精霊転生 ~転生したけど崩壊した現代でした~   作:緒方 ラキア

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6話「ファッションと日本刀」

「とまぁ、これがお主が眠っていた時に起こった事じゃ。」

 

陸道は静かに話を聞いていた。これで眠っていた時の出来事はわかった。

しかし、本当に信じられない。驚愕の事実だらけの話であった。

確かに、あの頃の事実上日本を支配していた大企業の上層部なら、更なる力を求めてあのような行動を取った事も納得してしまう。

ほぼこのような事態になったのは、人類側の失態だ。

 

「そしてお主の今の種族は、精霊族の『中位木精霊(アルラウネ)』じゃ。」

 

精霊族は階級がある。木精霊種には4つの階級がある上から、最上位木精霊(ツリー・エレメンタル)上位木精霊(ハイアルラウネ)中位木精霊(アルラウネ)下位木精霊(ドリアード)に分類される。

上位種になるほど強くなり、触手の数も増え、髪も緑に染まってゆく。

この緑髪には葉緑体があるため、木精霊種は光と水があればある程度食事をしなくてもいいらしい。しかも、最上位木精霊(ツリー・エレメンタル)は全く食事をしないと言われている。

だが、陸道には緑髪は何処にもない。いや、前髪のほんの一部が緑がかっているのだが。

それは、彼が『黒髪(ノワール)』だからだ。

黒髪(ノワール)とは、精霊族でありながら髪が黒い者達のことである。

本来ならば、それぞれの精霊族の髪色は、火精霊種なら赤、水精霊種なら青、のように特有の色になるのだが、稀に日本人のような黒髪の精霊が産まれるのだ。数が少ない為大変珍しい存在とされている。

 

「ええ。色々分かりました。」

 

「そうか。して、お主はこれからどうするつもりじゃ?」

 

リトビはそう尋ねた。

確かに、自分はこの世界がどのようになっているのか、全く知らない。

グランは「ここにいても問題ない。」と言ってくれるが、ふとその時になって、家族の事を考えたのだ。

陸道の心は決まった。

 

「世界を見て周りたいと思います。」

 

リトビとグランは、陸道を鋭く見つめる。まるで覚悟はあるのかと語っているようであった。

そして、二人は陸道に告げる。

 

「この世界はお主の考えているよりも、厳しく、理不尽な世界じゃ。」

 

「生半可な覚悟じゃ、痛い目見る事になるぜ。」

 

「「それでもいいのか。」」

 

二人が言うことはもっともだ。たとえ家族を見つけたとしても、今の自分を受け入れてくれるとは限らない。

それでも、自分なりのけじめを付けたい。

陸道は、二人を真っ直ぐに見て、言い放つ。

 

「覚悟は出来ています!」

 

二人は陸道をじっと見つめ、やがてフッと口を緩めた。

どうやら、陸道の覚悟が伝わったようだ。

 

「そうと決まれば、まずは服を探さんとな。」

 

「じゃな。」

 

「へ?」

 

陸道は改めて、自分の姿を見る。

そう、彼が着ていたのは手術着である。しかも、グールから逃げ回った為、所々破けていた。当然下着を着けていない。

 

「ひっ!?」

 

思わず手で胸と下を隠す。胸を隠すのは必要ないはずだが、身体は勝手に動いていた。

 

「お前、反応がいちいち、女っぽいな。」

 

グランとリトビは笑い、陸道は羞恥で顔を赤くして俯き座り込んでしまった。

 

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洞窟を出て、再び森の中を歩く。先頭をグランが進み、リトビと陸道がそれに付いていくという形だ。

すると森を抜けた先に広がっていたのは、住宅街であった。

天変地異によってほとんどの町が崩れ去る中、ここは、比較的被害の少なかった数少ない場所であった。

その中の一軒に三人は入った。

 

「よし。とりあえず、向こうから探すからちょっと待ってろ。」

 

そう言って、二人は外の他の民家だった所に入って行く。

何でもここは貴重な場所で、二人の服もここから調達しているらしい。広く空いた土地には、野菜を育てており、実に充実していた。

しばらくすると、二人は両手に大量の服を持って来た。

 

「とりあえず、要望の下着じゃ。」

 

二人は丁寧に種類を分けて、フローリングに重ねて並べた。

まずは、下着からと見たが、

 

「何で女物ばっかりなんですか‼」

 

ほとんどが女性用の下着であった。容姿は女だが、精神と身体はれっきとした男である。

 

「いや~、似合うと思って。」

 

グランの悪ふざけであった。

当然陸道は男性用を着る。

次は服だ。

しかし、かなりの種類がある。こんなに状態が良いものが残っていたとは信じがたい。

 

「とりあえず、これなんてどうじゃ?」

 

見せたのは、リトビと同じ黒い中華服。動きやすくて良いかもしれないと思うが。

ペアルックになるため、遠回しに断る。

 

「じゃあ、これだろ。」

 

「ぶっ!?」

 

グランが見せたのは、フリルの付いたゴスロリメイド服であった。正直、着ている自分を想像するだけで、鳥肌が立つほど恐ろしい。心から却下する。

それによく見ると、持って来た服は全てコスプレ服であった。

観たことあるアニメキャラの服やオリジナルの服だらけだった。

 

「この服何処から持って来たんですか!?」

 

「向こうの家に地下室があってな。そこから持って来た。」

 

グランはそう答えた。

おそらく、その家の住人は隠れてコスプレをしていたようだ。しかも、地下室まで作るなんて、どれだけ見られたくなかったのだろうか。

聞けば、二人は動きやすくサイズが合えばそれでいいらしい。人間の価値観が違うため、他種族のほとんどがそう思っているそうだ。

 

「他に何かないんですか?」

 

陸道は服をかき分けてまともなものがないかと探す。

セーラー服、メイド服、戦隊ヒーローの衣装、アイドル衣装、ケモ耳フード、宇宙服、チャイナ服、学生服、悪魔の衣装、看護服、などなど、様々な衣装だらけだ。

もうダメかと思った時、手に取ったのは緑の着物と群青色の袴。

陸道は、自然と手に取ったそれらを見る。実に美しい。気付かぬ内に陸道は袖を通していた。

陸道は袴を着たことはほとんどないはずなのだが、自然と着付けが出来ていた。

数分後、袴の帯を締め、鏡を見る。

 

そこには、美しい精霊が映っていた。

 

改めて見ると本当に女性に見える。男性であることが信じられないほどに。後ろ髪を触手で縛って、ポニーテールにしているのも理由の一つだ。

ともかく、服はこれでいくことで落ち着いた。

残ったコスプレ服は、元の場所に戻しておいた。その方が持ち主の為だろう。

 

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服が決まり、その後は自由行動となった。

二人は、ここらに落ちているがらくたを集めるからと言って、何処かに行ってしまった。夕暮れまでには戻ると言っていたので大丈夫だろうが、陸道はすることがなく、この辺りを探索することにした。

目に映る住宅は、誰もいない。聞こえてくるのは、虫の囁き、風の音、その風で揺れる草花、かつてのネオ東京では、どれもが失われたもので溢れていた。

しばらく歩いていると、大きな屋敷が見えてきた。

陸道は気になって、屋敷の門をくぐり敷地内に入った。

中はまるで時代劇に出てくるような感じであった。しかし、所々屋根瓦が落ちていたり、庭園の石灯籠は崩れ、池にも落ち葉がたまっていた。

陸道は、離れた場所にある建物に向かった。中に入るとそこは、畳が敷き詰められていた。棚には竹刀と防具がある。

つまりここは、道場である。

誰もいない道場の中を歩く。すると、一つの畳の所を歩いた時、違和感を感じた。

気になって陸道は、その畳を外した。そこには、床板に取っ手が付いており収納できるようになっていた。

取っ手を持ち、中を確かめる。そこには、細長い檜の箱があった。

箱を開け、そこに入っていたのは、日本刀の刀であった。

黒曜石のように黒い刃、対照的に刀紋は銀色に輝きを放つ。実に見事な一品であった。

刀銘には、『幻龍』の文字が彫られていた。

 

「かなりの一品だなぁ~、これ。」

 

持ち帰った刀を陸道はグランに渡して、詳しく鑑定してもらった。

陸道は、この刀を使いたいと考えていた。他人の物を勝手に使うことに、後ろめたさを感じたが、前のようにバケモノに襲われた時のために武器を持っていたかった。持ち主には悪いが、使わせてくださいと心の中で祈った。

 

「お前さんがそう言うとは、相当な代物のようじゃな。」

 

グランはかなりの腕で、かつては有名な鍛冶貴族の一人であったと言われていた。現在は、何故かこの地で自分の武器を作っているらしい。

全てを捨ててここに来たと彼は言っていた。

 

「陸道、お前が使うなら俺が鞘と柄を付けて完全なものにするが・・・良いか?」

 

グランの表情は見えないが、今にも完全なものにしたいと、すごく楽しみな様子であった。

陸道は了承し、すぐに作業に取り掛かった。その様子は、とても生き生きとしていた。

数分後、一つの名刀が陸道に手渡された。

 

「こいつが、お前の刀。黒斬剣『幻龍(げんりゅう)』だ!」

 


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