精霊転生 ~転生したけど崩壊した現代でした~ 作:緒方 ラキア
村長と村人幾人が、リーフの泊まっている空き家に足を運んでいた。その中には光の姿もあった。
改めてお礼がしたい村人が集まって、村長と共に向かって行く。光は別に用はないのだが。
代表として村長が扉を叩く。しかし、中から返答はない。
怪訝に思いもう一度先程よりも強く叩こうとすると、扉は開かれた。
そこにいたのは・・・
よれよれの長く伸びた髪。その隙間から覗かせる瞳は充血しており、こちらを睨め付けている。
ホラー映画の幽霊よりも恐ろしい。
「あ”?」
寝起きがとてつもなく悪い
「「「「「ぎゃあーーーーーーーー!!?」」」」」
そこにいた村人全員の絶叫が響き渡った。
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「いや~、面目ない。朝は変な夢を見るから、どうも機嫌が悪くなってな~。」ハハハ
10分後、いつもの見慣れた袴姿になったリーフは、先程と打って変わって、感情が一転していた。最早二重人格なんじやないかと疑ってしまうほどだ。
ここにいた村人全員が、寿命をが縮まるかと思ったのは仕方ない事だろう。
「ところで、また何か?」
リーフの質問に、村長が答える。
「えっと、この者達は改めてお礼がしたいとここに来たのですが・・・」
村長と光以外は恐怖で気絶しており、とてもそんな状況ではない。
「私は昨日の事で改めて謝罪に・・・、光は何でいるんだ?」
「・・・別に。」
特に目的がないのに付いて来た光に疑問をぶつけるも、光は曖昧な返事をするだけであった。
「それと、リーフさんを尋ねて来た人がいまして。」
村長の言葉にリーフは首を傾げる。別に誰かと会う約束はした覚えがないのだが。
「全く、朝早々に村人を気絶させるなんてね。」
すると、聞き覚えのある声が聞こえて村長の後ろを見ると、カスミがこちらに向かって歩いていた。
「明美から聞いたわよ。あなた魔法が使えないんですって。」
リーフは思わず狼狽える。やはり、明美に話したのは失態だったか。
精霊は元々高い魔力を持つ種族で、ほとんどの精霊が老若男女問わず使える物である。むしろ魔法が使えない、あるいは使わないとなると同族から何かと厄介な事になるとされている。
しかし、リーフが魔法を使わないのは別に理由がある。
どういうわけか、リトビとグランから「お前に魔法はまだ早い。」など、魔法に関する事だけは教えてくれなかったからだ。
しかも、妙に二人が魔法の話になると、露骨に話題を反らすので、リーフは魔法については全くの無知である。
「・・・私が魔法を教えてあげるから付いて来て。」
「・・・はいっ?」
そう言うとカスミは事態を理解出来ていないリーフの手を掴んで、ズルズルと引きずって行く。
すると突然光がカスミに声をかけた。
「ねぇ、私も付いて行って良いかしら?」
光は笑っているのに、何故か背筋がゾワッと感じた。笑顔なのにその笑顔が怖いとは、一体どうしてだろうか。
しかし、カスミは気にした様子もなく光に返答する。
「今回はダメね。マンツーマンに教えた方が効率が良いし、光には後で教えてあげるわよ。」
そして、カスミは何処か勝ち誇ったような態度で光を見つめる。
対する光も一層笑顔を強くする。たったそれだけの事なのに、辺りの気温が1度下がったような気がするのはどうしてだろうか。
「さぁ、時間がもったいないから行くわよリーフ。魔法を覚えるの難しいから早くしないと。」
「リーフさん、帰ったら真っ先に家に寄ってくださいね。夕食ご馳走しますから。」
何故か昨日の温泉騒動の後から二人の距離がおかしくなったようだ。別に喧嘩という訳ではないようだが。
騒動の後、互いの過去を打ち明けた二人は、リーフに好意を寄せている事に気付いた。そして二人はリーフを渡してなるものかと、互いにライバルとしてリーフを狙っている為このような事になっている。
((絶対に渡してなるものか!))
しかし、リトビ、グラン、アブルホールの厳しい修行とグランの過剰なスキンシップによって、リーフは陸道の時よりも鈍感になっている為、リーフが二人の気持ちに気付くのはかなり先になるのであった。
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目的地は村からかなり離れた場所であるらしく、かれこれ30分ほど歩き続けている。だが、この程度でリーフは疲れる事はない。
それよりも、手ぶらで歩いている事が心配であった。
「せめて、刀は持ってきたかったのですが。」
「魔法を教えるのに、武器なんて必要ないわよ。」
全く持ってカスミの言う通りなのだが、あれを身に付けていないとどうも落ち着かない。
いざとなったら、籠手に仕込んでいる苦無で対処出来るが、主武装が無いのはいささか心配であった。
「着いた、ここよ。」
どうどうと流れ落ちる水音、仄かに香る花の匂い、たどり着いたのは滝が見える花畑であった。
しかし、中央には明らかに人工物と思われる石畳が丸く敷かれており、幾つもの模様が描かれていた。
「じゃあまずは、その模様の中心に立って。」
言われた通りに、リーフは花をなるべく踏まないように歩き、石畳の上に乗る。
中心に立つと、変化はすぐ表れた。
黒かった模様が緑色の光を放ち、流れるように動き一つの魔法陣を形成する。
驚くリーフを解析するかの如く、魔法陣は光輝く。
しばらくすると、魔法陣の光は収まってゆき、元の黒い模様となって石畳に戻っていった。
「今のは一体?」
「あなたの魔法適性を見させてもらっただけよ。」
魔法は誰にでも扱える物ではない。下手に魔力のない者が魔法を使おうとすると、暴走し最悪命を落とすか魔物になるなど、まともな結果にならない。
だからこうして、その人に合った魔法を測る為に、このような魔法陣を起動させてその人の魔法適性を調べ上げるのだ。
「んと、リーフの適性は・・・」
カスミはいつの間にか持っていた紙を覗き込む。
仕組みは不明だが魔法陣が起動すると同時に、その人の魔法適性が紙に書き込まれるらしい。
「攻撃A、回復E、防御B、付与Eか・・・至って普通ね。」
そう言われた所で基準を知らないリーフには理解が追い付かない。
「じゃあ次は、そこで全身に力を込めてみて。」
そう言われたが、力をどう込めるのかがわからない。
仕方なく、リーフは限無覇道流拳法の基本技である『錬気』を発動させる。
この技は、腹式呼吸を行いリラックスすると共に、身体の中の気の流れを整より高めるこの技は、リトビから教えられた数少ないリーフの使える技の一つである。
すると、再び魔法陣が光出した。それと同時に、リーフはまるで優しく包まれるような不思議な感覚に襲われる。
だが、それも一瞬で終わり、元の現実に戻された。
何が起こったのか理解出来ず、リーフは両手の握ったり身体を見るけれども、異常もなく変化も見られない。
「なかなかの魔力量ね。これなら問題なさそうだわ。」
そう言うと、カスミは本格的に教え始めた。
「本来なら、魔法は学校で教えてもらう方がいいんだけど、基本なら私が教えても大丈夫でしょ。」
本当に大丈夫だろうかとリーフは考えたが、カスミの生き生きした表情に、問い掛けるのは止めた。
まず、魔法を発動させる為には二つ必要な事がある。魔力の調節と詠唱である。
「とりあえず、まずは私が魔法を使うから見ていて。」
カスミは滝に向かって右手を掲げる。
【我が身に流れる緑の力よ、光弾となりて、打ち倒せ。】
【エナジー・ボール】
カスミの詠唱と共に魔力が右手から溢れ出し緑色のエネルギーの球体が形成されてゆく。
そしてカスミのが技の名を言うと、球体は勢いよく放たれる。
そのまま真っ直ぐ流れる滝の水にぶつかり、水を巻き込み球体は弾け飛ぶ。水しぶきが広がり、虹が浮かび上がった。
「まあ、こんな感じでやって見て。」
「・・・無理じゃね。」
そう言わずにはいられなかった。
「私の言った通りにすればうまくいくわよ。」
そう言われて、リーフはしぶしぶ右手を構える。
「まずは、さっきみたいに全身に魔力を右手に集中させて。」
リーフは錬気の時のように、右手に魔力を少しずつためる。
「じゃあ今度は詠唱よ。」
リーフは羞恥心を抑えながらも、中二臭い詠唱を言うとする。
しかし、その気持ちの揺らぎで最悪な事が起こった。
順調に流れていた魔力が乱れ、形成していたエナジー・ボールから魔力が溢れ出したのだ。
「エッ!?」
「くっ!」
リーフは咄嗟に暴走するエナジー・ボールを抑え込もうとする。
だが、抑え込もうと力を込めようとすればするほど、身体から力が抜けていく。
そして、エナジー・ボールは勢いを増してゆく。
「だめ!エナジー・ボールが暴走して魔力が吸いとられてる、早くそれを離して!」
カスミは危険を感じて切迫した声で言うが、リーフは決して離そうとしない。
あまりにも魔力が強すぎる為、この場で解き放てばどれ程の被害が起こるのか予想も出来ないからだ。
「はぁーーーーーー!!」
力がさらに失なわれていく中、リーフは被害を最小限に抑える
そして・・・
「がぁーーーーーーーーーー!!!」
残された力を振り絞り、エナジー・ボールを真上に蹴り飛ばす。
そして、籠手に仕込んでいた苦無をエナジー・ボールに向けて、全力で投擲する。苦無がエナジー・ボールにぶつけると同時に、轟音と共に弾け飛ぶ。
被害は抑えられたが、リーフは荒い息を吐きながらその場で蹲る。
「リーフ、大丈夫!?」
【我が身に流れる緑の力よ、癒しの光となりて、この者を癒せ。】
【ライト・ヒーリング】
そんなリーフにカスミは駆け寄り、体力回復の魔法をかける。
全回復とまではいかないものの、少し気が楽になった。
「ありがとう、カスミさん。」
「ごめんなさい、こんな事になるなんて。」
カスミは深く責任を感じているが、これはリーフのミスである。
あなたは悪くないと言うとした時、遠くから声が聞こえた。
周りを見渡すと、こちらに飛んで来る
いつものおっとりした雰囲気は皆無で、どこか不安な表情を浮かべていた。
「見つけたカスミ、リーフさん、すぐに戻ってください!」
「ヒバリ!?何があったの?」
「魔物がイオタ村に攻めて来て、今はグアナさんとクロネちゃん、
ヒバリの言葉に二人は急に血の気が失せてゆく。
リーフは身体を無理やり起こす。
「じゃあ行かないとな。」
「でもリーフその身体じゃ!」
「とりあえず、背中に乗ってください。」
リーフは魔力を大量に消費してしまった事によって、現在まともな考えが出来なくなっており、二人で村に向かうにはこれが最善策だと思い付いたのだ。
「あの・・・、えっと・・・」
「早くしろ!」
「っ!?し、失礼します!」
もじもじしていたカスミに渇を入れて背中に乗せる。
振り落とさないように、カスミの太ももをしっかり掴み、クラウチングスタートの体勢になると、足に力を込める。
カスミも顔を真っ赤にしながら、首に手を回して密着する。
「行くぞ。」
カスミが頷いたのを確認すると、リーフは身体に鞭を打って村へと駆け出した。
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