聖旗と二刀 〜少年と少女の旅路〜   作:誠家

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人の罪とは、なんだろうか。

人は誰しも間違いを犯す。

間違いを犯さないものは、一人もいない。

その中で、私は極めつけだ。

何故なら、

私の罪は産まれた時からあるのだから。


第36話 島のヌシと修也の心

「グオオオオオ!!」

 

芝の生い茂る草原の中。

巨大な怪鳥が襲い掛かる。

修也はそれを引く事無く迎撃。

嘴を弾いて、受け流した。

怪鳥はそのまま迂回して、もう一度攻撃を仕掛けた。

修也はそれを、ジャンプで躱して…

そのまま頬を蹴飛ばした。

「キュアアァァ!」

怪鳥は悲鳴をあげて、大空へと飛び去った。

修也は着地して、ため息をつく。

刀を鞘にしまう。そして、ジャンヌと琥珀が修也の中から飛び出す。

「…やはり、多いの。」

「だな。さっきの拠点から出てからまだ数時間しか経ってねえけど、もう6回目のエンカウントだからな。」

「修也君、逃がして大丈夫なんですか?逃げてイギリス本土へ影響は…」

「あー、それは安心しろ。一応島の周りにイギリス支部の霊使者達が結界張ってくれてるから。霊がこの島から出ることは多分ねえよ。」

「そうなんですか?」

「ま、除霊を全部俺がやるんだから、こんくらいしてもらわねえとな。」

修也はそう言って笑うと、また歩き始める。

「さ、行くぞ。今日中に島の様子を把握しておかねえと。」

「はい。」

「了解じゃ。」

 

 

島の中心部。

人一人すらいない草原の中に出来た、大きなクレーター。

それの深さはかなりのものであり、小石がひとつ落ちても、底に落ちる音は聞こえない。

…だが、小石はしばらくして、ある物にあたって跳ね返る。

《それ》は小石が当たるとピクリと反応して、ゆっくりとその体躯を動かした。

「……」

あまりにも、巨大なそれは…いや、《それら》は。

顔を光の見える穴に向けて、大きくアギトを開いた。

 

「「グオオオオオォォォォォ!!!」」

 

巨大な絶叫が、辺りに響き渡った。

 

「お父さん…お兄ちゃん…」

遠くで穴を見つめていた少女は、小さな声で呟いた。

 

 

「あ?ドラゴン?」

もぐもぐと、自身が作った昼飯を咀嚼しながら、修也は訝しげに眉を顰める。

「それって、あのドラゴンか?」

「はい。高位悪霊最強とも名高い、あの幻獣・ドラゴンです。」

 

ドラゴン

それは、かつての国々であらゆる場所で描かれてきた、伝説の生き物。

その強大な力から、高位悪霊最強との声も名高い。

ただ、高位悪霊としてのドラゴンと、()()()()()()()に生息する幻獣・ドラゴンとでは、戦闘力が桁違いでもある。

 

「その高位悪霊最強って、なんか引っかかるのぉ…」

「高位悪霊よりも高位の奴が何言ってんだ。」

琥珀の感想に呆れたように答える修也。

それを見て、ジャンヌはコホンと咳払いを1つ。

「それで、そのドラゴンがこの島にいると?」

「はい。その通りです。…修也君も感じてますよね。この島の中にある、強大で邪悪な霊力を。」

「…ま、そりゃな。」

ジャンヌの言う通り、修也はこの島に入る前から感じていた。

この島の中心部から感じとれる、巨大な負のオーラを。

「…実際どうよ、ジャンヌ。お前、そいつ倒せるか?」

修也の問いに、ジャンヌは頭を振る。

「いいえ。…ただ、祓う。もしくは殺せと申すのでしたら、修也君(我が主)の名のもとに負けることはないと思います。」

「ふむ、琥珀は?」

「そんなトカゲ1匹、遅れをとることなどまずないわ。」

「…いや、あれをトカゲというのは無理がねえか?」

「まあただ…ひとつ面倒なことと言えば…」

琥珀はピンッと2本の串を焚き火に放り込んだ。

「そのトカゲが、2匹いることじゃな。」

「だな。」

修也は串焼きの最後の1つを引き抜くと、串をそのまま焚き火に入れた。

「正直、どう思う?」

「ドラゴンの退治、ですか。…私達の戦力では恐らく不可能では無いと思います。」

「不可能でないどころか、()()()()()()正直余裕じゃ。どのようなイレギュラーが来たとしても、対処することは可能じゃろう。」

「そうは言いますが、例の集落を訪れた仮面の男が襲ってくる可能性も…」

「それなら儂らが島に入ってきた時点で襲いかかっとるわ。それがないということはそやつも傍観主義者ということじゃろ。」

「いやしかし…」

パンパンッ

「はいはい。今はそんな細かく考えなくていいから。とりあえず2人の意見を合わせると、可能ってことでいいな?」

「…ええ、そうですね。」

「…確かにそうじゃが、しかしお前様。」

「ん?」

呼びかけに修也が反応すると、琥珀は笑いかけた。

「祓うだけでは、ないんじゃろ?」

「あー…」

琥珀が問うと、ジャンヌも修也の方に視線を向ける。

それに、修也は苦笑いを浮かべ、少しだけ頭を掻いて…

「率直に聞くとさ。」

 

「ドラゴン2体浄化すんのって、可能か?」

 

2人にそう問う。

琥珀はそれに「やっぱり」と言わんばかりに笑みを浮かべ、ジャンヌは考えるように顎に手を添える。

「…どうだ?」

修也の問い。

それに、最初に答えたのは琥珀だった。

「可能じゃよ。」

「本当か?」

「うむ。…じゃが、1つ問題がある。」

「問題?」

「そのトカゲ2体を浄化する間、誰が他の霊達を阻止するかじゃ。」

琥珀は少しだけ茶を飲む。

「儂らが戦力を分散させれば、トカゲ2体を同時に相手にすることは可能じゃ。しかし、他の霊はそうもいかぬ。ここには質はともかく、数多の霊達が存在する。間違いなく寄ってくる、そいつらの相手はどうする?」

「なるほどな…」

「琥珀さんの言う通りですね。この作戦は少し非効率的です。間違いなく、一気に祓うことが最善の策でしょう。」

「だよなぁ…」

「じゃが、主はそれは嫌なんじゃろ?」

「そうなんだよなぁ…」

その言葉に、ジャンヌの眉が少し動いた。

「なんでそこまでって、思うか?」

「…少し。」

「だろうな。…正直さ、ジルの時も浄化しようと思えば出来たんだよな。」

「え…?」

「ただ、あいつの時は堕天使に霊力使い過ぎてたせいでその分浄化に回すことなんて出来なかったし、それにあいつ自身、かなりの数の人間を殺してたってこともあって…戒め、って言ったらちょっと違うかもだけど。まぁ、だから…この世に留めておくには違うかなと思って、祓ったんだ。」

「そう、なんですか…」

「…ただ、今回は違う。」

 

「あいつらは…精霊は誰も殺さず、俺らのために動いてくれていたのに汚染され、そして悪霊となった。そんで最後は祓われるだけなんて…虚しすぎる。」

 

「だからまあ、言い方変えりゃ自己満だ。…俺が納得出来ねえからやるんだ。」

「修也君…」

「…」

修也の微笑みながらの告白に、ジャンヌは頷く。

「…分かりました。そういうことなら、決行致しましょう。…私も、その意見には賛成です。」

「サンキュ。…琥珀も、それでいいか?」

修也が問うと、琥珀はニヤリと笑う。

「言ったじゃろ?儂はお前様の指示に従うと。なら、否定する余地もなかろうよ。」

「…ありがとな。」

「…ただ、どうじゃろな。」

「?どうか、したのか?」

「いや何。」

 

「人の為には動けても、《訳アリの同族》の為には動けんのじゃなと、思ってのぉ。」

 

「?どういう意味だ?」

「なぁに、その内分かることよ。…恐らくな。」

「?」

修也とジャンヌは、2人同時に首を傾げた。

 

 

「それじゃあ、動くのは明日からですか?」

「いや、本ちゃんで動くのは明後日。明日はちょっとやりたいこともあるしな。」

「やりたいこと?」

「まあ、ちょっとな。」

「…あの小娘の事か?」

「…ああ。」

「随分と、気にかけておるな。どうした?惚れでもしたか?」

「アホ言え。そんなもん、あっちもありがた迷惑だろうよ。…ただ、」

 

「あいつからは、俺と同じ感じがするんだよ。」

 

「だから、少し気になるだけだ。」

「ふむ…ま、お主の好きにせい。儂らはついて行くだけじゃからのぉ。

「そうですね。そういうことは、修也君にお任せします。」

「分かった。…ありがとな。」

修也の礼に、2人は笑って返した。

 

 

 

「さて、と…」

それから、2日後。

修也が立つのは、草原。

辺りには何処か価値のありそうな古い建物もあるが、正直そんなものはどうでもよかった。

それ以上に、凄まじい存在感を放つ物が。

 

…今、数百メートル先に2()()いるのだから。

 

「グルルルル…」

「カアァァ…」

それぞれの黒い鱗や角。緑色の目に、少し大きめの1軒家2つ分は軽くありそうな巨大な体躯。

強靭な牙から漏れる少しのヨダレと共に零れる呻き声のようなもの。

「まあ、大きさはそこそこか。」

「え、あれで?」

「何を言う。《あちら側》の奴らはこれの倍以上は軽くあったぞ?」

「…俺絶対、間違っても《あちら側》に行かない。」

「安心せい、死んだら嫌でも行くことになる。」

「じゃあ俺ずっと死なない。琥珀、これからも末永く仲良く一緒に居ような。」

「うむ、もちろんそのつもりじゃよ。」

「…イチャイチャしないでくださいよ。」

「ん?なんだ?羨ましいのか?」

「え、そうなの?」

「違いますよ!戦いに集中してくださいってことです!」

「そんな必死になって否定せんでも…まあ、安心しろ。戦いに始まったらちゃんとするし。」

「…本当ですか?」

「ああ。…俺も痛いのは嫌だし。」

「…理由が微妙ですね。」

 

「ちょっと」

 

2人とは違う、少女の声。

それが自分にかけられたものであることを知りながら、修也は振り向く。

そこに居たのは、金髪の黒い傘を差す少女。

「呼んだ?」

「呼んだ?じゃないわよ。どういうことよ、これは。」

「どういうことって言っても…お前に応援頼んだだけだよ?」

「私達、関わることはないって言ったわよね。何のために名前を教えなかったと…」

「ああ、それな。言っとくけど、俺最初からそんなつもり無かったよ。」

「はぁ?」

 

「だって俺、名前教えたじゃん。」

 

「俺の名前を聞いた時点で、《絶対に》関わることはないなんて、ないんだよ。」

「………フンッ」

爽やかな笑みで告げた修也に、精霊の少女はプイッとそっぽを向いた。

「…私が手伝う保証なんてないわ。」

「いや、お前は手伝うよ。だって、」

 

「肉親の2人を救いたいと思うのは当然だろ?」

 

「…気づいてたの?」

「会った時からな。霊力の波長ってのは悪滓に汚染されたくらいじゃ変わんねえよ。正直、五分五分だったけど、お前の話聞いて合点がいったよ。」

「…………」

「…お前に任せたいのは、ジャンヌの手伝いだ。内容は…ジャンヌから直接聞いてくれ。…いけるか?」

「………」

プイッともう一度少女はそっぽを向いた。

そして、ポツリと一言。

「…これっきりよ。」

「ああ、それでいい。」

修也は口元に笑みを浮かべる。それを見て、少女は顔を隠すように傘を傾けた。

「さあ、やるぞお前ら!!」

拳を掌に打ち付けて、修也は叫ぶ。

 

 

 

「俺史上最初の竜退治だ!!」

 

「知らんわ。」

「それはどっちでもいいですね。」

「どーでもいい。」

「ナー。」

「あれ?」





なんか考えるのが楽しくなってきた今日この頃

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