聖旗と二刀 〜少年と少女の旅路〜   作:誠家

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ちょっと長くなった




第38話 光と闇

「それで、あいつの作戦は?」

精霊の少女はジャンヌに問うた。

それに、彼女は今度は慌てる様子もなく答える。

「修也君の作戦はですね。まず第一に…」

 

「ドラゴン2体をボコボコにします。」

 

「は?」

「あ、これ大真面目ですよ?で、その後に私達は結界を解除して、集まってきた悪霊達を全て中に入れます。」

「それ、ドラゴン回復するんじゃない?」

「そうですね。なのでそうされる前に、私と修也君の《幻想憑依》で全て浄化します。」

「全部?」

「はい、60体全部。」

「…それ、大丈夫なの?」

少女の怪訝そうな表情に、ジャンヌは苦笑いを浮かべた。

「…正直、微妙ですね。でも、やるしかないので。」

「…なんで、そこまでするの?あなた達からすれば、ただの他人の不幸じゃない。」

「…修也君、そうやって割り切るのは苦手なんですよ。私もですけど…人が不幸なら、助けたい性分なんですかね。」

「…そう…」

少女はその言葉を聞いて、傘の下の視線を修也に向ける。変貌した、自身の父兄と戦う姿を見つめた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ぬおぉらァ!!」

 

ガキィイイィイィンッ…

ドラゴンの鼻柱に修也が刀を振り下ろす。

黒刀と黒い鱗が接触すると、凄まじい金属音を響かせた。

衝撃波が周りに響くが、ドラゴンは特に動じる気配もないままじろりと修也を睨みつける。

 

「グオオオオオ!」

 

ブゥンッ!!

 

「っと…!」

 

尻尾の横なぎを修也はバク転で回避。

そのまま足で着地、制止してから、さらに足を踏み込んだ。

今度は、背中…

 

「ドッセイッ!!」

 

ガキィイイィイィンッ!!

キリキリキリキリ…

 

「チィッ…さすがに無理か。」

 

金切り音と共に震える手元を見て、修也は毒づく。

ドラゴンは全身を回転させて修也を振り払う。その瞬間、彼は飛んで回避。

再度ドラゴンを見ると、こちらを見ながら、アギトを開いていた。

 

「グオオオオオァァァ!!」

 

咆哮と共に現れる、超高温の赤い玉。

吐き出された火球は修也目掛けて宙をかける。

それを見て、修也は自身の刀に炎を纏わせた。

 

「ゼァッ!!」

 

ズバッ!!

 

火球は真っ二つに別れて光と消える。

それと同時に、ドラゴンは突進を開始した。

 

「グルァッ!」

 

「ぬぉっ…!?」

 

それを刀と物理障壁でガードするものの、凄まじい衝撃に思わず体が浮き上がる。

そして、ドラゴンは止まらない。

修也はちらりと背後を確認。数百メートル先に結界が存在する。

このままでは、自身が結界の壁に追突することは間違いない。

 

「…ッ…上等だ…!」

 

「力比べといくかァ!!」

 

修也は瞬時に自身の体に赤い線を刻む。

その線の濃さから、かなりの量の霊力が流れていることが分かる。

そして、浮かしていた体を、頭上から風の霊術で押し下げて足を地面へと着地させる。

それと同時に襲う凄まじい衝撃と地面を削る感覚。ドラゴンは止まらない。この程度では。

 

「…ッ…!」

 

修也は片方の足を1歩下げる。

先程より、万倍力が入りやすい。

瞬間、重くなった感覚にドラゴンは目を見開いた。

だが、突進を続ける。

 

「オオオオオォォォォォォッ!!!」

 

修也の凄まじい絶叫。

その絶叫と共に。

…ドラゴンは、足を止めた。

いや、()()()()()

幻想種のパワーをも凌ぐドラゴンに、彼は力勝ちしたのだ。

ギシギシと。

2人の体は揺れる。

未だ凄まじい力の応酬が行われているのだろう。だが…

 

ヒュッ

 

修也は物理障壁を解除。

そのコンマ一秒後。

体勢の崩れたドラゴンの顎を、膝で蹴飛ばした。

 

「グルァッ…!?」

 

不意をついた、完璧な一撃に。

ドラゴンも困惑の声を上げた。

天高く打ち上がった、黒色の巨体。

その上まで、修也は飛翔。

握り拳に、凄まじい量の霊力を宿した。

あまりの霊力量に、空間が赤く軋む。

 

「ヌオオォラアァッ!!」

 

そしてそれを、思いっきり打ち込んだ。

それは、丸出しの腹部にめり込んで、確かなダメージをドラゴンに与えた。

 

ズゴォンッ!!

 

凄まじい衝撃と共に、ドラゴンを中心にクレーターが出来上がる。

 

「ガハッ…!」

 

ドラゴンの肺から空気が漏れて、それと同時に血液らしき物も飛び出た。

だが、この程度で倒れては最強の名折れと言わんばかりに、ドラゴンは全身の筋肉を使って起き上がる。

 

「ガアアァァァッ…!!」

 

翼を広げ、口を開けて目を光らせる。

明確な威嚇行動。

それを修也は見下ろす。まるで気にしていない。そして、

 

チョイチョイッ

 

あろう事か、手招きを行う。

その瞬間、ドラゴンのプライドの琴線に触れる。凄まじい激昴の後、ドラゴンは身体を震わせる。

そして…

 

「グアアアァァォォァッ!!」

 

弾丸のような速度でその体躯を躍らせた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「グルルッ…」

 

「ほお…無闇には突っ込んでこんか。この落ち着きよう…もしや、こちらがあの小娘の父方かの?」

 

こちらは逆に、大人しい戦況だった。

刀と体を交えた回数は数合。お互いが様子見のような状況を保っていた。

 

「そちらから来ぬなら…」

 

「儂から行くぞ…!」

 

琥珀はそういうと、自身の前に手を翳す。

そしてその瞬間にドラゴンの足元から風が吹き荒れる。その風は黒く変色していた。

闇属性と風属性の混成霊術。

 

「《死の奏風(ヘル・メロディ)》!」

 

瞬間、黒色の竜巻は急激に成長してドラゴンの体を包み込む。やがて、その体躯を浮き上がらせた。

普通喰らえば、その四肢を切り裂き続ける竜巻に、ドラゴンは晒される。

 

「…グルッ…!」

 

だが、ここでドラゴンは黒い体躯の大きな翼を広げる。

そして、黒い竜巻の流れに沿うように飛翔を始めた。

 

「ムッ…?」

 

琥珀も、自身の術式のおかしな流れに気付く。そしてその瞬間に、竜巻の向きは、琥珀に向かった。

凄まじい速度で竜巻は琥珀の体をつつみこんだ。

しかし、その竜巻は直ぐにその姿を消した。

琥珀の周りには霊術障壁が作られており、その攻撃を無傷で躱す。

 

「なるほど…風に沿い、飛翔することで儂の霊術の支配権を奪うとはな…伊達に風の精霊ではない、ということか。」

 

琥珀の言葉に、ドラゴンは特に反応しない。無言で、琥珀を見つめ続ける。

そして、そのドラゴンに、琥珀は…

 

「良い…良いぞ…」

 

「もっと楽しませろ!トカゲ!!」

 

満面の笑みを浮かべた。

その少女の凄まじい存在の力に、ドラゴンは身体を震わせる。

…いや、これは本能だ。

本能で彼女との交戦を体が拒否している。

 

「…グルアァァッ!」

 

それを振り払うように、ドラゴンは一声叫んだ。

それと同時に、琥珀の髪がざわりと浮き上がった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…なにあれ。」

 

戦況を見守る3人。

その中で、修也の戦闘を見るのは3回目の少女が声を上げる。

それに、ジャンヌが微笑みかけた。

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、どうした?じゃないわよ。…なにあれ。圧倒的じゃない。」

 

「まあ、そうですね。」

 

「どういうこと?私との戦闘の時も思ったけど、ただの人間になんであそこまで…」

 

「ただの人間ではありません。」

 

少女の言葉を、ジャンヌは遮った。少女の緑色の目と、ジャンヌの青い瞳が交錯する。

 

「現在、修也君の体は同じくドラゴンと戦っている黒髪の少女…かつての《吸血鬼の王》である琥珀さんと契約したことで、その体にも異変が起きたんです。」

 

少女の目に映るのは、自身の何十倍も大きい高位悪霊とタイマンをはる修也の姿。

彼はドラゴンの爪の攻撃を全て弾ききって、そのまま反撃を加えた。

 

「今の彼の体は、人でも無ければ、完全な妖怪・怪異でもない。…半人半妖とでも言いましょうか。」

 

悲鳴を上げながら倒れ込むのは、またもドラゴンの方であった。彼の無数の剣戟と一撃必殺の打撃に地面へと沈みこんだ。

 

「…通りで歪な波形の霊力してるはずね。まさか、人間じゃなかったなんて。」

 

「…そうですね。その影響で、彼はそれまでの人生を犠牲にして、霊使者として、人を守りながら生きる道を選んだんです。」

 

その言葉に、少女はピクリと眉を動かした。

 

「ちょっと待って。あいつは元から…昔からこの任務に就いてた訳じゃないの?」

 

少女の問いに、ジャンヌは答えなかった。

彼女は少しだけ微笑むと、告げる。

 

「…すみません。ここからは私が独断で言う訳にはいかないんです。…この後は、修也君に直接聞いてください。…ほら、もう終わりそうですよ。」

 

ジャンヌが指差すと、その瞬間。

琥珀と修也、2人のもとから凄まじい量の霊力が溢れ出る。

全てを焼き尽くすような炎の力と、全てを飲み込むような闇の奔流に、少女は目を奪われた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「この技を出すのは、久しぶりじゃな。」

 

ドラゴンの思考を、恐怖ではなく、《驚愕》が埋めつくす。

琥珀の手は天に掲げられ、それに収縮するように凄まじい量の霊力が集まる。

そして、彼を驚愕にしているのは、そこでは無い。

掲げられた手の、更に上。

結界の中。

結界の壁のスレスレに出来た、黒い粒子の集まり。人々はそれを、《雲》と呼ぶ。

その暗雲は、わずかに差していた日光すら飲み込み、肥大していく。

やがて、それは修也達の戦う場所まで広がった。

…そして、感じる、霊力の膨張。

 

「さあ、どう躱す?トカゲ。」

 

 

ドラゴンの目の前。

そこにあったのは、太陽の光。

赤く猛る、揺れる炎。

修也は右腰の横に刀を構え、そして右足を1歩引いている。

光源は、その刀。

炎を纏うその刀は、琥珀の術によって生まれた暗闇を照らし返す。

炎風に髪が揺れ、コートがたなびく。

 

「…決めるぞ。」

 

それが示すは、《一撃必殺》。

そして、ここで初めて。

 

ドラゴンが、1歩。

後ろ足を、引いた。

 

 

凄まじい霊力の奔流が2つ。

勿論2人とも、死なないように加減はしている。その中でも、この影響力。

天には、黒く染める黒雲。

そして地上には、それを照らす太陽。

それは正しくーー

 

神話。

 

その場にいた誰もが、悪霊さえも、その光景に目を奪われた。

そしてーー…

 

2人は、動いた。

 

「さぁ、降り注げ」

 

「桐宮流剣術《火》の型十伍番」

 

 

 

「ーー……《闇夜に降りし箒星(カースド・スターゲイザー)》」

 

 

「ーー…《紅・一文字》」

 

 

琥珀の術式。

修也の剣術。

それらは同時に発動される。

 

黒き流星が降り注ぎ、翼、鱗、爪、角。

その全てを破壊していく。

ドラゴンの断末魔も響くが…

 

そのほとんどが、弾幕に掻き消された。

 

ドラゴンが動いた直後。

赤い太陽も、ゆらりと動く。

そして…急加速。

一気にドラゴンを追い越す。

彼の進路に残るのは、赤い閃光。

一筋のその光。

消えた、その直後に。

ドラゴンの前後足が全て、切り落とされた。

鋼鉄の鱗など、ものともせずに。

彼は、高位悪霊最強(ドラゴン)を戦闘不能に陥れた。

 

 

 

 

…やがて、土煙が晴れる。

そこで見たものは、倒れる2つの黒い巨体。

そして、それを見下ろす少女と、刀をしまう青年だった。

…だが、これで終わりではない。

 

「お前ら、もういいぞ!」

 

「分かりました!」

 

「ナー!」

 

修也の一声と共に、待機していた者たちは呼応して、張っていた結界を解除する。

…すると…

オオオオオォォォォォォゥッ!!

凄まじい量の悪滓と共に、凄まじい量の悪霊が乱入する。

修也達の戦闘で漏れ出た霊力の反応に引かれてきたのだろう。

少女とアグンを、ジャンヌが結界を張って悪滓から守る。

霊達は、まるでドラゴンにひきつけられるように中心部へと集まっていく。

悪霊とは、あまり意思を持たない代わりに、自分よりも高ランクの者に従うという習性がある。だから、こうして集まってきたのもあるだろう。

そして、60体以上の霊達が中心部へと集まった…その瞬間。

 

「琥珀!」

 

「了解…じゃ!」

 

修也の声に、琥珀が呼応するように、霊術を展開。暗黒の膜が集まった悪霊全てを包み込んだ。

 

「琥珀、今の中の数は!?」

 

「細かいののけたら65体…安心せい、全部おるわ。」

 

「分かった!」

 

「…ジャンヌ!」

シュンッ

「はい!」

 

「いけるよな?」

 

「勿論!準備万端ですとも!」

 

「うしっ…!行くぞ!」

 

「「幻想憑依、展開(オープン)!!」」

 

2人の声と共に、眩い光が辺りを照らし出す。先程の光とは違う、優しい、神聖な光。

そして、光から姿を表した、旗を持つ白い騎士。

修也は旗を高く掲げる。

それだけで旗は光り始め、そして、その光は実体を持ち始める。やがて光は剣を形作り、十数本のその剣はチキリッと悪霊の入った球体の周りを囲んだ。

 

 

「ーー…《聖なる白き剣製(セイクリッド・オブ・セイバー)》。」

パチンッ

 

 

修也の指が鳴ると、その瞬間光の剣は球体へと飛び、そのまま全て球体へと突き刺さる。

そして、眩い閃光が彼らの視界を塗りつぶした。

 

 

「ハァッ…ハァッ…ハァッ…ハァッ…」

 

光が晴れて、彼らの視界は回復する。

しかし、地表が未だに砂煙に隠れていた。

…そして、飛翔していた修也は、そのまま地面へと下降する。

フラフラと力無く着地すると、そのまま地面にへたりこんだ。

ジャンヌはすぐに幻想憑依を解除して修也に寄り添う。

 

「修也君、大丈夫ですか?霊力はまだあるみたいですが…」

 

「…っと、悪ぃ。ちと、一気に霊術使いすぎたな…体が火照って動かしにくい。」

 

修也が頬に汗を垂らしながらそう告げると、ジャンヌは近くにあった岩に修也を持たれ掛けさせた。

 

「どうですか…?」

 

「…ああ、楽になった。」

 

「サンキュ」と礼を言って少しだけ休んでから、「そうだ」とジャンヌに問う。

 

「ジャンヌ、悪霊はどうだ…?ちゃんと浄化出来たか…?」

 

修也の問いに、ジャンヌは笑みを浮かべて、コクリと確かに頷いた。

 

「はい、確かに。…いま、琥珀さんが確認に行ってます?」

 

「そっか…よかった…」

 

修也はそう言うと、力を抜くように背中を預ける。ジャンヌはそれを見て、「お疲れ様でした」と修也を労う。

…やがて、

彼の元に近づく、1人の人物。

ブーツが草を踏む音に、修也とジャンヌは視線を向けた。

 

「…よぉ、お疲れさん」

 

「…」

 

修也が手を挙げて笑いかけると、少女は開いた傘で表情を隠す。

…だが、それでも視線は修也に向ける。

それは、彼も気付いていた。

 

「…まさか、本当に浄化しきっちゃうなんてね。」

 

少女のどこか呆れたような、しかし何処か感嘆も含まれているような言葉に、修也はニッと笑みを浮かべた。

 

「言ったろ?俺は、俺の出来る事をするだけだって。」

 

「…《できること》の範囲が桁違い過ぎるのよ。」

 

「そうか?」

 

「…そうよ。」

 

そこまで言って、少しだけぎこちない雰囲気が流れる。お互いが黙って、おかしな沈黙が続く。

その空間にいたジャンヌは2度視線を彼らの間で往復させると、少しだけ微笑んでゆっくりと立ち上がって、彼らの元を離れる。

それを修也は疑問符を浮かべながら見送るが…

 

「…ぁの…その…」

 

少女の方から聞こえたその声に、彼女に視線を向けた。

少女は何処かモジモジしている。

修也は更に疑問符を浮かべた。

そして、彼女はまた自身の顔を黒い傘で隠した。そこで…

 

「…あ…あり、がとう…」

 

頬を朱に染めた彼女の言葉。

確かなその感謝に、修也は驚きに目を見開くが…直後に柔和に微笑んだ。

そして、その笑みを深くして、ニカッと口元に刻む。

 

「おう!どういたしまして!」

 

「…っ…」

 

そこで少女は、傘の影の下で、彼に対して初めて小さな笑みを刻んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゥンッ

 

「…え…?」

ピシュッ

 

響く銃音。

貫かれる少女の肩。

飛び散る鮮血。

倒れ込む少女。

彼女を、修也は必死に受け止めた。

 

「おいっ!大丈夫か!?」

 

「…ぅっ…」

 

軽い彼女の体。

肩口から溢れる鮮血を、修也は治癒霊術で止める。だが、弾丸は取り出せない。

 

「クソッ…!対霊弾かよ…!…ジャンヌ!」

 

「修也君…!どうしました!?」

 

修也は毒づくと、ジャンヌを呼び、彼女もすぐに駆けつける。

少女を彼女に預けた。

 

「弾丸は取り出せんかもしれんけど、お前のレベルの治癒なら上手く行けば押し出せるはずだ。頼む。」

 

「わ、分かりました…」

 

修也は、そう言うと、弾丸が飛んできた方向を見る。

…そこに居たのは、予想外の人物。

蒼を基調とした武装をしている、1人の青年。

 

「あれは…霊使者、か…?」

 

修也が呟くと、青年は何か錆びたような動きで銃をさらに構える。

その目に、光はなかった。

 

「ギッ…ギギッ…」

 

「…琥珀!」

 

「承知。」

 

修也の掛け声と共に、琥珀が彼の横を通り抜けてそのまま青年の元に移動した。

 

「眠れ。」

 

彼女が首に蹴りを入れる。

数メートル吹き飛んで、気絶したのか青年は動きを止めた。

琥珀は青年に近づいて、見下ろす。

 

「…これは…」

 

琥珀は少しだけ、眉を顰める。

 

「琥珀!」

 

彼女の元に、少しだけ覚束無い足取りで修也が到着する。

 

「どうだ?」

 

「気絶させた。これで動きはせんじゃろ。…それより、これを見ろ。」

 

「ん…?」

 

琥珀が指差すと、青年の体から黒い瘴気が溢れ出す。

 

「これは…」

 

「闇の霊術を使った時に出るものじゃ。…おそらく、何者かに操られておったのじゃろうな。」

 

「…にしても、他の霊使者がなんでこんなとこに…」

 

「それは分からぬが…」

 

「キャアッ!」

「…!?」

 

響く悲鳴。

その声は、ジャンヌの物。

見ると、彼女は芝生に倒れ込んでいた。

 

「ジャンヌ!!」

 

修也は動くようになった足で彼女に近づき、抱き上げた。

 

「おい、どうした!?」

 

見ると、彼女の肩口には斬りつけられたような傷が存在していた。

修也はそれを治癒の霊術で応急処置をする。

 

「しゅ、修也、君…」

 

動く左手で彼女は、宙を指差す。

彼はその方向に、視線を向けた。

 

 

ざわりと。

空気が変わる。

その源は、間違いなく、修也。

彼は見た。その姿を。

たなびく黒いローブ。

そこからはみ出した手が精霊の少女の首を掴んでいる。

ローブの隙間から見える服も黒で体型は中肉中背。

そして、その顔は…

 

獣の仮面で隠されていた。

 

 

「久しいな、桐宮修也。数ヶ月ぶりか。」

 

「…ああ、会いたかったよ。」

 

 

2人の霊力が交わり、凄まじいスパークを散らした。

 




さあ、今舞台も終幕に近づけよう。

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