精霊転生 ~転生したけど崩壊した現代でした~ 作:緒方 ラキア
現在リーフは村から少し離れた所にある集落、『ヴァリアント特別区』に向かっていた。
彼女達の言っている『ヴァリアント』とは、障がいを持つ精霊族や他種族、あるいは都市から追放された者達、その他にも様々な理由を抱えた者達のの事である。
ここはヴァリアントが暮らしている数少ない場所である。
しかし、ここで暮らす者の多くは、皆“龍脈病”に犯された者達が7割を占める。
未だに龍脈病に効果的な治療法は存在せず、発症すればまず治らないとされている。
この世界で、龍脈病患者は差別され社会的地位が低い。本来の力を発揮できない精霊や他種族は、ここに連れて来られ二度と都市には戻れず、この地で一生を終える。
この大陸のヴァリアント特別区は、近くのイオタ村と2年前から互いに助け合いながら暮らしている。
本来、人間に良い感情を持たない精霊と他種族だが、ここで生活する者達は全てが人間と共生を望む『共存派』なのだ。
だから、エルオンに苦しめられていたイオタ村の人々に、隠れながら助けているのだ。
その集落にリーフは三人の案内によって向かっている。
三人はそれぞれ、
カスミが先頭を歩き、クロネはリーフの後ろに付く。ヒバリは上空を飛びながらこちらを見張っている。
一応、光が説明して誤解は解いたものの、カスミはまだ完全に信用した訳ではなく、これからヴァリアント特別区の長に会わせると言って案内をしている。
「見えてきた。」
カスミがそう言うと、リーフも確認できた。
深い森の中に大小様々な建築物が建てられており、まるで秘境の地にある集落に着いたようであった。
集落に入ると、いろんな他種族達が警戒しながらこちらを見てくる。
リーフは集落で最も大きい家に連れられ、そこで待つように言われた。三人は入り口近くに座り、リーフも正座で待つことにした。
しばらくして、一人の亜人族が入ってきた。
爬虫類と人間が掛け合わさったような他種族。
「私がここの長を務める、グアナだ。」
「
「うむ、では色々聞かせて貰うぞ。」
そんな感じで、
だが、リトビ達の事はバレると色々と問題になりそうなので、内容を多少誤魔化して説明した。
仙人とビッチとメカニックにの下で暮らしていた。と。
「ふむ、なるほど。」
(別に嘘は付いていない、すまんなグラン。)
リーフの脳内には、笑顔で大槌を片手で振り回すグランがいる。バレたらブチのめされるなと思っていた。
すると、グアナは頭を下げる。
突然の行為にリーフも、後ろの三人も驚きの表情を浮かべる。
「この度は、光と明美を助けて頂き感謝する。そして、その恩人に刃を向けた事をどうか許して欲しい。」
グアナの言葉に後ろの二人が申し訳なさそうにしている。
「いえいえ、当然の事をしただけです。それに
そう言うと、後ろにいるカスミが目を丸くする。どうやら彼女も、リーフを女性だと思い込んでいたようだ。
「本当にすまない。私がもっと早く動いていたら、エルオンは私が倒せていたのに。」
何でも、すでにエルオンを倒す計画を立てていた為、たとえリーフが来なくても、彼らはエルオンを倒していたらしい。
「やはり、私は長としてまだ未熟だ。あの人に到底及ばない。」
グアナは、何処か懐かしむように語り出した。
「そもそも私は、中央都で王に仕えていた。だが、同じ他種族であるのに虐げられる同族達を救う為、私は友と共にヴァリアントの国を作ろうとした。」
「だが、その行動は叶う事はなかった。大貴族達があらゆる証言や証拠を突き付け、私達を国家反逆者として追放した。」
「けれど、友は自分が主犯だと言い私を庇ってくれた。最初に提案したのは私だと言うのに。」
「それで私の罪は軽くなり、ここに左遷された。しかし、友は全てを失い国から永久追放になってしまった、財産、愛する人を残してな。」
リーフは黙ってグアナの話を聞いていた。
「きっとまた会えますよ。」
「ああ、そうだと良いな。」
リーフはそう慰め、グアナは少し気が楽になったようだ。リーフはその友が誰なのか気になったので質問する。
「本当に、どこで何をしているのだろうか・・・リトビ。」
(いや!
リーフは表情を崩さなかったが、心の中で盛大に突っ込みを入れた。
グアナさん、リトビは森の奥で自由に暮らしていますよ。
その後、リトビの昔話を聞かされ、時は過ぎていった。
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「そうだ、この集落を案内しよう。」
グアナはそう言い出した。リーフもこの場所が気になっていたので、お願いした。
「では、カスミよろしく頼む。」
案内役に命じられたのは、後ろにいる
彼女は返事をすると立ち上がり、そのまま出てしまった。リーフはグアナに頭を軽く下げて、彼女の後を追った。
彼女はリーフから離れながら案内をしてくれる。距離を詰めようとすると、早足になるのでリーフは普通に歩く。
すると彼女から話しかけてきた。
「さっきは、ごめんなさい。いきなり攻撃して。」
「いいえ、気にしていませんから。」
どうやら謝りたかったようだ。そのまま話をしながら案内は続く。
「あなたが男だって事が、一番驚きだわ。」
「自分でも驚きましたよ、この顔見たとき。」
世間話をしながら彼女が案内する中、リーフは気になった事があった。
(何でフードを被ったままなのだろう?)
カスミはずっと素顔を見せていない。リトビが言うに、木精霊族の髪には葉緑体に似た細胞があり、光合成を行うそうだ。
だから、なるべく髪を日に当てる為に、帽子やフードはしないのが普通なのだが。
そう考えながら歩いていると、強い突風が吹き荒れる。
すると、カスミのフードが煽られ、素顔が明らかになった。
日焼けのない白い肌、リーフよりも大人びたような美しい顔。肩まで伸びた髪はリーフの前髪と同じ緑。ツインテールが風でなびいている。しかし、何故か髪の右半分は色が抜け落ちたかのように真っ白だ。
リーフが美しさに思わず見とれていると、振り返ったカスミと目が合った。カスミはフードが取れた事を知ると、たちまち両目から涙が溢れ出し、
「うわーーーーーーーん!!」
盛大に泣き出してしまった。
(ええーーーーーーー!!)
周りの他種族達も何事かとこちらに目を向ける。その光景はどう見てもリーフがカスミを泣かしたようにしか見えない。
そんな中、リーフは動揺しながらもカスミが消えそうに言った言葉を聞きとった。
「見ないで・・・、こんな髪。」
リーフはその言葉が理解出来なかった。そして、随分テンパっていた為その場で思わず口にする。
「何で?、こんなにきれいな髪なのに。」
「・・・えっ?」
カスミは目を丸くして、とても驚いた表情を見せる。周りの他種族達も同様であった。
カスミは恐る恐るもう一度確かめるように尋ねる。
「あなたは、これを何とも思わないの?」
「?、ええ。」
リーフがそう答えると、カスミは滝のように涙をさらに溢れさせ、先程よりも盛大に泣き出してしまった。
「は、初めて同族から綺麗だって、言われたーーーーーー!うわーーーーーーーん!!」
リーフは周りに助けを求めようにも、知り合いなどいるわけもなく、ただただそこで戸惑い続けるしかなかった。
そして、理由を知っているその場にいた他種族達は、リーフを温かい目で見つめていた。
その後、リーフの行動は集落全員に知らされ、リーフの評判は良くなり、集落全員から褒め称えられ、仲間として認められたが、リーフが理解するのはさらに後であった。
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「疲れた・・・」
リーフは一人、村への帰り道を疲労感を漂わせながら歩いていた。
あの後、カスミはなんとか泣き止んでくれたが、本当に何故泣き出したのか見当もつかない。
村に着くと、真っ先に寄って来たのは、三男のカクニであった。その様子からすると、また厄介な事が起きたと物語っている。
「ボス、大変だブー!」
「今度はなんだ?」
正直、もうゆっくり眠りたいのだが。今日一日だけで色々な事が起きすぎだ。
しかし、続けられたカクニの言葉は、リーフを現実逃避から引き戻した。
「エルオンの馬車が襲われていたんだブー!」
「・・・何!?」
リーフは自分の耳を疑うほど、信じられなかった。
カクニの報告によると、リーフの指示で村から周囲に罠を仕掛けるように命じられたポーク達は、罠を仕掛け回っていた所、エルオンの馬車を発見した。
馬車を調べると、辺りは血まみれで馬車の中にも、血がべっとり付着していた。
ポーク達はこの辺りに生息する魔物に襲撃されたと見ているが、エルオンがいなくなった事でもう安心になったと、カクニはリーフに報告した。
「まあ、これでエルオンの兵士は来ないから安心になったブー。」
「・・・死体はあったのか?」
「それが見つからないんだブー。御者の足はあったんだけど、エルオンの遺体はどこにもないんだブー。」
その後、ポークとカツが帰って来て、報告を聞いた村人達ももう安心だと言い合っている中、リーフだけは妙な胸騒ぎが収まらなかった。
(なんだ、この嫌な感じは?)