精霊転生 ~転生したけど崩壊した現代でした~ 作:緒方 ラキア
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逃げ惑う人々の叫び声が響く。見慣れた町が燃えている。
(何だこれは・・・)
自分の住んでいた町が炎に包まれている。たくさんの死体が地面に転がっており、ライフル銃は捨てられ、剣が地面に突き刺さり、血に染まる大地の中で激しい戦いが繰り広げられている。
国防軍隊員が銃を撃ちまくる。だが、その隊員達は斬られ倒れた。
見たことのない種族達が武器を振るう。しかし、放たれた弾丸が突き刺さり命を散らす。
信じられない。何故ここが戦場になっている?
あの平和だった光景は何処にいってしまったのだろう。
あちらこちらで人と人外種族が吹き飛ぶ。命がどんどん消えてゆく。
涙が溢れてきた。何故こんなことになる。何故争わなければならない。
ふと、後ろから音がした。振り返ると、そこには人外の二人がいた。
一人は言うなれば、全身が真っ黒な影のような存在だった。明らかに人間ではない。虚無から出てきたような黒い姿は、何処にも隙がない。両腕は鋭く尖っており、触れただけで全てを切り裂けそうな剣になっていた。
もう一人は、男性だ。人間の姿に似ているけれどもうなじからは8本の触手が生えており、美しい白金色の瞳、新緑の若葉のような緑色の逆立った髪は帰り血によって本来の輝きを失っている。着ている着物と袴は所々破れ、満身創痍のような格好だが、その目は鋭く決して諦めたという感情はなかった。
(いったい誰だ?)
緑髪の男が口を開いたが、何を言っているのかわからない。
話を聞こうと一歩踏み出した途端に、足元が崩れ落ち手を伸ばすがそのまま闇へと落ちてゆく。
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「はっ!?」
陸道は跳ね起きた。荒い息を吐き、体を落ち着かせる。
今の夢は何だ?まさかあの光景は自分が眠っていた時の光景なのか?
「起きたかの?」
隣から声が聞こえたため、陸道は咄嗟に振り向くが左腕に激痛が走る。
「落ち着け、まだ治りきってないのじゃから。」
話かけてきたのは中華服を着た仙人のような男性であった。
真っ白な髪と髭、そして頭から生える二本のウサギ耳・・・ウサギ耳!?
「おお!起きたか若いの!」
洞窟の入口から来たのは、一言で言うなら巨大な鎧であった。失礼な感じだと、関節の動く土偶だろうか。
どちらにしろ、二人の正体が全くわからない。何者だろうか。
「いきなり、基地跡の方からすごい音がしたから二人で見に行ったら、お前が出てきてその場で倒れるもんだから驚いたぞ。」
「その後、この洞窟内まで君を運び込んで出来るだけの手当てをしたという訳じゃ。」
どうやら、この二人は倒れた見ず知らずの陸道をここまで運び、怪我の手当てまでしてくれたらしい。
よく見ると包帯が巻かれていた。
この二人は悪い人(?)ではないようだ。
「あの~助けていただき、ありがとうございます。」
「何、あのまま放って置いたら他の『ゴブリン』とかに襲われていただろうしのー。」
・・・えっ?ゴブリン?ゴブリンってあのゲームやファンタジーの世界に登場するモンスターのことか?
「しっかし、おめえさん。よく『グール』に襲われて無事どころか『グール』を倒しちまうとは、黒髪(ノワール)なのにやるじゃねぇか!」
鎧は背中をバシバシ叩きながら自分を褒めているようだが、陸道には知らない単語がありすぎて全く理解が追いつかない。
「これ!止めんか!まだ、治りきってないんじゃぞ!」
「おお、悪い悪い。けど、こいつ中位木精霊(アルラウネ)だからもう安心だろ。」
がははと笑う鎧、それを呆れたとばかりに頭を押さえるウサ耳仙人。
このままでは話についていけない。そう思い二人に疑問を投げかける。
「あの!・・・」
二人は急に声をかけてきた自分の方を向いた。
「とりあえず、ここはどこなんですか?日本だった形跡はあるのに森に包まれているし、明らかにあなた方は人間ではないようですし、他の人間はどこに行ってしまったのでしょうか、そもそも自分はなんでこんな姿になってしまったのでしょうか、えっと後は・・・」
だめだ、疑問が多すぎて話たいことがまとまらない。
目の前の二人は互いに顔を見合せ、首を傾げた。
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とりあえず、まずは互いのことを知るために自己紹介から始めることとなった。
「じゃあ、まず儂からいこうかの。」
「儂の名はリトビ・カルネル。ラビット族じゃ。好きな方で呼んでかまわんよ。前はここから遠く離れた都市にいたのじゃが、国外追放されて今はここで暮らしておる。わからんことは後で聞こう。」
はっきり言って名前しかわからん。まあ後で聞くとしよう。しかし、予想よりもハードな人生を歩んでいるようだな。国外追放って・・・何やらかしたのだろうか?
すると、雄々しい声が思考を遮った。
「次はオレだな。」
「オレはグラン・クォーツ。気楽にグランって呼んでくれ!この洞窟で武器を作っている。といっても、最近はガラクタ集めてるだけだがな。そこのじいさんとは違って自分の意思でここに住んでるぜ。それにここもオレが先に住んでたんだぜ。」
大きい声で自慢気に自分のことを語るが、やはり名前しか理解できない。
しかも、こんな所で武器作って何の意味があるのだろう?自分かリトビさんぐらいしか使わないだろ。
「さて、そろそろ主のことを教えて貰おうかの。」
二人の興味津々という視線が突き刺さる。
その時ふと思った。自分が人間だったとこの二人が聞いたら、一体どのように見られるのだろう?
この二人は明らかに自分を人間のように思っていない。
むしろ、人間じゃないからこそ優しくしてくれるのではないのか。
怖い。
彼の今まで押さえ込んでいたこの世界にたった一人でいた時の不安と絶望、寂しさが溢れ出そうだった。
「おい!どうしたおめぇ?」
「えっ?」
気づけば涙が溢れ出ていた。止めようとするが次々と流れ出てくる。
「何かあったようじゃの。」
「そうみたいだな。若いの、一回全部吐き出してみたらどうだ。」
「ゆっくりでも良い、儂らに話してくれんか?」
この二人は本当にお人好しのようだ。今日会っただけの自分にここまでしてくれるなんて。
気づけば陸道はこれまでのことを包み隠さず話始めていた。
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当然ながら自分の話を聞いた二人は驚いた様子であった。
リトビは細い目を目一杯に開き、赤い瞳が見えていた。
グランの方は鎧を纏っているため、表情を読み取ることはできない。しかし、腕を組みながら陸道の話を聞いていた。
話終わると二人は最初に会った時と変わらず、陸道に話かけてきた。
「そうか・・・なんと言っていいかわからんが、儂らは主をに危害をくわえるつもりはない。だから、安心してくれ。」
リトビは優しく言葉をかける。それが陸道の心を落ち着かせていった。
「しかし、まさか転生者だったとはなぁ~。木精霊族に転生したヤツ、オレ始めて見たぞ。」
「それは儂も同感じゃの~。」
説明によると、転生者とは一度死んだ者が違う人間、別の種族になって生まれ変わることで、アニメや小説にあるような違う世界に生まれるという訳ではないらしい。
正直、異世界転生に少し憧れていたためなんだか裏切られたような気分に陸道はなった。
しかし、転生するとほとんどの者は、記憶はリセットされ何も覚えていないらしい。だが稀に、生前の記憶を持ったまま転生することがあるらしい。
実際、そういう現象があるとテレビ番組の特集で観たことはあった。
そして今回、陸道が転生したのは精霊族と呼ばれる珍しい種族だそうだ。
二人は気楽に言うが、今まで前例がないことで、人間が精霊に転生することは不可能と言われている。
つまり、陸道は生前の記憶を持った精霊に転生した大変珍しい存在なのだ。
「しかしよ~じいさん、あのこと本当に話していいのか?」
「いずれ嫌でも知ってしまう事実じゃ、今話した方がいいじゃろ。」
二人は話し合い、陸道に告げた。
「陸道、主が最初に言っていた質問について何もかも偽りなく語ろう。」
「まず、今この世界にいる人間達は、主が眠っている間に総人口の3分の2が他種族との戦争によって滅ぼされてしまった。」
「そして、その他種族を率いていたのが、主の今の種族である木精霊族達なのじゃ。」
~涙を流す陸道を見て~
グラン「なんか女の子泣かしたみたいな気分だ。」
リトビ「同感じゃ。」
ちなみに男だとゆうことは知っています。