クラス対抗戦から数日が経ち、体の方もよくなってきた。
そして教室はいつも通りにぎやかだ。
誰もエターナルや無人機に関する話題なんか話さない。
(学園側から説明があったにしても不用心すぎないか、この子たち…)
生徒にはエターナルのことは政府が派遣したISとして伝えられている。
つまりIS学園を守りに来た正義の味方ということだ。
(皮肉にも程がある…)
さすがに説明を受けた時には顔が引き攣ってしまった。
今思い出すだけでもため息をつきたくなる。
「鳴海、一緒に食べないか?お前も弁当だろ?」
頭を抱えていると衛宮が俺の席までやって来た。
「別に構わないよ。一人で食べるのは寂しいからね。」
「それならよかった。机借りるな。」
一つの机を半分ずつ使い、それぞれの弁当を展開する。
最近俺は弁当を作るようにしている。
学食も悪くないがいかんせん人が多く、考え事には向かないからだ。
「おっ!鳴海の弁当すごいな。」
俺の弁当を見て衛宮が声を上げる。
そんなにめずらしいようなものは作っていないはずだが?
「なにがすごいんだい?珍しいものなんてないと思うけど。」
「いや、それがすごいって。誰の弁当にも入っていそうなおかずばかりなのに自然と視線を集められるんだから。」
参考程度に衛宮に聞いてみたがいまいちよくわからない。
視線が集まる?
「わぁ~鳴海君のお弁当おいしそうだね~。」
「ほんとだ!すっごい綺麗にまとまってる!」
「なるみん、卵焼きもらってもいい?」
気が付けば俺達の周りには人が集まっており、皆俺の弁当を見ていた。
なるほど、理解した。
というより思い出した。随分と懐かしい気分だ。
「交換なら別に構わないよ。」
「ありがと~。」
「あっ!本音ずるい。」
「私ハンバーグがいいな。唐揚げあげるから。」
あれよあれよという間に俺の弁当は懐かしのキメラ弁当へと変化していく。
その光景に衛宮も苦笑いだ。
「私は衛宮君の方の唐揚げがほしいな。」
「私もー。」
「衛宮君もくれるの?」
「えっ!俺のもか!?」
おいしいものに目がない女子たちは俺の弁当をキメラ化させると次なる標的を求めた。
俺から見ても衛宮の弁当はおいしそうだ。それに目をつけないわけがない。
「ダメかな?」
「ダメってわけじゃないが・・・」
チラッと俺のキメラ弁当を見る衛宮。
さすがに目の前でこれの出来上がりを見たため躊躇している。
「はやはや~お願い。」
「・・・わかった、交換な。」
しかし、頼まれると断れない性格なようで結局OKしてしまう。
そしてその言葉を聞いた女子たちの行動は速かった。
迷いなくそれぞれが狙っていたおかずを交換していく。
そして30秒も経たないうちに二つ目のキメラ弁当が出来上がった。
「ようこそ、こっちの世界に。」
「慣れすぎだろお前…」
衛宮を歓迎しながら昼食を取り始めた。
気が付くと先ほどの女子たちもこちらに机をくっつけており、結構な人数になっている。
「うそ、おいしすぎでしょ…」
「そこらのお店よりおいしいよ、これ!」
「二人ともプロになっちゃえば?」
どうやら喜んでもらえたようだ。
一部自信を喪失している子もいるが少しすれば開き直って食べ始めるので問題ない。
「言い過ぎだよ。皆のおかずも食べたけどちょっと練習すればこのぐらい作れるよ。」
「ほんとに!?」「うっそだ~。」「またまた~。」
「ほんとほんと。」
そんな感じで今日の昼食は賑やかだった。
結局弁当にしても考え事をするのには向かないようだ。
でもこういうのも悪くない。
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「やっぱり動くなら夜だな。」
時刻はすでに消灯時間間近。
俺は今整備室に足を運んでいる。
時間も時間なため廊下には人っ子一人いない。
「やっと整備室をじっくり見れるな。」
今までは代表戦やら対抗戦やらでこの時間でも整備室は人で溢れていたため調べることができなかったのだ。しかしそのイベントも終わり、次のイベントまでは少し猶予がある。
「ここか…」
整備室と書かれたプレートがある扉の前までやって来た。
しかし・・・
「誰かいるな・・・」
中から人の気配がする。気配からして恐らく一人。動く気はなさそうだ。
どうするか悩むところだ。整備室は早めに調べておきたい。
しかし、目撃もされたくない。
(別の日にするか?)
いや、それは駄目だ。恐らくこの時間まで残っているのは今日だけじゃない。
わざわざこんな時間まで残っているのがいい証拠だ。
簡単なことなら明日にまわせばいい。そうしてないということはそうしなければならないほどのことをしているってことだ。
つまり何日待とうが変わらない。
これを逃せばまたイベントで忙しくなる。
(背に腹は代えられないか)
腹を括って整備室に入っていく。
中に入ると奥の方で一人が作業している姿が確認できる。
制服ということは生徒のようだ。
余程集中しているのか俺が入ってきたことにすら気が付いていないようだ。
「何しているんだい?こんな時間に。」
「ッ!?」
面倒だが扉の所から声をかけることにした。後々気が付かれて騒がれるよりはマシだ。
声をかけるとその子はビクッ、と体をはねさせながらこちらに振り向く。
そしてこちらを見ると一瞬安心したかと思うと、次は不審な目で見てきた。
「誰・・・?」
まぁ、そうなるだろうなとは思っていた。
だから声をかけるのは嫌だったんだ。
「僕は鳴海優。よかったね先生じゃなくて。」
「・・・・何の用。」
「ちょっと夜の探検って奴かな。この学園は面白いし。」
俺の回答にその子はポカンとした顔をした。
そしてその後呆れたような顔をする。
「心配しなくても君のことを報告したり、邪魔したりはしない。僕はこの部屋を見に来ただけさ。」
「そう、ならいい。でも本当に邪魔だけはしないで。」
そう言うとモニターに視線を移し、黙々と作業を再開した。
どうやらこちらに興味は一切ないようで助かる。
(こっちもぼちぼち始めますか。)
こちらもこちらで整備室を調べ始めた。
・
・
・
・
整備室を調べ始めてから数日が経ち、今日も今日とて俺は整備室に来ていた。
(しかし、どうしたものか…)
実は整備室はすでに調べ終わっているので手持無沙汰だ。
ではなぜ来ているのかと言われたら・・・
(だいじょぶかこの子・・・)
例の子のことが心配になってきてしまったのだ。
ここ数日整備室に来ていたがこの子はいつもいた。
それもかなり遅くまでいるのだから心配にもなる。
(全く何をやっているんだか俺は…)
時間は惜しいというのに今している行動は余分でしかない。
自分の行動に呆れるがそれもまた時間の無駄なので声をかけることにする。
「お疲れ様、調子はどうだい?」
缶コーヒー片手に話しかける。
「・・・・まぁまぁ。」
しばらく見ていたが、缶コーヒーを受け取り返答してくれた。
ここ数日話したことはないが一緒にいた効果が多少出ているとみた。
これはチャンスだ。
「それにしても毎日ずいぶんと遅くまでやっているね。」
「そうでもしないと完成しないから…」
「いったい何をつくっているんだい?」
気になった質問をしてみる。
リボンの色から見て一年生とわかる。なぜ一年生の子が?
三年生でもそこまでしないといけない課題はないはずだ。
「・・・・専用機。」
なるほど、専用機か。それは時間がいるな。
しかし、一人で残っても効率悪いだろうに。
「それはすごいね。けど、他の人は残ってないんだから君も休んだ方がいいと思うな。」
「他の人も何も一人で作っているから。」
ん?今この子すごいこと言ったぞ。
一人で作っているとかなんとか。
「ごめん、聞き間違いじゃなければ一人で専用機作っているって聞こえたんだけど…」
「そうだけど。」
「誰も手伝ってくれないのかい?」
「必要ないし、それじゃ意味がないから。」
えぇ~と、つまりこの子は手伝ってくれる人がいるのに誰からの力も借りずに一人で専用機をつくっているってことか?
「君は馬鹿だね。」
思わず本音が出てしまった。
★
「君は馬鹿だね。」
目の前の男子、鳴海優は平然とその言葉を口にした。
「一人で作るより皆で作った方が効率的だろうし、負担が減る。それぐらいの事小学生でもわかると思うんだけど。」
「・・・・・」
わかっているそんなこと。
でもそれじゃ意味がないんだ。
「それに毎日こんな遅くまでやるのは逆効果だ。自分でも気が付かないうちに作業効率が落ちてくる。」
「・・・・・」
そんなことだってわかっている!
しかし、一分一秒でも早く完成させたいのだ。
「言っちゃ悪いけどそんなんじゃ作れっこないよ。」
「そんなことない‼」
さっきまでの言い分には何も反論はない。悔しいけどその通りだ。
だが、今の言葉だけは否定しなければいけない。
「一人で私は専用機を完成させて見せる!」
「なぜ一人にこだわるんだい?」
「そ、それは・・・・」
「それは?」
一人にこだわる理由…
それは・・・・
「あ、あなたには関係ないでしょ!」
「そうかもしれない。しかし、君が俺の言葉を否定したのだから無関係というわけでもないと思うが?」
「うっ、それは・・・・」
「言いたくないなら別に構わない。勝手にくだらない理由だと解釈するよ。」
くだらないって・・・・
この人は礼儀ってものを知らないのだろうか。
さすがに頭にきた。
「勝手に決めつけないで。」
「じゃあ、理由を聞かせてもらえるかな。」
この人を追い払うには話すのが一番はやいようだ。
「私が一人にこだわる理由は私の姉が一人で専用機を組み立てたから。」
私の言葉を聞き彼は首をかしげる。
まだ全て話していないので当たり前だが。
「私の姉はいわゆる完璧超人なの。何をやっても一番で、できないことの方が珍しいぐらいのね。」
なにをやらせてもお姉ちゃんは当然のようにこなしていた。
そんなお姉ちゃんがかっこよかったし、大好きで尊敬していた。
しかし、完璧すぎたのだ。
「私はずっと完璧な姉と比べられてきた。でも完璧じゃない私では姉に勝れるところなんかなかった。」
私にできないことがお姉ちゃんにはできた。
私にできることはお姉ちゃんの方がうまくできた。
どんなに頑張っても追いつくことができなかった。
「いつしか私にとって姉は重い足枷になっていった。」
それはとても重く、冷たい足枷。
進むたびにお姉ちゃんの凄さがわかり、重くなっていく。
「でも、その足枷を外せるチャンスがきた。」
それがこの専用機【打鉄弐式】を一人で完成させることだった。
「私が一人で専用機を完成させて見返してやるんだ。そして言ってやるの。私は出来損ないじゃないんだって!姉と同じなんだって!」
そうすればお姉ちゃんだってきっと…
「どう、わかった?わかったなら集中したいからどっかいって。」
「なるほどね、よくわかったよ。」
「それならはやく____」
「くだらないってことがね。」
心底つまらなそうに彼はそう言った。
「どういう意味・・・」
あらん限りの怒りを込めて彼をにらみつける。
しかしそれをものともせず彼は続ける。
「どういう意味もなにも、そのままの意味だよ。」
呆れたように言う彼の目からは憐れみしか感じられない。
「どこがくだらないって言うの!」
「う~ん、控えめに言って十割かな。」
今度は笑いながら言ってくる。
控えめに言って十割って・・・・
「馬鹿にしないで!」
「馬鹿にしてないよ。真実を述べてるだけだよ。」
また馬鹿にして・・・・・
「まぁまぁ、そんなカッカしないでまずは僕の話を聞いてよ。それで気に入らなければ煮るなり焼くなり好きにすればいい。」
「・・・・・わかった。」
こちらをここまで馬鹿にしてきたのだ、これでふざけたことを言われたら私は自分を抑える自信がない。
「まずさっきも言った通り僕はくだらないと思った。」
拳に自然と力が入ってしまうがなんとか抑える。
「それでなにが一番くだらないかって言うと一人で専用機を完成させて見返すってとこかな。」
「見返すのがくだらない?あなたには私の気持ちなんてわからない!」
やっぱり聞くだけ無駄だ。
「はぁ~、話は最後まで聞こうね。それに見返すのがくだらないじゃなくて、
・・・・・意味がわからない。
専用機で見返すのがくだらなくて、見返すという行為自体はしろと言う。
「わからないって顔だね。いいかい?まず前提が間違っているんだよ。一人で専用機を完成させれば見返せるっていう前提がね。」
「そんなことない。一人で完成させれば私を見る目は変わる。」
「あのさぁ、答え合わせの前に聞きたいんだけど君はお姉さんに勝ちたいの?それとも比べるのをやめて欲しいの?」
急に何を言っているんだこの人は。
そんなこと決まっている。
「私は私として見て欲しい。」
「じゃあ、なんでお姉さんと同じことしている?」
「そうすれば____」
「そうすればお姉さんと並んだことになるから比べられなくなる、かい?」
その言葉にうなずく。
そうだ。そうすれば私を私として見るはずだ。
「君は矛盾している。同じことをすれば比べられるのは必然だ。なのに比べられたくないという。」
「あっ…」
言われてみればそうだ…
「加えて言えば同じには見られない。」
「ど、どうして・・・?」
訳がわからない。同じことをしたのだから同じように見るはずだ。
「君は専用機を完成させればそこで終わりだと思っているが周りはそこでは終わらない。同じことができるなら次に見るものは結果、つまり専用機の出来だ。それが劣っていれば結局君は下に見られるし、勝っていれば上に見られる。結局は比べられるわけだ。」
「そんな・・・・」
考えてみれば当たり前のことだった。
完成すれば結果は求められる。
でも私じゃお姉ちゃんには・・・
「じゃあ、私はどうすれば…」
どうすればこの足枷は外せるのだろう…
もしかしたら外す方法なんてないのかもしれない…
「落ち込んでいるとこ悪いけどまだ話は終わってないよ。」
まだ何かあるというのだろうか。
私にはすでに反論する気力なんて残っていない。
「そもそも何が言いたいのかと言うと、一人で専用機作るのがそんなに偉いことなの?」
「えっ?今・・・なんて・・・」
「だから、一人で作るのがそんなに偉いことなのかなって。」
「そ、それはそうでしょ。一人で全部できちゃうんだから。」
専用機は本来チームで作るようなものだ。
それを一人で作るんだからすごいに決まっている。
「それってただ時間を無駄にしているだけでしょ。誰かと協力すれば絶対早く終わらせられるんだから。」
「それはそうだろうけど・・・そうじゃなくて一人でやることに意味があるんだよ。」
「じゃあ、君は早くおいしい料理を出すお店と遅く味の劣る料理を出すお店のどっちがいい?」
「そんなのもちろん・・・・・あっ…」
もちろん早い方がいいと思った。これって今回のことも同じなんじゃ…
いや、それとこれとは違う。
「話をすり替えないで!私は一人で作らなきゃいけないの。誰かの手を借りるなんて、そんなの甘えだから。」
誰かの力を借りるのは甘えだ。
私一人の力で達成しないと私のことを見てもらえない。
「あまり調子に乗るなよ。お前、IS舐めすぎだ。」
ゾクリッ、と背筋に嫌なものが走り、冷汗が噴き出す。
目の前にいるのは誰だ?先ほどまでとまるで違う…
その目は冷え切っており、纏う雰囲気も先ほどとは違い恐ろしい。
余りの重圧に喋ることも動くこともできない。
「なんてね。ちょっと言い過ぎだったかな。」
気が付くと重圧が消え、彼ももとの彼だった。
今の彼からは恐ろしさなどかけらも感じない。
(今のはいったい・・・)
気のせいだったのではないか?
そう思わずにはいられない。
「どうしたの?顔色悪いけど。」
「な、なんでもないから。」
彼だって何事もないではないか。
あれはきっと気のせいだったのだ。
「そうかい?なら続けるけど。えぇ~っとどこまで話したっけ・・・・そうだ、人の力を借りるのが甘えとか言っていたね。」
「う、うん。」
「正直僕からしてみれば力を借りないことの方が甘えだと思うけどね。自分しか出来ないならしょうがないけど、できる誰かの力をかしてもらえるのなら借りるべきだ。」
「でもそれじゃあ…」
「皆でやった方がいいものができるのにそれをしないのは妥協以外のなにものでもないんじゃないのかい?」
「ッ!?」
一人ですることが妥協…
「一人でできる?そんなこと皆でやればもっと早く終わる。一人でやったからすごい?皆の意志をそろえてやったことの方がすごいだろ。一人ですごい完成度?皆でやればもっといいものになる。どうだい、これでもまだ一人の方がすごいって思うかい?」
「でもそれだとお姉ちゃんとは…」
「違くたっていいじゃないか、まったく同じ人なんていないんだから。皆の力を借りてお姉さんよりいいもの作って、どうだ!参ったか!って飛び切りの笑顔で言えばいい。私にはこんなに素晴らしい仲間がいるんだって自慢してやればいい。」
違くたっていい・・・・
そんなこと初めて思った。
「でも・・・一人じゃないからって言われない?」
「言われるかもしれない。でもそれは恥ずかしいことじゃない。誇っていいことだ。だってそれは皆で作り上げた最高のものなんだからさ。」
「最高の・・・・もの・・・?」
「そう、皆が全力をそそいで一つのものを作り上げる。それって最高じゃない?」
「・・・いい、それってすごくロマンがある。」
どうしてこんな簡単なことに今まで気が付かなかったんだろう。
「それで君はどうしたいんだい?」
どうしたいか、それはもちろん・・・
「皆で一緒に作りたい!」
私は皆と一緒にやりたい。
「でも・・・・今さら協力してくれる人なんて・・・」
今まで差し伸べてくれた手を何度も私は弾いてきた。
そんな私に今さら・・・
「手を伸ばすのは確かに勇気がいることだ。でも、手を伸ばせば届くかもしれないのに伸ばさなければ一生後悔するよ。」
「手を・・・伸ばす・・・」
「そう、君はまだ手を伸ばせるんだから。」
「握ってもらえるかな?」
「君ならきっと大丈夫。少なくとも君はすでに一人の手を掴んでいる。」
「えっ?」
私がもう掴んでいる?
いったい誰の?
そんな人なんて・・・・
「僕に君の手伝いをさせてもらえないか?」
いた・・・・でもなんで・・・
私は彼に何かしたわけでもないのに。
「どうして・・・?」
「どうしてって言われても手伝いたくなったからかな。しいて言うなら僕にも妹がいてね、君となぜか重なってしまったからかな。全然似てないんだけどね。」
「なにそれ。」
思わずクスリと笑ってしまう。
ほんとおかしな人だと思う。
「それで、答えは?」
わかっているだろうにそんなことを聞いてくる。
答えはもちろん・・・
「お願いします。」
その時、バキンッ!と足枷が壊れる音がした。
★
「そういえばまだ名前聞いてなかった。なんていうの?」
「そういえばそうだね。私は更識 簪(さらしき かんざし)。一応日本代表候補生。よろしくね。」
「・・・・・」
ちょっと待て…
この子は今、更識と言ったぞ。
IS絡みで更識と言うと俺には一つしか思い当たる節がない。
(対暗部用暗部「更識家」)
その名の通り裏工作をする暗部を潰すための組織で裏の腕のたつ奴でこの名前を知らない奴はいない。
現在当主は更識 楯無(たてなし)、本名は刀奈(かたな)といい、この学園の生徒会長をやっている。
そして簪ちゃんには姉がいるとのこと。
「どうかしたの固まって。」
「何でもないよ。」(やっちまったー‼)
まさか妹がいたとは・・・・調べが足りなかった。
しかも代表候補生。代表候補生は調べていたはず・・・・
ん?日本・・・・・あっ…
(日本の代表候補生の機体は白式が急に作られることになって製造が止まっていたんだった…)
そこまでわかったから調べる必要はないと思って名前とか調べてなかった…
(俺の馬鹿ー!)
そもそも専用機作るってことはコアがあるってことじゃないか。
なぜそこに気が付かなかった…
「それで・・・・その・・・なんて呼べばいい?」
「好きに呼んでくれて構わないよ・・・うん・・・」
「じゃあ、優って呼ぶね。えぇ~っとなんで落ち込んでるの?」
「気にしないでくれ。」
過ぎてしまったことはしょうがない。
これから挽回していこう。
「それじゃあ、今日はもう遅いし作業は明日からにしよう。」
「うん。おやすみ優。」
整備室を出ていく簪ちゃんを見送り、一人になる。
「何やってんだろうな俺は…」
専用機の作成を手伝うってことは専用機持ちが増えるってことだ。
それは俺の目的からしたら障害以外のなにものでもない。
そんなことしていていいのか?
「いや・・・・これも作戦だ。」
簪ちゃんの姉は更識家の当主だ。簪ちゃんに近づけば情報が集めやすいし、手伝えば簪ちゃんのISの性能は筒抜けで回収しやすい、それだけだ。
別に善意で手伝うわけじゃない。
「俺は人類の敵だ…」
整備室を出ながら言い聞かせるように呟いた
簪ちゃん登場回でした。
口調がちょっと迷子だったかも・・・
そして主人公らしい説教?タイムでした。