~E・S~転生者は永遠を望む   作:ハーゼ

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遅くなりました、すいません。

今回はタイトルでだいたい誰が出てくるかわかるかな?


第四十一話 ラビット転入生

「そうか…この子は…」

 

 

キーボードをいじる手を止め、画面に映っている資料を見る。

その資料は新たに転入してくる少女の資料。

その少女は長い銀の髪に左目には不釣り合いな眼帯をしている。

 

 

「背負わないといけない罪がまた一つ増えたな…」

 

 

その少女の名前はラウラ・ボーデヴィッヒ。

ドイツの代表候補生であり、

 

 

「試験管ベイビー…」

 

 

試験管ベイビー。

それは遺伝子強化試験体とも言われ、生体兵器に近い存在として生み出された人工的な命だ。

もちろんそのような行為は許されているわけがなく、ドイツが秘密裏に行っていることだ。

俺としてはドイツが何をしようと関係ないのだがこの子に関しては別だ。

何故ならこの子もISの被害者の一人だからだ。

 

調べている過程で眼帯の付けていない写真が見つかり、眼帯で隠れていた瞳を確認できた。

その瞳の色は金色であり、右目の赤色と違う色であるオッドアイ。

しかし、それよりも以前に取られた写真も見つけたがその写真では瞳はどちらも同じ赤色をしていた。

 

原因は越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)といわれる処置でISの登場によって生まれたものだ。

これはIS適合正向上のために行われる処置である。

疑似ハイパーセンサーとも呼ぶべきそれは、脳への伝達能力と高速戦闘状況下における動体反射の強化を目的とした、肉眼へのナノマシン移植処理のことを指す。

そしてその処置をされた目は「越界の瞳」と呼び、使用すれば視覚能力を数倍に跳ね上げることができる。

 

しかし、この子は越界の瞳の適合に失敗してしまったために左目が変色してしまった。

制御できない力ほど恐ろしいものはない。

この瞳のせいでこの子はどれほど傷ついてきたのか…

 

 

「まったく、最悪の気分だ…」

 

 

画面に映る金色の瞳が俺を咎めるように見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

朝のホームルーム中、クラス中がざわついていた。

それもそのはず、シャルルに続いて二日連続で転入生がやって来たのだから。

そして転入生が無言で立っているというのがさらに教室をざわつかせている要因だ。

 

 

「皆さんお静かに!まだ自己紹介が終わってないんですから。」

 

「挨拶をしろラウラ。」

 

「はい、教官。ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

 

 

名前を言い、再び黙る転入生。

これには皆、「えっ?もう終わり?」といった顔をしている。

知ってはいたけど思っていた以上にさばさばしてるな。

 

 

「あの…以上ですか?」

 

「以上だ。」

 

 

山田先生は本当に終わるとは思ってなかったようで少し固まっている。

そんなことはお構いなしといった感じでボーデヴィッヒが一夏の方を見る。

確かこの後は・・・

 

 

「貴様が織斑一夏か…」

 

 

ボーデヴィッヒが一夏に近づいたのでこの後起こるであろう展開に備えて、割り込む準備をする。

知ってるのに見ておくだけというのは居心地が悪い。

 

 

「そうだけど、何か用か?」

 

 

一夏が座ったまま答えるのと同時にボーデヴィッヒが手を振る動作を確認できた。

しかし、思っていた以上に動きに無駄がない。

一発はたくのにどんだけ本気出してんだ!

 

(間に合え!)

 

全力でボーデヴィッヒの手を掴みに行くが間に合いそうにない。

そして一夏にビンタが決まろうかという瞬間、

 

 

「いきなり人をひっぱたくのはどうかと思うよ、ボーデヴィッヒさん。」

 

 

パシッとボーデヴィッヒの手を鳴海が止めた。

 

(はっ?鳴海って列の最後尾だよな…)

 

鳴海の席を見るともちろん鳴海はおらず、座っていたであろう椅子が倒れているのが見える。

瞬間移動した。そうとしか思えない。

 

 

「ッ!?」

 

 

そんな鳴海にボーデヴィッヒは手を振り払い、距離を取る。

一瞬遅れて教室がざわめきだす。

 

 

「えっ!?何今の!」

 

「瞬間移動!?」

 

「いや、忍者でしょ!」

 

「アイエエエエ! ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」

 

 

皆は突然のことに軽くパニくっている。

俺も状況が全然理解できない。

 

 

「貴様…何者だ。」

 

「あっ、まだ名乗ってなかったね。僕の名前は鳴海優。よろしくね、ボーデヴィッヒさん。」

 

「そんなことを聞いているのではないッ!」

 

 

ボーデヴィッヒが構えを取るのに対し、鳴海はただクラスメイトと喋るかのような態度をとる。

はっきり言って異様な光景だと思う。

 

 

「あれ?違った?じゃあ、なにが聞きたいんだい?」

 

「貴様、おちょくっているのか!」

 

 

鳴海の態度が気にくわなかったのだろう、ボーデヴィッヒが鳴海に殴りかかる。

 

 

「危ない、なる___」

 

「そこらへんにしておけ。」

 

 

鳴海に当たる直前で織斑先生がボーデヴィッヒの拳を止めた。

危なかった、先生が止めていなければ鳴海は殴られていただろう。

現に鳴海は反応できず一歩も動けていない。

 

 

「きょ、教官…」

 

「聞こえなかったか、やめろと言ったんだ。」

 

「・・・・わかりました。」

 

 

織斑先生の言葉でようやくボーデヴィッヒが拳を降ろす。

正直、頭が追い付いていない…

 

 

「助かりました織斑先生。ありがとうございます。」

 

「お前もお前でわかっていてやっているだろう?」

 

「はて?なんのことでしょう?」

 

「はぁ~、もういい。全員席に着け!衛宮、お前も突っ立ってないで座れ。」

 

「あっ、はい。」

 

 

急いで席に着き、状況を整理する。

 

(え~っと・・・まず鳴海は忍者で・・・って違う違う!)

 

まずい、余計混乱してきた…

 

 

「では朝のホームルームはこれで終わりとする。」

 

「えっ!?ちょっと待ってくれよ千冬ね____織斑先生…」

 

 

先生の睨みによって一夏が縮こまりながら声を上げる。

 

 

「何か聞きたいことでもあるのか、織斑。」

 

「そりゃあそうだろ、なんで俺ははたかれそうになったのかわかってないし、鳴海は忍者だし!」

 

 

一夏はクラスの全員が思っていたことを代弁する。

一夏が言わなければ織斑先生に流されて、さらりとHRが終わっていたことだろう。

 

 

「ボーデヴィッヒの件は直接本人に聞け。鳴海については忍者ではない。これ以上騒がれるのも面倒だ、説明してやれ鳴海。」

 

「めんどくさいんですけど______わかりましたよ。」

 

 

言いたくなさそうな鳴海も織斑先生に睨まれ、喋り始める。

 

 

「えぇ~っと、聞きたいことって多分ボーデヴィッヒさんを止めた時の事だね?」

 

「そうそう、瞬間移動のことだよ。」

 

 

クラス中から同意の声が上がり、それを聞いた鳴海は苦笑いする。

 

 

「瞬間移動って…。あれはそんな大層なものじゃなくて、縮地という技術だよ。」

 

「その縮地ってなんだ?」

 

「あっ、聞いたことあるぞ。確か武術とかの移動法の一つだよな。」

 

「よく知ってるね、衛宮。そう、衛宮の言う通り瞬時に相手との間合いを詰めたりする特殊な体捌きのことだよ。」

 

 

いや、それができるとか相当すごいことだろ…

 

 

「あれ?ということは優は何かの武術をやっているってことか?」

 

 

確かにそうだ。何かしらの武術をやっていなければ縮地などという仰天技はできないだろう。

 

 

「武術の技術ではあるけど、別段何かしているわけじゃないよ。移動として便利だから覚えただけさ。」

 

 

他のことはからっきしと言いながら鳴海は肩をすくめる。

先ほども反応できていなかったから本当にそうなのだろう。

しかし、便利だからそれだけ覚えたって…

 

(やっぱ、変な奴だな…)

 

雰囲気からしてクラス中がそう思ったに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ついて来い鳴海、話がある。」

 

「わかりました。」

 

 

HRを終え、鳴海を呼びつける。

 

 

「僕何かしましたっけ?」

 

「先ほどのことをすでに忘れているのかお前は。まぁいい、少し移動するぞ。」

 

 

白々しいまでの言葉に少し呆れるが時間もないため移動する。

 

 

「この辺でいいだろう。」

 

 

しばらく歩き、人通りの少ない廊下で止まる。

ここなら誰かに聞かれる心配もない。

 

 

「それで、用件は何ですか先生。さっきのことは皆に説明したじゃないですか。」

 

「縮地に関してはな。私が聞きたいのはお前がなぜ()()()()()()()()()()かだ。」

 

「避けようとしなかったって、まるで僕なら避けれたみたいに聞こえますね。」

 

「私はそういう意味で言ったんだ。お前なら十分に可能だった。」

 

 

鳴海の技量ならばラウラの拳を避けることは造作もなかったはずだ。

それなのに防御も回避の挙動を一切取らなかった。

つまりこいつは避けられなかったのではなく、避けようとしなかった。

 

 

「買いかぶりすぎですよ。僕にはそんなことできません。言ったでしょ、縮地以外はからっきしだって。それに縮地だって万能じゃありませんからね。」

 

「そうか、私の思い違いだったか。」

 

「はい、残念ながら。」

 

「私には殴られたがっているように見えたのだがな。」

 

 

避けられるのに避けないということはそういうことなのではないだろうか。

何故殴られたいかなどは分からないが私はそう考えた。

 

 

「・・・・・違いますよ、僕は殴られて喜ぶ変態じゃないんですから。話も終わりのようですし、失礼します。」

 

「悪かったな、時間を取らせて。」

 

 

鳴海を見送り、私も職員室に戻る。

 

(一瞬だったが確かに反応したな。)

 

僅かだったが鳴海が見せた本当の反応。

恐らく私の考えは当たっているのだろう。

 

 

「まったく、世話の焼ける生徒が多いな。」

 

 

何かは知らないが一人で何かを抱え込んでいる、そんな感じだ。

こういう奴は大体無茶なことをする。目的の為に平気で自分を削るのだ。

 

(似ているな、あいつに…)

 

ずっとそういう奴を傍で見てきた。

鳴海はそいつと全く似ていないのに何処か似ている。

とても危うい感じがする。

だからしっかりと気にかけてやらねばいけない。

 

(教師というのは気苦労が絶えない職だな。しかし・・・)

 

嫌いではない。

 

 

「教官。お話したいことがあります。」

 

 

放課後、廊下を歩いているところで後ろから声をかけられた。

このような呼び方をする奴はこの学園には一人しかいない。

 

 

「学園では織斑先生と呼べ、ボーデヴィッヒ。それとここではなんだ、場所を移すぞ。」

 

 

振り向くとやはりそこにはラウラがいた。

転入初日ということで朝のHRでは見逃していたがこれ以上は良くない。

そして話の内容も大体察しがついている。

移動し、場所を中庭に移す。

 

 

「それで、話とは?」

 

「単刀直入に申し上げると我がドイツで再びご指導をしてもらいたいのです。」

 

 

一応聞いてみたが予想通りのものだった。

ラウラは私がドイツ軍で技術指導をしていた隊員の一人だ。

当時のラウラは成績が最下位だったが指導期間中に隊の最高成績を叩き出すまでに至った。

そのためか、私はラウラに大分懐かれている。私も妹ができたような感じで悪くはないのだが、

 

 

「それはできない。私には私の役目がある。」

 

 

私は教師をやめる気はない。

 

 

「こんな極東の地でいったい何の役目があるというのですか!ここではあなたの能力は半分も生かされません!大体、この学園の生徒など教官が教えるに足る生徒ではありません。この学園の生徒は危機感に疎く、ISをファッションかなにかと勘違いしている!そのような者たちに教官が時間をさかれr_____」

 

「そこまでにしておけよ、小娘。」

 

 

ラウラの言う事は間違ってはいないが合ってもいない。

 

 

「少し見ない間に偉くなったものだな。15歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る。」

 

「ッ…」

 

「大体、何のために教師がいると思っている。生徒を正しく導くためだ。お前の言う事も間違ってはいないが最初からすべてを分かっている者などいないのだから私たち教師がいるんだ。」

 

「し、しかし教官___」

 

「織斑先生だ。話は終わりだボーデヴィッヒ、寮に戻れ。私は忙しい。」

 

「・・・・・」

 

 

私の言葉を聞き、ラウラはとぼとぼと寮の方へ歩いて行った。

少し厳しいことを言ってしまったが今のあいつは天狗になっている、これぐらいがちょうどいい。

さて、次にやるべきことは・・・

 

 

「そこで盗み聞いている男子。異常性癖とは感心しないな。」

 

「ち、ちがっ!なんでそうなるんだよ千冬ね____」

 

「学校では織斑先生と呼べ、馬鹿者。」

 

 

はぁ~、何度言ったらこの弟は理解するのだろうか…

 

 

「そんなくだらないことをしている暇があるなら自主訓練でもしろ。このままだと月末のトーナメントで初戦敗退だぞ?」

 

「わかってるよそのくらい。それよりも聞きたいことがあるんだ。」

 

 

まぁ、そうだろうとは思っていた。盗み聞きするような男には育てたつもりはないからな。

 

 

「あの後、ラウラの奴に言われたんだ。『お前をあの人の弟とは認めない!』って。それってやっぱり俺のせいで千冬姉が二度目の優勝を逃したことを…」

 

「終わったことだ、お前が気に病む必要はない。」

 

 

どうやら一夏はまだ第二回モンド・グロッソのことに責任を感じているようだ。

忘れろと言っているのにな・・・・まぁ、無理な話か…

 

第二回モンド・グロッソ決勝当日に一夏は何者かによって誘拐された。

私はその時決勝を放り捨て一夏の捜索をし、無事救出することができた。

試合の方は言うまでもなく私は不戦敗。このことは優勝間違いなしといわれていただけにブリュンヒルデにとって唯一の汚点であると言われている。

 

一夏は私の顔に泥を塗ったとでも思っているのだろう。

しかし、私からしたらこれは汚点でも何でもない。

 

 

「周りから何と言われようと気にするな。弟を救ったということのどこにも間違いなんてないのだから。名誉なぞよりよっぽど大切だ。」

 

「千冬姉…」

 

 

私はあの時から一瞬たりとも後悔などしたことはない。

大切な弟を救えたことの一体何が汚点だと言えるのだろうか。

それに、一夏まで失っていたら私は…

 

 

「大事なのは周りの目ではない。本当に大事なのは自分が正しいと思えることをできるかどうかだ。お前ならばできると信じているぞ一夏。」

 

 

一夏の頭に手を置き、少し雑になでる。学校内だがこんな時ぐらい姉として接しても罰は当たらないと思いたい。

いつの間にか私よりも背は大きくなっている。時間というのはあっという間だ。

 

 

「さて、私はそろそろ仕事に戻る。」

 

 

頭から手を離し、職員室の方へ向かおうとすると

 

 

「千冬姉!俺、精一杯頑張るよ。そして千冬姉を、皆を守れるようになってみせる。」

 

 

一夏に引き留められた。

しかし、時の流れはやはり早い。

あの小さかった弟がこんなことまで言うようになった。

 

 

「そうか…」

 

 

弟の成長は微笑ましいが・・・・

 

 

「織斑先生だ。」

 

「いてっ。」

 

 

今は教師としての織斑千冬に戻っているため軽くデコピンして職員室に戻った。

 

 

「何かいいことでもあったんですか?」

 

「ん?何故そんなことを聞く。」

 

 

職員室に戻ると山田君が私にそんなことを言ってきた。

 

 

「だって、織斑先生とっても嬉しそうなので。」

 

「むっ、そうか?」

 

 

どうやら顔に出てしまっていたようだ。

 

 

「はい、それはもう。それで何かあったんですか?」

 

「まぁ、少しな。」

 

「教えてくれないんですか~?」

 

「秘密だ。悪いな、山田君。」

 

 

それから少し拗ねた山田君をいじりつつ仕事を進めた。




ドイツ娘来ましたね。
個人的に千冬と束の次に好きなキャラです。
因みに作者のハーゼというのはドイツ語で野ウサギだったりします。
特に関係はありませんが(笑)

久しぶりにちーちゃん視点を長くしてみましたがどうでしょう?
ちーちゃんの成長具合がでてるといいんですけどね。

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