精霊転生 ~転生したけど崩壊した現代でした~   作:緒方 ラキア

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2話「状況把握」

「ん・・・」

 

陸道はゆっくり重い瞼を開いた。見たことのない天井だ。

そして起き上がろうとをするがうまくいかず、そのまま転げ落ちてしまった。

右足を動かしたはずなのに左足が動いた。まるでゲームの方向キーを反転させたみたいで気持ち悪い。

立ち上がり周りを確かめる、精密機械が辺り一面に散らばっていた。機械に詳しくないがもう使えないと自分でもわかる。

壁の塗装は剥がれ全体的に見れば廃墟の中にいるようであった。

 

ここはどこだろうか。

自分は確かトラックに轢かれ、死んだ筈では・・・。

 

とりあえず、ここにいてもどうにもならないと思い部屋を出ることにする。

その為扉の前に立つが開かない。廃墟の自動ドアが壊れているのは当然であることはわかっていたが、建物のほとんどが自動ドアになった世界によって便利な生活に慣れきっていたためこのようなことをしてしまった。

 

扉を手でなんとか開ける。

まだ体の調子がすぐれないためふらつきながら歩く。

すると、奥に鏡があることに気付いた。

 

目覚めてからまだ自分の顔を見ていなかった。

そして、今更ながら自分の姿を確認する。今着ているのは手術着だけであった。当然下着は履いていない。

まあ、起きたら性別が変わっていたなんてことはなかったがこれは恥ずかしい。後で下着を探さないと。

鏡は多少ひび割れているものの、問題はなさそうであった。

そして鏡の前に立った。

 

「・・・ん!?」

 

そこに映っていたのは、かつての自分の顔ではなかった。

これといった特徴のないごく普通の顔立ちであった筈だ。

だが、今映っているのは・・・

 

中性的な顔立ち。ぱっちりした黒い瞳。白磁のような日焼けのない肌。濡れたカラスの羽のような腰まで伸びた黒髪。

 

そう、どう見ても超絶美人な顔に変わっていた。

 

「誰だこれーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

彼の絶叫が廃墟に響き渡った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

彼はソファーに頭を抱えながら座っていた。

鏡に映ったのが自分だと理解するのに、時間がかかった。今でも信じられないが。

元々、桜からあんまり男っぽくない声だね~とは言われていた。だが今回は別であった。

なんとか落ち着き調べ回ったところ、この廃墟がどこなのかわかった。

 

ここはネオ東京中央病院であった。

 

先程、彼が眠っていた部屋は救急医療設備の揃った救急治療室だ。壊れていたが、彼は生命維持装置であるカプセルの中で眠っていた。

おそらく、事故の後で運び込まれてここで治療を受けていたのだろう。

そして自分の傷が深かったから生命維持装置に入れられた。

ここまでは推測できた。だが、なぜ眠っている間にこのような廃墟になったのかわからない。

しかし、頭を抱える理由はそれだけではなかった。

 

うなじから緑色の触手が生えていた。

 

先程は、分からなかったがよく見ると生えていることに気付いたのだ。

明らかに異常だ。もしかしたら、自分が人間ではなくなってしまったのではないだろうか。

こんな姿では捕らえられ、実験台にされるかもしれない。

 

そういえば、他の人達はどこに行ったのだろうか?

廃墟だから誰もいないのは普通だが、いったいいつからここはこうなってしまったのだろう?

いや、そもそもなぜ外にも人の気配がないのだろうか?

明らかおかしい。

彼は外はどうなったのかと思い、外の景色を見るため立ち上がり、病院のエントランスに向かった。

 

入口の自動ドアは開いたまま壊れていた。そして外に出た。

そして、そこは自分の知っている景色ではなかった。

 

ビルは倒壊し、道はひび割れ、ところどころ隆起していた。

ネオ東京はまるで巨大地震に見舞われたような惨状であった。

だが、それだけではなかった。

木が生えている。

ネオ東京はほとんどがビルなどであり、植物などはなかった。

そもそも近代化が異常に進み、大きく発展した日本は主要な町などはほとんどがビルやアスファルトに覆われた。

そして日本を発展させた象徴であるのは『軌道エレベーター』である。

地球の大気圏上空に設置した太陽光パネルによって世界のエネルギー問題を解決し、莫大な利益を得た。

だが、その象徴は途中でポッキリ折れていた。

そして、今目に映る世界はまるで人類がいなくなって地球が本来の自然溢れる姿に戻りつつあるようであった。

 

だが、そんな異常事態にも関わらず彼は感動していた。

 

世界が発展すればするほど、動植物の多くの種が絶滅した。

彼はこの自然に溢れた世界が好きだったのだ。

そして、もっとこの自然を見てみたいと思い、すぐさま行動に移った。

 

院内に残っていたぼろぼろのスニーカーを履き、わずかに残っていた水と食料をリュックに入れる。そして見つけた鉄パイプを手に持つ。

そして、病院に別れを告げて歩き出した。

 

この先に、とてつもない困難が待ち受けていることを彼はまだ知らない。

 

 

 


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