あの空に帰るまで   作:銀鈴

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まだた……


17 一炊之夢

 綺麗な木目調の廊下を抜け、階段を下って出た外には、とても綺麗な光景が広がっていた。

 

「凄い、綺麗だ……」

QZ/q(でしょう)? =Bq¿pE(自慢の街なの)

 

 そう言ってエウリさんは振り向き、自慢するように手を大きく広げる。だが、それもこのファンタジーな光景を見れば分かるというものだ。

 この街は、まさに森と一体化していた。地面は雑草こそ抜かれているものの、木の根などは放置され自然のままの姿を保ち、それ故に天を覆う鬱蒼と生い茂る葉は生き生きとしていた。漂う空気は慣れた森の中そのものの清らかさを保ち、しかしそこに生活の匂いが混ざっている。木漏れ日が露出した肌を焼くが、もうそこまで気にしないで済むくらいには慣れてきた。

 

EBwmdKGAz*d(こっちですよモロハさん)aTGN&SN3mZJV(綺麗なのは分かりますけど)

 W#2vi-pN44(街は後でも見れますし)

「それもそうですね」

 

 案内してもらってる手前、ずっと止まってる訳にはいかない。そう判断し直すが遅かったようで、小さな手が俺の手を握り先導し始めた。

 

 自己否定ーー羞恥心を否定しました

 

 一応俺は、これでも健全な年頃の男子である。手を解くなんて事はせず、なされるがままに案内されていく。そうして着いたのは、村長宅らしい古木の隣にある捻じ曲がった大木をくり抜かれて作られた店だった。

 

d5k.%&M(フロックスさん)! uー*ー#ーsーAー3ー(起ーきーてーまーすーかー)?」

 

 到着するなり、扉をドンドンと叩きエウリさんが大声で呼びかけた。しばらくしてガチャリと扉は開かれ、奥から頭に小さな赤い花を飾った女性が現れた。今まで眠っていたのだろうか、目を擦る女性からは如何にも不愉快だという雰囲気が放たれている。

 

nwl3sY(んだよエウリ)kuCXkaIh*&Jc0n3(こんな朝っぱらに起こしやがって)

JS24gX(この前の人が)RFWFCsigYj(武器とかの整備をお願)=/aJnngQ(いしたいんだって)

f%(へぇ)

 

 その時点でこちらに気がついたのか、目を細めてこちらを睨め回してくる。あんまり気分良いものじゃないけど、とりあえず一礼を返しておく。

 

「さっさと手を離して得物を出しな、人間」

「一応、これでも半分吸血鬼です」

「あっそ」

 

 俺は、鞘……いや、シースって言うんだったっけ? どちらでも良いが、刃を収めたままの短剣を手渡す。さっき抜いた時、微妙に乾いた血が見えてたし、これは整備してもらわないといけないだろう。

 

「で、主武装(メインアーム)は何処だ? まさか置いて来たとか言うんじゃねぇだろうな?」

「それはこちらに《排出》」

「うぉッ!?」」

 

 とても驚いた様子のフロックスさん?に、いつも通り出現した槍を手渡す。渡すのは、1番酷使してきた自作槍を姫様が強化してくれた最初の槍。プラム村での諸々でかなり傷んでいるのは分かっていたが、修理も整備もろくに出来ていなかったからだ。

 

「今のを問い詰めはしないが……この槍、随分と酷い状態じゃねえか。しかもえらい特殊な構造してるし、よくこんなので戦ってこれたなお前」

「あはは……」

 

 まあ、元がモップの柄にゴブリンの持っていた曲刀を突き刺しただけだから仕方がない。

 

「いいぜ、燃えてきた。明日だ」

「はい?」

「明日までにこの槍は、オレの持てる限りの全部を使って鍛えてやる! 首を洗って待ってろよ!」

 

 そう言って、フロックスさん?は扉を閉じて引き篭もってしまった。一瞬だったから反応が遅れたというか、首を洗ってだと使いかたがおかしい気がするとか色々あるけど、なんか凄い人だったな……

 

3u6%€3u6%€(モロハさんモロハさん)! K1lT$aT4U=S*74I2Q(さっき槍が出てきたあれってどうなっ)YFGt4G(てるんですか)?」

「えっと、まあちょっとした手品みたいなものです。物騒な物しか今は持ってないので、お見せは出来ませんけど」

uQXpt(そうですか)……bDC6J(残念です)

 

 せめて花か何かがあれば良かったのだが、手首とかライターとか槍や劇薬などの危険物しか入っていない。だから、あまり見せたくはない。まあ、これは血生臭さを日常に持ち込みたくない俺のエゴだが。

 

9Qr4Gc*kJ(次は何処に行きます)?」

「なら防具屋さんへ」

GD48tI(分かりました)!」

 

 今度は手を引かれる事なく、隣に立ってゆっくりと歩いていく。相変わらず凄い景色だが、無言は気まずいのでちょっと疑問に思ったことを聞いてみる。

 

「そういえば、皆さん案外人の言葉がわかるんですね」

9V7FzEQu3DHp(みんな長生きしてますから)#p°yd5k.%&MD@¿(さっきのフロックスさんだって)

 *^#150£xq$jq=E*P(あれで150年は生きてるんですよ)?」

「ひゃくごじゅっ!?」

 

 さっきの人は、どう見ても20代程度にしか見えなかった。それなのに150年とは流石の異世界、流石の異種族である。となると、もしやエウリさんもかなりの年上だったりするのだろうか?

 

j_KF10g6£DRaO*mjQ(私はまだ10と6年しか生きてなくて)@$MN+aAxFg-G=(これがないと話せないなんて)xi1x2V(不便ですよね)Vq&HAh(ごめんなさい)

「いえ、エウリさんが謝ることじゃないですよ。他の言語って凄く覚え難いですし、逆に同じ歳だから安心出来ます」

inxmqr2wu4XaI187(そう言ってくれると私も嬉しいです)

 

 まさしく花が咲く様な笑顔が返ってきた。やっぱり、こういうのにはどうにも弱い。恥ずかしくなって顔を少し逸らしてしまう。

 

 そして、そんな情けないことをしている間に防具屋に到着してしまった。こちらは先程と違い店は開いており、入店すると普通に対応してくれた。そして特に特別な事もなく、俺の手に合う様に拾い物の手甲を調整してもらうことが出来た。いや、お金がかからなかった事は不思議か。

 

 そうして防具屋から出た時、大きな音が自分の腹から聞こえた。考えてみれば、最低丸一日は何も食べていない。1度意識してしまえば早いもので、すぐに莫大量の飢餓感が襲ってきた。

 

 自己否定ーー吸血衝動を否定しました

 自己否定ーー判定に失敗しました

 自己否定ーー吸血衝動を否定しました

 

qS8vR(そうですね)aqL#PVYzuJ.N6(折角ですしご飯にしましょう)

「なんか、すみません」

kGkG(いえいえ)bZeD2M+0g$PEa/WOW(確か昨日良い魔猪が狩られてたので)

 NBrvPHoVNPOQ(私も楽しみにしてたんです)

 

 嬉しそうにエウリさんは言うけれど、俺は内心かなり驚いていた。なんというか、言ってしまえば菜食主義(ベジタリアン)みたいなものだと思っていたから。

 

W+dgH(私達だって)ynAB6d03rdzNIV.(食べ物は人と変わらないんですよ)? tt(ただ)

 e@h4fZlvb#C-WtI(食べなくても死なないってだけで)

「成る程……勉強になります」

Dsm4/〆(それはどうも)!」

 

 そして俺は、再び先導されて歩いていく。エウリさんの後ろ姿に、特に警戒する事もなくついて行く自分は、思った以上に気が緩んでしまって……いや、緊張は解けているらしい。

 相変わらず大木と同化したお店で、王都にいた時より豪華な食事を終えた。その後、森林浴的にこの村の中を散策した。漸く魔力が自由に使えるくらいには回復してきたと感じた辺りで、歩調を落として隣に来たエウリさんが問いかけてきた。

 

dnpYJxFC1Vd(今日見て回った場所って)oDoifMCKxDp(みんな戦いに必要な物を)@iAIjg(扱ってたけど)

 2&IG3Ks32KDyq(モロハさんは何の為に戦うの)?」

「えっ」

 

 自己否定ーー動揺を否定しました

 

 不意に投げかけられた質問に、俺は答えを出すことが出来なかった。そういえば、俺は何のためにここまで戦ってきたのだろうか?

 

「俺の戦う理由……何なんでしょう?」

&*(えっ)?」

「『元の世界に戻りたいから』って言われればそうですし、『助けてくれた人への恩返し』と言われればそうでもあります。もっと簡単に言えば『死にたくないから』でもあって、『友人を助けたいから』というのも少しはあります。

 

 けど、どれも確実にこれって“芯”には足りないんです。散々戦って、殺して、逆に見殺しにして、傷ついて、無茶をして命を削って……なのに、改めて聞かれてみたら分かりません。情けないですよね」

 

 空を見上げた顔に射し込んだ木漏れ日、それに目を細めつつ自嘲気味に答える。言葉にしてみて改めて分かった、やはり自分は中途半端で駄目な人間だ。

 

 だから俺は、

 

 自己否定ーー

 

 自分の事が

 

 █主no自█を

 

 心の底から、きら──

 

 否█shi█し──

 

W◎(私は)=*7$V3NsX(そうは思いませんよ)?」

 

 自己否定ーー判定に失敗しました

 

 どこか遠くに、薄くなって消えそうだった自分の意識が、その一言で戻ってきた。今のは、なんだ? 今まで、失敗することこそあれ明確に確認出来ていたチートが、訳のわからない結果を吐き出した。しかも察するに今のはッ!!

 

 自己否定ーー記録を否定しました

 自己否定ーー違和感を否定しました

 自己否定ーー懐疑点を否定しました

 

 まあ、()()()()()()()()()()()()。そのログも見当たらないし、そんな事より優先すべき事がある。出来る限り平静を取り繕って、俺は疑問に疑問を返す最低の返答をする。

 

「そう思わないって、どうしてでしょう?」

W@nwK%nmSDwRS-Zk(だってモロハさんの言ってる事って)-NL4=Jl5YxCj6(全部帰りたいからじゃないですか)

「帰りたいから?」

 

 1つ目の理由ならともかく、他の理由では全く見当もつかない。何をどうしたら、帰りたいなんて理由に繋がるのだろうか?

 

@BgD#bNXQw(1つ目は言わずもがな)1jyV2A°W*HRU(元いた世界に帰りたいって)

 zM/vTWj4v4(分かりやすい理由です)

「2つ目は?」

3u6%€KgtG(モロハさんにとって)2BALBjM2jBf3MWRw(助けてくれた人との暮らしはきっと)

 6K#.ntdHsrd4(楽しいものだったのでしょう)? Dut:(だったら)

 qQ_W%C#x=%+xQ(そこに帰りたいというの)Uhi3ss9n(は自然な願いです)

 

 …………

 

「なら、3つ目は?」

#j&SZE#(日常に帰りたい)HKJnv$qNQPDJzj#QZn(分かりやすいじゃないですか)

「じゃあ、最後は?」

y7RK05P4v/8OGK(私は同年代の友達がいないから)OX&1Jh1ki(よく分からないけど)

 +Zb&+vM#qPm1(仲のいい友達の輪はとても)%LbmC¿uV(居心地が良いって)hUO&V(知ってます)

 jQ(なら)8mb8tD(帰りたいに)VGFB&$CERcHe(決まってるじゃないですか)!」

 

 そう力説するエウリさんの姿は、とても楽しそうで、とても可愛らしくて。見惚れてしまう程、綺麗だった。今、俺の中に渦巻くこの感情は、ともすれば“恋”と呼ばれるものかもしれない。考えてみれば、もしかしたら一目惚れだったのかもしれない。

 

5G7(だから)FmzO&1Ry4rmlA(そんな自分が嫌いだなんて顔)PVaozUden=m(もうしないでくださいね)?」

「です、かね。エウリさんがそう言うなら、分かりました」

 

 そうして俺は、恐らくこの世界に来て初めて、心の底から本心で笑う事が出来たのだった。

 

 期限まで後、6日

 




これはもう、実質デートなのでは?

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