聖旗と二刀 〜少年と少女の旅路〜   作:誠家

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この話だけで、次イギリス編エピローグ行こうと思ったけど全然無理だった。




第41話 修也VS邪竜人

キイイイイィィィィ…

 

イギリスの港。

霊使者達が集まる場所の後方。

イギリス軍が集まる場所に、金色の鎧に身を包んだ巨漢の男が腕を組んで立ち尽くす。その男は体を光に包まれながら、隣にいる人物に笑いかけた。

「な?フロス。やっぱり必要だったろ?」

「必要かどうかではなく、貴方様が前線にいることが異常なのですよ。」

はぁ、と頭を抱えるフロスに、アルトゥースは笑う。

「ガハハハハ!民や兵士を率いらんで何が王か!これも俺の仕事だ。」

「…なんのために軍部を設置なされているのですか?」

「あんなものは建前だ。俺の兵は俺が動かす。もう慣れたろ?」

「慣れてたまりますか。まったく…」

アルトゥースの笑い声が高らかに響き、フロスのため息が消え失せた。

そして、アルトゥースは上空にある、2つの点を見上げて、笑う。

「さあ、舞台は整った。」

 

「決めろよ、修也。」

 

 

 

「ジャンヌ。」

「はい。」

「俺の体から出て、後方支援頼む。」

「了解しました。」

ジャンヌはそう言うと、修也の体から出て、彼の後ろに下がった。

それと同時にアグンも外に出ると、そのまま修也の肩に飛び乗る。

両者とも、見据えるのは目の前の幻想種。

黒く変貌した、精霊の少女。

修也は腰の鞘から黒い刀身を引き抜く。

今、自身の傍には相棒の吸血鬼の少女はいない。思えば、彼女抜きで幻想種に挑むのはこれが初めてだ。

1滴、冷や汗が流れる。

ペロリ。

それを、アグンがゆっくりと舐めとった。

修也がそちらに向くと、アグンは

「ナー」

と鳴いて、笑うような表情を作る。

「…だよな。お前らがいるもんな。」

修也は呟いて笑うと、アグンの頭を撫でて、黒い少女を睨みつけた。

 

「さあ、やるか!」

 

叫ぶと、邪竜人は凄まじい速度で腕を振り抜いた。襲いかかる悪滓。

それを修也は聖属性の障壁で防ぐ。

「初っ端から行くぞ、アグン!」

「ナー!」

両者、高らかに叫ぶと、修也は目の前に刀を翳した。それと同時に凄まじい量の霊力が刀に注ぎ込まれていく。

それに異変を感じて、邪竜人は悪滓の槍と矢を修也に向けて放った。

…それを、ジャンヌが張った障壁が弾く。

 

ーーその身が宿すは陽の炎。その命が灯すは勝利の炎。ーー

ーーその身その命、我に預けし幻獣よ。今こそ我に、勝利の導きを…!!ーー

 

詠唱が終わると同時に、黒い刀は凄まじい光を放ち、その形を変えていく。

長く流麗な真っ直ぐなフォルムは湾曲し、さらに細く、長くなっていく。

やがてその中部が修也の手に収まり、刀は更なる変形が続く。

変形がおさまり出すと、肩に乗っていたアグンが丸い膜に包まれ、変形した刀に宿った。

やがて光は治まり、その全容が映し出される。

黒く長い、湾曲したフォルム。

修也に近い先から弦が張られていた。

そして、所々に赤く猛る炎が彼の体を照らす。

それは、長弓であった。

 

 

「《幻獣精装(げんじゅうせいそう)・ツクヨミ炎帝》」

 

 

彼の体に、変化はない。

だが、変貌した刀…いや、弓から凄まじい量の霊力が漏れ出て、辺りの空気を焦がす。

そして…

チキッ…

修也は弓を構えて、弦を引く。

矢はない。

その動作に意味があるのかという行動。

だが、直後。

オォウッ!!

彼の右手に、炎で作られた霊術の矢が握られ、それは凄まじい熱量で周りを焦がした。

そして、

「…ッ…」

修也は、手を離す。

矢は真っ直ぐな軌道を描いて、邪竜人に襲いかかった。

それを何とか避けて、邪竜人は矢を見送る。

そして、下の海と接触した。

…直後。

 

ジュワッ!!

 

「…ッ!?」

凄まじい範囲の海水が蒸発し、その後水が暴れて軽い津波を巻き起こす。それを霊使者やアルトゥールが張る防壁が防いだ。

「チッ…流石に避けられるか。」

修也は毒づくと、右手を開閉させて感覚を確かめる。

「…まぁいい。」

 

「次は当てる。」

 

またも向けられたその敵意に、邪竜人の頭は最大の警報を鳴らした。

こいつはヤバいと。

全力でやるべきだと。

「グアアアァァァァァ!!」

高らかな咆哮。

周りの空気を揺らすその咆哮。

それと同時に彼女の周りの悪滓が巨大な黒い膜を作り出して邪竜人を包む。

「…」

それは破壊できないと修也は予測し、少しだけ見守る。

やがて膜を中心に黒い渦が巻き、そして…

 

ビシュッ!

グシャッ!

 

ひとつの悪滓の玉が修也に襲いかかり、彼はそれを握り潰した。聖属性で浄化してから、膜を見る。

やがて膜は弾けて、そのまま中心に向かうように収束していく。

…そして、そこで彼女の姿が視認できる。

 

邪竜人の特徴でもある角は長くそそり立ち、さらにワンピースだった服は所々何処か鎧のような鉄素材の防具に覆われる。

さらに白かった肌は褐色に変色し、眼球の赤色は充血したように周りに広がっていた。

 

威嚇するように牙を見せる邪竜人。

修也は弓を構える。

そして…

彼の前から姿が消える。

修也は咄嗟に首を捻ると、黒い風が通り過ぎて、その風は彼の頬を切りつける。

流れる赤い血。

「…へえ。」

いつの間にか移動した彼女を、修也は血を舌で舐め取りながら見つめる。

そして…

 

チョイチョイ。

 

またも、手招き。

余裕綽々なその行動に、邪竜人は反応しない。下手に出ては行けないとは分かっているのだ。

「流石ってとこか。」

ドラゴンなら挑発出来たのになと、修也は笑う。これが、邪竜人の特徴でもある、高度な知能の賜物のひとつであろう。

 

「厄介そうだ!!」

「…ッ…!!」

 

修也と邪竜人は同時に動いた。

両者は丁度中間あたりで交わると、そのまま少しだけ拮抗してから、もう一度離れる。

邪竜人は腕を振って巨大な土の槍を数本生み出して修也に向けて放つ。

それを彼は2本回避して、2本は蹴りと拳で破壊。

その隙をついて距離を詰めると、邪竜人は至近距離で素手の攻撃を繰り出す。

今の彼女の腕力なら、少しでも握れば修也の体を潰すことは可能だった。

修也は弓を握ったままそれを避け続け、六撃目の手刀を足で蹴って距離を取ると、弓矢を引き、放つ。

それを彼女は避けて、もう一度彼と距離を詰めた。

その瞬間にからに向けて最高速度の手刀を繰り出した。

修也はそれを体の捻りだけで避ける。

そして、そのまま膝と肘で彼女の突き出された腕を挟んだ。

「捕まえた。」

修也はコンマ数秒の間に矢を顕現。

限界まで引き絞る。

邪竜人はそれを見て咄嗟に腕を引き抜こうとするが、気づく。

彼女の腕が、まったく動かない事に。

引き抜こうとしてもギシギシと震え、彼の膝と肘に押さえつけられていた。

邪竜人は危険を感じて腕を切り落とし、その場を離れた。修也の矢がまだも空を切る。

「…あまりその体傷つけんなよ。」

修也は呻く。

基本、精霊に自然治癒はない。

だから、欠損した部分は霊術で治す他ないのだ。

だが、邪竜人からすれば、そんなことはどうでもよかった。何故なら、所詮は寄生主の体なのだから。

邪竜人は悪滓を使って、黒色の仮の腕を作り出してそれを数回動かして、感覚を確かめる。そして、動くことを確認してから更なる攻撃を開始した。

邪竜人は口を開き、火球を作り出した。

修也は迎え撃とうと、弓を構えるが…

「…ッ…」

邪竜人が放出した炎はすぐさま原形の球体を崩して、波となって修也に襲いかかる。

「火炎放射か…!」

修也はすぐさま弓を引いて、左手の前に霊術障壁を展開した。

火球なら1度攻撃を相殺すればいいが、火炎放射の場合は障壁で相殺し続ける必要がある。

火が収まると、そこには邪竜人はいない。

そして、修也は視界の端。

距離を詰めてきた少女に気付く。

「チッ…!」

舌打ちをしながらバックステップ。

少女の手刀が彼の脇腹を掠る。

その部位からかなりの量の血液が吹き出す。

「修也君!」

ジャンヌが叫ぶが、修也は距離を取って右手を開いて突き出す。

「大丈夫だ、問題ない。」

そう言って修也は()()()()()()()()()()

彼は息を整える。

そして、距離をとり、弓を引く。

凄まじい量の霊力。

空気を焦がすその術は、修也が現在使える、最大火力級の霊術。

彼の弓から放たれる、暴力の塊のような火柱。修也は限界まで引き絞る。

その熱量は、耐熱の彼のコートすら焼くほどの威力だった。

 

「…《烈日紅鏡(れつじつ こうきょう)》。」

 

修也は矢を離す。

瞬間、放たれる凄まじい量の力の奔流。

1本だった矢は分裂し、雨となって邪竜人に降り注ぐ。

着弾した瞬間、とてつもない爆発を引き起こし、空間が歪んだ。

 

「…」

煙が晴れたあと。

彼女は項垂れたような、気絶したような格好のまま浮き続けている。ホバリングだけで浮いているようだが、意識はないようだ。

元々、殺す気は無い。

このまま彼女を浄化すれば、元に戻る。

修也はゆっくりと近づいた。

 

「修也君ッ!!」

 

ジャンヌの声が届いた瞬間、修也の胸を、手刀がつらぬく。

「ゴバッ…!?」

彼の胸から血液が吹き出し、口からも赤い液体が吐き出される。彼を貫いた手には、赤い臓器。それをその手は容赦なく握り潰した。

「…囮…かよ…」

そしてもう片方の手で彼の頭を掴むと…

 

グチャッ!!

 

まるでリンゴを握り潰すように易々と粉砕した。

修也の血液、目玉、あらゆる部位が海へと落ちていく。

それを見送ることも無く、邪竜人は背後に向く。まるで修也にはもう興味が無いようにジャンヌの方へ振り向くと、彼女を駆除すべく、邪竜人は動いた。

 

 

 

「…国王様。」

「…ああ、決まったな。」

 

 

「修也の、勝ちだ。」

 

 

 

ガシッ!

「…!?」

動こうとした邪竜人の体を、何者かが掴む。

腕を拘束されて、ジタバタと動く邪竜人。

誰に拘束されているか分からない彼女は、すぐさま後ろを向いた。

「……ッ!?」

そして、その姿を見て戦慄する。

彼女を掴む体には、首が無かった。

それもそのはず。

彼女を掴む人物の正体は、先程彼女自身がトドメをさしたはずの、青年だったからだ。

その証拠に、その胸には穿たれた傷跡。

いや、だがしかし…

『不思議に思ってるか?』

「…ッ!?」

まるで、頭に直接響くような声。

『お前の思ってる通り、半人半妖ってのは核となる脳と心臓を潰せば大体は絶命する。この判断は、高知能なお前くらいしか出来ねぇだろう。流石は幻想種だ。』

修也の褒めるような言葉の間も、邪竜人は抵抗しようと足をばたつかせるか、振り解けない。

『…ただ、舐めてもらっちゃ困る。俺は一応吸血鬼の、しかもその種族の王の契約者だぜ?』

やがて、海の中から細かい破片や赤い液体が引き込まれるように昇ってくる。そしてそれらは体の首の上に集まると、融合を始める。

そして、十数秒後。

 

「この程度じゃ、死なねえよ。」

 

完治した修也は、笑いながら言い放った。

邪竜人は咄嗟に霊術を使って逃げ出そうと試みる。

…だがそこで、あることに気づいた。

いつの間にか、自身の中に相当量あったはずの霊力が、ほとんど無くなっていることに。

衝撃が邪竜人を包む中、修也はゆっくりと額を少女の後頭部に触れさせた。

フワリとした髪の毛の感触を感じながら、修也は呟いた。

 

「さ、もう起きる時間だぜ。お嬢ちゃん。」

 

 

2人の意識は、一息に刈り取られた。




3話以内に終わると思う(イギリス編)

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