「おおー…!」
快晴の中、コンクリートの上を移動する巨大な鉄の塊を見て、琥珀は感嘆の声を上げる。
「これが飛行機…かつてみた木造ですぐ落ちるなんちゃってプロペラ機とは訳が違うのぉ…」
「お、おう…反応に困るな。そのなんちゃってプロペラ機も見てみたい。」
琥珀の例えに修也は困ったような笑みを浮かべる。そして隣にいたジャンヌも窓から外を見ながら、見とれるように注視した。
「確かに…私のいた時代もそのようなものしかありませんでしたから…。これはすごいですね…」
「なに?2人共知らなかったの?」
「
「わしも数百年あの蔵の中じゃったからのぉ…見ようにも見れんかった。」
「なるほどね…あ、そろそろ搭乗時間だな。2人共、行くぞ。」
「わかりました」
「りょーかい」
飛行機の中。3人の会話は続く。
ちなみに、今乗っているのは霊使者協会が用意したプライベート・ジェットなので客は修也達だけである。
「にしても、まさか本当にあの集まりが顔合わせのためとは思わんかったの。」
「そうですね。もう少し尋問なんかもされるかもと思っていたんですけど…」
2人の言葉に、修也はフンッと鼻から空気を押し出す。
「ま、あいつらの目的はあくまで俺らの戦力分析だろ。今の現役で最も危険とされてんのは俺だからな。そこに英霊と反英霊が仲間になったら、誰でも警戒するだろうさ。」
そう言って修也は、外に見える空に視線を移した。
あの後。
S級定例集会は少しの話し合いの後に解散となった。
そして、帰宅のために会議場を出た修也に、声をかけるものが1人。
「桐宮。」
そこに居たのは、雲泉だった。1つの書類を修也に手渡す。
「これが、次のお前への任務だ。」
「…またかよ。」
「何か文句でも?」
「いーや。ま、俺の仕事はそれしかねぇしな。了解だ。…明後日出発すりゃいいんだな?」
「ああ。行きと帰りは協会のジェットを用意する。転移霊術を使う必要は無い。」
「あそ。ならありがたい。じゃ、俺飯作んなきゃなんねぇから。じゃあな。」
「桐宮」
「…んだよ、まだあんのか?」
「数ヶ月前から、手練の霊使者の不審死が相次いでいることは話したな?」
「…ああ、言ってたな。」
「恐らくはかなり高位の悪霊だろうが…1人だけ目撃者がいてな。その者の情報によると、人型で《獣のような仮面》をつけていたらしい。」
ピクリッ
「才蔵氏と、翠さんが連れ去られた時に貴様が目撃した者と、関係があるかもしれん。貴様にコンタクトを取ってきたということは、貴様も用心しておけ。」
「お、心配してくれてんの?」
「貴様は今はウチの貴重な戦力だ。馬鹿なことをしない限りは思う存分使ってやる。」
「ありがてえこったな。」
「しかし、あの娘がペア解消を求めてくるとはの。」
琥珀の言葉に、修也は自然と横を見る。
普通ならそこにいるであろう、ポニーテールの少女の姿は、ない。
「…寂しいか?」
「別に。解消つっても一時的なものだし、あいつが鍛錬のために休暇が欲しいって言ってきたんだ。…断る理由はねえだろ。」
そう言って、修也はもう一度窓の外を見つめた。
プルルルルプルルルル
会議場から帰った後、夕飯を終え、皿洗いをしているところで、修也に電話が入る。
「ジャンヌー。」
「はい、今行きます。」
修也の声に、ジャンヌは卓上の電話を操作して、彼の耳に近づけた。
「はい、もしもし。」
『あ、修也?私だけど…』
「なんだ天乃か。どうした?お前が電話って珍しいな。」
『えっと…それより修也。なんか水の音が聞こえるけど…』
「ああ、今皿洗い中だからな。ジャンヌにスマホ持って貰ってる。」
『…あなた英霊の人にによくそんなことさせられるわね。』
「別にいいだろ、一応主なんだし。…それでなんだよ。世間話したくてかけてきたわけじゃねぇんだろ?」
『ああごめんなさい。そうだったわ。えっとね修也…少しだけ、私とのペア関係を解消してくれない?』
「ん…?」
天乃の言葉に、修也は少しだけ動きを止めた。考えるように「ふむ…」と呟く。
そして、「あっ」と納得したような声を上げた。
「お見合いでも入ったか?」
『なんでよっ!!!!!』
きーーーーん…
怒号とも取れる叫びに、修也に耳鳴りが起こる。あまりの大きさにジャンヌの耳にすら響く。
「あれ、違うの?俺とのペア関係という経歴を抹消したいことでもあったのかと…」
『そんなわけないでしょっ!大体少しの間だけって言ったじゃない!』
「…ああ、そういえば。」
『そうじゃなくて、この前の任務で実力不足を実感したから、少しの間だけ休暇というか…とにかく鍛錬を出来る時間が欲しいの。』
「なるほどねー。まぁ、いいんじゃね?そういうことなら別に俺が止める必要もねぇだろ。」
『…ありがと。お父様からは許可貰ってるから。あ、それと私の代わりに傘下の子をつけるから…』
「…別にいいよ。ただでさえ今1番嫌われてる奴のペアなんてしたくもねえだろ。わざわざ強制させることでもねえ。」
『そ、そう?でも修也…』
「大丈夫だって。任務の数も控えめにするから。…そろそろ切っていいか?」
『わ、分かったわ。えと、修也。』
「んー?」
『ありがとうね。』
「ああ、修行頑張れよ。」
『うんッ。』
ピッ
修也の合図の後、ジャンヌはスマホの電話を切る。
ジャンヌは修也の横顔を苦笑しながら見つめた。
「控えめと言いながら、明後日から任務ですけどね。」
「別に、今日から控えめにするとは言ってねえよ。実際控えめにすんのは、数年後かなー。」
「悪い男じゃのぉ。」
横にいた琥珀も、苦笑を浮かべた。
「ま、俺としてもあいつが今以上に強くなってくれたら安心だしな。さっきも言ったけど止める理由はねぇよ。」
「フランスの時も、わざと1番の危険からは遠ざけていたからの。」
「むっ…」
「まあ、あそこまで分かりやすいと天乃さんも気付いてたでしょうね。修也君に除け者にされたのが悔しかったんじゃないですか?」
「…そんな気はなかったが、わざわざ幼なじみを危険に晒そうとは思わん。」
「その見方があの娘にとっては嫌だったのだろうよ。…相棒なら、頼って欲しいもんじゃからの。」
「…何か経験でもあんのか?」
「まあの。数多の年数を生きておれば、そんなこともある。」
「…俺にも責任はあるか。」
修也はそう言って、背もたれに体重を預けた。
「…ま、とりあえず今はこれからの任務について意識を向ける。…天乃なら大丈夫だろ。」
「随分な信頼じゃの。」
「わざわざ俺が心配するほどのことでもねえってだけだよ。」
「そういえば、次の任務の舞台となる国は何処なんですか?まだ存じていませんでしたが…」
「んー、この前のフランスとかなり近い国だよ。」
「イギリス。」
短ぇ