聖旗と二刀 〜少年と少女の旅路〜   作:誠家

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あっはははは!少ないねぇ!観覧者!まあこんなもんかな⁉︎いいさいいさ別に。こんなもんだよ、うん。
とりあえず…ヤケ酒かな。
…近所のスーパー行ってきます。


グスッ…


第2話 桐宮 修也

あの後俺たちはかなり時間ギリギリなことに気づき、駆け足で学校に向かった。その甲斐あってかなんとかホームルームまでには間に合い、慌ただしく席に着く。

俺が右端の一番後ろの席に着くと前に座っている男子が話しかけてくる。

「おっ、修也君にしては珍しくギリギリ。何かあったのかい?」

俺は肩をすくめて端的に事実を述べる。

「別に、爺さんと話してたらちょっと遅くなっただけだよ。」

「ほほーん。妹とイチャイチャしてたんじゃないのかえ?」

「するわけねえだろ。そんなこと。」

この馴れなれしい男の名前は景浦悠馬。高1の頃から同じクラスでいつも必ず話しかけてくる俺の数少ない友人。

性格といえば馴れなれしい、かなりのお人好し、そして…

「いやあ、良いよね。修也の妹。あの可憐な顔、引き締まった体、しかも運動神経抜群ときた。まさに学校のアイドルだよなあ。」

「そこまで言うか?」

俺は苦笑しながら呟く。確かにあいつが美人なことは認める。あいつの靴箱のロッカーの中には放課後は絶対にラブレター入ってるし、この学校、市立出雲高等学校での人気投票女子の部ではぶっちぎりの一位だったし。本来なら自慢しても良いところだが、しかし本人はあまりよく思ってないようだったのでこのことにはあまり触れないようしている。

その時、キーンコーンカーンコーンというチャイムが鳴り響く。

「おっと、もうそんな時間か。」

「となると…」

チャイムが鳴り終わる瞬間にガラリとドアが開く。

「今日も時間ぴったり。」

「さすが。」

俺たちの担任、吉岡先生は毎日毎日チャイムが鳴り終わると同時に教室に入ってくる。一回風邪のくせに学校に来て他の先生に帰されたことがあった。とんでもなく真面目で生徒からもかなり好かれている良い先生だ。

「起立。」

吉岡の一声で全員が起立して、同時に礼をする。こうして、また慌ただしい1日が始まった。

 

キーンコーンカーンコーン

チャイムと同時に授業が終わる。俺は終わりの挨拶をし終えるとすぐに席に座って横に吊ってあるバッグから風呂敷で包まれた弁当箱を取り出して、風呂敷を外して弁当箱本体を取り出す。

すると悠馬がガタガタと音を出しながら椅子をこちらに向けてくる。

「ほうほう、相変わらずの修也お手製の弁当か。毎日毎日大変だろ。」

「慣れくればそこまででもないさ。それにしても…」

俺は悠馬の前にあるパンを一瞥して苦笑する。

「お前は相変わらずの購買部のパンか。」

「そーなんだよなー。母親が弁当作ってくれなくてよ。」

こいつの両親は共働きでほとんど家にいないそうだ。おかげで俺か姉が飯作ってんだぜ、という愚痴を前に聞いたことがある。俺からすれば両親がいるだけで十分羨ましいのだが。

「俺が弁当作ってやっても良いけどそん時はメックのビッグバーガーセットとテリヤキバーガーおごってもらうことになるからな。」

「弁当一つへのお返しがおかしいだろ。」

俺たちがそんな馬鹿話をしていると、1人の人物が割り込んでくる。

ガタガタと椅子を俺の机の横側面に置いたその人物は可愛らしい弁当箱を机に置くと、持ってきた椅子に座った。かけた眼鏡が光り、高く結んだポニーテールが揺れる。

「桐宮君、あなたまた遅刻ギリギリだったじゃない。さすがに風紀委員長としては見逃せないわよ。」

開口一番、借りることを悪びれもせずそう告げる少女に、俺は両手を上げた。

「いーじゃん遅刻はしてないんだし。わざわざ取り締まるほどでもねえだろ?」

「あなたはそうでも私達は困るの!下級生に示しがつかないじゃない。」

そのやりとりを聞く悠馬はやれやれと首を振った。

彼女の名は三宮橋 彩乃(さんぐうばし あやの)。

容姿端麗、頭脳明晰、文武両道を地で行くまさしくThe・優等生。教師からも信頼は厚く、普通にしてればまず関わることはないであろう高嶺の花だ。

…が、何故かこの女は自分から俺たちのグループに関わってくる。まあ、そりゃ風紀委員長からすれば俺達問題児2人組を監視しときたいんだろうが…それ以外に理由があることを、俺は知っている。

「ほら、悠馬も!ネクタイ歪んじゃってるじゃない!直しなさい!」

「お前は俺の母ちゃんか!」

「人の机で暴れんなよー」

2人は幼稚園からの幼なじみらしく、昼休み毎にこの夫婦漫才を俺の机周辺で披露してくる。

悠馬は気付いていないようだが、彩乃が彼に対して友人以上の感情を持っていることは確かだろう。俺はその光景を見ながら、楽しそうに笑う。実際、楽しかった。しかし、同時に俺は、こうも思うのだ。

 

『…居づらいな…』

 

昼休みも終わり、午後の授業も終了したところで俺はバッグを持ち上げる。普通は部活をする時間帯だったが俺は部活には入っていないので、このまま帰るだけである。

俺が下駄箱まで降りて、靴を履いている途中に俺を呼ぶ声がする。

「あ、あの!桐宮さん!」

「ん?」

見ると知らない女の子が立っていた。彼女は俺に近づくと、両手で持った封筒を渡してくる。

「これ、読んでください!」

「あ、ああ。」

俺が受け取ると女子高生は走り去ってしまった。見ると封筒はハートマークのシールで封をされている。俺はため息まじりに一言。

「またか…」

いわゆるラブレターというやつである。男子諸君の中では夢のまた夢といった風の位置にランク付けられているかもしれないが、俺からすれば日常行為同然である。

その昔、剣道部に所属していた俺はひょんなことから剣道の大会で全国三連覇をしたことにより、学校で注目の的になった。毎日毎日ラブレターは二桁以上くるわ、昼飯は誘われるわで本当に大変だった。

なので、たとえラブレターを貰ったとしてもときめきもクソもない。これが俺、桐宮修也の現状である。

俺は門から出て、トボトボといつもの通学路を歩き始めた。

 

俺は家に帰ってまず、洗濯を始める。洗濯カゴにたまった洗濯物を全て洗濯機に入れ、ボタンを押してその場を後にする。うちは山の方にあるので、台所などはどうしようもないが洗濯機だけならなんとかなるので、洗濯機はかなり新しい。

俺は庭に出ると今朝干しておいた洗濯物を全て取り込み、縁側に置く。俺はそれを俺、翠、爺さんと分けて畳んでいく。特に多いのは翠の服で、私服が山ほどある。女子ってなんでこうも私服が多いのだろう。

俺は洗濯物を手早く畳み、三つに分けたらそのまま縁側に放置。今度は台所に向かう。晩飯の仕込みを行う。

今日は生姜焼きなので、冷蔵庫から取り出した豚肉を俺手製生姜醤油につけてさらに冷蔵庫で放置。米は洗って釜をコンロにセットしておく。なぜこんなにも急いで準備をしたかというと、俺は今日やらなければならないことがある。エプロンを脱ぎながら外を見るとすでに人が俺たちの家に入り出していた。彼らの行き先は、俺の家の敷地内の隅っこにある巨大な《道場》。

俺は自分の部屋に急ぎ、制服を脱いでから壁に掛けておいた今朝着ていた道着を見に纏う。帯を結んでから机の脇に置いてある木刀を持って玄関に向かい、靴を履く。かかとを入れてから、ドアを開けて外に出る。

すでに道場からは竹刀を打ち合う音がしており、音の大きさからも彼らがどれだけ真剣なのかがわかる。

俺がドアを開けて一礼をするとその音がピタリと止まる。そして全員が頭を下げて、大きな声を出す。

「よろしくお願いします、師範代!」

その大きな声に少し圧倒されながらも俺は笑いながら答える。

「はい、よろしく。」

 

俺の家は代々未熟な霊使者を育て、有能な霊使者を作り上げる。いわば教養所、訓練所と言っても過言ではない。だがうちはその中でも異質とされている。それは何故か。その理由は、教える内容が違うからだ。

本来の訓練所ならば剣の握り方、振り方、受け流し方などを教えて終わりだが、俺の家系は違う。その先をも教えるのだ。つまり、自分たちの流派を教える。剣の技を教える。それもただの剣術ではない。《殺人剣》をだ。

他の家系の流派はどちらかと言うと実践向きではない。というのも、単発技が多く、一撃必殺のものが多いのだ。それは、避けられたら終わるので、うちの流派ではそこまで教えない。

霊使者というのは人型の悪霊をメインで戦う。霊も弱点は人と同じなので人間が死ぬポイントを的確に狙えば確実に《向こう側》へと帰る。他の訓練所のように基本だけを教えていても無駄死にするのがオチだろう。剣が振れたところで当たらなければ意味がない。だからこそ、他の訓練所よりもうちを出た霊使者のほうが死亡率は格段に低いのだ。

 

アップ、素振り、打ち合い(ここで俺が少し指導する)、技を出す練習を終えた頃には既に八時を回っていた。俺は全員を集めて終わりの挨拶をする。

「それでは、今日の練習は終了です。みんな、お疲れ様!それじゃ、礼!」

門下生たちが揃って頭を下げて「ありがとうございました!」と大声で言う。門下生たちは顔を上げると各々で解散し始める。俺が汗をぬぐいながら道場を後にしようとすると後ろから声をかけられる。

「あ、あの!」

一瞬学校での出来事がフラッシュバックするがここは道場だし、同い年の女の子なんていないのだからラブレターということはないだろう。俺は後ろを向いて少女の名前を呼ぶ。よく見る顔だ。

「どうした、綾子。」

火坂綾子。確か小6。幼馴染の女の子二人と一緒に通っている女性の霊使者候補だ。

綾子は後ろに隠した手からタオルを俺に差し出してくる。

「あ、あの!あ、汗がすごいので。これで拭いてください!…拭いたら、どうでしょうか…」

「…いいのか?」

俺が申し訳なさそうに質問すると頭を縦にふる。

「…悪いな」

ここは厚意に甘えておくべきだろう。頭と顔を甘い香りのするタオルで拭く。

「それじゃあ、これは洗って返すよ。」

「い、いえ!大丈夫ですから!私が自分の家で洗いますから!」

「え?でも…」

「いいんですいいんです!」

そういうと彼女は強引にタオルを奪って幼馴染のところにかけて行った。

「…ご両親によろしくな。」

彼女はニコニコしながら、ペコペコと頭を下げた。

俺は彼女の反応を不思議に思いながらも道場を後にした。

 

深夜。

着物に着替えて、飯も食べ終わり、洗濯物も片付け、縁側に座っていた俺の腕にポツリと雫が落ちてきた。

「雨…か…?」

俺はすぐに中へと入り、窓を閉めてから部屋へと入る。

そして、俺の気のせいだとは思うのだが、今日の雨は何か不吉なものを含んでる気がした。

 

 




長くなってすいませんねえ。このお詫びは…いつか必ず精神的に。

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