聖旗と二刀 〜少年と少女の旅路〜   作:誠家

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ロリっ子ロリっ子〜




第33話 少女の居所

「んー…」

マン島の大草原の中に立つ修也は、周囲を見渡して唸り声をあげる。

彼がいたのは、先程まで少女のいた、小高い丘の上。僅かに霊力の残滓は残っているが、彼女自身の姿はなかった。

「どこに行ったんでしょうか。」

「霊力の残滓を見るに、あの森の中に消えたようじゃな。」

琥珀が見た方向には、あまり背の高くない木が並ぶ森がある。

「どうする、お前様。」

琥珀の問うような視線に、修也は即答した。

「追うぞ。あいつならこの島の異常について知ってる可能性が高い。」

「了解」

「分かりました。」

「そうと決まれば…あいつがいるな。」

修也はコートの懐から、1枚の紙…札を取り出す。そして霊力を流し込むと、札は煙を上げる。

そして煙が晴れるとそこに居たのは、炎を体の所々に灯した小動物。

「ナー。」

最高位幻獣である炎狐…アグンは一声鳴いて毛繕いをすると、そのまま腕を経由して修也の右肩に飛乗る。

修也はアグンの頭を撫でながら告げる。

「うっし、アグン仕事だ。今ここに残ってる霊力の持ち主のとこに案内してくれ。」

「ナー。」

了解と言わんばかりに一声鳴くと、アグンは肩から降りて彼らの先頭に立つ。

ジャンヌが座り込んで「よろしくお願いします」と言って頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細めた。

…が。

「フシャー!シャー!」

「む、なんだエテ公!やる気か!?」

何故か琥珀に対しては全身の毛を立たせて威嚇する。琥珀もそれに対抗するようにファイティングポーズをとるが、それを修也は呆れた目で見つめた。

「…お前らなんでそんなに仲わりぃんだよ。もうそこそこ長ぇ付き合いだろ?」

「そういう問題では無いのだ、我が主よ。このエテ公とは近い将来立場を分からせるために戦う必要がある!」

「何のだよ…」

 

 

テチッテチッテチッテチッ…

ザッザッザッザッ…

緑の中に、茶色い葉が混じる森の中。

1匹と3人は、1匹を先頭にして森を歩く。

アグンは時折鼻をひくつかせながら、足取りに迷いはない。

「アグン、どんな感じだ?」

「ナー。」

「そか。順調ならいいや。」

修也が笑いかけると、ジャンヌが微笑ましそうな視線を向ける。

「修也君とアグンは、本当に仲が良いんですね。」

「まあ、仲は良いよな。もうかれこれ十年以上の付き合いだし。」

修也は前を歩くアグンを見る。

「霊使者としてじゃなく、普通に生活してる時もこいつは時々出して、色々遊んだりしてたからな。さすがに数年札に籠りっきりってのも大変だろ?」

「そうですね。」

修也は笑うと、ジャンヌは納得するように頷く。

「そういえば、まったく人の気配がないが市民は既に退去した後なのかの?」

「お前報告書に書いてたろ。見てないのか?」

「すまぬ。正直どうでもいいと思った。」

「正直に言うな。…マン島の島民は全員本土に避難済みだよ。だから、一般人に被害が及ぶことは基本的にない。」

「ほう…イギリスの上層部は随分と仕事が早いのぉ。」

「いや、軍や政府が実行したわけじゃねえぞ?」

「…なに?どういう事じゃ?」

修也の言葉に琥珀は怪訝そうに眉を顰める。

修也は説明しながらクルクルと指を回す。

「何でも、島民全員が自力で避難してきたらしい。まあ、霊やらが見えん人達からすりゃ、ただの自然災害にしか見えんからな。」

「それなら尚更、『大丈夫だろう』という心理が働かんかの?」

「まあ、確かになぁ。災害ある毎に避難してたら日本なんざ住めんし。…まあ、そこら辺の細かいところはわからんが、ヨーロッパは台風とか地震とか少ないからな。『あ、これやべえ』って思ったんじゃねえの?」

「大雑把じゃなぁ。…ま、そういうことにしておくかの。」

そんな会話が続き、そこで1度区切りがつくと、1つの静寂が訪れる。3人は言葉を発することなくアグンへとついていく。

…やがて、アグンはある場所で止まった。

そしてその周りをスンスンと鼻をひくつかせて嗅ぐが、困ったように眉を顰める。

修也は膝をおってアグンに顔を近づける。

「…ここで終わりか。」

「ナー…」

どうやら、あの少女のものと見られる霊力の波長が、ここで途切れているようだ。

一応まだ森には先があるようだがこれ以上進む必要はないだろう。

「…ふむ…」

修也は思考する。

今のこの状況。

あらゆる可能性を導き出す。

『この森に入ったことは間違いない。なら問題はここからどうやって移動したか。徒歩じゃない。それなら霊力の気配は続くはず。それをアグンが見逃すわけが無い。なら、飛んだ?いや、これだけ木々が生い茂ってるなら何かしらに当たって音が発生する。…いや待て。それ以前に…』

「ジャンヌ、今木々に鳥はいるか?」

「え、鳥ですか?えーと…いえ、1匹もいないです。」

「琥珀、霊は…」

「おらんよ。儂らの周辺というか、この森の中には1匹もな。」

「分かった、ありがとう。…なるほどな。」

修也は納得したように1度頷くと、「よっこらせ」と立ち上がる。

「修也君?」

「いやなに。俺が勘違いしてたってだけだ。」

「勘違い?」

修也は関節を伸ばすように腕や足を動かす。

「ここで霊力が途切れてるってことは、何らかの手を使ってこの場から離脱…飛び去ったってことだ。ここまではあってる。…けどこの森に隠れたわけじゃない。」

「え、でもこの森に霊力が残ってるってことは…」

「ああ、()()に入ったことは間違いない。俺が言いたいのは、()()()()()()()だ。」

「正体…?」

修也は腰の刀の柄を握り刀身を引き抜いて、そのまま森の中を歩く。

ジャンヌ達もその後ろに続いた。

やがて数メートルほど歩いた後、修也はその場で立ち止まった。

彼の目にはいつの間にか、赤の他に鮮やかな蒼色の光が瞬いていた。

「《考えるな、感じろ》なーんて、誰かが言った名言があるけどさ。この場合は《見過ぎるな、感じろ》ってとこか。…視覚に頼りすぎんのも、愚行ってことだな。」

言いながら、修也はくるりと刀を逆手に持ち直す。そしてーー

 

そのまま地面へと突き立てた。

 

パリンッ

そんな音が響き、やがてーー

彼らの周りにあった草木が柔らかな光と共に消えていく。そして、草原に建つ木造や石造りの家々が並ぶ、集落のような場所が姿を現した。

「こ、れは…」

「なるほどのぉ。自身達の集落を幻惑霊術で偽装することで場所を特定されないようにしておったのか。幻惑じゃから木々に鳥が止まることは無いし、霊達も精霊の住処には近づかんわな。」

「そういうこった。ま、ここまで生物的反応なくても、森の中なら気にするやつもいねえだろうしな。」

そう言いながら、彼は刀を鞘にしまう。

…その瞬間。

「修也君!!」

ジャンヌが動き、彼の背後に投擲された刃を旗で弾く。霊術で出来たそれは、弾かれた瞬間に霊力となって消える。

ジャンヌが構える中、修也はゆっくりと後ろを向いて、笑った。

「…相変わらず、手荒だなぁ。お嬢ちゃん。」

修也の視線の先。

1つの建造物の上に立つ、1人の少女。

金色の長い髪に、緑色の目。白い肌を白と緑を基調としたワンピースに包んでいる。

そして靴は、西洋だからだろうか少し大きめのブーツ。

そして手には、黒い傘。

傘を差しながら少女は口を開く。

「…まさか、あの結界を破れる人間がいるなんてね。少し見くびってたかしら。」

初めて聞いた、少女の鈴のような声。かけられた声に、修也は肩を竦めて答える。

「確かに、凄く良い術式だったな。こいつらの嗅覚や探知能力なんかが無けりゃ見落としてたかもしれん。」

修也が応えると、金髪の少女は傘の影の下で少しだけピクリと眉を動かす。

少しの間の後、彼女は告げる。

「…まあ、いいわ。それじゃ、早く出ていってくれる?ここは強欲で穢れた人間が来るところじゃないの。」

「お生憎さま。俺もこの場所…というかお前に用があるからな。お前が素直に話してくれるって言うなら大人しくこの場所から離れるさ。」

「馬鹿なこと言わないでくれる?穢れた人間と話すことなんて無いわよ。」

「それなら俺もここから動けないな。無駄足は嫌いなもんで。」

拒絶するような態度に、軽く返す修也。

…やがて少女は少しだけため息をついて、修也達を見下ろした。

「まあいいわ。それなら…」

…彼女の周りに風によって舞上げられた木の葉が出現する。

「力づくで追い出すだけだから。」

それは、敵意。

先程も修也に向けられた、その気配に、修也はーー

 

いつも通りの笑みで返した。

 

「構えなさい…死ぬわよ?」

「やれやれ…この国のヤツらはどいつもこいつも殺気立ってて怖ぇな。」





え、ロリっ子多過ぎだって?

好きだからしょーがないでしょ!?(なかなかの問題発言)

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