突如現れた黒雲が、光を遮っているフランスの空。その下にある、1つの森に剣戟の音が鳴り響く。暗黒の空間を唯一照らす、《呪印》を光源とした赤い光。
その真上で、息を呑む、瞬き1つほどの余裕もない、命の《殺り合い》が繰り広げられていた。
「ぬおぉらァ!!」
黒刀と大黒剣。同色である2本の武器が虚空で交わり、盛大な火花を散らす。
それだけではない。黒刀には炎が纏われ、充満している空気を焦がすほどの出力を維持している。
…だが、それを受け止める者は、全くと言っていいほど動じない。剣を左手で握って上段切りの軌道にある黒刀を剣で受けたまま、無表情で睨めつけ、そして…
ヴヴヴヴンッ…!
ドシュシュシュシュッ!!
「うぉっ…!」
修也の背後に《闇》の霊術で作り出した槍を発現。そのまま彼の体めがけて投擲。
それを修也は体を捻って回避する。しかし、完全には避けきれず、鋭利な刃がコートと脇腹を少し削る。
そんなことは気にも止めてないのか、回転しながらの着地直後、すぐさま刀身の炎を増幅させる。
そして刀を横脇に構えた。一呼吸の後…
「…ッ!!」
左足を踏み出し、彼の体は虚空を駆ける。
そしてその体はすぐ様先程の位置とは対角線上にある地点…堕天使の背後へと移動していた。
桐宮流剣術《火》の型弐番《不知火》。
堕天使のコートの肩に微かではあるが斬り傷が生まれる。
その傷を煩わしそうに見ながらも、堕天使は修也に剣を振り下ろす。彼はそれを刀で受け止め、刀身の角度を変えることで受け流す。漆黒の大剣が虚空を切り裂き、その風圧で砂塵が浮き上がり、修也の頬から透明な液体が飛び散った。
彼はそれらを置き去りにして、さらに動く。
すぐさま刀を構え、全力の上段切り。それを難なく避ける堕天使。…しかし、修也の攻撃はそれで終わらない。
振り下ろしきる直前に刃の向きを急転換。握る刀を真上に振り上げた。
この2連撃に要された時間は、瞬き1つほどの間。傍から見れば、同時に二つの斬撃が繰り出されたように見えたかもしれない。
…だがしかし、それでも堕天使には2連撃目も命中しなかった。刀が振り上げられる直前、刃の向きが転換したと同時に背中の翼を一振り。それだけで、堕天使の体は急上昇。修也の刀も先程の堕天使の黒大剣同様、虚空を切り裂いた。翼が生み出した風圧と、修也の刀が生み出した上昇気流がせめぎ合い、周辺の木々を揺らす。
琥珀は術式組み上げて防壁を生み出し、気を失っているジャンヌへの被害を防いだ。
「琥珀!ジャンヌ達を頼んだ!!」
「了解した!」
相棒の逞しい声が聞こえると共に修也は足元にすぐさま《風》の霊術を発動。瞬間的なバーストにより体が凄まじい勢いで宙へと投げ出される。
点のように小さくなっていた堕天使の体がすぐに彼の体と肉薄する。
「セアァァ!!」
見上げる所にある体に修也は全力で斬りつける。しかし、それも翼によるスライドで難なく避けられた。
修也は更なる風の霊術を使用。急制動をかけて、堕天使の方に向き直る。
刃を向けられた堕天使は、直ぐには修也の方を見ずしばらく右肩に付けられた小さな傷に意識をやる。
少しして、修也の方に向き直ると、彼にこう問うた。
「…貴様の先程の斬撃。少し興味が出た。この世にはあらゆる剣術に名をつけることがあるらしいが…先程の斬撃にはあるのか?」
向けられる視線と投げかけられる問いに修也は荒い息と額に汗を浮かべながら答えた。
「…桐宮流剣術《火》の型弐番《不知火》と、参番《炎猛牙》。」
その答えに、堕天使は「ふむ…」と少し考えるように顎に手をやる。しかし、すぐに手を下ろすと更に喋り始める。
「良い、気に入ったぞ貴様。貴様の剣技。数回見て、分かる。そこらの泥人形とは訳が違う。何よりは…」
堕天使はそのまま修也の体を指さし、言う。
「その肉体だ。貴様に付き添うあの黒髪の小娘。我と同じ類なのだろう?そしてその者の血液、霊力が流れている貴様も同族としては近いと見ていい。だからこそ我の周りにある《精霊圧》の中でもここまで動けるのではないか?」
霊圧。
それは、霊が持つ圧力を意味する。これは霊力を持つものなら誰でも持ち合わせており、先程まで使っていた
そして、精霊圧とはいわばその1段階上の特性である。霊とは下級霊、中級霊、上級霊と分けられるが、その上には《幻想種》なる括りで認識される霊たちがいる。
精霊圧とはこの幻想種のみが持ち合わせているのだ。特にその幻想種数メートル内は特殊な膜で囲まれているように精霊圧の密度が濃く、他のものが入り込むと行動の阻害など様々なペナルティが付与されるのだ。
普通ならば修也であっても近づくことで動けなくなり、斬り刻まれていたかもしれない。しかし、彼は今吸血鬼という一種の《幻想種》に分類される少女と契約し、様々なものを共有しているのだ。いくら堕天使の精霊圧内にいたとしてもそれなりに動くことは可能だ。
…まあ、疲労の増加や能力低下というペナルティは喰らってしまうが。
「…しかしまぁ、我は先程貴様の剣技が至高の領域に到達しているとは言ったが、それはあくまで
堕天使はゆっくりと手を修也に差し伸べた。そして…この戦いで初めての、笑顔を浮かべたまるで全てを呪うかのような、不吉な微笑を。
「…小僧よ、こちら側に来い。貴様は、人であることをやめるべきだ。」
修也はその言葉に眉をピクリと動かすだけで大きく動きはしない。刀を構えたまま堕天使と対峙する。
尚も堕天使は続けた。
「何故貴様はその人間としての至高の領域の上に行けないのか。…理由は簡単だ。《人であるからこそ》限界は越えられない。人はどうでもいいことばかり考える。余計なことは思考せず、怒りや破壊欲のみで剣を振るえば良いのだ。自身の《闇》に魂を預ければすぐに強くなれる。…貴様のように減らず口を叩くものが我と同じになることは正直癇に障るが…貴様の技量はなかなかに使えそうだ。」
そう言うと堕天使はスッ…と1メートルほど修也に近づく。それによって修也は精霊圧に体を包まれる。
「グッ…オッ…!」
一気にのしかかる重圧と恐怖に足がすくみ、術を解除しそうになる。額から冷や汗が一気に吹き出し、全身から力が抜ける。
…震えが、止まらなかった。
『…ッ…《存在》としての…《格》が、違う…!!』
修也のその様子を見て、堕天使はフッと勝ちを確信した笑みを静かに浮かべた。
「…起きたか?」
闇に包まれていたような感覚から五感が回復し、ゆっくりと目を開けたジャンヌの耳にそんな可憐な声が響く。
その目が真っ先に捉えたものは、目の前に立つ少女と、少女が作り出しているのであろう紅い膜のようなものだった。
「琥珀…さん…?」
ジャンヌは上体を起こした所で、腹部に数時間前と同じ重さを感じた。
見ると、そこにはやはり、修也のもう1匹の相棒…炎狐がうずくまるようにして乗っかっていた。
「…え…あの…」
「エテ公は別に寝ている訳ではないぞ。さっきの儀式で疲労が蓄積した貴様の体を癒しているだけじゃ。まだ始めたばかりじゃから、もうしばらくそのままでいろ。」
確かに、琥珀の言葉通り炎狐の背筋や尻尾の炎は先程よりも大きく燃え、その火の色はどこか緑がかっているように見える。
そして、先程までとは違い体の輪郭もハッキリとしており、意識もしっかりと保てていた。
体を少し動かしてみるが、特に問題は無さそうだ。
「あの、ありが…」
「礼を言うのはまだ早いぞ、聖女。」
琥珀のその言葉に、ジャンヌが疑問符を浮かべた…直後。
ベチャッ!!
《何か》が琥珀の張る防膜に激突し不快な音を発する。見るとそこにあったのは、2本の牙を口に携えた茶色の動物…猪の頭部だった。しかし本来茶色いはずのその毛並みの大部分はぶつかった衝撃で飛び散った血液で、赤く染まっている。
「…!?」
その光景を見て言葉を失ったジャンヌを他所に、琥珀は不機嫌そうに唸る。
「まったく…もう少し綺麗に倒せんのか…」
そう言うと琥珀は耳につけてある無線機の電源を付けて喋りかけた。
「小娘、あまり
『あー、もう!こんな大変な時にそんな細かいこと考えられるかっての!ていうかそんなどうでもいい話題のためにこれのバッテリー無駄にしないでくれる!?あまり霊力使いたくないから!』
それから聞こえてくるのは可憐な、しかしどこか荒ぶる少女の声。それが先程まで共に居た茶髪の少女のものであるとジャンヌはすぐに理解した。
『というかそんなこと話す余裕があるならあなたも手伝いなさいよ!その霊術遠隔操作するぐらいできるでしょ!?』
「いーや、そうもいかんぞ、小娘。儂の術はいくら洗練されているとはいえ術者としてのセオリーはついてまわる。遠隔操作に切り替えれば操作が難関になり、精度が下がることも無論有り得る。戦うならばなおさら、の。」
琥珀が無線越しにそう告げると、向こう側の少女はしばらく間をあけて…
『…ならいちいち文句をいれるな!』
…ブツンッーー…!
そう怒鳴りつけて無理矢理電源を切り離した。それに琥珀は少し顔を顰めるが、すぐに口元を微笑に変えて「やれやれ」と呟いた。
「せっかく若人の緊張をほぐそうと冗談を言ってやったのに、強引に打ち切るとはの…」
なんの悪気もなさそうにそう言う琥珀に、呆気に取られるジャンヌ。
しかしそれを気にもせず、琥珀は少し空を見上げ、顔を顰めた。
「…さすがに分が悪いかの。押されておるか…。」
その言葉に、ジャンヌは琥珀の向く方に視線を向けた。
見ると、先程、視界の端に写った黒い服の精霊と、修也が空で剣を撃ち合っていた。
その撃ち合いは、剣の扱いに関してはあまり精通していないジャンヌでも分かるほど、両者の戦いの優位は、堕天使へと傾いていた。
『…私が援護すれば、少しは…』
「あまり甘い考えはするなよ、娘。」
ジャンヌの心を呼んだかのような的確な声が防膜内に響く。琥珀はジャンヌへと近づき、何かを確かめるように白い布の上からジャンヌの胸に手を当てた。
「…貴様の中に施されていた呪印は、あそこで我が主の相手をしておる新参者が抜け出したことで完全に消滅はしておる。しかし、いくら戦闘に支障はないにしても、内包霊力が枯渇しておる為、霊術の戦闘には参加出来ん。」
琥珀の言う通り、ジャンヌは素の力は先程と違い入るようになっているし、霊力を吸い取られるような感覚ももうない。ただ、つい先程まで吸い取られていた分、今のジャンヌの霊力の貯蓄はないのだ。せいぜい、彼女がまともに戦えるレベルまで自然回復するには数時間、短くても数十分程は確実にかかる。
そんなことをしていれば、上空での決着はつき、みな諸々殺されてしまうだろう。
「で、ですが!修也君の戦闘をこのまま見ているだけなんて出来ません!」
ジャンヌは身を乗り出し、そのまま琥珀の肩を掴んだ。
「私達英霊は、霊達の間違いを正すことを使命として
「だが、その使命を持った貴様は、いったい何が出来る?あの場に入り足手まといがいい所だろう?」
響くジャンヌの言葉。
しかしそれを琥珀は一蹴する。
反論出来ないジャンヌに、琥珀は「それに」と続ける。
「あやつ自身、そんなことは考えてもおらんよ。」
琥珀は修也を一瞥する。
「霊使者というのは、いつの時代も往生際が悪く、頑固であると決まっておるが…我が主はそんな奴らの中でも筋金入りじゃ。」
琥珀はそう言いながら和装の帯裏から5本の長い針のようなものを取りだし、等間隔で、円を描くように地面に突き刺した。
「《自己よりも、他の幸せを》。この優先順位を何時いかなる時でも変えようとしたことは無い。
すると5本の針をなぞるように霊力の線が円を描き、やがて円の中に複雑な術式を追加していく。先程の巨大な術式と似てはいるが、違う。大きさは劣るものの、それ故に、術式を描く円の中には凄まじい情報量が存在している。
先程の術式はあるものを《駆除》するのに特化していたが、この術式は《繋げる》ことを目的とした術式、と言ったところか。どこかあたたかい光が彼女らを包む。
術式が描かれた直後、炎狐は目を覚まし、円の外に座り込んだ。
「こ、琥珀さん…これは…」
「貴様がすべきことは、我が主に加勢することではない。」
琥珀は体をずらし、ジャンヌの向かい側を開けるように、彼女の斜め前に腰を下ろした。
「我が主を信じ、待つことじゃ。」
「ペッ…!」
鉄の味のする液体を吐き出し、息を整える。ついでに口元をコートで拭う事で、どこか嫌な感触は払拭される。
しかしまあ、それだけで目の前の
剣術勝負は精霊圧で動きが制限されるし、肉体強化をした体でさえ、黒剣で抉られ、肝心の術でさえやつには効かない。
俺の半端な術では幻想種であるやつには効果が薄い。強いて言うなら《聖》の術式は属性的に有効であるのだが、堕天使というのは元が《聖》属性であるが故か、属性的優位をほとんど無くし、緩和してしまうのだ。
つまり、有効属性のくせにダメージが減るとかいうマジで訳分からん状況なのだ。
『…チートが過ぎんだろ、こいつら。』
周りの術士からチートチートと言われている修也でさえ、この状況にはボヤかずにいられない。
そうなったら、彼にはリスク覚悟で剣術勝負に切り替えるしかないのだ。
修也は剣を納刀。左肩を下げ、右肩を前に出す。瞬間、彼の周りの空気が張り詰める。
「…ッ!」
時間はかけず、最速で力を溜め、まっすぐ敵へ突き進む。狙うは、がら空きの左脇腹…
『少し、真正直すぎだ。』
予想していたのか、堕天使は黒剣を彼の進路へずらした。
『取った…!』
その予想の更に上を、修也は行く。最後の踏み込み…右足の地点に霊力の足場を作成。それを、彼はさらに踏みきる。直後、彼の体はふわりと浮き上がり、体は逆になりながら堕天使の頭上を超えていく。そしてその目は堕天使の背後を捉えていた。
「…セアアァァァァ!」
少し引く抜かれた刀身から赤い光が漏れ始める。その間は、一瞬。空気が焦げるような速さで繰り出される八の刃。
桐宮流剣術《炎》の型伍番《烈火八刃》。
技後の防御など頭に入れていない。霊力を可能な限り攻撃に注ぎ込む。
最初の3発は手応えはなかった。しかし、叩き込む事にその手応えは確かなものに変わる。やがて、6発目から肉を斬る手応えが伝わる。そして、八発目。
ズバッッ!!
どこか聞きなれたそんな感触と共に、蒼白の肌についた斬り口から凄まじい量の血液が溢れ出す。
ようやくのまともなダメージに修也は安堵するが、それでも歯を軋ませた。
『…これでもこんだけかよ!』
まだ致命傷には至っていないのだ。この程度では幻想種は死には至らない。それなりのダメージはあるがすぐに回復される。
だが、そんな思考も束の間。堕天使は一回りで修也の方に向き直り、剣を振り上げる。
今、修也には防御障壁は付けられていない。その分、純粋な威力の斬撃が彼に襲いかかった。
振り下ろされる黒剣を黒刀で受け止めるも、当然足場のない修也は耐えきれず降下を始める。やがて、地面へと着弾。凄まじい衝撃が修也を襲った。肉体を極限まで強化していても脳が揺れ、体が痛みを訴える。
そのまま爆風によって吹き飛ばされ、木へと直撃。体は止まり、地面へとずり落ちた。
「ガハッ…ハッ…」
口から大量の血がなくなる感覚。かつて、琥珀と戦った時に感じたモノを再度繰り返されているようだった。
見ると、堕天使に与えた切り傷は既に完治させられており、その肌はまた雪のような蒼白さを取り戻していた
そして、見るからに怒っていた。それもそうだろう。俺という人間ごときに斬撃を食らわされ、あまつさえ傷をつけられたのだ。それはやつのプライドが許さないのだろう。
霊力ももはや隠すことなく、その巨大さが漏れ出ていた。漏れ出る瘴気が周りの草や葉を瞬時に腐敗させる。
俺と堕天使との間には妙な静寂が訪れる。
…しかし、ある足音がその静寂を破った。近くから足音が響き、俺は横へと視線を移した。横へ向ききると同時に、一人の少女が木の裏から姿を現した。
白いスカートが舞い上がり、茶色のポニーテールが風で揺れる。どこか久しぶりに見たような気がするその顔を見て、俺は無理矢理笑った。
「ちょっと修也!大丈夫!?」
「…よぉ、天乃。」
傷を見て心配したのか、近寄ろうとする天乃を修也は手で静止させる。
「あいつから目ェ離すな。殺られる。」
修也の言葉に天乃は足を止め、すぐさま堕天使に目を向けた。そして、手に持つ剣をそのまま堕天使に向けた。
「…
修也は術式を起動させ、自身と天乃をつなぐ。
『…天乃、今から作戦を伝える。』
突如修也の声が頭に響いてビクリと体を揺らすが、そのまま修也の声に集中する。やがて、作戦を聞き終わるとチラリと修也の方に目を向け、それに彼は、笑みで答えた。
「…いけるだろ?」
その笑みに、天乃も笑みを浮かべて剣を構え直した。
「当然!!」
そんな余裕たっぷりな二人の様子を、堕天使は煩わしそうな顔で見つめる。だが、それも長くは続かない。
修也は人差し指を堕天使に向け、その指先に多量の霊術を篭める。やがて、凄まじい輝きを放つ、白い光の玉が出来上がった。《聖》の属性を宿すその巨大な玉は、森の闇を貫き辺りを明るく照らす。
『…最も有効な属性をぶつけ、我に最悪ダメージを与えようという魂胆か…。だが、あの程度なら耐えられる。隣の娘もそこまでの驚異は感じん…容易く殺せる。』
そう考える堕天使。だが、その様子の堕天使に、修也は喉を鳴らして笑った。
「お前は、頭が足りてねえな。」
その言葉に、堕天使はわかりやすく反応する。憎悪の気配を、隠しきれていない。
そんな状況で、先程の言葉の真意を探る。
軽口か、安い挑発か、はたまたそのどれでもないのか。
しかし、それが答えにたどり着く前に、修也は動いた。目を開き、指先の霊術を暴発寸前まで解放。それに堕天使は剣を構えた。目の前の霊術を迎撃するため手に力を込める。
…だが、修也はまたも笑う。それは、まるで、
放たれる霊術。凄まじい光が森を更に照らす。ここまでは、堕天使の予想内。
…しかし、霊術の方向は、堕天使の予想外の方向だった。
修也は、あろう事か頭上へと術を放ったのだ。そして、1つの玉だったそれは、細かく別れて、四方八方へと飛び散って、衝撃と轟音を響かせる。
予想外の行動に、動けない堕天使を他所に、更に修也は行動に出た。癒えた体を駆使して、立ち上がると木の裏の森を駆け抜ける。無論、堕天使は追いかけようと足を踏み切る。しかし、全速力の彼を、天乃が剣1本で押し込まれながらも止める。やがて青色の光を剣に込め、数発の剣撃を放つ。それを堕天使は容易く受け止めるが…そこで、ある事に気づく。堕天使は戦慄した。
『…この娘…精霊圧が効かんだと…!?』
見るからに表情を変えた堕天使に、天乃は笑みで返した。
「…来たぞ!」
琥珀の声に、ジャンヌは凄まじい速度で近づく霊力に気づく。その気配を、修也のものであると感じた瞬間、彼はその姿を闇の中から現した。木々からジャンヌまでへの10数メートルを修也は数歩で詰める。
「…修也君!」
琥珀は防膜を瞬時に解除し、修也は術式の中へと足を踏み入れた。そして、力強く。だが、優しく、彼はジャンヌの手を取った。
「琥珀!!」
「うむ!!」
すかさず、琥珀は術式を発動。3人の体は凄まじい量の光に包まれた。その光景を最後に、修也とジャンヌの意識はスッ…と刈り取られた。
どこか、心地よい浮遊感と共に…
これからももっともっと面白くできるように頑張るのでお付き合いお願いしますm(_ _)m