精霊転生 ~転生したけど崩壊した現代でした~   作:緒方 ラキア

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22話「初仕事①」

「うっ・・・ぐぁー!・・・」

 

ベッドで呻き声をあげているのはリーフだ。額からは大量の脂汗が滴り、胸を強く掴み取るかの如く抑えつけている。

ここ数日、リーフは再び悪夢に苛まれていた。

その夢はいつも決まって得体の知れない黒い物に追いかけられるというものである。

だがそんな状況にも関わらず、タブレットの目覚ましがなる。

リーフは少し起き上がると、タブレットの画面をタップして目覚ましを止める。

そしてため息をついて再び眠ろうとすると・・・

 

「こら!二度寝は許しませんよ!」

 

タブレットから少女の叱る声が聞こえてくる。

 

「ほらほら、ぐうたらしてないでさっさと起きて着替える。」

 

「わかった、わかったから少し静かにしてくれ、声が頭に響く。」

 

渋々いつも通りの恰好に着替えてタブレットを手に持つ。

するとタブレットの画面に、一人の美少女が現れる。

この娘は、昨日アブルホールから送られてきたメールと共に添付されていたAIプログラム、『ティガ』。

アブルホールがリーフと連絡を取った際、冒険者になると聞いて早急に制作した物である。

因みに、彼女の姿が戦車の擬人化のような恰好なのはアブルホールの趣味らしい。

 

「さあご主人様(マスター)、早く私にご飯をくださいな。」

 

「ハイハイ。」

 

リーフはタブレット画面の下にある指紋認証の部分に指を置き魔力を流し込む。

画面の中には輝く光の球体が現れ、彼女はそれを手に取ると美味しそうにパクパク食べ始めた。

数秒てでそれを平らげると画面右上のゲージが100パーセントに変わる。

 

「ふぅ、ごちそうさまでした。」

 

「どういたしまして。」

 

朝の日課を終えたリーフは幻龍を腰に差してティガに時刻を尋ねる。

 

「今何時だ。」

 

「只今の時刻は5時48分17秒、約束の時刻まであと52分です。」

 

「じゃあ、朝食食べてから出るとするか。」

 

そう言ってタブレットを懐に仕舞って下の階へ降りていくのであった。

 

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ギルドまでの中にバザールの朝市が行われている。かつての東京ではこんな光景は今まで体験した事も見たこともなかった。

辺りは人々の喧騒で賑わっているが、決して不快なものではなかった

しかし、ここには人間は一人もいない。ちらほら亜人や獣人の姿も見えるが、ほとんどはマンドラゴラとマンドレークである。

マンドラゴラは人型の植物系他種族である。反対にマンドレークは二足歩行の野菜の姿の植物系他種族である。

時々足元をセクシー大根みたいなのが通るので踏まないように歩く。

だが、ある商店の一画が目に入り気分が悪くなる。

 

ご主人様(マスター)、どうかしましたか?」

 

「・・・いや、何でもない。」

 

リーフは足早にその場を去る。

 

「(やはり見ていて良い物ではないものだ、()()()()()など。)」

 

リーフの見えた光景は、薄汚れた服を身に纏った人間の奴隷達だ。

大戦後、精霊連合側に捕らえられた人間達は主に二つの運命に別れた。

一つは光達のように辺境の森の一画を切り開いて作られた保護区に住む者達。高齢者や未成年、障がい者などの多くがここに移住する事となった。

もう一つが目の前の奴隷になった者達だ。現在もなお若者が重点的に奴隷にされていったそうだ。

かつては自分も人間であったはずなのだが、今は同族とは全く感じられず、完全に人間ではなくなってしまった事なのだろう。

そうだとしても自分は人間に嫌悪感は一切持っていないけれども、今のこの世界で人間は敵視される傾向が多い。それほど人間に対する憎しみが色濃く残っているという事だ。

どうにかしたいと心から思うも、リーフにはあの奴隷達を救う事など不可能であった。

 

「(私は無力だ・・・)」

 

どうしようもない現実を噛み締めながらギルドへ急いだ。

 

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ギルドの木製の扉を開けた先には、昨日とは違い中は冒険者で溢れていた。

幾人かの冒険者がリーフを目にするとひどく驚いた表情を浮かべている。おそらく昨日の事件を知っている者達であろう。

そんな事を気にせず受付のカウンターまで歩いて行く。するとこちらに気付いた男夢魔(インキュバス)のギルド職員カーシーが受付の対応を他の者に任せて、リーフの方に駆け寄ってくる。

 

「リーフ様、ようこそいらっしゃいま・・・ぶへっ!?」

 

カーシーはリーフの目の前で盛大に転ける。段差もない場所でどうして転けるのかリーフは不思議でたまらなかった。

周りも何事かと目を向けていたが、カーシーだと分かると何だとばかりに元に戻った。どうやらこれは日常茶飯事らしい。

 

カーシーに連れられて来た場所は、ちょうど昨日冒険者登録した部屋であった。

 

「もう皆様お待ちしております。」

 

そう言って扉を開けて中に入ると、中には六人の姿があった。

一人は昨日リーフの担当になったエルフのリリーナであるが他の四人は知らない者達であった。

ソファーの近くに立っているのはマンドラゴラの男女、そのソファーに腰掛けているのは小柄の老人とおそらく水精霊族の少女。そして奥の壁に背を凭れている獣人の青年だ。

リリーナは入室したリーフを見るや否や近づいてきて軽く挨拶を交わすと本題へと移る。

 

「では、これで全員揃いましたので、説明を始めたいと思います。」

 

リリーナの説明を要約すると、これから北の森の中にある『エルフの森』へ物資を届けに行く為、ここにいる冒険者には荷馬車の護衛をして欲しいとの事だ。

 

「報酬は銀貨二枚、ギルドから支給されます。それではまず各々の自己紹介を始めましょうか。」

 

「私は今回あなた方に同行するリリーナ・アシュレイです。よろしくお願いします。」

 

リリーナの自己紹介が終わると、おずおずと手を上げたマンドラゴラの青年が続いて自己紹介を始めていく。

それを皮切りに次々と各々が自己紹介を始めてゆく。

 

「えっと、僕はシダ・エニシです。種族はマンドラゴラ。まだまだ新人の剣士ですが、前衛で頑張ります。」

 

「じゃあ、次は私ね。名前はカラー・マリナー。格闘が得意です。シダと同じく前衛を務めます!」

 

「儂は鉱人(ドワーフ)のシルバじゃ、幻惑系の魔法が得意じゃわい。よろしくの~。」

 

「・・・・・ウォーティー、上位水精霊(ウンディーネ)。・・・回復魔法と防御魔法・・・使える。」

 

紹介順に印象をつけるとしたら、好青年、活発娘、老兵、無口娘、と言った所だ。

なかなか個性が強い冒険者達だな。

そして、リーフが一番気になる冒険者が口を開いた。

 

「フェン・グラシオン。種族は狼人(ワーウルフ)、前衛職だな。よろしく。」

 

「知っています!バッケス最強の冒険者ですよね、私大ファンなんです!!」

 

「おいカラー!まだ一人残っているからそういうのはあとにしろよ。」

 

別にリーフは情報が欲しいからもっと続けてくれて構わないのだが。

 

「ああ私ったら、すいません。」

 

「いえ、構いませんよ。」

 

そして最後であるリーフが自己紹介を始める。

 

「皆さんはじめまして、中位木精霊(アルラウネ)黒髪(ノワール)のリーフです。言っておきますが、れっきとした“男”ですのでよろしくお願いします。」

 

最後の部分をやけに強調して紹介を終えたが、当然の事にフェン以外の男性陣は目を見開き、リリーナ以外の女性陣は信じられない物を見たような顔をしていた。

女性陣が真実を確かめようと声をかけようとするが、リリーナが手を叩き説明を再開する。

 

「はいはい、自己紹介も終わりましたし、他に質問がありますか?」

 

すると、鉱人(ドワーフ)のシルバが手を上げリリーナに物言う。

 

「リリーナ殿、儂は新人冒険者について大方把握しているつもりなのだが、リーフとやらは見たことがないのじゃが。」

 

「ええ、彼は昨日来て冒険者になりましたから。」

 

その言葉を聞いてシルバだけでなく、フェンとウォーティーも疑惑の目を向ける。

 

「ギルド側は正気なのか?」

 

「・・・ガレオンの噂はご存知ですか?」

 

ここでリリーナは昨日の事件を取り出した。それを聞いたリーフは再び罪悪感に包まれたのだが、ここにいるメンバーが気付いた様子はない。

 

「ああ、確かガレオンの奴が試験の相手に再起不能にされたと聞いたが・・・まさか!?」

 

「ええ、目の前にいるリーフさんこそ、ガレオンをたったの一撃で倒した人なんです!」

 

まるで自分の事のようにリリーナは語るが、それはリーフへの精神攻撃にしかなっていない。

 

「(何でギルドの戦力削っておいてお咎めがないんだよ!)」

 

お見舞い品を特上のやつにして必ず彼に渡そうと、リーフが考えている内にリリーナの説明は続いており、その説明で三人は大方納得した様子で、冒険者になってまだ日の浅いシダとカラーもリーフに羨望の眼差しを向ける。

 

「ふむ、それならまぁ問題ないかの~。」

 

「では、質問は以上という事で、皆様は各自準備を始めて下さい。9時には出発するのでそれまでに用意を整えて、玄関前に集合していて下さいね。」

 

そう言うと、リーフ以外の冒険者達は部屋から出てゆく。動かないリーフを不思議に思ったリリーナは尋ねる。

 

「あの、何で行かないのですか?」

 

「・・・この街にのどこに何があるのか全く知らないのですが。」

 

リーフはこの街に来てからまだ二日しか経っていない。それに、昨日は試験と冒険者登録でほとんどギルドにいたし、リーフがこの街の中で知っている場所と言えば泊まった宿ぐらいしかない。

 

「ああ・・・そうですか、武器と防具は揃ってますよね、隣のアイテムショップに行きましょう。色々レクチャーしますよ。」

 

「お願いします。」

 

こうしてリーフは集合時間まで店で回復薬(ポーション)解毒薬(アンチポイズン)などのアイテムを買い、リリーナから新たな知識を手に入れるのだった。

 

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中央都オーバードから北東の大森林を抜けた先の大地に位置する一つの国家がある。

そこは大戦によって敗北した人間達が建国した国、『人類革命連合国』。

残って科学を結集させて巨大な要塞都市となっており、他国からの侵略を決して許さない構造となっている。しかし、それでも稀に何処かの国の精霊の兵士が攻めてくる事がある為、未だに小競り合いが続いているのが現状だ。

それでも平民の人間達は安全に科学文明の溢れる中で暮らしている。

だが安全だと思っているのは、彼らが何も知らないからだ。彼らの暮らしている場所の地か深くで、再び大戦になり得る事実がある事に・・・

 

 

 

 

 

この軍の地下研究施設は限られた者しか知らない。

この場所で研究されているのは他種族に関する事である。ただし、行われる研究の全ては非人道的な者であり、あちこちの研究室からは他種族の断末魔や苦しみに満ちた叫び声が聞こえる。

 

そんな廊下を堂々と歩く一人の女性がいた。

 

白を基調とした聖騎士の鎧を身に纏い、腰に携えた金木犀の描かれた剣が足を踏み出す度に音を立てる。

美の女神と思わせるほどの整った顔は、右目に漆黒の翼を模した眼帯が付けられていても、決して美しさは曇る事はない。

靡かせる腰まで伸びた長い髪は黒だが、右側の一部が桜色に染まっている。

彼女の髪は別に染めている訳ではない。原因は龍脈の暴走にある。

龍脈の暴走によって多くの他種族と人間の命が散る中、ある者にだけは全く異なる効果が発生していた。

人間は元々魔力が低い為、他種族のように魔法を使う事は出来ない。

しかし、龍脈のエネルギーに触れた一部の人間は命を落とす事なく、それどころか身体能力と魔力が爆発的に膨れ上がった。

そのあり得ない力に目をつけた者達は、その者達を『覚醒者』と呼び、徹底的に強化したのだ。

そして彼女らは精霊にも劣らない力を身に付けた。彼女達の情報は最重要機密として扱われ軍の者にしか知られていない。無論、他国にも一切漏らしていない。

そして、彼女は覚醒者の中でも五本の指の入る逸材で、現在覚醒者で結成された『七星』リーダー格を務める『人類最強』と謳われている。

 

そんな彼女はすれ違う白衣の研究員や防護衣の者達が頭を下げる中を目的の場所まで歩いて行く。

目的の場所に近づくにつれて人の数は減少してゆき、誰ともすれ違わなくなる。

やがて、彼女はある扉の前に立つと躊躇う事なく扉を開ける。

扉の先は牢屋であった。中に囚われているのは様々な他種族や魔物(モンスター)であるが、ここにいる奴らは極めて凶暴な奴らが多く、彼女のような者、あるいは特殊装備を身に付けなければ入室すら困難な場所である。

牢の中の亜人や獣人が敵意に満ちた眼差しを向けるが、相手が彼女だと分かると途端に大人しくなる。魔物(モンスター)でさえ彼女から溢れる気迫と魔力を目の当たりにして威嚇すら出来ない。

彼女は牢の一番奥へと向かって足を踏み出す。足音が牢内に響き渡るほど静かになっていた。

やがて彼女は目的の牢の前に立つと、そこの牢の明かりをつける。

中には全身をありとあらゆる拘束器具で身動きを封じられた体と隣の机に置かれているロングヘアーの女の生首であった。

普通の人が見れば卒倒間違いないが、彼女は臆する事はない。何故なら目の前にいるのはそういう他種族なのだから。

 

「起きろ、捕獲体A-008。」

 

凛とした声で彼女を起こす。

そして彼女は静かに微笑み目を開く。

 

「あら、今日はあなたなのね。それと名前で呼んで欲しいわ、番号は嫌いなの。」

 

彼女は『首無し妖精(デュラハン)』のディアナ。この研究所で最も危険な存在である。

ディアナは捕らえられる前、四十人以上の人間を自分の背丈よりも大きい鋏で斬殺している危険他種族である。また捕らえる際、軍の兵士が三人亡くなっている。

本人曰く、「三度の飯より殺人が好き。」と言う、とんでもないイカれた女(サイコパス)なのだ。

 

「今度は何かしら?もしかして出してくれるの?」

 

「そんな訳無いでしょ。」

 

やや呆れたように答えると、本当の用件を彼女に伝える。

 

「あなたの読み通り、魔族が動き出したそうよ。」

 

「アラ、思ったより早かったわね。」

 

彼女達の言う『魔族』とは、魔物(モンスター)に分類される者達の中でも、相当の実力と知性がある者達の総称である。

太平洋の何処かに魔族の国家があるらしいが、未だに詳しい位置ははっきりとは分かっていないらしい。

 

「それと、あなたの刑期が200年増えたから。」

 

「ええ!私死ねないのにまだ閉じ込められるの?」

 

一見すると普通に会話しているようだが、これは彼女だからこそできるのだ。

普通の人がディアナと話すと、完全に洗脳されて操り人形にされ極度の殺人衝動に襲われてしまうのだ。実際にディアナの話した幾人かの兵士が被害に遭い、今なお心を蝕んでいる。

そこから二人の世間話は続く。

 

「数ヶ月前に、強い力を感じたのよ。多分そいつは私と同じ、あるいは私以上の強者になるわよ。」

 

「あっそう、じゃあ私は帰るわ。」

 

「・・・ねぇもう一度聞くけど、あなたはまだ木精霊が嫌い?」

 

ディアナは彼女を呼び止めるようにそう質問する。

そして彼女は殺意に満ちた目付きになり、ディアナに向かって言葉を発した。

 

「ええ、全ての木精霊を根絶やしにしないと、彼も浮かばれないわ。」

 

戦時中、炎に包まれる中必死に大切な人がいたたどり着いた病院を無惨にも破壊した『袴姿の木精霊』の姿を見た時から、彼女は復讐を誓っているのだ。

 

 

 

「あの時助けを求める事さえできなかった“りっくん”の為にも、私は絶対に奴らを殺し尽くしてやるわ!」

 

 

 

そう言って、彼女はその場を去って行った。

 

「(へぇー、あれが『人類最強』、『最終兵器』の“染井 桜”の本性か。)」

 

面白いものが見れたと満足したディアナは再び来訪者が訪れるまで眠るのであった。

再び人を殺し、血を浴び、絶望に染まった表情を見たいと心から願いながら。

 




我慢出来ずに登場させた人間サイドの二人ですが、リーフと関わってくるのはだいぶあとになると思われます。

更新頑張ります・・・

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