精霊転生 ~転生したけど崩壊した現代でした~   作:緒方 ラキア

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19話「リーフの本領」

リーフは動かなくなったゴブリンを払い、屈んだ状態からゆっくり立ち上がる。

元の冷静さを取り戻したリーフは、光を左腕で抱えながらエルオン・グールを見据える。

 

『ホォー、まだ死んでいなかったか。』

 

リーフは光から手を離し、幻龍を腰に携えた。同時に『錬気』を発動し、呼吸を整え気を高める。これで少し気が楽になり冷静さを取り戻す。

すると、カスミを始めとする全員がリーフに駆け寄ってきた。

カスミは回復魔法を唱えリーフの傷を癒す。

ある程度の傷は塞がり体力も回復したが、精神的な疲れは取れず恐らく全力で戦えるのは限れている。

 

『ふん、往生際が悪い奴らだ。良いだろう皆殺しにしてやる。』

 

はっきり言って、このままではリーフ達に勝ち目はない。

リーフは静かに目を閉じ、深くため息をつく。

そして、信じられない事を口にした。

 

「お前達は下がれ。」

 

リーフはここにきて、一人で戦うつもりでいるのだ。

それを理解した全員は、口々にリーフを止めようとする。

 

「何を言っているのですか!」

 

「リーフ殿、さすがに無謀ですぞ。」

 

「ボス、いくらなんでも無理ですよ!」

 

周りの言葉を一切気に止めず、リーフは首や肩を回し身体をほぐしながら言う。

 

「問題ない、もう負ける事はなくなった。」

 

そう言うとリーフはおもむろに身に付けていた籠手外し始めた。

籠手を外し終えると、リーフの手首には銀色の腕輪がぴったりはまっていた。

リーフは腕輪を少し弄ると、腕輪は外れドスンと重い音を立てて地面に落下した。

気になったポークがその腕輪を持ち上げようと掴み取るが、ただの腕輪とは思えないほどあまりにも重く感じた。

しかし、リーフは反対側の手首と両足首にも同じ物を付けており、それらを次々に外していく。

そんな中カスミは、外された腕輪にある模様が彫られている事に気付いた。

それは、都市ではまず知らない者はいないとされる『鍛錬神(ヘファイストス)』と呼ばれたグラン・クォーツのエンブレムであった。

グランの製作する武器はどれもが最高級品であり、とてつもない値段で取引される。

だが、肝心の製作者のグランは行方不明で、現在は市場に出回っている物はごくわずかで、さらに高額な値段になっている。

 

「(どうしてリーフはこんな物を?)」

 

腕輪からリーフに目を移すと、何故かリーフは着物を脱ぎ始めていた。

突然の事に驚いて目を隠すふりをして指の隙間からこの間見たリーフの肉体を見ようとしていた。隣の光も同じ行動を取っていた。

他のメンバーはリーフの突然の行動に疑問を浮かべていたが、リーフの身体を見た瞬間、カスミと光も含め全員の表情は驚愕に変わった。

彼ら彼女らが驚愕したのはリーフの鋼のような肉体ではなく、リーフが着物の下に身に付けている銀色の拘束具であった。

リーフの身体にぴったり付いている拘束具は、動きをある程度制限する仕組みになっていて、とても常人に動かせるとは思えない。

リーフは胸の辺に手をかざすと、拘束具は外れ地面に音を立てて落ちる。こちらもかなりの重量があるようだ。

バキバキと音を鳴らしながら首や肩の関節をほぐす。

それを終えると再び着物をしっかりと直し、エルオン・グールに向かって歩き出した。

 

『そんな物を外して、オレに勝てると思っているのか?』

 

完全に勝ったつもりでいるエルオン・グールは見下しながらそう問い掛ける。

 

「ああそうだ、本来ならリトビとグランにこいつ(拘束具)だけは外すなって言われていたんだけどな。」

 

リトビの名を聞いたグアナが反応していたが、今はそれは置いておこう。

リーフは幻龍をしっかり握り、ゆっくりと鞘から抜き出す。日の光で刃が黒い輝きを放つ。

 

「もうこれで、お前が勝つことはなくなったからな。」

 

『ほざけ!』

 

エルオン・グールが一気にリーフとの距離を詰め、リーフの真上から拳を振り下ろす。

対するリーフは刀を構えもせず、ただその場に立っているだけだ。

一瞬で命を奪うその拳は、避ける素振りを見せないリーフに吸い込まれ・・・

 

エルオン・グールの腕が落ちた。

 

『・・・はっ?』

 

目の前で起こった事にエルオン・グールは思わずそう声を出すしかなかった。

その様子を見ていたカスミ達も、何が起こったのかを理解するのに時間がかかった。

カスミ達が我に返ったと同時に、エルオン・グールの腕の断面から血が吹き出し、腕を掴みながら悶絶しそうな勢いで叫ぶ。

一方のリーフは先程と変わらず、ただその場で冷ややかにエルオン・グールを見ながら立っているだけであった。

しかし、右手に持つ刀には僅かに血が付着し刃を流れていた。

リーフがした事は極単純に、迫っていた拳を切り落としだだけである。

だが、リトビとグランがリーフの力を抑える為に着けた拘束具を外した事で、リーフは今出せる力を解放する事が出来た。

元々リーフの潜在能力が高い事に気付いたリトビとグランはどこまで成長できるのかと自分達自ら修行を開始した。

そして、リーフは本来なら耐えきれないはずのリトビとグランの修行を、およそ三ヶ月見事にやりきった。

さらにアブルホールも加わるという予想外もあったが、それでもなお、リーフは耐えきったのだ。

これには、さすがのリトビとグランも想定外であった。

現在のリーフは消耗しているが、本気を出したリーフの実力は、普通の中位木精霊(アルラウネ)を遥かに凌駕する。

だからこそ、リーフの力を悪用される事を恐れた二人は、離れても目立たないようにグラン特製の拘束具と腕輪を着けさせていたのだ。

 

「どうした、もう終わりなのか?」

 

リーフは煽るように挑発する。

 

『舐めるなぁぁぁーーーーーーーーーー!』

 

エルオン・グールはすぐさま自己再生を行使し、断面が盛り上がりそこから腕が生えた。

 

『ハハハ!いくらやられようと、私の自己再生の前では全て無駄だ!』

 

「そうか、じゃあ試してやる。」

 

ようやくリーフは刀を構えて、戦闘体勢に移行した。

エルオン・グールはにやりと歪んだ笑みを浮かべ、リーフに向かって全力で拳を振るう。

対するリーフは幻龍を振るい、迫り来る拳を斬りつけ弾いていく。

しかし、エルオン・グールは傷付くと同時に再生を始める為、焼け石に水をかけるような状況である。

斬り裂いては再生して、再生しては斬りつける、ただひたすら同じように繰り返し続ける。

 

「兄ちゃん、俺達も支援した方がいいのか?」

 

「・・・いや、あれに加わるのは無理だろ。」

 

リーフとエルオン・グールの戦いは、さらに激しさを増していた。

このままでは埒が明かないと、エルオン・グールは黒い触手も使いリーフに襲いかかる。

リーフは先程よりも冴え渡っており、冷静にエルオン・グールの動きを読み、激しい攻撃を全て紙一重で避けては斬りつけてダメージを与えていた。

最早二人の戦いの中に、ここにいる全員は加わる事すら困難な状況であった。

ただ全員が見守り、リーフの勝利を祈る事しか出来ない。

 

「リーフさん・・・。」

 

「リーフ・・・。」

 

しかし、状況は不利だ。このままでは、先にリーフの体力が尽きてしまう。

誰もがそう考えている中、ポークとグアナが先程とは何か違う違和感に気付いた。

 

「ポーク殿、何かおかしくないか?」

 

「奇遇だな、俺もそう思う。」

 

二人は戦闘の様子を眺める。そこは相変わらずエルオン・グールの攻撃をかわし、カウンターでダメージを与えるリーフの姿。

 

「「・・・まさか!?」」

 

二人はようやく気付いた。そしてリーフの勝利を確信した瞬間であった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『があぁぁぁーーーーーーーーーー!!』

 

「しっ!」

 

もう何度目になるかわからないほど攻撃した。なのにリーフは先程から一切の攻撃を受けず、カウンターでエルオン・グールに確実に攻撃を当てている。

エルオン・グールは先程から怒りが積もる一方だ。

そして、リーフは再びエルオン・グールの右腕を斬り落とした。

 

『ぎゃあぁぁぁーーーーーーーーーー!?』

 

腕をきつく抑えて蹲る。リーフは距離を取り、痛みに苦しむエルオン・グールを哀れむ目で見ている。

 

『ハァハァ・・・、これしきの傷など私の自己再生で!』

 

そう言い、再び腕を生やそうと力を籠めるが、再生する気配がない。

 

『な、何故だ?何故再生しない!?』

 

戸惑いを隠せないエルオン・グールにリーフは不敵な笑みで告げる。

 

「自己再生の使い過ぎだ。お前の再生能力は体力を消耗させる。傷付く度に再生していれば、いずれ限界に達してしまう。」

 

その言葉にエルオン・グールはハッと気付いた。

深い傷ばかり付けて自己再生せざるを得なかった事、挑発して自己再生を促していた事、全てリーフの手の内であった事。

 

『アア、あぁあぁぁあーーーーーーーーーー!』

 

全てを否定しようと、がむしゃらにリーフへ突進して行く。

だが、目の前にいたリーフは突然掻き消えた。

リーフを見失ったエルオン・グールは辺を見渡すが、リーフの姿はどこにもなかった。

ならば、先に向こうにいる奴らからと思って、走り出そうとしたその時、ポトリと足下に何かが落ちた。

エルオン・グールは落ちた物を確かめるように、自分の足下を覗き込む。

そこにあったのは、4本の指であった。

エルオン・グールは自分の左手を見る。そこにあった筈のひとさし指から小指の第二間接から上は、綺麗に切断されていて血がドクドクと流れ出していた。

自分が斬られた事に知覚した瞬間、エルオン・グールにリーフの斬撃が始まった。

 

『ギャアアァぁーーーーーーー!!?』

 

咄嗟に腕で庇おうとするものの、自分の身体全体にリーフの斬撃が刻まれる為、いくら庇っても無駄である。

時折、見えないリーフに向かって腕を振り回すが、当然当たるはずもなく、突き出した腕に大量の傷を付けられるだけであった。

エルオン・グールを含め、その場にいる全員がリーフの姿を捉える事が出来ない。

あまりにも速すぎるその様子は、ただ風を斬る音と共に黒い線が通りすぎてエルオン・グールに深い傷を付ける事しかわからない。

 

『(こんな・・・、こんなところで!)』

 

もう完全に自己再生は使えなくなっていた。

全身に痛々しい斬り傷が刻まれる中、エルオン・グールは反撃の機会を狙う。

 

『(まだだ、まだ終わらんぞ!まずは懺悔するふりをして、油断した瞬間に奴を噛み殺す!)』

 

かつて、エルオンは一人の冒険者がエルオンの実態を暴き、屋敷に乗り込んで来た事があった。その際エルオンは冒険者に向かって必死に命乞いをした。

最終的にその冒険者はエルオンを許し、背を向けて立ち去ろうとした冒険者を後ろから隠し持っていたナイフで刺し殺した。

だからこそ、今回も上手くいくだろうと思っている。

そして声を上げようとしたその時だった、

 

ガコッ

 

何が外れた音がやけに大きく響く。

そして、エルオン・グールは自分が喋れない事に気付いた。

リーフの斬撃がエルオン・グールの顎関節を砕いたのだ。これで完全にエルオン・グールの目論みは出来なくなり、最早打つ手はなくなった。

追撃にリーフは肩関節とアキレス腱を斬り、完全に抵抗できないようにして、少し離れた場所に姿を見せた。

向き直ると丁度エルオン・グールの前であった。

8つの内7つの目は潰され、全身にはリーフの斬撃による傷で埋め尽くされ、血で真っ赤に染まっていた。

リーフは姿勢を低くして、刀を横に構え柄を両手でしっかりと握り締める。

人間だった頃、陸道は刀など扱った事など微塵もなかった。リトビ達も剣術に関しては専門外で、基本的な扱い方しか教えてこなかった。

だが、リーフは自分が今繰り出そうとしている技の名が、自然と頭に浮かんでいた。

体内の魔力を幻龍の刃に流し込む、すると刃が翡翠色に輝き出す。

 

 

 

 

 

「『神導覇星、幻龍・・・一閃、壱ノ型!!!』」

 

 

 

 

 

そう叫ぶと同時に駆け出し、エルオン・グールに最後の一撃を放った。

一瞬でエルオン・グールの後ろに立った。

そして刃に付着していた血を振り払い静かに鞘にしまうと、エルオン・グールの胸に一筋の線が入り、エルオン・グールの体は分かれて、その場で崩れ落ちた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その場の誰もが、目の前の出来事に声を出せずにいた。

全員で掛かっても倒せなかったエルオン・グールを、たった一人で倒してしまったのだ。

そしてようやく、自分達が勝利したと実感が染み込んできて、勝利の雄叫びが上がった。

 

「勝った、勝ったんだ!」

 

「ウニゃーーーーー!」

 

「リーフさん・・・、凄い!!」

 

「一生付いて行きます、ボス!」

 

「宴だブー、宴だブー!」

 

口々に皆リーフに称賛を送り喜びを浮かべる中、グアナだけは戸惑いを感じていた。

 

「(まさか・・・いや、何故あれを!?)」

 

グアナはかつて、人類他種族大戦で精霊連合の一兵士として、戦争に参加していた。

そしてある日、他の兵士と中隊を組み、戦場に向かう最中であった。

突然の襲撃だった、一人また一人と襲撃者達に仲間の命が奪われる中、グアナは一人の襲撃者に目を離せなかった。

 

『裏切り者』、『同族殺し』などと呼ばれた、最上位木精霊(ツリー・エレメンタル)の事を。

 

先程リーフの技は、その最上位木精霊(ツリー・エレメンタル)が使っていた技にそっくりだったのだ。

あの最上位木精霊(ツリー・エレメンタル)とリーフは関係あるのか、リトビと言っていたのはどうしてか、他にも色々と聞きたい事は山積みであった。

そして、リーフに声をかけようとしたその時、急にリーフの身体がぐらついたかと思うと、そのまま地面に倒れ込んでしまったのだ。

祝勝ムードは一転し、その場の誰もが血の気が引いていき、辺の気温が一気に下がったような感覚に襲われる。

 

「リーフ!?」

 

「リーフさん!!」

 

気づけば、カスミと光が真っ先に駆け出していて、他の者も皆リーフに駆け寄って行った。

 

意識が薄れゆく中、リーフはまた声が聞こえた。

それは、真っ暗な世界にいたときに聞こえた男女二人の声であった。

 

『頑張ったな、リーフ。』

 

『今はゆっくり休みなさい。』

 

その声を聞いたリーフの意識はゆっくり落ちていった。


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