精霊転生 ~転生したけど崩壊した現代でした~ 作:緒方 ラキア
あの後、すぐに装備を整えた一行は東門を出てからエルフの森に向かってで進んでいた。
一行は中央に馬車を据え、御者はリリーナ、その隣にウォーティーが座っている。馬車の前をフェンが注意を払いながら歩き、馬車の左側にリーフとカラー、右側にシダとシルバという隊列で移動していた。
「ずいぶん落ち着いているのですね。」
「そりゃ、まだ
カラー曰く、この辺りに出没する
「そう何ですか?」
「リーフ様はやけに
「まぁ、森の中で修行してましたから。」
「
懐に仕舞っていたタブレットのティガが会話に加わる。
「・・・あの、さっきから聞こえるそれは何?」
カラーがリーフの懐からチラリと見えるタブレットを指差す。他のメンバーも気になるようなのか、一気に注目が集まる。
リーフがタブレットを胸から取り出すと、液晶画面が自然に点き、戦車を擬人化したような少女か現れペコリと頭を下げる。
「皆さんはじめまして、
「うわっ!?ナニコレ、板が喋ってる!!?」
魔法によって発展を遂げた他種族達にとって、人間の科学製品など知っているはずもなく、またこういった物は大戦後ほとんど破壊され、一般に知られておらずほとんどの他種族達は一切科学製品についての知識はないのだ。
「これは私の友人が科学製品を改造して作った
例としては、魔法の力が込められた強大な力を持つ魔剣や誰でも簡単に魔法を発動させる事のできるスクロールなどの、RPGやそういった類いのゲームなどで登場するような物の事だ。
「主に敵の索敵、情報収集、ハッキングなど様々な機能を搭載しています。」
「ホオー、便利じゃの~。」
「そして今なら、便利なモバイルバッテリーもついてお値段たったの金貨10枚で・・・」
「
「何この子面白い!」
予想外にティガは周りに受け入れられている。
かつては人間の使っていた道具である為、受け入れられないと思っていたが、これなら問題ないだろう。
「これはリーフ様の師匠が作ったのですか?」
「ええ、三人の内の一人が。」
リリーナはやけにリーフに質問してくる。やはりギルドは自分を危険人物として調査しているのではないだろうか。
「そう言えばリーフはガレオンを一発で倒したと聞いたのですが、拳法か何かなのですか?」
シダの質問にリーフは思わず黙って考える。
リトビは奥義を全て開発し体得した後、全ての奥義を書物に書き留め、一般に広めたと言っていた。
だが、この街に来てからまだ一度も同じ限無覇道流拳法の使い手に出会っていないどころか、道場すら存在しない。
カラーも拳法も違うものであった。正直マイナーなのではないかと思い、確かめるように返答する。
「私の使う拳法は限無覇道流なのですが、知ってますか?」
リーフがそう答えると、他全員が呆然とした表情を浮かべていた。周りの反応に何か不味い事でも聞いたのだろうかと内心考えていると。
「エェーーーーーーーーーーーーーーー!!?」
隣のカラーが絶叫を上げて、リーフに掴みかかる。
「げ、限無覇道流って、本当のなの!?」
「ちょ、首・・・やめ、うぷっ。」
リーフの首がグワングワンと激しく揺さぶられる。シダが止めてくれなければ、あと少しでリバースしてしまうところであった。
目眩が治まり改めて説明しようとしたその時、フェンのケモ耳がピコピコ動き雰囲気が変わる。そしてティガも警告音を出す。
「まだ遠いが動いたな。」
「敵の数、推定10~20。こちらに向かって来ました、
どうやらごちゃごちゃ話している内に
「恐らくゴブリンとオーガだな、ウォーティーは防御魔法を使って馬車を守れ、シルバは新人三人の後方支援に当たってくれ、三人はゴブリン、俺はオーガの相手をする。」
ウォーティーは頷くと杖を掲げ詠唱を唱える。
【海王より与えられし我が身に流れし蒼き力よ、水泡の防壁となりて、か弱き我らをお守り下さい。】
【シャボン・バリア】
通常よりも長めの唱え終わると馬車の周りをシャボン玉のような膜がドーム状に広がった。
他もメンバーもフェンの的確な指示に従っていき、それぞれの武器を構えるたり呼吸を整えたりと、戦闘に備える。
「ティガ、敵の数は分かったか?」
「フェン様の言う通り、ゴブリンとオーガの群れです。波長からしてゴブリン15体とオーガ5体の20体の群れです。」
「ホオー、数まで分かるのか。」
シルバがスリングショットを準備している。リーフも両方の籠手に収納している苦無を取り出し戦闘に備える。
やがてゴブリンとオーガの群れが森の中から姿を現す。
相変わらずゴブリンは古びた武装に身を包み、オーガも棍棒を振り回しながら自分の力を見せつけている。しかしどうやら厄介なタイプのゴブリンとオーガはいないようだ。
リーフが修行中に遭遇した中には、魔法を使う『
あれは本当に地獄だった。
「シルバ、いつものように頼む。」
「おい来た。」
シルバはスリングショットを引き絞り石を勢いよく放つ。放たれた石は弧を描き、120メートル離れたこの群れのボスであろう兜を被ったオーガの頭に命中した。
「グルァァァァーーーーーーーーーー!!」
そのオーガが雄叫びを上げると群れのスピードが上がり、何も考えずにこちらに向かってくる。
所詮は知能が低い
「よし、オーガを引き離すか。」
フェンはそう言うと四つん這いになる。
何をしているのか不思議に思っていると、急激にフェンの体が毛で覆われ始めた。
身体能力は飛躍的に上昇し、体長も2メートルほど大きくなった。
馬車から離れたフェンは前方の群れに向かって遠吠えを放つと、ボスらしきオーガ以外のオーガはゴブリン達から離れ、一直線にフェンの方向に進路を変えた。
「オーガ4体はフェンに任せて、儂らは残ったゴブリンを相手にするぞ。」
そう言ってシルバは両手を地面につけると魔法の詠唱を始めた。
【我が身に流れる地の力よ、鎖となりて、拘束せよ。】
【アース・バインド】
地面から土でできた鎖が出現し、ボスのオーガを束縛していく。
オーガは抵抗するが動けば動くほど土の鎖は体に絡みついてゆき、咆哮を上げるが完全に動きは止まった。
そして、四人はゴブリンを迎え撃つ為に走り出す。
そんな中リーフはある提案を出す。
「じゃあ私は後ろに回りますので挟み撃ちにしましょう。」
「む?確かにその手もあるがそれは・・・「じゃあ早速。」・・・えっ?」
リーフは言葉を聞かずに走り出した。そして、ゴブリンからの距離70メートルを一瞬で走破すると、2体のゴブリンの頸動脈を苦無で切り裂き屍へと変え、群れの後ろに回り込んだ。
「「「・・・はぁっ!?」」」
三人は驚き呆けてしまうが、それは馬車から離れて見ていたリリーナとウォーティーも同じであった。
リーフがかき消えたかと思って瞬間、ゴブリン達の後ろに現れたのだから。
唯一リーフの動きが見えたのは、オーガに対応しながらも様子を伺っていたフェンだけであった。
「グギャ!?」
仲間が倒れ後ろにリーフがいる事にようやく気付いたゴブリンの2体がリーフに飛びかかるが、それはただゴブリンの寿命を縮めるだけに過ぎなかった。
リーフは振り返ると同時に両手の苦無を左側のゴブリン目掛けて投擲する。風を切る苦無は両目に突き刺さりゴブリンは事切れ後ろに仰け反る。
そしてもう1体のゴブリンを見据え、リーフは構え右足に気を集中し、リトビから教わった奥義を繰り出した。
「限無覇道流奥義、無影龍脚!」
リトビが最も得意とする技が首に見事に命中し、ゴブリンの延髄が砕ける音が響いた。
やがて痙攣した後、ゆっくりと崩れ落ちて動かなくなった。
一連の様子を見ていたゴブリン達は、自分達が束になったとしても絶対に勝てない相手だとやっと理解した。
しかし、今さら気付いても遅い。すでにリーフは次の攻撃に備え構えている。森に逃げ込もうにも行く手にはリーフがいる。
ゴブリン達の運命など決まっていた。
それでもゴブリン達は生き残ろうとリーフに背を向けて逃げ出した。
しかし、すでに逃げた方向には仲間の三人がいる。
「私だって負けてられないわ!」
「リーフさん、援護します。」
そう言って二人はそれぞれゴブリンを倒してゆく。最早戦う意思の無いゴブリンなど、新人冒険者でも簡単に倒せる只の的であった。
それからおよそ5分でゴブリンは全員地に伏した。
「さて、フェンの方は・・・」
シルバ達はそう言ってフェンの方向を向くと、口元と銀色のブーツを赤く染めたフェンが近付いていた。どうやらもう倒し終わったようだ。
「こっちも片付いた、後はあのオーガだけか。」
そう言って見つめる先には、未だにもがき続けているボスのオーガ。さて、どう倒そうかと皆考えている。
馬車にいるウォーティーは魔法を解除して、泡の防壁は消えてゆく。
しかし、皆安心しきっていた。
ゴキンッ!と嫌な音が聞こえたかと思うと、オーガは拘束から抜け出し一直線に馬車に向かって走り出したのだ。
何故拘束から抜け出せたかというと、オーガは足掻いている内に右肩が外れ、僅かな隙間ができてしまったのだ。
突然の事態に全員反応が遅れた。
ウォーティーは身の危険を感じ、再び杖を掲げ魔法を唱えようとするも、それよりも早くオーガの蹴りを受けて吹き飛ばされてしまう。
肩が外れてオーガ本来の力が発揮出来ず、たいしたダメージは負わなかった。
そして、オーガは馬車に残っていたリリーナを見つけ、歪んだ笑みを浮かべる。
「しまった!」
ようやくフェンが状況を理解し、全速力で駆け出す。
しかし、オーガは左手の棍棒を天高く振り上げていた。
「(間に合わない!)」
そう感じた瞬間、フェンの隣を凄まじい風が通り過ぎた。
思わず立ち止まってしまい顔を庇う。
恐る恐る目を開けてると、オーガの背後にリーフが刀を持って立っていた。
そしてすでに終わったとばかりに刀を鞘にしまう。それと同時にオーガの体に線が入り、真っ二つになって大きい音をたて崩れ落ちた。
「無事ですか?」
「は、はい・・・」
どうやらリリーナは傷一つ負っていないようだ。
しかし、フェンはそれよりも信じられない事があった。
「(俺が知覚できなかった?)」
フェンはS、A、B、C、D、Eの六段階のランクの内、最上位のランクSの冒険者だ。
そんな彼でもリーフに追い抜かされた事に気付けなかった。そして後ろを振り返ると、リーフの立っていた地面は抉れており、周りにいた者達は腰を抜かしたように、その場で座り混んでいた。
そこにいた全員がリーフが遥か高みにいる存在だと思わずにはいられなかった。
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というのも、最後のオーガを倒し終わった直後。
『もう一度奥義を見せて!なんなら私に技を放って!顔だろうとお腹だろうと好きにして!さあさあさあ!!』
『エェ!?』
と、このようなカラーとリーフのやり取りが30分ほど行われたのが原因であった。
それに、夜に行動するのは昼間よりも
周囲に罠を設置する班と夕食の準備をする班に別れて、どちらの作業も終わる頃にはすっかり日が暮れていた。
焚き火を囲みながら皆で夕食を頂く。
「・・・美味しい。」
リーフが口にしているのは色々な豆の入ったスープだ。
全てギルドで売られている保存食だが、人間のレトルト食品みたいなものであった。
「本当に人間の食事は、
その言葉を聞いて推測だが理解できた、恐らく他種族達には料理という文化が存在していなかったのだろう。人間の食文化に改めて感心していると、カラーが再び話しかけてくる。
「ねぇ、あなたの限無覇道流拳法を教えて。」
「聞きたいのですが、限無覇道流拳法をご存知だったのですか?」
そう尋ねると、何度も頷いて限無覇道流拳法について、彼女が知る限りの事を喋り始めた。
「限無覇道流拳法。リトビ・カルネルがあらゆる拳法や武術の技を研究して創り出した拳法。三年ぐらい前に一般人にも広まったんだけど、技の一つ一つが困難で基本技ですら体得できた者は少ないの。お陰で今は誰も覚える気にならないんだけど、私達のような体術をやってる者なら知らない者はいないの。世間では『至高の武術』として憧れの的になっていたの。」
うっとりしながらそう語るが、要は誰も出来ない武術だと言う事だ。
リトビ・・・道理で技を覚える度に「お前は見込みがあるの~。」って言ってた訳だ。
「リーフは一体どれくらい技を使えるの?」
「基本技は全て教わりましたね、後は応用技を幾つかですね。」
流石に究極奥義は覚える事はできなかった。というより、あんな奥義を覚える事の方が困難だ。何度かもろにくらったが、相当な威力だった。
「基本技が使えるだけでも凄い事なんですよ!リーフ様!」
「そうですよ!リーフさん!」
口々に三人はリーフを褒め称える。
残りのベテラン冒険者三人も口には出さないものの、リーフの実力は認めていた。特にフェンがそうであった。
「ところで、最後のオーガを倒した時は一体何をしたのですか?」
「あれはただ全力で刀を振るっただけです。間に合って良かったです。」
「ッ!そ、その節はあ、ありがとうございました。」
何故か顔を赤くしてそっぽ向いてしまう。やはり怖かったのであろう。
「(あの時のリーフ様がめちゃくちゃかっこよかったな~。)」
何だかんだでリーフの鈍感さは平常運転であった。
それから話は、シダとカラーが幼馴染みで冒険者になった話やシルバの今までの仕事の中で最も困難だった