10歳になって、俺ことクロメ(サンムーンでの名前と同じ)は、いよいよトレーナーとしてまずシンオウ地方に飛び出すのであった。
……隣にくっつく美少女と一緒に。
その前に、少し昔の話を話そう。
なぁに。ポケモンスクールでの話だよ。気にする事は無いさ。
まず、将来クイーンオブトレーナーとしてシンオウ地方のチャンピオンとなる筈のシロナちゃんとの出会いからだ。
俺はその日、村の近くでポケモンの生態について見て回っていた。
と言っても、どんなポケモンが住んでいるのか興味が湧いただけで、ただ単に動物園とか見て回るだけだったが。
シンオウ地方でお馴染みの鳥ポケモンのムックルや、草タイプのスボミーなど、様々なポケモン達が住んでいた。
シンオウ地方って結構森が豊かなのかな。
ここら辺は特に足場が悪いってことも無く、子供な身体でもサクサク行けた。
子供の身体ってホントにスポンジのように吸収して何でも身につけられる。
良い例が体力だろうか。
走り回るだけでいいのだ。それだけで自然とついてくる。
というか、全然疲れないんだよなこの身体。流石、外で遊ぶ子元気な子だ。
森の奥まで進んでいくと、ポチャリと鼻に水滴が落ちてきた。
その水滴は次第に空から無数に降り始め、気付いた時には豪雨となっていた。
マジかよ…。傘持ってきて無い……。
何処か雨宿り出来るところを探す。1番いい選択だっただろう。
この中で帰るとかマジ頭おかしいと思う。
走る事数分、ずぶ濡れになりながら小さな洞穴を見つけた。
しめたと思い、急いで穴の中へ。
大人じゃ入れないような隙間ではあったが、今の俺には余裕余裕。
「ーーーだ、誰ですか………?」
と、洞穴の奥からか細い声が聞こえた。
どうやら先客がいたのか。
しかしそこまで狭くないわけだし、ちょっとシェアさせて貰おう。
「ごめんけど、少し雨宿りさせてもらえ………」
頼み込むために、俺は奥に進む。
が、俺はそこで信じられないものを見てしまった。
やせ細った少女が、ポケモンを抱いてくるまっていたのだ。
枝毛が酷いボサボサの黄金色の髪の毛。
もはや骨と皮しか無いのではないかと思わせる細さ。
こんな状態だったら、普通死んでいるだろう。
辛うじて生きているって感じだった。
そしてその抱いているポケモン。
ギリギリと睨みつけるように俺に視線を向けているのは、多分フカマルだろうか。
いやちょっと待って。
このフカマルなんか違うぞ。
可笑しい。明らかに可笑しい。
何故、何故……。
ーーー『人型』なんだ?
訳が分からない。
やせ細った少女よりも少し小さく、まるで少女を守っているような感じのフカマル。頭に角があり、口から覗く鋭い牙。暗闇だから分からないが、お腹あたりが赤く、正しくフカマルと言える。
だが、何故人型なのだろうか?
この世界ではそういうものなのだろうか?
前世で読んだことのある擬人化した二次創作小説。
まさかその擬人化だとでも言うのか。
……スゲーよこの世界。マジで間違ってる……。
って違う。
今はそんなことはどうでもいい。
この少女を何とかしなくてはならない。
「……ねぇ、君。大丈夫?」
大丈夫なわけないだろうが。
とにかく、近付いて状況を満たさなくては。
ーーーガァアゥ!!
突然擬人化フカマルが唸り立った。
この娘を守る為に必死なのだろう。
なんという忠誠心だ。感服したぜ。
俺は背負ってきたポーチから、野生のポケモン達ように持ってきた、あまいハチミツを取り出して、フカマルに差し出した。
と、フカマルが飛び出して、ハチミツを持った腕にガブリと噛み付いてきた。
いてぇ!!マジで痛え!!
口から出る嗚咽を、叫びを、下唇を噛んで我慢し、ハチミツをそれでも差し出す。
服の上からでも分かるほどの大量出血。
こりゃヤベーな。差し出せば差し出す程、噛む力が強くなっている。
だが、ここで諦めるのは男では無い。
「だい、じょうぶだ。安心して食べて欲しい。君の主人を助けたいんだよ」
優しく頭を撫でてやり、落ち着かせる。
唸りながら噛み付いているフカマルは、それでも離さない。
「大丈夫だから。君が倒れたら誰がこの娘を守るの?その為に食べて欲しいんだ」
すると、フカマルは次第に落ち着き始め、噛む力が弱くなり始めて、離してくれた。
俺はよしよしと頭を撫でてやり、ハチミツをフカマルに手渡した。
手で掬い、貪るようにハチミツを食べ始めるフカマルを横に、俺は少女の頭を少しだけ小突いた。
「………だれ、ですか……?私に、……近付かないで。貴方も、虐められる……」
弱々しくそう言う少女。
だが、俺は虐めとか正直どうでもいいのだ。
てか、一々そんな程度の低い事で心が折られてちゃ、多分この世界じゃ生きていけないだろうよ。
「そんなもの知らない。虐めとかどうでもいい。俺は君を助けたいんだよ。顔を上げてくれ、今食べ物をあげるから」
しかし、頑なに顔を上げてくれない少女。
力がもう入らないのか、ぷるぷると身体が震えていた。
「それは……、貴方のもの……。……私が貰うべきじゃ……ない」
「そんなもの知らないよホント。ただずっと生死をさまよってる女の子を俺のポーチに入ってるもので助けられるのなら、俺は何でもしてあげる!!」
「ダメだよ……。私は、1人……なの。誰も、私のこと……見てくれないの……」
頭にきた。
この少女は悲劇のヒロイン気取ってるただの馬鹿なのだろうか。
そりゃこんな酷い格好してたら同情するけど、俺は怒りが収まりきれなかった。
「誰も見てない!?じゃあなんでここにフカマルがいるんだよ!!なんで俺に噛み付いてきたんだよ!!全部君を守るためだろ!?自分は1人!?笑わせないでよ!!フカマルが君とずっと一緒だったじゃないか!!それでも何かい?君はフカマルがいることを不快に思ってたのかい!?」
「そんな訳……ない!!フカマルが。……フカマルがいてくれたから、まだ私は死なずに済んでるの……」
「だったら、なんで生きようとしないんだよ!!フカマルは!!フカマルは君を守る為に生きようとしてるんだ!!それなのにその守りたい人が死んだらフカマルはどう思うんだよ!!」
ハッと顔を上げる。
傷だらけの顔。汚れが目立ち、隈が出来、女の子とは思えない酷い姿。
俺は、優しく抱きしめてあげる。傷に触れないように、優しく、頭を撫でる。
「それにほら、今俺もいるしさ。独りぼっちでもふたりぼっちでもないよ。それに、フカマルだけじゃない。俺も君の事を見てるんだ。安心して欲しい」
ブワッと、少女の瞳から涙がこぼれ落ち始めた。
今までの苦しみ、今までの悲しみ。
全てがこの涙と叫びに混じっているように聞こえた。
その洞穴に響くのは、少女の嗚咽した悲しみの叫びであった。
それから俺は、少女の傷を手当し、ちょっと持ってきた食料を全部食べさせた。
フカマルに齧られた傷を見ると、何とまぁ一生もん並の傷が出来ていた。
どうやら、擬人化ポケモンは言葉が話せるらしく、素直に一言謝ってくれた。
しかし、プイっとそっぽを向きながらも、俺の傷元に一時的にガーゼと包帯を巻いてくれた事には感謝。
そしてこの少女。
まるでボロボロの泥雑巾の如くって感じの少女の名前は、シロナ。
……………し、ろな?シロナ!?
………マジかよおい!!シロナってあのシロナだろ!?
確かにシロナと言われれば、ゲームとかで見かけた容姿と余り変わらない。
金髪もそうだし、連れてるポケモンがフカマルの時点で確定だろ。
てか、そんな超超有名人の顔に傷が付いてるんですけど!?
こりゃ不味いよ!!とんだ失態だよ!!
クッソー。特典あったら、幽波紋の『クレイジーダイヤモンド』を連れて来てるのに!!
お腹いっぱいになったのだろうか、少女は俺の腕の中ですやすやと寝息を立て始めた。
じゃあ、寝たということで、この流れからしてやるべき事事があるはずだ。
それは、………ここまでの事情説明だろ。
え?ほっぺぷにぷにとかしない?
バッキャロー!!寝てる時こそ辛い思い出を聞き出すチャンスだろうが!!
という訳で、フカマルに聞いてみた。
しぶしぶと言ったところだろうか。
フカマルは息を吐くと、ポツポツと話し始めた。
短く説明すると、シロナちゃんの両親が二人共亡くなり、元々お金持ちだったシロナちゃんの家の当主が居なくなった訳だから、財産の配分を親戚でやらなければならない。
しかしここで、肝心な事があった。
それは、シロナちゃんのことであった。
孤児院に預けるという選択肢もあったが、シロナちゃんは妾の子と言う事があり、妾なら使用人として働かせようという何とも酷い事をさせられたようだ。
しかも、その仕事内容は、売女。
流石にハメハメは無かったが、そっち系の趣味を持つおじさん達には絶好の獲物であったため、調教を4歳から受けたそうだ。
なんという胸糞悪い事だろうか。
そして、耐えれなくなったフカマルが一緒に脱走。
何日も何ヶ月も走り、今ここにいるという状態なんだそうだ。
ふと、俺はシロナちゃんの頭を撫でてる。
毛並みはボロボロ。女の子としての魅力は失われ、今俺の腕の中にいるのは、ボロボロの少女。
何て可愛そうなのだろうか。
同じ歳でも、環境が全く違う。
こんなのんびり生きてた俺があほらしく感じるよ。
そして、他愛もない雑談をフカマル(多分性格は意地っ張り)とちょびちょび話し、いつの間にか外の天候は晴れに変わっていた。
それに気付くと同時に、シロナちゃんがむくりと起きやがってきた。
「おはよう。ぐっすり眠れた?」
その問に、コクリと顔を赤めて頷くシロナちゃん。
どうしたのだろうか。風でもひいたのだろうか。
だとしたら、さっき毛布をかけてやるべきだった。
「じゃあ、雨が上がった事だし、俺はもう行くよ」
シロナちゃんを壁に横たわらせ、洞穴の出口を目指す。
すると、ぐいっとポーチを引っ張っているフカマルの姿があった。
「どうしたのフカマル。何かあるの?」
その問に、コクリと頷くフカマル。
まだなにかあるのか。聞いておかなければ。
「……私達さ、何処にも居場所が無いわけよ。多分、貴方が来てくれなかったら、シロナはのたれ死んでた。でも、貴方は来てくれた。噛み付いたのは悪いとは思ってるけど……、シロナの事、お願い出来る?流石に私の分までは世話しなくてもいい。せめて、シロナだけでも………」
………ええ子やな。
おじさん感動したわぁ。
ただの意地っ張りかと思ったが、以外にも主人の事だけは大切にしているのか。
「大丈夫だよ。フカマルの分も養うから。それに端からそんな話しなくても、強制的に連れていこうとしてたから」
「えっ?」
「えじゃなくて、フカマルも来ないと了承しないから。フカマルが来なかったら、シロナちゃんはホントに一人になる。唯一心を開いてるフカマルも連れてかないとダメだからな。」
「………いいの?迷惑かけちゃうかもよ?」
「大丈夫だ。、うちの母親の方が結構迷惑してるんだよ」
「……ありがとう。貴方には感謝しかないわ……」
「じゃあ決まりだな。シロナちゃん、悪いけど、おんぶするから立ってくれ」
俺は屈み、シロナちゃんの細い足を優しく掴む。
本気で握るとへし折ってしまいそうで怖過ぎる。
こうして俺は、いや俺達は、洞穴を抜け、マイホームへと帰還することになった。
余談だが、シロナちゃんと、フカマルをうちの母親が見た時、クロちゃんが盗られたと大泣きしたのは秘密である。
はいー!!
シロナちゃんの昔の酷い過去でしたァ。
ちょっと眠たい時に書いたから多分文書いつも通り下手くそだったな。