クラス対抗戦当日。
俺は今、ピットで準備をしている。
「まさか一回戦目から鈴とあたるとはな。」
運がいいのか、悪いのか。
どちらにせよこの勝負は絶対に勝ってやるつもりだ。
今回は勝った方が一つ命令権を得る。
それを使って鈴の怒った理由を聴かないと納得いかない。
『織斑、時間だ。行け。』
丁度準備が終わったところで千冬姉から連絡が入る。
「わかった。勝ってくる。」
『あぁ、勝ってこい。』
千冬姉からエールを受け取り、アリーナに勢いよく飛び出していく。
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「逃げずに来たわね一夏。」
「誰が逃げるかっての。」
アリーナに出ると既に鈴が待っていた。
鈴が纏うISは赤みがかった黒色をしており、両肩上部に浮いている球体状のなにかが特徴的だ。
武器は大型の青龍刀。当たったらすごく痛そうだ。
「じゃあ、最後のチャンスをあげる。今謝るなら痛めつけるレベルを下げてあげるわ。」
「そんなのはいらねーし、チャンスとも言わねぇ。全力でこい。」
「そう、なら・・・・しょうがないわね!」
その言葉を皮切りに鈴が仕掛けてくる。
「でえぃ!」
「グゥ…」
凄まじく重い攻撃で受け止めるだけで精一杯。
「初撃を防ぐなんてやるじゃない。けど・・・」
もう片方の手にも青龍刀が展開される。
「ハアァー!」
再び接近してくる鈴の攻撃を防ぐが一本だけでも苦労するのが二本ときた。
反撃する隙が無い。
(さすがは代表候補生ってところか…)
なんとか防げているもののこのままでは消耗戦になる。
そうなったら切り札である零落白夜が使えなくなり、勝ち目がなくなる。
(一旦距離を取って立て直す。)
白式の速度なら距離を取れるはずだ。
スラスターにエネルギーをまわし、距離を取ることに成功する。
「おかしい・・・あっさりしすぎてる…」
簡単に距離を取れたところに違和感を感じた。
鈴の機体も恐らく近距離タイプのはずだ。
簡単に距離を取らせるはずが・・・
「甘いっ!」
甲龍の球体の周りの空間が歪んでいる?
(まずいっ!)
本能的にやばいと感じ取った俺は全力で回避行動をとる。そして次の瞬間。
その空間が一瞬ぶれたと思ったら、俺がいたであろう付近の地面にクレーターができていた。
「なんだ・・・今のは・・・」
「初見で避けるなんて感がいいわね。だけど今のはジャブだからね。」
鈴の言葉とともに再び球体の周りの空間が僅かに歪み始めている。
「グガッ!?」
そして気が付くと俺は何かの直撃を受け、吹き飛ばされていた。
一瞬も目を離さなかったが何も飛んできていなかった。
いったい何に俺は吹き飛ばされたのかわからない。
(とにかくあれはやばい。)
訳が分からないがとりあえずスラスター全開で動きまわる。
さっきは避けられたのだから避けられない攻撃ではないはずだ。
そうして動き続ける俺を何かが紙一重で掠めていくのがわかる。
「よく避けるじゃない。この龍咆(りゅうほう)は砲弾も砲身も見えないのが特徴なのに。」
(見えない攻撃か・・・反則もいいところだ。)
恐らくセシリアのブルーティアーズと同じ第三世代兵器ってやつだろう。
白式にはこの雪片弐型しかないため、俺もあんな遠距離武器が欲しい。
(どこかで先手を打たないとこのままじゃやられる…)
攻撃を避けながら隙を探すがこの紙一重の回避がいつまで続くかはわからない。
「これならどう?」
鈴が二本の青龍刀の柄を連結させ、こちらに投擲してきた。
「そんなことも出来んのかよ!?」
武器を投げたことに驚くがなんとか回避する。
そして青龍刀は鈴の下にブーメランのように戻っていき、手元におさまる。
「安心してる暇はないよ。」
避けたところに追撃の龍咆が発射され吹き飛ばされる。
残りのシールドエネルギーは僅かだ。
(だけど、勝機は見つけた。)
それが成功すれば俺の勝ちだ。
しかし、それには次にそのチャンスが来るまで龍咆を避け続けこの僅かなエネルギーをもたせなければいけない。
相手は代表候補生で弾は見えない。
(俺に・・できるか・・?)
後ろ向きの考えが一瞬頭によぎるがすぐに切り替える。
(できるかじゃなくてやるんだ!しっかりしろ、俺は千冬姉の弟だ。)
弟が不甲斐なくては姉が可哀想だ。
それに勝ってくると言い切った。
「かっこ悪いところは見せられないな。」
雪片弐型を強く握り直し、その時を待つ。
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待ち続けて三分が経った。
「ちょこまかして鬱陶しいわね!これでおしまいよ!」
来た!青龍刀を投げてきた。
「この瞬間を待っていたんだ!」
青龍刀を紙一重で避け、一瞬で鈴に接近する。
「なっ!?」
鈴の驚く顔がよく見える。
まさか俺が瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使えるとは思っていなかったのだろう。
瞬時加速とは一瞬でトップスピードを出し、敵に接近する奇襲攻撃の技術だ。
これは千冬姉が教えてくれた俺が唯一使える技だ。
「もらったー!_____!?」
鈴に攻撃が当たる直前、アリーナの中心で爆発が起きた。
試合どころではなさそうなため剣を止めて爆発した中心を見る。
「なにが起こったの!?」
「わかんねぇけど・・・・やばそうだ。」
『試合は中止だ!二人とも直ちにピットに戻れ!』
千冬姉から通信が入り、客席が防御システムによって遮断された。
かなりのトラブルなのだろう。
ピットに戻ろうとした瞬間・・・
ビビビビビビビビ!
「攻撃反応!?」
咄嗟に体を動かした瞬間ビームが目の前を通り過ぎていく。
そしてそれを放った爆心地の中心にはISが一機いた。
「一夏、あんたはピットに戻りなさい。」
「お前はどうすんだよ!」
「私は先生たちが来るまでの時間を稼ぐ。」
「お前を置いていけるか!俺も一緒に戦う。」
鈴を置いて逃げるなんてできない。
「バカッ!あんたの方が弱いんだからしょうがないでしょ!」
「グッ…」
「大丈夫よ、先生たちがすぐに来てしゅうしゅ_____」
謎のISから高エネルギー反応。
「危ない、鈴!」
急いで鈴を抱きかかえその場から離れる。
そして離れた直後にビームが通り過ぎる。
『織斑君、凰さん、今すぐ脱出してください!すぐに先生たちがISで制圧に行きます。』
山田先生から逃げろと言う通信がきた。
しかし、
「いや、皆が逃げるまでの時間を稼がないと。あいつは危険だ。」
『それはそうですけど、しかし!』
「悪い、先生。」
プツッ
通信を切り、鈴を降ろす。
「そういうわけで、やれるか鈴?」
「誰に言ってんのよ。」
やる気は十分なようだ。
「じゃあ、行くぞ!」
★
~管制室~
「先生、俺に出撃する許可をください!」
「私にも!」
セシリアと衛宮が千冬さんに迫る。
ここにはセシリア、衛宮、天馬の三人の専用機持ちがいる。
それが加われば確実に勝てるだろう。
「そうしたいところだが・・・これを見ろ。」
千冬さんがモニターに目線を移す。
「遮断シールドをレベル4に設定・・・!?」
「しかも客席の扉もすべてロックされてますわ…」
「あのISの仕業だろうな。まったく、無粋な輩だ。この俺様が観戦してるというのに。」
こんな状況だというのに天馬は椅子に腰かけ悠々としている。
しかし、あのISは気に入らないようだ。
「これでは避難することも助けにいくこともできない。現在も学園の先鋭達でシステムクラックを実行中だが時間がかかる。」
「待っていることしかできないのか…」
千冬さんの言葉に皆悔しそうにする。(天馬は除く)
「一夏・・・・」
こうしている今も一夏は危険な目にあっている。
何もできない自分が恨めしい。
「あ~あ、あのままだとあいつ墜とされて
天馬が私の耳元で囁く。
「ククク、なにか気を引けるようなことがあればいいんだがな~。」
なにか・・・気を引く・・・・
気が付くと私はアリーナに走り出していた。
他の者はモニターに夢中で走っていく私に気が付かない。
(一夏・・・一夏・・・・一夏!)
ピットからアリーナの入り口まで行く。
もちろんシールドによって中には入れない。
(ダメか…)
他の方法を探そうとした瞬間、
「グアァ!」
一夏が攻撃を受け吹き飛ばされた。
そして敵はビームを撃とうとしている。
あの体制では避けられない。
『堕とされて死ぬな。』
先ほどの言葉が頭をよぎる。
(一夏ッ!)
そんなのはダメだ、許さない。
「こっちだ!ここにいるぞ!」
あらん限りの声を出し、こちらに注意を引き付ける。
狙い通り敵はこちらを向き、その銃身をこちらに向ける。
「まずいッ!箒、逃げろ!」
逃げろと言われても生身でISの攻撃は避けられない。
そして奴の攻撃は易々とシールドを貫いてくるだろう。
(一夏・・・・生きろ・・・)
銃身にエネルギーが溜まり、次の瞬間私は消し炭になるだろう。
いや、灰すら残らないかもしれない。
(さよなら・・・)
私が死を覚悟し、目をつむろうとした瞬間、
『________』
凄まじい音とともに何かが敵のISにぶつかった。
★
「何があったんだ!?」
敵のISに篠ノ之が撃たれる直前、遮断シールドを貫いて何かが上空から降って来た。
そしてそれは敵に当たり、今は砂煙で隠れて見えない。
「シールドを貫くなんて・・・」
「山田君、呆けている場合ではない。今の奴について調べるんだ。」
奴?織斑先生のその言い方だとまるで・・・・
「まだ敵は動いてますわ!」
砂煙の中からビームが飛び出す。
しかしそれは一夏や凰、篠ノ之の方向ではない。
(いったいどこへ撃ってるんだ?)
その疑問はすぐに解消された。
ビームによって晴れた砂煙の中から一人の姿が現れた。
ビームはそいつに向けて撃ったものだ。
「なんですの、あれは?」
「山田君、奴の所属は?」
「今すぐ調べます。・・・・・そんな!?」
調べていた山田先生が戦慄する。
「どうした。」
「反応がないんです・・・・・新たに侵入した方からはIS反応がしないんです!」
その言葉に織斑先生とセシリアは驚く。
IS反応がない?それはそうだ。なぜならあれは・・・・
「仮面・・・ライダー・・・」
白い姿に黄色い複眼、アルファベットのEを模した角。
そして特徴的な両足のアンクルガードと腕の青い炎の意匠と黒いマント。
あれには前世で見覚えがある。確か名前は・・・
「エターナル…」
「えっ!」
エターナル。合っているがなぜ織斑先生からその名前が出てくる…
この世界には仮面ライダーは存在しないはずなのに。
「織斑、凰!今すぐそいつから距離を取れ!」
そして織斑先生が焦ったように一夏達に通信を入れる。
一夏達はおとなしく指示に従う。
ここまで焦っている先生は初めて見た。
でもなんでそんな焦って指示をだすんだ?
「大丈夫です織斑先生。なんとなくですけどあれは味方だと思います。」
理由は仮面ライダーだからという単純な理由だが言っても通じないためなんとなくとか言っておく。
「衛宮、あれは味方などではない。あれは国際指名手配犯だ。」
「国際指名手配犯!?」
仮面ライダーが犯罪者だって!?信じられない。
「なぜそんな人がここへ来たのですか?」
セシリアから質問が投げかけられる。
「見ておけばわかる。」
そういわれモニターを見るとエターナルとISが戦っていた。
いや、戦いじゃない・・・・蹂躙だ・・・
エターナルがしていることは至極シンプルだった。
攻撃を躱してISを殴りつける。それだけだ。
しかし、その反撃の一発一発ごとにISがひしゃげていく。
その攻撃からは相手を潰すことしか感じられない。
「酷い…」
「このままでは操縦者が…」
山田先生とセシリアの顔が青ざめていく。
そして・・・
エターナルがISの両腕を肘の部分から断ち切った。
「キャアッ!?」
セシリアが目を背けるがその必要はない。
なぜならあれは
「安心しろ、無人機だ。信じられんことにな。」
あれは無人機だ。だからあちらの心配をする必要がない。
だが、それにしたって・・・
「容赦がなさすぎる…」
無人機とわかっていても普通、人型をしているんだからもう少し躊躇するものだ。
それなのにエターナルは少したりとも躊躇しない。
本当に同じ人間なのだろうか…
「ずいぶんと派手にやっているなあの白いのは。あれでは日曜の朝に出れないではないか。」
天馬は面白そうにそんなこと言うが全く笑えない。
「そろそろ終わらせるつもりだ、よく見ておけ。」
織斑先生の言う通りどうやら決めるつもりらしく、メモリを武器に突き刺している。
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そんな電子音とともにエターナルの足にエネルギーが溜まっていく。
なぜか敵のISはその間動かない。そしてISにエターナルの蹴りが炸裂し、ISが完全に停止した。
「圧倒的すぎますわね…」
セシリアの言ったことはこの場にいる全員が思ったことだろう。
そして同時に俺は奴に恐怖を覚えた。
エターナルは動かなくなったISに近づき、胸の部分を拳で貫く。
貫通した手には何かが握られている。
「いったい何を…」
「ISコアだ。奴の目的はそれしかない。山田君、追跡する準備を。」
「は、はい。」
ISコアが目的・・・・
「つまり、一夏達が危ない!」
未だシールドは解除できていないため一夏達はアリーナから出られてない。
奴の目的が本当にISコアなら一夏達のコアも狙ってくるはずだ。
「先生!」
「わかっている。安心しろ。あと十秒ほどでシールドを解除でき、突入できる。さすがの奴も先鋭数人とは戦いたくはないだろうさ。」
よかった。それなら一夏達は大丈夫そうだ。
「じゃあ、俺もいき_____」
俺が言いきる前にエターナルはすさまじい音をたて、再び天井のシールドに穴をあけて脱出していく。
突入する直前の出来事だった。まるで突入してくることが分かっているかのようなタイミングでの離脱。
「山田君!」
「はい!」
先生たちはすぐにセンサーなどをつかいエターナルを追跡しはじめる。
「・・・・ダメです、見失いました…」
しかし、しばらくして追跡を撒かれてしまったようだ。
「あれは一体何だったのですか、織斑先生。」
「そうだな、奴が現れた以上お前たちも他人ごとでは済まなくなってきたからな。いいだろう。」
それから俺達は織斑先生が知るエターナルのことを聞いた。
それはとても衝撃的なものだった。
次回は主人公視点でのゴーレム戦です。