精霊転生 ~転生したけど崩壊した現代でした~   作:緒方 ラキア

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25話「夢の中で」

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真っ白な世界にいつもの姿でリーフは立っていた。

地面も空も、何もかもが真っ白な空間だ。

確か夕食を終えるやいなやベッドに直行して眠りについた筈なのだが。

 

「また夢か。」

 

最早明晰夢を見る事が日常的になっていた。

 

「今度はどんな夢なのか。」

 

「・・・教えてやろうか。」

 

誰もいないと思って呟いたのだが、突然後ろから聞こえた声に驚く。

咄嗟に飛び上がり距離を取ると、声の方に向き直り鞘に手を掛けいつでも抜刀できる態勢を取る。

そこにいたのは、薄い緑色の着物と青い袴、灰色の羽織を身に纏った男性、リーフの夢の中でたびたび出てくる最上位木精霊(ツリー・エレメンタル)が正座していた。

以前ならば顔は陰になるか後ろ姿でしか見たことがなかった為、こうしてはっきりと顔を見る事は初めてだった。

まさかの人物にどうしていいのかわからず固まっていると、相手は普通に話てくる。

 

「・・・そんなに警戒するな、まずは座ってくれ。」

 

言われるがままにリーフはその場で正座し、謎の最上位木精霊(ツリー・エレメンタル)に向き合う。

だが、彼の白金色の瞳は全てを見透かされているようで何処か落ち着けない。

 

「・・・まず最初に言っておく、今はお前が考えている質問には答えられない事を理解して欲しい。」

 

()()という事はいつかは話してくれるのですか?」

 

「・・・あぁ、時が来ればな。まだその時ではない。」

 

とても落ち着いた物腰で最上位木精霊(ツリー・エレメンタル)は話を続ける。

 

「ところで、あなたの名前は何と呼べば?」

 

「・・・そう言えばまだ名乗っていなかったな。」

 

 

「我が名はフォレス、『フォレス・セラ・グラース』だ。」

 

 

何故かリーフは彼の名前を初めて聞いた気がしなかった。

しかし、改めてフォレスを見ると・・・

 

『何だこのイケメンは』の一言だ。

 

顔が整っているというレベルじゃない、もう完成されていると言っても良い、しゅっとした目付き、健康的である肌、顔つきの黄金比、全てにおいて完璧(パーフェクト)

同性どころか異性も自信を無くさせるには十分すぎるほどだ。

だが、先程から表情が全く変わらない為、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。

その所為かフォレスの感情を読み取る事が出来ない。

 

「(しかし、なぜ私はこの人を父親と勘違いしたのだろう?)」

 

どこをどう見ても本当の父親の「小林 淳一郎(こばやしじゅんいちろう)」とは全く別人だ。

別というよりも真逆と言った方が正しい。

そもそもリーフ・・・もとい陸道の父親の容姿といえば、低身長、童顔、高めの声など、四十代後半にも関わらずどこからどう見ても、中学生にしか見えない姿だった。

ひどい時は高学年の小学生に間違えられたり、怪しい奴に誘拐されそうになったり、陸道が父親に間違えられたりと笑える事から笑われない事まで色々凄まじい人だった。母は至って普通なのにどうしてだろう。

おまけに陸道よりも上の大学をトップの成績で卒業していると、相当ハイスペックな人だ。

 

「?・・・どうかしたか?」

 

「いえ・・・ちょっと色々思い出して。」

 

「・・・まあ良い、どうせすぐ他の事なんて考えてる余裕無くなるしな。」

 

そしてフォレスはゆっくり立ち上がり、腰に身につけている黒い日本刀に手を伸ばす。

フォレスが柄に手をかけたその時だった・・・

 

これまでに感じた事の無いほどの、おぞましい殺気がリーフに突き刺さった。

フォレスの目付きが鋭いものに変わり、雰囲気も一変する。

 

咄嗟に立ち上がり後退して抜刀するも、フォレスに突き付けた剣先は恐怖のあまり震えが止まらず、カチャカチャ音をたてる。

額からは冷や汗が滝のように溢れ、呼吸も安定しない。

 

「(リトビとグラン同等・・・いや、二人以上!?)」

 

「そんなに驚く事はない。これから始まるのはただの稽古(・・・・・)だ。」

 

感覚を鋭くする修行の一環でリトビとグランの殺気を感じ取る修行をしていた。

二人がどれ程本気を出していたのかわからないが、フォレスの殺気は遥かに凌駕している。

とてもこれから稽古が始まるとは思えない。むしろ確実に殺さんとしているようにしか見えない。

 

「・・・いくぞ。」

 

そう言うとフォレスは刀を抜き・・・

 

一瞬でリーフの目の前に移動した。

突然現れた刀を降り下ろさんとしているフォレスに驚くも、反射的に命の危険を感じたリーフはバックステップをとり、幻龍で受け止めようとしたが、降り下ろされた刀を受け止められず、左胸に一本の傷が入る。

 

「ぐぁっ!?」

 

夢の中にも関わらず、痛みを感じ血が吹き出したリーフはヨロヨロとフォレスから離れる。

咄嗟のバックステップで傷は比較的浅かったものの、あと少し遅れていたら真っ二つになっていたことは間違いない。

 

「夢だから安心しないほうがいい。痛みもちゃんと感じるし、現実とそう変わらない。」

 

そう言って構え直し、刃を突きつける。

 

「この剣・・・『琥麟珀』でお前を斬る。」

 

フォレスの持っている日本刀は非常に美しい業物だ。何よりも特徴的なのは、刃が金色に輝く不純物の全くない宝石の琥珀であるのだ。

そして再びフォレスは駆け出した。

リーフもより一層気を引き締めて刀を振るい、両者の刃が火花を散らしながら斬りつけ合う。

明らかに琥珀とは思えない強度だ。

 

「(あり得ない!?夢の中だからか?それとも魔法か?)」

 

本来琥珀の硬度は2~2.5で柔らかく爪で簡単に傷がつけられる宝石だ。決して日本刀の刃にするようなものではない。

にもかかわらずフォレスの琥麟珀はリーフの幻龍と互角の強度を持つ。

リーフは詳しく知らないが、幻龍の素材には特殊な鉱石と希少金属のアダマンタイトが使われているのだ。

激しい攻防が続いているように見えるが、二人の差は歴然であった。

フォレスはスケートリンクを滑るかの如く身を動かし、一切の無駄の無い剣捌きでリーフを圧倒する。

対してリーフはフォレスの攻撃を受け止める事がやっとで、幾つかは受け流せずダメージは確実にリーフに蓄積している。

 

「何故こんな事を?」

 

そんな中、リーフはフォレスに尋ねた。

 

「お前が・・・弱いからだ。俺達の力(・・・・)を承け継いでいながら、何だその様は?」

 

俺達(・・)?」

 

「余計な考えは捨てろ。一つでも多く動きを覚えろ!」

 

乱暴にそう言うとリーフを蹴り飛ばし、鋭い突きをリーフに繰り出す。

身体を捩るり紙一重で避ようとするも、予想よりも体力が落ちており、回避出来ず胸と左肩に三ヶ所、脇腹に二ヶ所刺され血が流れ出るが、フォレスの猛攻は止まらない。

現状を打開すべくリーフは攻撃を受け止めながら器用に左袖から苦無を取り出す。

そしてすぐさま後ろに下がり投擲しようと左腕を振り上げた。

 

ザシュッ・・・カランカラン

 

しかし苦無がフォレスに届く前にリーフの手からこぼれ落ちる。

フォレスの琥麟珀がリーフの手首を貫いたのだ。

 

「遅い、遅すぎる。」

 

「くっ!」

 

苦無が使えないならばと紐リボンの代わりにしていた触手をほどき、フォレスの顔面目掛けてしならせる。

しかしフォレスはいとも簡単に避けると柄を強く握りそのまま勢いよくリーフの手を手首から切り裂いた。

 

「ァァァアーーーーー!!」

 

真っ二つに裂かれた部分から止め処なく血が流れ、右手の幻龍も落としてしまう。

止血せんと激痛を耐えながら右手で左手首を強く掴み、思わずその場で膝をついて蹲る。

だが、負傷したリーフにフォレスは一切容赦する筈もなく、蹲るリーフの腹に止めといわんばかりの蹴りを放つ。

体がくの字になりながら十メートル近く蹴飛ばされ、数回バウンドした後腹からこみ上げて来た大量の血を吐き出し汚れた地面に転がる。

 

フォレスは幻龍を拾い上げると、血の水溜まりに沈む満身創痍のリーフに投げた。

まだ戦えと言う事なのだろう。だが起き上がろうとするほど傷口から血が流れ出る。

目線だけを動かすと、フォレスがゆっくり歩いてくるのが見えた。

 

「(これで二度目か。)」

 

人間時代、自分がトラックに轢かれて血の海に沈んでいた時と同じような状況に陥っていた。

あの時よりも出血量は多い筈なのだが体は動かないものの意識はおぼろげながらあった。夢だからなのか、あるいは木精霊だからなのか。

 

だが、もうそんな事はどうでもよくなってきた。

このままフォレスに止めを刺されるのは明白。

それに止めを刺されれば夢も終わる。

 

 

 

ーー本当にそうか?

 

 

 

フォレスは死なないとは一言も言っていない。ただ自分が思い込んでいただけではないのか。

恐る恐る視線をフォレスに動かす。

彼はゆっくりこちらに向かって歩いてくる。

血を滴らせる琥珀の日本刀を持って近づいてくる姿は今のリーフにとって、大鎌を携える死神と変わらなかった。

 

「(動け!動け!動け!!)」

 

先程とは打って変わり必死に立ち上がろうとするが、満身創痍の体は言うこと聞かない。

やがてフォレスはリーフの元までたどり着くと、乱暴に蹴りあげ仰向けにする。

フォレスと目が合う。

やはりこちらを見下ろす白金色の瞳は読み取れず、失礼な言い方だが感情が抜け落ちているようだ。

フォレスは琥麟珀を両手で持ち、ゆっくりと振り上げる。

目を凝らすと琥珀の刃全体に文字が刻まれていた。おそらく魔力を流すことで琥珀の強度を底上げしているのだろう。

リーフの幻龍が魔力を流すことで切れ味を上げているのと同等の原理だ。

 

 

 

ーー死ぬ

 

 

 

ーーこんなところで?

 

 

 

ふと自分の声が聞こえた。

 

 

 

ーー・・・まだ死ねない。

 

 

 

ーーまだ誰も見つけていない。

 

 

 

リーフの脳裏にある人物達が浮かぶ。

 

見た目子供の癖に頭の切れる父親、包丁一本あれば大抵の料理を作れる母親、しっかりものの癖に寂しがりやな妹、そして自分を一途に思っていた幼馴染み。

 

 

大切な家族を見つけるまで絶対に死ねない。

体の奥底から何がこみ上げてくる。

 

 

ーーだから・・・

 

 

フォレスの刃がリーフに振り下ろされ・・・

 

 

 

 

 

 

「ここで死んでたまるかぁあぁぁぁーーーーーーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

リーフは叫ぶとうなじの二本の触手を伸ばし、フォレスの手首に絡ませる。

僅かに体を起こし振り下ろされた斬撃を避け、触手を捻りフォレスを背負い投げのように投げ飛ばす。

出来るならばそのまま刀を奪いたかったが、流石にそう上手くはいかない。

フォレスは空中で一回転したが、ふわりと着地しリーフに向き直る。

歯を食い縛りながら起き上がってすぐ、リーフは転がっていた幻龍を拾い上げ、全速力で駆け出した。

 

「オォォーーーーー!!」

 

雄叫びに近い声を上げながらフォレスに迫って行く。

すると、駆けているリーフの体から薄い緑色の光が纏い始め、身体の奥底から限界を越える力が溢れてくる。

その光を見た途端、今まで全く動かなかったフォレスの表情に僅かだが驚きが浮かんだ。

リーフの降り下ろした幻龍の刃が見えなくなる。

実際に消えたわけではなく、あまりにも速い為、あたかも消えたように見えるのだ。

要領は限無覇道流の無影龍脚と同じであり、あえて名付けるならば無影龍脚の剣技版、リーフのオリジナル技『無影斬』。

フォレスは表情を無にして、リーフの無影斬を紙一重でかわす。

だが、リーフは更に苦無を持たせた触手をフォレスに向ける。

 

ここぞとばかりに幻龍と二本の触手で攻撃を繰り返す。

けれども、フォレスは紙一重で避け続ける。

ここにきてわかった事は、フォレスがまだほとんど全力ではない事だ。

 

“この人は遥か高みの場所にいる”とリーフは率直に感じ取った。

 

残念ながらどういうわけが限界を越えた今のリーフでも、フォレスとの差を縮めることは不可能。

だが、リーフは諦めようとしない。むしろこの戦いを楽しんでいる自分がいる。

どうやら強者を目の前にして、戦えることが相当嬉しいらしい。

人間の頃はそんな漫画やアニメの主人公みたいなキャラじゃなかったんだが。

戦闘バカは伝染(うつ)るようだ。まあ大方リトビあたりだろう。

刀を持つ手が自然と強くなるにつれ、触手も斬撃も加速する。

 

だが、不意にリーフの見えている景色が歪み始める。

リーフは攻撃を一端止めフォレスから距離を取って片膝をつく。

 

「(血を・・・流し過ぎたか?)」

 

チラリと地面に目を向ければ、白い地面がリーフの流血で筆で文字を書いたように汚れていた。

出血量からして、何時出血性ショックを起こして死んでも可笑しくない量だ。

 

「(・・・この一撃に賭ける!)」

 

意を決してリーフはよろけながらも立ち上がり、フォレス目掛けて一本の苦無を持つ触手を伸ばす。

しかし、フォレスは触手の動きが見えているようで、またかわそうとする・・・だがそれは予測通りだ。

 

「(掛かった!)」

 

リーフは直前になって触手を折れ曲がるように向きを変えた。

そして苦無はフォレスの雪駄に突き刺さった。

すでに重心を動かして避けようとしていたフォレスは呆気に取られる。

そしてほんの僅かであったがフォレスに隙ができる。

 

「(今だ!)」

 

残された気力を振り絞り、幻龍に魔力を流し込む。刃が翡翠の輝き放ち、そのまま一気に駆け出す。

 

「『神導覇星幻龍、“一閃”、壱ノ型!』」

 

刃がフォレスに肉薄する。

そしてシュパッという音が確かに聞こえた。

リーフの一閃が羽織紐を斬ったのだ。

 

 

ドバンッ

 

 

直後、乾いた音が真っ白な空間に響き渡る。

いつの間にかフォレスの左手にはきらびやかなフリントロック式の片手銃が握られていた。

放たれた弾丸はリーフの右肩に見事に命中していた。

リーフは今まで銃を持った相手との戦い方を教わっていない。

リトビもグランも想定していなかっただろう。アブルホールは戦車だが、本人が規格外過ぎて参考にならない。

 

そして遂にリーフの限界がきた。

大量出血と魔力を全て使い果たした為に全身から力が抜け、さながら糸の切れた操り人形になったように感じる。

そしてそのままフォレスにもたれ掛かるようにして倒れ込んだ。

リーフはそのまま撃たれるか斬り捨てられると思っていた。

だが意外にもフォレスはリーフを優しく受け止めたのだ。

 

「・・・今のは危なかった。」

 

「(何処がだよ、実力の半分すら出していなかった癖に。)」

 

だが、リーフは最後の一撃が認めて貰えたようで少し嬉しかった。

 

「・・・だが、まだまだ経験不足だな。」

 

そう言ってフォレスはリーフを軽く突き飛ばす。

 

「・・・今から神導覇星流の技の一つを見せてやる。」

 

すでにおぼろげな視界の中、フォレスの琥麟珀の刃の文字が光り出し、幻龍の時よりも深く、そして美しい輝きが刃全体に広がる。

 

「『神導覇星琥麟珀・・・“(ミダレ)”、壱ノ型!』」

 

シュパパッと空気を切り裂く音しか聞こえなかった。

剣捌きも刃の軌道も全く目で追うことが不可能な神速剣。

そしてフォレスが刀を鞘に納めると同時に、リーフの全身から血が吹き出した。

 

「(まったく・・・強すぎだろ。)」

 

薄れ行く意識の中、フォレスの声が聞こえた。

 

 

 

「・・・きっかけは作った。後は自分で開花させれば良い。」

 

 

 

最後の言葉の意味は理解できなかったが、やけに心に響いた。

 

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陸道の父親は『ショタジジイ』?

ウワー、再会ガ楽シミダナー・・・

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