皆様ありがとうございます。
「兄さん!」
ボスンッ‼
勢いよく抱き着かれた。嬉しいんだけどちょっと痛い…
まぁ、俺がしたこと考えればこのぐらいはしょうがない。
(なにせ箒からしたら死人が会いに来たんだもんな…)
俺は死んだことになっている。というよりそうした。
あの爆発は俺が持ち込んだ爆弾によって起こしたものだ。
つまり自作自演だったということだ。
「兄さん・・・生きていてよかった・・・・」
泣きながら抱き着く箒。俺はその頭をなでる。
(ほんとは会うつもりはなかったんだけどな…)
俺は動きやすくなるために死んだのだ。なのに箒に会うという自分の首を絞めることをしてしまっている。
本当だったら遠くから少し見るだけのつもりだった。
しかし・・・・
(今の箒をほっとけるわけがない・・・・)
今の箒の状況はまずい。ただでさえ細身だったのにやつれてしまって顔色も悪く、目も虚ろ。
これはほっておいたら取り返しのつかないことになる。
「ごめんな箒。辛かったな。」
家族の死に執拗な聴取と監視が続き、箒の心は廃れてしまったようだった。
本来なら時間が解決してくれるだろうが、まだ中学生の箒ではその前に耐えられなくなって壊れてしまうだろう。今はその一歩手前の自暴自棄だ。
俺はその姿を見て、過去の自分を見ているような気分だった。
「辛かった・・・本当につらかったよ兄さん・・・・」
箒は泣きじゃくる。それでいい、思う存分泣け。
箒は凛々しくあろうとしすぎてるところがある。
それがいいところでもあるが悪いところでもある。
今回のように自分を抑え込む枷となり、ため込んでしまう。
「大丈夫だ。俺はここにいる。」
それからしばらくは箒を落ち着けさせるためにこのままでいた。
・
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・
・
「落ち着いたか?」
「・・・・・うん。」
落ち着いた箒の顔はすっきりしていた。
(少しはましになったな。これだったら最悪の事態はないだろう。)
しかし、まだやることが残っている。
「どうだ箒、久しぶりに手合わせしないか?」
箒に提案する。箒ならば快く受けてくれるだろう。
(はぁ~、あまりこういうのは良くないんだよな…)
これからすることを思うと、俺は憂鬱になった。
★
「どうだ箒、久しぶりに手合わせしないか?」
兄さんから剣の誘いを受けた。
「えぇ!もちろんやらせていただきます、兄さん。」
願ってもないことだった。もう二度と手合わせできないと思っていた兄さんと手合わせするチャンスなのだ。
今の私の実力を見てもらい、どれだけ成長したのかを知ってもらいたい。
(そしてまた褒めてもらうんだ。よく頑張ったなって。)
「じゃあ、早速始めるか。」
そういうと兄さんの手にはいつの間にか竹刀がある。
まぁ、兄さんだからそのぐらい気にしない。
私も背負っている袋から竹刀を取り出す。
そしてスペース確保の為、土手に降りた。
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・
今、目の前には私のあこがれの一人である人が立っている。
(心が・・・・踊る‼)
この人と今から手合わせする。そう思うだけでワクワクする。
「じゃあ、開始な。まずは打たせてやるから全力で来い。」
「はい‼」
兄さんが開始の宣言をすると同時に飛び出していく。
「はあぁっ!」
バシッ
一太刀目、上段に放つものの簡単に止められてしまう。しかし、想定内なので続けて中段、下段へと放っていく。
バシッ バシッ
それも簡単に止められてしまう。
(さすがは兄さんだ。しかし、私も成長したことを証明する!)
さらに激しく打ち込んでいく。息をつかせぬ連撃。
上段、下段、中段とすべてを狙って一本取りに行く。
・
・
・
「ハァ、ハァ・・・・」
一度距離をとり、息を整える。数分間攻撃したもののすべて防がれた。
(まるで水だな・・・・)
竹刀にあたりはしているがまるで手ごたえを感じない。
(しかし、攻めあるのみだ!)
再び接近して攻撃。
バシッ
やはり防がれる。
「はぁ~・・・・」
そして落胆するようなため息が聞こえた。
(えっ?誰から・・・?)
この場にいるのは私と兄さんの二人だけだ。もちろん私ではない。
つまり・・・・
(兄さん・・・・?)
私はいったん離れ、兄さんを見る。
その表情は呆れや落胆といったものだった。
こんな顔の兄さんは見たことがなかった…
そしてそれは私に向けられている。
(兄さん・・・・?どうしてそんな顔で私を見るのですか・・・?)
理由なんてわかっている。しかし、そう思わずにはいられない。
(私の実力が足らないからですか・・・?)
私の攻撃はすべて防がれた。それが意味することは期待外れだったということ。
そして向けられる冷たい目線。まるでいらないものを見るかのような目線。
このままでは見捨てられる・・・・
そんな考えが頭をよぎる。
「いやだ・・・・・」
(嫌だ・・・・見捨てないで・・・私をおいてかないで・・・・)
血の気が引き、体が震える。このままでは本当に・・・・
(実力を・・・・実力を認めてもらうんだ!)
「ああぁぁ‼」
私は接近して全力で竹刀を振る。
バシンッ!
「もういい…」
攻撃が防がれたと同時にそんな声が聞こえた。
そして次の瞬間、私に竹刀が迫っていた。
「ッ!?」
バシンッ‼
とっさに防いだものの私とは比べ物にならないほど強い攻撃だった。
手首がしびれる…
しかし、そんなことは関係ないといわんばかりに次々と攻撃がくる。
(くぅっ!)
なんとか防げるが殺しきれない強い衝撃が体を襲う。
まるで暴風のような荒々しい攻撃だった。
(こんなの・・・兄さんの剣じゃない・・・!?)
いつも優しかった兄の剣とはかけ離れていた。
今、目の前に迫っている剣は相手のことなど一切考えない剣だった。
上段、下段、中段すべてに攻撃はくる。
防ぐごとに体は悲鳴を上げる。
(怖い・・・・)
このままでは確実に壊される…
しかし、防ぐので手一杯で逃げるなんてできない。
(怖い・・・・逃げなきゃ・・・・)
できないと分かっているが思考はそのことでいっぱいだった。
そしてついに・・・・
バシンッ‼
手首に力が入らなくなり、竹刀が弾き飛ばされる。
すでに次の攻撃は迫っているが私には防ぐ手段などない。
このまま壊される・・・・
(嫌だ!助けて!)
私はとっさに腕で頭を押さえて縮こまった。
ピタッ
しかし私に当たる直前、竹刀はピタリとその動きを止めた。
「箒、今の俺の剣をどう思った?」
そして唐突にそんなことを聞かれる。
その顔はいつもの優しい兄さんだった。
しかし、何を思ったか?そんなの・・・・
(恐怖・・・・)
それだけだった。あれはまさに暴力そのものだった。
「恐怖を感じたな。怖かっただろう?」
私はコクンと頷く。あんなのは試合ではない。
なぜあんなことを・・・・
「今俺がしたことはお前がやっていたことだ。」
「えっ?」
意味が分からなかった。私が同じことをしていた?
「わからないといった顔だな。じゃあ、お前がさっきまでいた道場でやっていたことはなんだ?」
道場でやっていたこと?
そんなのは試合に決まって・・・・・
(あれが試合といえるのか・・・?)
さっきまで私がやっていたことは今私がやられたことと何が違う?
相手のことなど関係なしに竹刀を振り、相手を傷つける…
それをやられた相手にはなにが残る?
当然・・・・
(傷と恐怖だけ・・・・)
なにも違わなかった…
私は試合という建前で暴力をふるっていただけだった。
「あぁ・・・・私はなんてことを・・・」
「どうやら分かったようだな。いいか箒、力というのは制御できなければただの暴力だ。さっきまでの箒はまさにそれだった。」
兄さんの言う通りだ…
私は自身を制御できていなかった。
「しかし、さっきまでといった通り今は違う。」
「えっ?」
どういうことかわからない。私は何も変わっていない。
「私は・・・何も違いありません。その言葉を聞いただけで強くはなっていません…」
「本当にそうか?今の俺の言葉を聞き、お前は自身を恥じただろ?それができたのならさっきまでとは違う。力を振るう危険を理解できている。」
「しかし!私は弱く、また・・・・・」
またこうなってしまったら・・・・そう思うだけで怖い…
「怖いと感じるのなら大丈夫だ。これから強くなって自身の力と向き合えばいい。なに、大丈夫だ。箒は強い子だ。俺が保証する。」
そういって兄さんは私の頭に手を置く。
「兄さん・・・・・わかりました。私は強くなります‼」
「おう、頑張れ!」
私は二度とこの過ちを繰り返さないように決意した。
★
「兄さん・・・・・わかりました。私は強くなります‼」
「おう、頑張れ!」
箒の瞳には強い意志がこもっていた。
これならば大丈夫だろう。
しかし・・・・
「ごめんな、箒。こんな風にしか教えられなくて…」
こうするのが一番はやく、理解できるからやったが妹を打ち付けるのは精神的につらかったし、箒にも辛い思いをさせただろう。
「いえ、兄さんには感謝しています。自分の過ちに気づけたから。」
そういって笑顔を見せてくれる。
もう、まじで相変わらずの天使っぷりだった。
思わずなでてしまう。
「兄さん、それでこれからどうするので?一緒にいられるですか?」
なでられながら箒が聞いてくる。
そうだった・・・あまり時間がないんだった。
名残惜しいがなではここまでだ。
「これから俺はやることがある。だから一緒にはいられない。」
「そうですか…」
箒がシュンとするがこれからが重要なのだ。
「それで箒。頼みがあるんだが、俺に会ったことは誰にも言わないで欲しい。もちろん一夏やちーちゃんにもだ。」
「なっ!?なぜですか!?皆、兄さんが生きてるとわかれば喜びます‼」
こうなるよなぁ~。だから会うつもりはなかったんだが…
「俺はギリギリ助かったが死んだ扱いになっている。そんな俺が生きてると知られたら、また襲われる危険性がある。そしてその俺が生きてると知っている人物に危害を加えて情報を聞き出そうとするかもしれない。だから危険にさらさないためにも黙っていて欲しい。箒が黙っていれば知られる心配はない。」
「し、しかし・・・・千冬さんなら…」
「確かにちーちゃんなら大丈夫かもしれない。でも、絶対とは言い切れない。関係ない人だって巻き込まれるかもしれない。だから頼む。これは俺と箒だけの秘密だ。いいな?」
もちろん襲われたとかは全部嘘であるため心苦しい。
しかし、箒が話せばどこからか嗅ぎつけた政府が箒に更なる聴取などをする可能性もある。
それは避けなければいけない。
「・・・・・・わかりました…」
渋々といった感じだが了承してくれた。
「ありがと、箒。・・・・それじゃあ俺は行く。」
箒に礼を言ってこの場から去ろうとする。
「兄さん‼また会えますよね?やることが終わったら一緒に暮らせますよね?」
箒が泣きそうな顔で聞いてくる。
「あぁ、もちろんだ。だから笑え、箒。・・・・
そういって俺は箒の前から立ち去る。箒は笑ってくれた。
(また嘘をついちまった…。嘘つきな兄でごめんな、箒…)
それから箒はすぐに道場に戻り、皆に謝罪していた。
俺はそれを遠くから見て、安心してその場を離れた。
これが暮見雄二として、兄として箒に会える最後の時だった。
爆破は彼の自作自演だった模様。
心配を返して欲しいですね、まったく。
そしてどうやら箒の前に現れたのは寄り道だった様子。
彼の計画とはいったい・・・・