精霊転生 ~転生したけど崩壊した現代でした~ 作:緒方 ラキア
渡された幻龍を抜刀し振ってる。ヒュン!と刃が空気を切る音が響く。
グランは陸道に扱いやすいように、しっかり合わせていた。
「問題ないな。」
「ありがとうございます。」
刃を鞘に納め、腰に差す。
不思議な気分だった。陸道は一度もこのような格好をしたことはなかった。なのに、以前にもこの格好で過ごしていたような気がする。
すると、見たことない景色が頭をよぎった。
様々な武器を持った他種族と精霊の中で先頭に立つ一人の
だが、急にひどい頭痛に襲われた。頭を押さえ蹲る。
「どうした?大丈夫か?」
「ええ・・・。」
しかし、頭痛は一瞬で治まった。同時に先程の記憶も思い出せなくなった。
最近、こんなことばかり起こる。
「ふむ。陸道、お主以前剣を振るった事はあるか?」
「・・・?、いいえ。」
一般人であった陸道は、今まで一度も刀など握った事などない。
だが、リトビとグランはそうは思っていなかった。先程剣を振るった時の動きが素人のようには見えなかったからだ。
「ふむ・・・。陸道、儂らと修行せぬか?」
「ハイ?」
「これから先、どんな危険なことに会うかわからんからの~。護身の心得ぐらいは身に付けておいたほうがいいと思うんじゃが。」
リトビの言うことは一理ある。そもそもグールに襲われ、倒すことができたのも奇跡に近いものであった。
あの時は、ただ力任せに振るった斧がグールの頭に当たり、そのまま吹き飛ばした。
おのずと答えは決まっていた。
「よろしくお願いします。」
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洞窟の裏には広く開けた場所がある。そこには木でできたぼろぼろなカカシが立てられていた。グランが作った武器を試す時に使っているらしい。
「試合形式で行う。グランの合図で始めるぞ、準備はいいか陸道。」
・・・やはり変な気分になる。
確かに自分は『小林 陸道』だ。しかし、今の姿は人間ではなく
木精霊になったため、彼の精神はすでに人間の時とは変わっていた。
自分はもう人間ではない。
ならば、名を変えよう。
『小林 陸道』の名を捨て、新たな存在になる決心をする。
「あの、これからは『リーフ』と呼んでくれませんか。」
当然ながら、二人は疑問に思う。陸道は続ける。
「今の自分は
二人は黙って聞き、うなずいた。
「そうか、よろしくな。リーフ!」
「儂も構わんよ。リーフ。」
なんだか嬉しかった。新しい自分を認めてくれたようで、無性に嬉しかった。
しかし同時に、親のくれた名前を捨てることに罪悪感を感じた。
彼は心の中で謝った。見えない両親に「すみません」と。
すると、グランの掛け声で修行は再開される。
「おっし!それじゃあ改めて、構えろ二人共。」
ルールは決闘スタイル、どんな手を使ってもいい。リーフは幻龍ではなくグランの失敗作の切れない刀を構える。対するリトビは何も持たず手を後ろで組み、その場に立つ。
「リトビさんは武器を持たないのですか?」
「儂はオリジナルの武術『
つまり、リトビは格闘家と言うことか。
「じゃからと言って、容赦はせぬぞ。リーフ!本気で来い!」
「はい!」
両者互いに気を引き締める。リーフは刀を強く握りしめ、リトビは相変わらず手を後ろで組み余裕な様子だ。
「・・・始め!!」
合図の掛かった瞬間、リーフはリトビとの距離を一気に詰める。
対するリトビは相変わらず手を後ろに組みながら静かに見ている。つまり動こうとしない。
リーフは刀を振るう。しかし、刀が届く直前に体をほんの少し動かしリトビはかわす。
初撃をかわされたリーフは追撃しようと体勢を整えようとするが、リトビはそれよりも速くリーフの腹に手を当て・・・
リーフは体をくの字に曲げ吹き飛んだ。
開始前の位置よりも後ろに転がる。何をされたのか理解できない。リーフは一撃をくらった腹を押さえながらも立ち上がるものの、予想以上のダメージで少しよろめく。
リトビの方を見据える。彼はリーフに手を向け、掛かって来いとこちらを挑発していた。
「おぉぉぉぉ!」
自分に気合いを入れ、再び距離を詰める。
先程よりも速く攻撃を繰り出す。しかしどれも当たらない。ことごとく避けられる。
リトビの動きには全く無駄がない。リーフの剣の動きを完全に捉えている。
リトビは素早くリーフの後ろに回る。しかし、リーフはリトビが後ろに回ることを予測していたため、刀を振ろうとするが。
リーフは反対の左腕を突き出した。しかも手は何故か銃のグリップを握る形であった。
当然ながらそんなことではリトビには当たらない。
今度はリーフの額にデコピンをくらわす。デコピンとは思えない一撃でリーフは地面を滑り倒れる。
「・・・そんな拳では当たりはせんよ。」
起き上がるがダメージが大きく、視界がふらつき立ち上がれない。
何故あのような動きをしたのだろうか。リーフは左手を見ながら考えるが、体が勝手に動いたとしか言いようがない。
「ほれ。考え事するよりも、掛かってこんか。」
リトビは余裕の表情でこちらを見ている。リーフは刀を杖にして再び立ち上がる。
「もう一度行きます。」
「来い!」
リーフは駆け出す、越えるべき大きな壁に向かって。
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三時間後、結局、一度も当てられないままカウンターをくらい続けたリーフの体力が限界を迎え、試合形式の修行は終わりを迎えた。
リーフは肩で息をして地面に大の字で転がっている。反対にリトビは最初と同じく、手を後ろで組みリーフを見下ろしていた。
そこにグランも歩いて寄ってくる。
「型は出来てるが、まだまだだなぁ。」
「じゃが、無駄な動きをなくせばまだまだ強くなれるはずじゃ。」
二人は互いにリーフの問題点などを指摘し合う。
だが、勝てるビジョンが全く浮かばない。
「もう日が暮れる、今日は終わりにしよう。」
「そうじゃな、ほれ立てるか?」
リーフは差し出された手を掴み立ち上がる。しかし、まともに歩くことが出来ずリトビに肩を貸してもらいながら、洞窟へと帰るのだった。
その夜は、リーフの歓迎会と称していつもより豪華な夕食を振る舞われた。リーフにとっては、今まで味の薄い病院食のチューブなど、まともな食事をしていなかったため、久しぶりの食事に思わず涙が出た。
その後は、保管していた酒をリトビとグランは飲み始めた。その際リーフも二人に無理やり飲まされ、顔が紅くなり、視界がぐるぐる回って、倒れたあとそのまま眠りについてしまった。
翌日、二日酔いで修行は中止になったのは、言うまでもなかった。
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「もう寝たか?」
「ああ。あれほどお前が飲ませたらの~。」
目がぐるぐるしているリーフを見下ろしながら、二人は言う。彼に動物の皮で作った毛布をかける。
二人は少し離れて、静かに飲みながら話始める。
「どう思った、リーフの動きを見て。」
「タイミング、型、癖、どれも『あいつ』に似ている。」
「ほぉ~。」
グランは確信を持って言う。
「俺が初めてこの鎧を脱いで本気で戦った奴だ。」
「・・・儂は『あやつ』のことは直接関わった事はないが、あの強さは知っておる。」
「間違えねぇよ。『あいつ』の武器だって俺が作ったんだ。動きがそっくりだったよ。」
「じゃが、『あやつ』は・・・」
「わかってる。リーフは『あいつ』じゃない。でもな・・・」
「・・・とりあえず、今はリーフを修行させて様子を見よう。過ちを繰り返さないようにの。」
「ああ、『あいつ』のようになるのは、もうごめんだ。」
夜は更けていく。二人は朝まで時間を忘れ、酒を飲みかわしていた。
リーフ「うぅ~・・・」
リトビ「お主があれほど飲ませるから。」
グラン「・・・すまん。」
リトビ「はぁ~・・・、今日の修行は止めじゃな。」
リーフは一日中寝込んでいた。