精霊転生 ~転生したけど崩壊した現代でした~   作:緒方 ラキア

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20話「次なる地へ」

あれから五日がたった。

イオタ村は、エルオン・グールとゴブリンの死体の後始末や壊された民家の修復などの、復興作業に勤しんでいた。

グアナの指導によって、ヴァリアント特別区の住人達も加わった事で、作業は予想以上に捗っていた。

勿論作業の中には彼の姿もあるわけで・・・

 

「ちょっと、リーフ!?あなたは休んでなさいよ!」

 

民家の屋根の上からヒョコと顔を出したのは、村の危機を救った恩人のリーフであった。

いつもの袴姿ではなく、村人から頂いたラフな恰好で、頭には包帯が巻かれている。

 

「いや、体を動かさないと訛りますし。」

 

「あなたは酷い怪我を負っていたって事を理解していないようね!」

 

あの後倒れたリーフは光の家に運ばれ、皆から必死の治療を受けていた。

運ばれた当初は心臓が止まっており、カスミが魔力を分け与えなければ死んでいたところであった。

さらに骨折、打撲傷など身体には痛々しい傷が付いていた。

カスミ達は出来る全ての手段を使ってリーフの治療を行い、なんとか一命をとりとめたものの、その日リーフが目覚める事はなかった。

その間、カスミと光は付きっきりで看病していたが、リーフは一向に目覚める気配はなかった。

このまま目覚めなかったらどうしようと、そう考えて始めた二日目の事だった。

朝目覚めるとベッドにリーフの姿はなく、慌てて二人が外に飛び出すと・・・

 

そこには何事もなかったように幻龍で素振りをするリーフの姿があった。

 

驚いた事に、リーフの受けた傷は完全に癒えて跡すら残っていなかった。

その異常な回復力に、最早リーフを常識で図る事は不可能だと村人全員がそう思った。

その後、念のためにしっかり休ませようとしていたのだが、リーフはベッドを抜け出してトレーニングや復興の手伝いをし始めるので、リーフの身を心配する二人は気が気でなかった。

そして今日も、抜け出したリーフを二人は探し回っていて、ようやくカスミが見つけたのだった。

 

「これが最後の修復する家でしたので。」

 

「だから動いて良いなんて理由にはならないわよ!」

 

カスミの怒りは頂点に達していて、目が「早く降りてこい!」と言っているようだ。

リーフはヒョイと屋根から飛び下りて、見事に着地した。

 

「あぁ・・・や、やっと見つけました、リーフさん。」

 

「お兄ちゃーーーーん。」

 

ふと視線を移すと、ヘロヘロになりながら走っている光と全速力で駆けて来る明美の姿があった。

 

「とうっ!」

 

「うぉっ!」

 

すると明美はリーフの足に飛び掛かってしがみついた。

こうなってしまえば、リーフはもう逃げる事は出来ない。

 

「ハァハァ、り、リーフさん・・・あんまり、う、動いて、ゼエゼエ・・・。」

 

光は元々運動が苦手のようで、少し走っただけでバテてしまう。それなのにあの時はリーフの為に幻龍を届けてくれた。

彼女には改めてお礼をしなければ。

そう考えていると、足元でリーフをジーっと見つめている明美に気付く。

リーフはこの目が何をして欲しいかよく知っている。

そしてリーフは明美の頭を優しく撫でる。

 

「えへへ。」

 

ウム、めっちゃ可愛い。なんだこの天使は。

 

「・・・ふんっ!」

 

「ぐはぁ!?」

 

明美を撫でていたら、カスミに向こう脛をおもいっきり蹴飛ばされた。

いくら厳しいあの修行で涙一つ流さなかったリーフも、この痛みにだけは耐えられず涙を浮かべていた。

 

「何するんですか・・・。」

 

「別に。」

 

冷たくあしらわれてしまう。自分が何かしたのだろうかと考えていると、カスミはどこか思い詰めた様子で蹲るリーフに尋ねる。

 

「・・・昨日の話、本当?」

 

「ええ、本当です。」

 

リーフは立ち上がると、少し寂しそうに村を見つめた。

 

「ここで調べる事は、もうありませんから。」

 

元々リーフがここを訪れた理由は、家族の手がかりを探す為であった。

リーフがここに来て一週間の間に、この村で集められる情報は粗方タブレットに書き留めた。

村の防衛に関しては、豚人(オーク)三人が残ってくれるから問題はない。あの三人も村人とだいぶ打ち解けたみたいだし。

 

「出来れば魔法について、もう少し学びたかったのですが。」

 

「・・・あれだけ出来れば十分よ。」

 

昨日、リハビリがてらカスミが軽く魔法をレクチャーしたところ、リーフは完璧に基礎魔法を扱えるようになっていた。

それどころか、上級者でも難しい『無詠唱』まで出来るようになっていて、カスミは開いた口がふさがらなかった。

 

「明日の朝、出立します。」

 

そう言うとリーフは準備の為に、借りている民家に向かって歩き出した。

後に残ったのは、複雑な気持ちを抱えたカスミと光と、きょとんと首をかしげる明美であった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その夜、リーフの話を聞いたグアナと村長が急遽、送別会兼祝勝会を村の広場で行う事となった。

その光景は人と他種族が共に生きている、実に微笑ましいものであった。

因みに全員に振る舞われている酒は、グアナの家から持って来た無限に酒が涌き出る酒樽である。

アルコール度数はそれほど高くなく、リーフも魚の塩焼き片手にすんなり飲んでいた。

少し離れた所で星と月を見ながら飲んでいると、グアナ、ポーク、カツ、カクニ、カスミ、クロネ、ヒバリ、光がそれぞれ色んな物を持って近付いて来た。既に真っ赤なクロネにヒバリが寄りかかっているのは酔っているせいだろうか。

 

「こんなところでいいのですか?救世主さん。」

 

「グアナ、あなたも酔ってますね。」

 

いつもとは口調が崩れているグアナが前で胡座をかいて座った。そして次々に他のメンバーも座り共に飲み始めた。

何故かリーフの両サイドには、カスミと光が座って火花を散らしていた。

実に楽しい宴であった。

 

「うふふ、クロネちゃんもっと飲んで。」

 

「いや・・・、ヒバリ、もうげんか・・・ムグ!?」

 

ヒバリは持っている一升瓶を追い討ちとばかりに口を塞ぎ、無理矢理クロネに飲ませていた。

止めの一撃によってクロネは完全に意識を失って崩れ落ちた。

 

「あらあら、もうクロネちゃんたら。」

 

そんなクロネを傷つけないように足で掴みあげると、ヒバリは飛び立っていった。

その際、「キッセイ、事実♪ キッセイ、事実♪」などと聞こえたのは幻聴だろうか。

 

「しっかし、信じられない光景だな。」

 

「どういう事だ?」

 

ポークが気になる事を口にしたので、リーフは尋ねた。

 

「人間と他種族がこうして共に生きている事ですよ。」

 

話によると、大きい都市では人間は奴隷として扱われていて、このような光景はまずあり得ないからだと言う。

さらに人間を敵視する他種族は多く、未だに人間を滅ぼさんとする意見も多い。

そして、人間側も他種族とは共存する意志を持つ者は少なく、両者の亀裂は戦争以来さらに深くなっているそうだ。

 

「今のところのは、中央都は共存派が政治体制らしいけど、人類革新連合とはまだ仲良くってのは無理そうだがな。」

 

「そうか・・・。」

 

「そういえば、ボスは何でこの村に来たんですかブー?」

 

カクニの質問に思わず反応してしまった。だがすぐにもとに戻り、冷静に考えて元人間で家族の手がかりを探すためだと言うかと迷ったが、真実は伝えずにある人間達を探しているとだけを話した。

 

「へぇー、ねぇその人間ってリーフとぉ~どういう関係な訳ぇ~?」

 

ベロンベロンに酔ったカスミがそう質問してくる。

すると周りも気になったようで、リーフの答えを待っていた。特に光とカスミがやけに興味津々のように見えた。

 

「そうですね。」

 

改めてリーフではなく、陸道として家族を思い出す。

学内一可憐で人気のあった桜、いつも気に掛けていた妹、そして両親、陸道にとってかけがえのない大切な人達だ。

だが、今の自分の姿は大きく変わってしまった。それも人間が敵視する種族に。

例え無事だったとしても、はたして自分を受け入れてくれるのだろうか。

もし拒絶されたら・・・。

 

怖い。

 

「どうかしましたか?」

 

光に声をかけられハッとなって俯いていた顔を上げると、皆はこちらを心配そうに見つめていた。

 

「いえ・・・、もう寝ますね、明日早いですし。」

 

「おぉ・・・そうかでは明日な。」

 

グアナがそう答えていたが、リーフはほとんど聞いておらず、嫌な事を早く寝て忘れてしまいたいと借屋に向かって歩いて行った。

 

リーフがいなくなった場所の空気は少し重かった。

カスミが興味本意で聞いただけであったのだが、リーフは今まで見たことがないほど悲しい顔をしていた。

 

「何か変な事を聞いてしまったのかしら?」

 

「もう止そう、これ以上はリーフに失礼だろう。」

 

グアナの言葉を皮切りに、その場はお開きになってそれぞれ散って行った。

そんな中、リーフが去って行った方向を見つめる光に気付いてカスミが声をかける。

 

「どうしたの?」

 

「いえ、リーフさんも色々あったんだろうなって。」

 

「・・・そうね。」

 

「・・・ねぇ、カスミ。」

 

「何?」

 

「私、あなたにあの人を渡すつもりはないからね。」

 

「そうね、リーフの人探しが終わったら、その時私達の勝負を始めましょう。」

 

そう言って、二人はそれぞれの家に帰った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして翌朝。

 

「見送りなんて、別に良かったのに。」

 

リーフの目の前にはヴァリアント、イオタ村の人々が勢揃いしていた。

 

「あれ?カスミさん。クロネとヒバリは来てないのですか?」

 

この場にいない二人の事を聞いたのだが、急にカスミは無表情に変わる。

 

「ベツニ、マダネテルダケヨ。」

 

感情が死んでいて言葉もおかしい。あまり関わるのは止そう。でも本当にどうしたのだろうか。

 

「お兄ちゃん・・・。」

 

すると、目をウルウルした明美が前に出てきて、リーフの足にしがみついた。

 

「ヤダヤダ、どこにも行かないでよ!」

 

「こら、明美。」

 

ここに来てまさか駄々を捏ねられるとは思っていなかった。

思い返せば、初めて出会った人間が明美であった。

目覚めた後、復興作業の合間によく遊んであげたから、この村で一番仲良くなっていた。

 

「明美ちゃん。」

 

目からポロポロ涙を流して駄々を捏ねる明美にリーフはしゃがんで同じ目線になって明美に言い聞かせる。

 

「ごめんね。お兄ちゃん、どうしても行かないといけないんだ。」

 

「グスッ・・・何で?」

 

「探さないといけない人達がいるんだ。その人達はどうしているのかお兄ちゃんにもわからない、生きているかもしれないし、もういないのかもしれない、それを確かめないといけないんだ。」

 

「お兄ちゃんはもしその人達が困っていたら、助けてあげたいんだ。だから行かせてくれないか?」

 

明美はしばらくして袴を掴んでいた手を離した。

そして小指をリーフの前に出した。指切りである。

 

「お兄ちゃん、終わったら必ず帰ってくる?」

 

「あぁ、約束だ。」

 

リーフは小指を合わせて、明美と約束を交わす。

指切りを終え、名残惜しそうに明美は指を離すと、光の側に戻った。

 

「お世話になりました。」

 

リーフは頭を下げて全員にお礼を言い、正門をくぐり歩き出した。

村人達、ヴァリアント達は離れてゆくリーフの姿が見えなくなるまで、手を振って見送り続けていた。

 




~リーフの見送り数時間前~ クロネの家にて

カスミ「クロネまだ寝てるの?」

起きて来ないクロネと行方知れずのヒバリについて聞こうと、カスミが扉を開けるとヒバリとクロネがベッドで寝ていました。

ただし全裸で。

そしてカスミはそっと扉を閉めてその場を立ち去った。

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