精霊転生 ~転生したけど崩壊した現代でした~   作:緒方 ラキア

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プロローグ

この世界に人間が誕生して、長い年月が流れた。

人間は他の生物とは違い文明を持ち、科学を発展させ、独自の進化を遂げ、生態系の頂点に君臨した。

そして、人間は科学をさらに発展させ遂に、宇宙へと進出した。

だが、それも昔の話。

人間たちは気づいていなかったのだ。

自分たちを簡単に滅ぼすことのできる『存在』がいることに。

その『存在』たちは、人間が生まれるはるか昔にこの星に生き、自然を守ってきた。

そして、人間の度重なる種の絶滅、自然の破壊に『存在』たちは、遂に動き出した。

人間は持てる科学を結集し、『存在』と戦った。

しかし、人間の抵抗むなしく、人口の3分の2は滅ぼされた。

 

生き残った人間たちは『存在』たちをこう呼んだ。

圧倒的な身体能力を持ち、高い知性を得て、人間が使う事のできない魔法を使う種族。

 

『精霊』

 

新たに、この星の頂点に君臨する者たちである。

 

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人類歴史2154年

 

人間保護特別区域。

4年前、生き残った人間たちを『精霊』たちは森林の一部を切り倒し、集落を作った。

「イオタ村」 この村の最初の村長の名字を取って、そう呼ばれている。

人口120人。25家族、様々な国籍の人がこの村で生活している。

科学文明の崩壊により、ここの生活レベルは中世の頃まで落ちていた。

科学に頼りきっていた人間たちにとって 、初めの頃はとても苦労していたが、今は精一杯この場所で人々は生き続けている。

星原 光(ほしはら ひかり)は泣いていた。

 

彼女は村で妹と2人で暮らしている。今の世の中、あれほど笑顔で生活している者はいない。と言われるほど仲良く暮らしていた。

そんな中、妹の明美(あけみ)が突然居なくなったのだ。

村中が大騒ぎになった。朝から村人総出で探したけれど、有力な情報はなかった。

 

その時、村の門の方から鐘の音が響き渡る。

 

この鐘は外からくる中央都市『オーバード』から徴税使が来る時以外、決して鳴らない。

だが、今回は徴税使が来る日ではなかった。

嫌な予感がした。

しかし、急がなければならない。村への訪問者には村人総出で出迎えなければならないと、この集落を管理する『精霊種』の貴族から言われているのだ。

もし、遅れたりすればその場で処刑されるのだから。

光は涙を拭き門の方へ走り出した。

 

村人全員が揃い、門の先いたのはやはりこの村の管理者である中位木精霊≪アルラウネ≫の貴族、エルオン・ナトルクスであった。

膝まずく人間たちを一瞥し、満足そうに口角をあげる。

傭兵の豚人≪オーク≫3人に後ろで待機するように命令し、ここに来た目的を言い放った。

 

「この村にいる『ホシハラ ヒカリ』がこの度我が妻になることとなった。『ホシハラ ヒカリ』は前に出よ。」

 

村人の視線が彼女に集まった。

彼女は一瞬驚き固まったが、すぐに言われたとうりに前へ出た。

 

「すぐに出立する。早く乗れ。」

 

エルオンはそう言い、執事が馬車の扉を開けた。

しかし、この馬車に乗るわけにはいかない。これに乗ればもう二度とこの村に帰って来ることはできない。

そして、妹を残したまま行くわけにはいかないのだ。

 

「その前に、お願いがあります。」

 

村人の顔に恐怖が浮かんだ。

エルオンに意見するなどもってのほかであり、この場で処刑され兼ねないからだ。

しかし、光は言葉は続ける。

 

「妹が突然居なくなったんです。どうか探してください。お願いします。」

 

光は頭を下げ、願い出た。声からは、彼女の必死の思いが伝わって来た。

村人が見守る中、彼女は最後の希望にかけた。

しかし、返事はその希望を砕くものであった。

 

「その様なことにかまっている時間はない。さっさと乗れ。」

 

「っ!・・・。お願いします。どうか探してください。」

 

「しつこいぞ。もう一度言う、乗らなければこの場で処刑する!」

 

「そんな。」

 

「大方、こっそりここを出て魔物に喰われたのだろう。探す必要はない。」

 

エルオンはそう言い。光はその場で泣き始めた。それでも彼女は嗚咽混じりに「お願いします。お願いします。」と願い続ける。

だが、エルオンは豚人≪オーク≫たちに彼女を連れて行くため取り押さえるように命令した。

「離して!やめて!」

 

豚人≪オーク≫に手を掴まれた彼女は、その手を離そうと抵抗するが、力で彼らに敵うはずもなく、そのままずるずると引きづられていく。

村人たちの方に目を向けるものの、誰一人彼女を助けようとしない。ここで光を助ければ、エルオンに何をされるかが想像がついたからだ。

だから、誰もが仕方ないと彼女に哀れみの視線を向ける。

光の心が絶望に染まってゆく、信頼していた村人たちに裏切られ、居なくなった明美(あけみ)を見つけられず村を出ていくことに。

 

(もう、誰も助けてくれない。)

 

光は何もかもどうでもよくなり、すべてをあきらめていた。

そして、馬車に入ろうとしたその時。

 

----ヒュン!-----

 

突然、空気を切るような音が聞こえた。

 

「え・・・・・?」

 

後ろを振り返ると、先ほど自分の手を掴んでいた豚人≪オーク≫が宙を舞っていた。

豚人≪オーク≫はそのまま、2回跳ね、その場で脇腹を抑え蹲った。

他の豚人≪オーク≫2人は蹲る仲間へ駆け寄った。

エルオンはいまだに何が起こったのか理解出来ずにいた。

すると、村人の1人が何かに気付き、「あ!・・・」と声をあげ、指を指した。

光は村人の指した方を見た。

 

そこには、1人の人外が立っていた。

中性的な顔立で男性とも女性にも見えるが、どちらがかというと女性寄りである。

着ているものは日本人の礼服である袴。ただし、男性用の袴である。

瞳と髪の色は、美しい黒。腰まで伸びたポニーテールが女性らしさをさらに引き立たせている。

ここまでの特徴だけならば、男装した美しい女性だと誰もがそう思っただろう。

だが、人間ではない決定的な特徴がある。

 

うなじから緑の触手が伸びているのだ。

 

この触手は木精霊族の特徴の1つである。

伸縮自在に動かすことができ、日常生活の中で使う事はもちろん、鞭のように相手を攻撃する際にも使用する。

 

だから、目の前にいる者は木精霊族であると彼女は理解した。

だが、なぜ同じ木精霊族のエルオンの部下を攻撃したのだろうか?

光は理解できなかった。

 

やがて、何が起こったのか理解したエルオンが叫ぶ。

 

「貴様、何者だ!」

 

すると、エルオンの方を見て口を開き言った。

 

「リーフ・・・。」

 

透き通るような声で自らの名を言った。

そして、ここからすべてが動き出した始まりの物語である。

 


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