精霊転生 ~転生したけど崩壊した現代でした~   作:緒方 ラキア

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7話「名前と修行開始」

渡された幻龍を抜刀し振ってる。ヒュン!と刃が空気を切る音が響く。

グランは陸道に扱いやすいように、しっかり合わせていた。

 

「問題ないな。」

 

「ありがとうございます。」

 

刃を鞘に納め、腰に差す。

不思議な気分だった。陸道は一度もこのような格好をしたことはなかった。なのに、以前にもこの格好で過ごしていたような気がする。

すると、見たことない景色が頭をよぎった。

様々な武器を持った他種族と精霊の中で先頭に立つ一人の最上位木精霊(ツリー・エレメンタル)、そこにいたのは夢で見たのと同じ人物だった。

だが、急にひどい頭痛に襲われた。頭を押さえ蹲る。

 

「どうした?大丈夫か?」

 

「ええ・・・。」

 

しかし、頭痛は一瞬で治まった。同時に先程の記憶も思い出せなくなった。

最近、こんなことばかり起こる。

 

「ふむ。陸道、お主以前剣を振るった事はあるか?」

 

「・・・?、いいえ。」

 

一般人であった陸道は、今まで一度も刀など握った事などない。

だが、リトビとグランはそうは思っていなかった。先程剣を振るった時の動きが素人のようには見えなかったからだ。

 

「ふむ・・・。陸道、儂らと修行せぬか?」

 

「ハイ?」

 

「これから先、どんな危険なことに会うかわからんからの~。護身の心得ぐらいは身に付けておいたほうがいいと思うんじゃが。」

 

リトビの言うことは一理ある。そもそもグールに襲われ、倒すことができたのも奇跡に近いものであった。

あの時は、ただ力任せに振るった斧がグールの頭に当たり、そのまま吹き飛ばした。中位木精霊(アルラウネ)の身体能力がなければ、自分は死んでもおかしくはなかった。

おのずと答えは決まっていた。

 

「よろしくお願いします。」

 

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洞窟の裏には広く開けた場所がある。そこには木でできたぼろぼろなカカシが立てられていた。グランが作った武器を試す時に使っているらしい。

 

「試合形式で行う。グランの合図で始めるぞ、準備はいいか陸道。」

 

・・・やはり変な気分になる。

確かに自分は『小林 陸道』だ。しかし、今の姿は人間ではなく中位木精霊(アルラウネ)だ。

木精霊になったため、彼の精神はすでに人間の時とは変わっていた。

自分はもう人間ではない。

ならば、名を変えよう。

『小林 陸道』の名を捨て、新たな存在になる決心をする。

 

「あの、これからは『リーフ』と呼んでくれませんか。」

 

当然ながら、二人は疑問に思う。陸道は続ける。

 

「今の自分は中位木精霊(アルラウネ)です。人間の名を捨てて、新しい自分に変わろうと思うんです。」

 

二人は黙って聞き、うなずいた。

 

「そうか、よろしくな。リーフ!」

 

「儂も構わんよ。リーフ。」

 

なんだか嬉しかった。新しい自分を認めてくれたようで、無性に嬉しかった。

しかし同時に、親のくれた名前を捨てることに罪悪感を感じた。

彼は心の中で謝った。見えない両親に「すみません」と。

すると、グランの掛け声で修行は再開される。

 

「おっし!それじゃあ改めて、構えろ二人共。」

 

ルールは決闘スタイル、どんな手を使ってもいい。リーフは幻龍ではなくグランの失敗作の切れない刀を構える。対するリトビは何も持たず手を後ろで組み、その場に立つ。

 

「リトビさんは武器を持たないのですか?」

 

「儂はオリジナルの武術『限無覇道流拳法(げんむはどうりゅうけんぽう)』を使うのでな、闘う時はこの拳のみよ。」

 

つまり、リトビは格闘家と言うことか。

  

「じゃからと言って、容赦はせぬぞ。リーフ!本気で来い!」

 

「はい!」

 

両者互いに気を引き締める。リーフは刀を強く握りしめ、リトビは相変わらず手を後ろで組み余裕な様子だ。

 

「・・・始め!!」

 

合図の掛かった瞬間、リーフはリトビとの距離を一気に詰める。

対するリトビは相変わらず手を後ろに組みながら静かに見ている。つまり動こうとしない。

リーフは刀を振るう。しかし、刀が届く直前に体をほんの少し動かしリトビはかわす。

初撃をかわされたリーフは追撃しようと体勢を整えようとするが、リトビはそれよりも速くリーフの腹に手を当て・・・

 

リーフは体をくの字に曲げ吹き飛んだ。

 

開始前の位置よりも後ろに転がる。何をされたのか理解できない。リーフは一撃をくらった腹を押さえながらも立ち上がるものの、予想以上のダメージで少しよろめく。

リトビの方を見据える。彼はリーフに手を向け、掛かって来いとこちらを挑発していた。

 

「おぉぉぉぉ!」

 

自分に気合いを入れ、再び距離を詰める。

先程よりも速く攻撃を繰り出す。しかしどれも当たらない。ことごとく避けられる。

リトビの動きには全く無駄がない。リーフの剣の動きを完全に捉えている。

リトビは素早くリーフの後ろに回る。しかし、リーフはリトビが後ろに回ることを予測していたため、刀を振ろうとするが。

リーフは反対の左腕を突き出した。しかも手は何故か銃のグリップを握る形であった。

当然ながらそんなことではリトビには当たらない。

今度はリーフの額にデコピンをくらわす。デコピンとは思えない一撃でリーフは地面を滑り倒れる。

 

「・・・そんな拳では当たりはせんよ。」

 

起き上がるがダメージが大きく、視界がふらつき立ち上がれない。

何故あのような動きをしたのだろうか。リーフは左手を見ながら考えるが、体が勝手に動いたとしか言いようがない。

 

「ほれ。考え事するよりも、掛かってこんか。」

 

リトビは余裕の表情でこちらを見ている。リーフは刀を杖にして再び立ち上がる。

 

「もう一度行きます。」

 

「来い!」

 

リーフは駆け出す、越えるべき大きな壁に向かって。

 

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三時間後、結局、一度も当てられないままカウンターをくらい続けたリーフの体力が限界を迎え、試合形式の修行は終わりを迎えた。

リーフは肩で息をして地面に大の字で転がっている。反対にリトビは最初と同じく、手を後ろで組みリーフを見下ろしていた。

そこにグランも歩いて寄ってくる。

 

「型は出来てるが、まだまだだなぁ。」

 

「じゃが、無駄な動きをなくせばまだまだ強くなれるはずじゃ。」

 

二人は互いにリーフの問題点などを指摘し合う。

だが、勝てるビジョンが全く浮かばない。

 

「もう日が暮れる、今日は終わりにしよう。」

 

「そうじゃな、ほれ立てるか?」

 

リーフは差し出された手を掴み立ち上がる。しかし、まともに歩くことが出来ずリトビに肩を貸してもらいながら、洞窟へと帰るのだった。

 

その夜は、リーフの歓迎会と称していつもより豪華な夕食を振る舞われた。リーフにとっては、今まで味の薄い病院食のチューブなど、まともな食事をしていなかったため、久しぶりの食事に思わず涙が出た。

その後は、保管していた酒をリトビとグランは飲み始めた。その際リーフも二人に無理やり飲まされ、顔が紅くなり、視界がぐるぐる回って、倒れたあとそのまま眠りについてしまった。

翌日、二日酔いで修行は中止になったのは、言うまでもなかった。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

「もう寝たか?」

 

「ああ。あれほどお前が飲ませたらの~。」

 

目がぐるぐるしているリーフを見下ろしながら、二人は言う。彼に動物の皮で作った毛布をかける。

二人は少し離れて、静かに飲みながら話始める。

 

「どう思った、リーフの動きを見て。」

 

「タイミング、型、癖、どれも『あいつ』に似ている。」

 

「ほぉ~。」

 

グランは確信を持って言う。

 

「俺が初めてこの鎧を脱いで本気で戦った奴だ。」

 

「・・・儂は『あやつ』のことは直接関わった事はないが、あの強さは知っておる。」

 

「間違えねぇよ。『あいつ』の武器だって俺が作ったんだ。動きがそっくりだったよ。」

 

「じゃが、『あやつ』は・・・」

 

「わかってる。リーフは『あいつ』じゃない。でもな・・・」

 

「・・・とりあえず、今はリーフを修行させて様子を見よう。過ちを繰り返さないようにの。」

 

「ああ、『あいつ』のようになるのは、もうごめんだ。」

 

夜は更けていく。二人は朝まで時間を忘れ、酒を飲みかわしていた。




リーフ「うぅ~・・・」

リトビ「お主があれほど飲ませるから。」

グラン「・・・すまん。」

リトビ「はぁ~・・・、今日の修行は止めじゃな。」

リーフは一日中寝込んでいた。

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