※尚、誰もくれなかった模様。
前世において、ゲームをしながら何食わぬ顔で四天王とやらを黒いカエルで無双していた時、その四天王の中に彼女はいた。
一見、とても包容力のある優しい女性だと思わせる彼女。しかし、何でかしゃん2番目に倒すと怒られる。
2番目って言うのは、弱いと言う意味を指すらしいので、弱いと思われている事に怒ったようす。
彼女は、ドラゴンタイプの使いであった。
そりゃあもう見た目で分かるほど。首元、手首、耳、足、腰等など、至る所に龍の爪だの何だの付けている。
出身もシンオウ地方と来た。神話が大好きな事も分かったし、伝説のポケモンに憧れてドラゴンタイプの使いになったようだ。
俺は彼女を初めて見た時、ふと思った。
ーーーシロナ様と、なんか関係あるんじゃね?
シロナ様もシンオウ地方出身。しかも髪型も同じで、何より神話が大好きな事と、相棒がドラゴンタイプだという事だ。
これは絶対何かあるぞと、何か裏事情なんかを隠して想像させている運営に聞きたいが聞けないため、俺は転生されるまでずっと思っていた。
そして転生され、何やかんやあって今に当たるが、今の今までそんな疑問さえ忘れていた。
いやただ単に忘れた訳じゃないのよ?
実際問題、この世界が印象深かったから、次第に薄れてきちゃったの。めちゃくちゃ悪気とかないので悪しからず。
で、思うに、俺はこの世界が誰かの想像の世界だと思い始めた。
そりゃあ運営が暴露もしてないストーリーがあるんですよ?ダメナさんだの何だのと、可愛くネーミングしてるほど結構重視されてるあのシロナ様を運営があんな境遇にさせるとおおもいで?
いや運営だろうがなんだろうがシロナ様をあんな目に合わせる想像をした奴には俺の鍛え上げられた二の腕ラリアット+エルボードロップ&首折をコンボで繰り返して息の根を止めるんだけど。
それで、この世界を想像している誰かが、きっとこの世界にいるはずだ。まず俺じゃない。俺はI LOVE シロナ様だから絶対ありえないシロナ自体も、そんな境遇を喜んで受けるほどマゾでは無い。
可能性として、ダイパ時代にシロナ様に勝てなかった奴が恨みを持って、こんな世界を想像して俺と同じように転生したかもしれない。
それとも、本当に運営の考えたシナリオなのかもしれない。
深まる謎。次第に現れていく世界の本質。
このままだと、本当にみんなの知ってるポケモンの世界じゃ無くなるかもしれない。
だが、今はこっち優先だ。
俺に抱きつきながら小鹿のように震えているょぅι゛ょシロナ様と、ドラセナさんの問題だ。
メガシンカ獲得はいつになるのやら………。
「………なんでここにいるの?…………お母さん?」
ーーー世界が止まったかと思った。
そんなびっくり発言をしたシロナを横目に、あんぐりと驚く俺とドラセナさん。
「……シロナ、何言って……っ」
しかし、冗談かと思いきや、その表情はとてもじゃないがジョークを言っている顔ではなかった。
その表情はまさに絶望。恐怖し怯えを超えた何か。
ガクガクと震え、今にも零れ落ちていきそうなシロナの身体を、俺はギュッと抱きしめた。
「………まさか、貴女………シロナちゃん?」
ドラセナさんも思い出したかの、また恐る恐ると言った感じで口にした。
想像以上に、シロナはビクビクとしている。
静寂のさなか、俺は理解した。
きっとドラセナさんはシロナとの再開に何も言えないのだと。
無理もない。遠いカロス地方で、いきなり知り合いにあったのだ。しかも、ずっと昔の。戸惑うのも分かる気がする。
しかし、それはあまりにも馬鹿な発想だった。
思い出せ、シロナの境遇を。どんな目にあったのかを。
「………貴方、一体どこに行っていたの?」
自分の知るシロナと理解したドラセナさんは、額に青筋を立てながらそうシロナに問いた。
シロナは怯えるの一点張り。顔が真っ青になり始めている。
忘れていた。シロナは、虐待、拷問、暴力を与えられていた事に。
「………貴方が失踪してから、早6年。その間に、私達夫婦がどれだけ辛い思いをしたか分かってる?」
辛い思い。何をほざいているのか。
それはシロナの方も同じだろう。
これだけ恐怖していると言う事は、1桁前半であるにもかかわらず、肉体的精神的に傷をつけられたに違いない。
「今となっては、もうどうでもいい事よ。……でも、貴方とは二度と会いたくなかったわ……、シロナちゃん」
「………ご、ご………ごめ……、ごめん………な………、さい」
怯え方が異常だ。冷や汗も尋常じゃない。
これはマジでやばい。
このままだと、シロナが精神的に病んでしまう。
「ストップだ、ドラセナさん!!」
何か言いたげなドラセナさんは、俺の注意に素直に従う。
これ以上何をシロナに言うつもりなんだ。
「……悪いけど、これ以上は何も言わないでくれ。それ以上言うようなら、俺はあんたを力ずくで黙らせる」
ドラセナさんはジッと俺の方を見ている。
しかし、その目は怒りの色を見せていない。まるで見定めているかのような目をしている。
暫く経って、ドラセナさんはこくりと頷くと、俺はカレンをボールから出した。
「…………何故私を……っ、シロナ!!」
シロナの状況を見たカレンは、ぎゅっとシロナの身体を抱きしめる。
そして、ギロッと俺を睨んだが、正面にいたドラセナさんの存在に目を見開いた。
「…………き、貴様っ。何故ここにいる!!もうシロナは縁が切れたはずだろう!!」
縁とは、きっとドラセナさん達との関係の事だろう。
カレンの今の表情は、あの時の表情と変わらない。何がなんでもシロナを守りたいと言う意志が強く伝わってくる。
「………あの時のフカマルかしら?まだこの娘についていたのね。その依存性、早く直したらどうなのかしら?」
「依存っ!?依存だと!?私は自らの意思でシロナと共にしているのだ!!それを貴様は依存と!?巫山戯るのも大概にしろ!!」
威嚇のように声を上げるカレン。しかし、その威嚇にドラセナさんは動じない。きっと、今のカレンのような獰猛的なポケモン達と幾多もぶつかったからだろう。ドラゴンタイプというのは、どうも手のかかるポケモンが多いらしい。
「ドラセナさん。あんた、それでも人間か?まるでシロナをゴミのように扱ってるんだが……」
「……………あら、私は本心を言っているだけ。それに表も裏も何も無い。唯あるのは、その娘が私達にとって害でしか無かったという事よ」
少しの間を開けたドラセナさんは、それでも淡々と話を続ける。
しかし、俺は少し違和感を感じた。
何故、ドラセナさんは間を置いたのか。今の今までシロナを蔑んでいたのに、なぜ即答しなかったのだろうか。
「………兎に角、もうその娘を近付かせないで。見てるこっちが不快になるわ」
「言われるまでもない。貴様ら一族にシロナを金輪際近づけてやるものか。今度こそ、近付いてきたのなら、私が血祭りに挙げてやるっ」
「あら、それは楽しみね。返り討ちにしてあげなさいと伝えておくわ」
「おいクロメ、いくぞ。このままここにいる理由はない」
シロナを背負い、ミアレシティの道を進んでいくカレン。俺が立ち止まっている事に気が付き、声をかけてきた。
「………すまんカレン。一つだけこの人に聞きたいことがあるんだ。先に言っててくれ」
「そいつに聞くことなどない!!早くシロナを……」
「少しで終わるから、頼む」
「…………分かった。但し、早く追いついてくれ。シロナの心を治すには、お前しか出来ない」
「………分かった」
そう言うと、カレンは走り去っていった。この道は一本道だから、そのままミアレシティに着く。しかし、俺はドラセナさんにどうしても聞かなければならないことがあった。
「………なぁドラセナさん。あんた、何を隠してる?」
「………何、とは?一体何のことーーー」
「ーーー恍けるな。あんた、シロナの事あれだけ言ってる割には、俺がゴミって言った事に対して、ちょっと間があっただろう」
「………それが何か?」
「見え見えなんだよ。あんたの
「…………嘘?一体何のことかしら」
知らないの一点張り。
しかし、俺は食い下がらない。シロナの為だ。ここで聞かなくちゃ、俺がシロナを理解する事は出来ない。
「そろそろホントの事言ってもいいんだぜ?カレンとシロナは先に行かせた。大方、シロナにだけは聞かれたくないようだったから先に行かせたが、俺になら話せるだろ?」
「本当に何をーーー」
「俺はシロナの仲間であり、6年前から俺達の家族だ。その家族が怯えて、悲しんでいるのを前に、ジッとなんてしてられないんでね」
「…………」
エゴかも知れないが、シロナが大好きで贔屓しているからかもしれないが、俺は家族のピンチは黙っていられない。
それは前世でも現世でも変わらない。
問題を一つでも解決させたい俺の我儘ではあるが、これは絶対聞かなくてはならない話なのかもしれない。
「………………そこまで、あの娘を思ってくれていたのね」
いきなりシュンとなったドラセナさんは、さっきのが嘘みたいに、朗らかになった。
「………………まずは謝罪を。あなたの前で、シロナちゃんの前で、罵倒するようなことを言って申し訳ありませんでした。でも、これはあの娘にとって、今後私達の家系との断絶を図るには、これしかないのです……」
「………断絶?それはどういう事ですか?」
「簡単ですよ。あの娘を、私達の家系から引き剥がすための、ね」
「引き剥がす?確かシロナの両親は亡くなったと聞きましたが……」
「一人になったシロナを引き取ったのは私達夫婦です。まだ幼い。2歳児の少女を、ただ一人には出来ません。あの娘もそうなのですけど、私達はとある龍の郷出身で、シロナの両親は私達と従兄弟同士でした。しかし郷の人々は、元々両親を毛嫌いしていました。郷の男と、外から来たよそ者の女。その二人が恋に落ち、新しい命を産み落とした。新しい命の芽生えと思えば聞こえがいいのですが、郷ではその子供が悪魔のような存在になっています。その子供が影響で、郷にどんな変化が起きるか分からなかったからです」
「でもそれは、それはとても些細なことじゃないですか」
たかが子供一人で郷の運命が変わるとか何処のあれだよ。酷いにも程がある。
「郷の村長は代々、予言者として生涯生きていきます。その村長がシロナちゃんを占った時、こう出ました。『黄金色の髪をなびかせた少女、神聖な頂にて時間と空間をねじ曲げるであろう。そのそばに居る黒い髪の少年、少女との出会いにより、世界に終焉を呼ぶであろう』」
黄金色の髪をって、間違いなくシロナじゃん。じゃあ黒髪の少年は?
………まさか、俺?
「これが善なのか悪なのか判断は難しいものでした。しかし、世界の終焉と知った郷の人々は、シロナが害ある娘だと知ったがいや、すぐに殺害しようと動き出しました。両親は、シロナを庇って二人とも亡くなったそうです……。しかし、全員が子供を殺すなんて賛同する訳がありません。反対した人もいます。その反対派に私達夫婦がいました。結果的に、子供がいなかった私達の家に引き取られましたが、最悪はまだ続きました。一年経った頃、郷の強制脱退願いを盾に、シロナを渡せと言ってくる輩が現れ始めました。勿論そんな事で私は屈しませんでしたが、そんな時、夫が殺害されました。夜、暗がりを奇襲され、喉元を抉られていたとか何とか。………これ、見えるでしょ?拷問された時の傷よ。シロナを渡すというまで拷問は続いたわ」
その服の下の傷、シロナと同じくらいの傷であった。腕だけのはずなのに、傷の量は半端でなかった。
「……痛々しいでしょ?この傷は一生消えないそうよ。でも私は、この傷を見る度いつも思うわ。何故あの時耐えなかったのかって……。そうすれば、あの娘に危険な思いをさせる事は無かったはずだって。今更後悔しても遅いわ。もう私達が恐怖の対象だと記憶させてしまったから」
「………じゃあ、ドラセナさんはわざとあんな真似を?」
「醜いでしょ?これじゃああの娘の親にも顔向け出来ない。娘をよろしくと頼まれた筈なのに………、私は、何も出来なかった……………」
ドラセナさんも頑張ったのだろう。想像出来ない拷問に我慢し、折れそうな心を立て直し、それでも続く拷問に歯を食いしばって耐えたのだろう。女性だとか、多分関係なく卑劣な事をされたかもしれないが、ドラセナさんはそれでも強く意思を持ち続けた。
俺はそんな彼女に賞賛したい。だがーーー。
「ーーー悔やむのも、後悔するのも、止めにしましょう」
涙を零すドラセナさんだが、俺の言葉に顔を上げる。
「俺はドラセナさんがどれだけ頑張ったのかは知らない。知るはずも無い。だって知りたくないんですから。ドラセナさんがシロナの事を大切に思っていた事は分かります。自分可愛さに白状してしまった事もしょうがないと思う。でも、しょうがないで済まないのがシロナの状態だ。俺はねぇ、怒ってるんですよ?後悔だのなんだの垂れてるくせに、そんな色シロナに見せないで罵倒する。正直言いますよ。俺はあんたが憎ったらしくてたまらない!!後悔したならそれ以上シロナを罵倒するな!!後悔したならそれらしく心を入れ替えろ!!シロナの親に顔向け出来ない?なら顔向け出来るようにすればいい!!それが何も出来なかったシロナへの償いってもんだろ!?」
「……………っ、じゃあどうすればいいのよ!?今更謝ってももうシロナちゃんが戻ることは無いの!!私だって罪を償いたい!!でも何も出来ないんじゃ仕方ないじゃない!!」
「仕方ないのに罵倒するのは可笑しい!!結局のところ、あんたは口だけって事なんだよ!!何も出来ない?罪を償うはずの気持ちがそんな程度でいいと思ってるのか!?」
「ーーー………っ、それは………」
後ずさるようにドラセナさんは身を引いた。
久しぶりに怒ったと思う。
前世でも、ヤンキー相手に片手で6人ぶっ飛ばした時以来だ。
「ドラセナさん。例え後悔するような過ちでも、それを糧に後悔しないような生き方をする人もいる。後悔したくないのなら、前に進むしかないんです。ドラセナさんは、そんな新しい道の始まりで足踏みしてるだけだ。何も変わらないし何も始まらない」
「…………っ、でも、……本当にどうしたらいいのか、分からなくって……」
「それを考えるのも、決めるのも自分自身ですよドラセナさん。もう出来ることがないのなら、自分の内面を変えればいい。例えば………ほら、ドラセナさんは、トレーナーだ。もうシロナみたいな境遇の子が居なくなるように強くなったり、そんな子供達を育てる人になったりさ。ジムリーダーとか、四天王とかに」
「………………」
無言のまま、ドラセナさんは、ずっと俺を見ている。
しかし、それは一瞬の事で、すぐに口を開いた。
「…………ありがとう、少しだけ、自分の道が見えたような気がするわ。そして何より、シロナちゃんの事、ありがとう。子供に言われるのは釈然としないけど、貴方のアドバイス通り頑張ってみるわ」
俺はそのまま歩き出す。
何やかんやむしゃくしゃしたが、ドラセナさんも悪い人じゃない。
それはゲームをやっている人なら誰でも分かる。
あの優しい表情。母性を感じさせる雰囲気。
the motherって感じの人が悪い人の訳ない。
「ねぇ、貴方の名前はなんて言うの?」
俺は歩いたまま、振り向く。
俺の目に写ったのは、ゲームと変わらない表情のドラセナだった。
「クロメって言います。シロナちゃんの家族ですよ」
それを聞いて、ドラセナさんは微笑み、「ありがとう」と口ずさんでいた。
ドラセナさんに過去の事を聞いておいてなんだが、俺もドラセナさんも自分の我儘でしか無かった。
自分の事だけぺちゃくちゃ言っておいて、結局のところ誰も他人の事は考えていないただの暴言。
それでも俺は言いたかった。ドラセナさんに後悔を乗り越えて欲しいのだ。
それが俺に出来るストーリーの改変。
それが鬼と出るか蛇と出るか分からないが、是非輝かしい未来に伸びて欲しいものだ。
俺はそんな事を思いながらカレンたちの後をゆっくり追った。
なんか釈然としないドラセナさんお説教回。
ホントだったらアドバイスとかしないで自分で考えろ的な事にしようと思ったらいつの間にかこのアリサマー。
もっと考えろよクソ作者だね。