に奴を押し始めた。
(いける!このまま押し切る。)
身体は軋み、焼けているのかと思うほど熱い。
もう少しでいいから持ってくれ、そう祈り続けながら剣を振るう。
そして最後の一撃。
「ハアアアア!____!?」
確実に直撃するタイミングであった攻撃が防がれ、身体からは熱が抜けていく感覚がする。
(グッ…!あと一撃なんだ!堪えろ…!)
抜けていく熱を押しとどめる。
恐らくあと一撃しか放つ力が残っていない。
しかし、奴の返しの一撃がこちらに迫ってきている。
避ける余力はない。よければ攻撃する力がなくなる。
(クソッ…!駄目か…!)
剣が俺を捉える直前、発砲音とともに剣の軌道がずれ、頬を掠める程度に終わった。
「はやと・・・・いまだよ・・・」
ボロボロであるシャルルがチャンスを作ってくれた。
「うおぉぉぉ!!」
持てる力をすべて使い剣を振るうが奴は既に体勢を立て直している。
(間に合え‼)
奴の剣がこちらの剣を阻む寸前でその剣は空中から伸びている鎖によって静止させられた。
視界の隅で腕だけ動かしている天馬の姿が見えた。
「俺達の勝ちだ。」
俺達の刃が奴を切り裂き、中からボーデヴィッヒが崩れ落ちてくる。
「おおっと…」
落とさないようにしっかりとボーデヴィッヒを受け止め、地上に降ろす。
意識を失っているだけで息はちゃんとある。
「よかった・・・・ぶじ・・で・・・」
そこで俺の意識は途切れた。