聖旗と二刀 〜少年と少女の旅路〜   作:誠家

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遅くなってすいませんでしたm(_ _)m



修行編
第44話 天乃の修行


修也が、イギリスに発った、次の日。

天乃はある場所にいた。

付き添いは何処かきっかりとした格好をした僧侶。

彼女達が歩くのは深い森の中。

僧侶を先頭にして、ポニーテールを揺らしながら土を踏み締める。

…やがて、彼女達の目の前に、洞窟のような祠が姿を表した。

「…ここですか?」

「はい、ここにございます。」

天乃が問うと、僧侶は深深と頭を下げて答える。

天乃は中を見る。

ここではあまり多くはないが、しかしかなりの量の悪滓が充満しているようだ。

彼女は頷くと、僧侶を見た。

「あとは私一人で行きます。あなたは戻っておきなさい。」

「ハ…ご武運を。」

僧侶は一礼すると、そそくさと山を降り始めた。

天乃をそれを見送って、もう一度祠の中を見つめた。そして…

「…」

ゆっくりと、その中に足を踏み入れたのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…で、そのまま祠に入っていった天乃の手助けをして欲しくて、ここまで来たと…」

 

修也の問いに、彼の前で座り込む男性は首を振った。

修也は呆れたようにため息をつくと、踵を返した。

 

「お前ら、家に帰るぞ。わざわざ聞くまでもねえ。」

 

「お、お待ちください修也様!このままでは天乃様のご命が…!」

 

「ンなもん、天乃だって覚悟の上で行ってるに決まってるだろ。パートナーとはいえ、わざわざ俺が口出すことじゃないよ。」

 

「そ、そんな…」

 

修也は固まる男性を置いて、飛行機へと乗り込んだ。

 

 

 

「良かったの?あの男。」

 

ネフィの言葉。修也は頬杖をつきながら、ため息をつく。

 

「いいんだよ。あいつら神宮寺家の傘下の連中は、少し天乃の身を案じすぎだ。あいつ自身が行くと決めたなら、俺が出る幕じゃない。」

 

「けど、天乃さんとはペア関係ですし…一応行っておくべきじゃ…」

 

「くどいぞ、聖女と小娘。」

 

二人の質問に、琥珀が反応した。

彼女は淡々と話す。

 

「我らが主が決めたことなら、口出すものでもなかろうよ。…それに、ペア関係にありながら、何故あの娘は1人で向かったか…。それくらいは察してやるのが、年長者というものじゃ。」

 

そう。

天乃という少女は、無謀なことはしない。

出来ることなら、可能性が最大限まで上がるように尽力する方だ。

だが、彼女は修也を連れていくという、《最大限の可能性》を切り捨てた。わざわざ、《修行》という理由をつけて。

それはつまり…

 

「…ま、今回は一人でやりたいんだろうよ。」

 

修也はそう呟いた。

それに、ネフィがため息をつく。

 

「まったく…人間って本当にめんどくさい。どうでもいいところでプライド高いわよね…。」

 

「そう言うな、小娘。…実際、人間も精霊もそう大きくは変わらんからのぉ。」

 

「…それは、否定できないわね。」

 

3人の会話。それを聞きながら修也は、ゆっくりと目を閉じた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

暗い洞窟の中。

天乃は荒い呼吸を繰り返しながら、一歩一歩慎重に進んでいく。

天乃が祠に入ってから、既に数日が経過していた。

この祠、距離は奥までの当然の事ながら、道の各所に罠が張り巡らされており、その対処に手こずり、ここまで時間がかかっているわけだ。

 

「まったく…これ作った人絶対神経質ね…」

 

そんなことを呟きながら、天乃は先に進む。

この先にあるであろう、《ある物》を求めて。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あー…よく寝た…首いってぇ…」

 

ゆっくりと伸びをしながら、修也はジェット機から出て空港へと降り立った。

あれから数時間ほど経ったが、日本の空は明るい。

大体イギリスを出たのが現地時間午後9時頃だったため、それから3時間経過分、そして、時間誤差9時間分を足して、日本時刻は午前9時頃といったところか。

そばにある建造物から人の喧騒も少しだけ聞こえる。

 

「ネフィさん、どうですか?初めての日本は。」

 

ジャンヌが話しかけると、ネフィは少しだけ神妙な顔をして答える。

 

「…なんだか、あまり新鮮味は無い感じ。」

「まあ、まだ空港しか見ておらんからな。それにここは霊使者協会直属の空港。あまり新鮮味はなかろうよ。」

 

琥珀がそう言って少しフォローを入れると、ジャンヌが「すみません」と少し縮こまった。

 

「…ま、日本にはゆっくり慣れてくれりゃいいよ。そう慌てることでもねえしな。…とりあえず。」

 

修也は脱いだコートを肩にかけて、3人に笑いかけた。

 

「1回家に帰るぞ。ネフィの色々はそっから考えようぜ。」

「そうじゃな。儂も1杯やっておきたいし…」

「イギリス王城で結構飲んだろ…」

「あれは別酒よ。」

「新しい単語を作るな。」

 

修也はそう言って笑うと、コートを翻した。

 

「じゃ、行くぞ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「フゥ…フゥ…」

 

あれから、更に数時間後。

天乃の前に広がる、少し広めの部屋。

そこには勿論整備された形跡はなく、苔は生え、水は滴り、岩肌が突き出していた。

 

しかし、その中でも1つ。

群を抜いた存在感を放つ物体。

それは、《祭殿》。

何かを祀るためのそれは、天乃に一つの確信を植え付けた。

 

「ここが…最奥…」

 

そう。

この部屋こそが天乃の目指していた、祠の最奥。

凄まじい罠の終了地点な訳だ。

 

その事に天乃は少しだけ力を抜くが、しかしそれも一瞬。すぐに気を引き締める。

その理由は、祭殿にあった。

 

ありとあらゆる煌びやかな装飾品。

それらの下に存在する、1つの物体。

あまり大きいとは言えないその大きさ。そしてゴツゴツとしたフォルム。

それは正しく、《石》。

だが、その石は、凄まじいオーラを放つ。

 

「…」

 

天乃は息を飲んで、そのまま少しだけ祭殿に近づく。

一歩。二歩。三歩。四歩。

次第に距離が縮まっていった。

ーーやがて。

 

オォウッ!!

「…ッ…!?」

 

彼女と石の距離が、数メートルまで近付いた瞬間。石は凄まじい霊力を放出した。

それには天乃も思わず顔を腕で隠した。

…そして。

 

「ホッホッホッホッ。この地に人間が足を踏み入れたのは、何時ぶりでしょう。」

 

目を開けた瞬間、そこにいた人物。

その姿を、天乃は確かに見つめた。

 

長い白髪。頭から生えた、狐の耳と、腰から生えた狐の尻尾。

目を奪われるような美貌。白い肌と碧い眼。

ありとあらゆるその全てが、《美しい》と思える。

 

その神々しいとも言える姿に、呆気に取られる天乃。

そんな、彼女を見つめて、狐耳の女性はーー

 

「おやおや…ねえ、お嬢さん?」

 

 

 

「…少し、一息つきましょう?」

 

「…え?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「おかえりなさい。兄さん。」

 

バイクで帰宅した修也を、妹の翠が玄関前で出迎える。修也は身につけていた手袋やヘルメットを外してから、「ただいま」と返す。

 

「あれ、爺さんは?」

「お爺ちゃんは今少し出てます。何でも話があるとかで…」

「ふーん…」

 

修也はコートを脱いで、翠に預ける。

 

「翠、なんか変わりなかったか?」

「はい。最近は体調も良いですし、問題なくやれてます。学校も楽しいですし。」

「そっか。」

 

大切な妹の笑みに、修也も自然と微笑みを浮かべた。

 

「ほら、玄関でもなんですし、お風呂にでも入ってきてください。沸かしてありますから。」

「おう。サンキュ。」

 

そう言って、2人が仲睦まじい様子で玄関で話していると…

 

ガラッ。

 

唐突に、入り口の引き戸が開けられる。

2人は同時に振り向く。

 

「あれ、お爺ちゃん…」

「おう、爺さんおかえり…」

「うん、ただいま。修也も、よく帰ってきたな。お疲れ様。」

 

笑みを浮かべる才蔵に、修也も笑みを浮かべる。

 

「それほどでもねえよ。…ところで、何か用事があったんじゃねえのか?随分早い帰宅だな。」

「ああ…その事なんだがな。修也、お前に客人だ。」

「客…?」

 

修也が怪訝そうな表情をする。

それと同時に、才蔵が隣にいた人物に「どうぞ」と声をかけた。

そして、その人物は頭に被っていた、大きな帽子を頭からのける。

それによって、その人物の顔が見えた。

…修也は、目を剥いた。

 

 

「や、久しぶりだね。修也君。」

 

「…し、使媒頭(しばいのかみ)様…」

 

霊使者全員のトップは、爽やかな笑みを浮かべた。

 





おとーちゃーん!

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