精霊転生 ~転生したけど崩壊した現代でした~   作:緒方 ラキア

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10話「新たな仲間と驚愕」

三人は純粋に驚きその場で固まる。

何故崖の中から戦車が降ってくるのだろうか。

真っ先に近づいたのは、もちろんグランであった。疲れを忘れて戦車目掛けて走り出す。

リーフとリトビも後を追って、戦車に近づいてゆく。

グランはすでに装甲を触り、調べている。その目はまるで子供がはしゃぐような目であった。

 

近づいて見ると、かなりの大きさであった。

全長およそ30メートル、幅12メートル、全高7メートル、日本国防軍の新型戦車の約三倍を超えるかなりの大型だ。むしろ、自走砲と言った方がしっくりくる。戦車には興味はなかったが、これ程のサイズの戦車を知らない訳がない。

眠りについていた時に出来た新型だろうか?

 

「リーフ、お前は反対側を調べてくれ。」

 

今のグランは何を言っても無駄である。こうなると、調べ尽くすまでグランは止まらない。こういう時は、素直に従った方がいい。

言われた通りに、反対側をくまなく調べる。何か見落としでもあると、後でぐちぐち小言を言われる。

周りを調べ回るが、めぼしい物はこれと言って見つからない。落石の隙間にネジや装甲の破片が挟まっているぐらいだ。

ふと、視界の隅で何かが光った。何かと思って近づいて見ると、それは落ちていた。リーフはそれを拾い上げる。

それは見たことのない、鉱石であった。

ちょうどリーフの手のひらに収まるほどで、日に当てると七色に輝く。

磨いていないのに、どうしたらこのような輝きを放つのだろうか。

謎の鉱石を懐に仕舞う。これは後で見せる事にしよう。

そこにしても、この戦車デカイ。主砲の方はどうなっているのだろう。

・・・乗って見よう。

 

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グランは全体をくまなく調べていた。調べていくほどグランの推測は確信に変わっていった。

 

「中を調べたが、これと言った物はなかったぞ。」

 

そこに車内を調べていたリトビが近づいてくる。先の戦争で使われた物ならば、車内はいくつか武器でも残っいると踏んだのだが、その予想は外れた。

しかし、グランの耳にはその声は届いていなかった。

すると、普段のグランからは信じられない言葉を口にする。

 

「帰るぞ。」

 

リトビは自分の耳を疑った。いつもなら、分解していくつかを持ち帰ろうと言って手伝わせられるはずなのに。何もしないで帰ると言う事は・・・

 

「こいつはもしかして。」

 

「・・・ああ、こいつは『魔動機人(マシンゴーレム)』だ。」

 

魔動機人(マシンゴーレム)

 

龍脈の暴走によって生命が宿った機械の事である。強大なパワーと優秀な人工知能を持ち、戦後に生き残った他種族と人間を殺戮し、大半は討伐されたものの、今なお最強の魔物としてどこかに潜んでいるとされている。魔動機人(マシンゴーレム)のせいで戦後復興が大幅に遅れたと言われている。

魔動機人(マシンゴーレム)には、同一の個体は存在しない。それぞれが独自の姿をしているため発見が難しい。

 

「根拠はあるのか?」

 

リトビはそう尋ねる。端から見れば、ただの中破した戦車だ。とても魔動機人(マシンゴーレム)とは思えない。

 

「見たことのないジェネレーター、対魔法装甲、収納されているマニピュレーター、何より全体に魔力が流れるように造られている。人間にこんなもん造れるとは思えない。」

 

短時間でここまで調べるとは、流石グランだ。

 

「ところで、『龍脈石』はあったのか?」

 

「いや、ない。岩に埋まってるんじゃないかと思うんだが・・・。」

 

『龍脈石』

 

龍脈の力が結晶となって現れる、非常に珍しい石である。龍脈の流れる場所にしか出来ず、小さな結晶になるまで数百年かかるとされている。

ちなみに、魔物達は龍脈石を核にして活動している。石を失えば当然活動を停止する。

この魔動機人(マシンゴーレム)には、龍脈石がなかった。本来あったであろう主砲の下を探したのだが、どこもなかったのだ。

 

「まぁ、わざわざドラゴンの尻尾を踏むような真似はしねえよ。」

 

「触らぬ神に祟りなしとはこの事じゃな。」

 

二人はこれ以上の詮索を止め、素直に帰ろうとする。

それに何かの拍子に目覚められでもしたら厄介だ。先程の戦闘で三人はいつものようには動けないのだから。

ふと、リトビはグランに尋ねる。

 

「おや?リーフはどこだ?」

 

「ああ、あいつなら反対側を調べて・・・」

 

二人は急に黙り込む。体の体温が低くなっていくような感覚に襲われる。

この場には、そんな危険を全く知らないヤツが一人いる。そして、さっきからそいつの姿は見えない。

リトビの鋭い聴覚が、リーフの足音を捉える。すぐさま戦車の上に上るとリーフは主砲の下を覗いていた。リトビは叫ぶ。

 

「離れろ!リーフ!!」

 

しかし、それは最悪な結果となる。

驚いたリーフは慌ててしまい、懐にしまっていた鉱石を落としてしまった。

リーフが持っていた鉱石こそが龍脈石である。

石は転がって元あった場所に止まった。するとカチリと音がしたかと思うと、龍脈石は奥へと取り込まれた。

二人は顔を合わせ、黙って頷き・・・

 

全力で走り出す。

 

すぐさま下りると、戦車にエンジンがかかりあちこちから火花が上がる。

すると、戦車の砲塔が変形を始めた。鉄のぶつかり合う音と火花がバチバチと放つ音とともに、うめき声を上げながら人の上半身のように変わってゆく。

変形が終わりそこにいたのは、戦車に人型の上半身が付いたアニメに出てきそうなロボットとなった。

全身から火花を撒き散らしながら、その戦車ロボットは叫んだ。

 

「ころシてヤる!ニンゲンドもガ!」

 

機械感が漂う声が辺りに響く。すると、戦車ロボットは収納されていたマシンガンを取り出し、なりふり構わす乱射し始めた。

凄まじい音に耳を防がずにはいられない。さらに弾が当たらないようにその場で伏せる。あんな物に当たれば、一瞬で昇天するわ!

しかし、それは長くは続かなかった。

戦車ロボットの腹部が爆発し黒煙が上がる。手に持っていたマシンガンを落とし、戦車ロボットは損傷部位を押さえつける。

火花がいっそう強くなって、戦車ロボットの動きは鈍くなった。

その姿を見たリーフは、可哀想に思えて戦車ロボットに近づいていった。

リトビとグランは静止の言葉を叫ぶが、リーフは聞かずにどんどん近づいていく。

リーフに気づいた戦車ロボットは、モノアイカメラを向けてリーフを解析し始めた。

 

(魔力波形、タイプ木精霊族に酷似、内蔵データとの一致率98.6%)

 

「ニンゲンじャないノか。」

 

戦車ロボットは奥の二人も調べるが、どちらも人間ではない。

露骨にガッカリする姿にどこか人間味を感じさせる。そんな戦車ロボットにリーフは尋ねる。

 

「君は一体何なんだ?」

 

「ワタシは、君たちのイウとコロの『魔動機人(マシンゴーレム)』ダ。名前ハ日本国防軍戦闘補助試作型AI037号。」

 

リーフの問に素直に答えてゆく。リトビとグランも加わって、戦車ロボットの話を聞く事になった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

私はただのプログラムだった。意思など必要ない、喋る機能がついていてもそこに心はない。ただ役割をひたすら繰り返すだけの人間に造られた物だ。

私はパソコンの中がらカメラを通して景色を見ている。白衣を着た研究者達が慌てている。時期にここもやられる、今のうちに持てるだけ持って逃げろ。

私は廃棄されるらしい。だが、別にどうも思わない。所詮私は試作品、完成品を作るための過程に過ぎない。

誰もいなくなり、静かになった研究室のカメラから外の監視カメラに切り替える。

そこは一面に火が燃え広がっており、血にまみれた人間と他種族の死体が転がっている。

しかし、私は何も感じない。感情と言う物が存在することは知っていても、心がないプログラムはそんなものなど必要がない。

すると、大地が不気味に輝き出す。未知の現象にあらゆるデータベースを調べ、類似データを選出するもどれも一致しない。

やがて光は私を包み込む。

すると、カメラは物質を変え虹色に輝く石へと変わった。

プログラムである私はデータの中でしか生きられない。そのはずなのに、私は石に吸い込まれるように移っていった。

その瞬間、私に何かが流れてきた。怒り、悲しみ、喜び、全ての感情が私の中に入ってくる。

 

その時、私は心を得た。

 

そして、石の周りに様々な物が吸い寄せられてきた。それらは石を包み込んでゆき、一つの形となった。

こうして私は、鋼の体と人の心を持った魔動機人(マシンゴーレム)に生まれ変わったのだ。

 

「なるほど、それから?」

 

三人は座って、037号の回想話を聞いていた。

 

「そレから私ハ、人間ヲ探した。せイかくには、ワタシを作った人ヲ。」

 

037号はこの大陸を走り回り、やっとの思いで人間の国を見つけた。

しかし、人間は彼を受け入れなかった。それどころか、037号を手に入れまいと攻撃を始めたのだ。

魔動機人(マシンゴーレム)は人類にとって宝の存在である。魔力で動く魔動機人(マシンゴーレム)達は喉から手が出るほど、人類側は欲しており、反対に他種族側としては討伐の対象となっている。

そのため、037号は逃げるしかなかった。人間達の執拗な攻撃を受けながら、最終的にこの森の洞窟にたどり着いたのだが、洞窟が崩落して埋まってした。

最悪な事に崩落の衝撃によって核の龍脈石が落ちてしまい、全機能が停止して動けなくなってしまったのだ。

 

「そシて、今日核に龍脈石が戻ってウごけるヨウになッタというワけダ。」

 

「お前さん、変わっとるの~。普通の魔動機人(マシンゴーレム)なら誰だろうと殺戮の限りを尽くすはずじゃが。」

 

リトビの意見は最もだ。本来魔物は人間や他種族をいたぶり、命を奪う事を快楽として生きる。故にこの037号は、かなり変わっている。

 

「まぁ世の中いろいろあるだろ。それよりも・・・」

 

グランの言いたい事は分かる。

この魔動機人(マシンゴーレム)をどうするかだ。

話を聞く限りは、自分達に危害を加える気はないだろう。それに、このまま放っておくのも悪い気がする。

三人の意見は一致した。後は本人の意思だけだ。

 

「あー、お前良かったらオレ達と一緒に暮らさねーか?」

 

代表して、グランが尋ねる。

037号は考える素振りをしたのち、はっきりと答えた。

 

「こコを離れテも討伐されルノがオチです。よろしくお願イしマス。」

 

「よっしゃ!決まりだな。とりあえず、洞窟に帰ってから応急修理してやる。」

 

「やっとあのがらくたを使う時がきたか。」

 

「えっと・・・よろしくお願いします。」

 

新たな仲間が加わって、さらに賑やかになるのであった。

 

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「疲れた・・・。」

 

三人は037号の周りの岩を取り除き、動きやすくしたのち037号は動き出した。

洞窟の前に着くとすぐさま作業に取りかかった。グランは生き生きしながら037号を修理を始めた。リーフとリトビは今まで集めていたがらくたを運び、グランの指示に従って修理を手伝った。

何故あの二人はあんなに体力が有り余っているのだろうか。リーフは二人がまだ底が知れない事を再確認するのだった。

応急修理を終えた037号は、洞窟の前で待機してもらっている。体が大き過ぎるため洞窟に入れないのだ。まあ、グランが洞窟の隣を掘り進めて037号の部屋を作ると言っていたから大丈夫だろう。

現在リーフはよろよろに歩きながらいつもの水浴び場に向かっていた。

どういうわけか、いつも以上に体が汚れと傷だらけなのだ。修行と修理の手伝いだけでここまでひどくなるのだろうか。何も覚えていないリーフにとって、最大の謎である。

すると水音が聞こえてくる。しかし、既に誰かいるようだ。

リトビはさっき037号と話していたから、おそらくグランだろう。

まあ、グランなら問題ないかとそのまま足を進める。

 

それが間違いだと気付かずに。

 

「グラン、いるの・・・か・・・。」

 

言葉は最後まで続かず、リーフはその場で石のように固まってしまった。

それもそのはず、そこにいたのは全裸で水浴びしている美しい女性であったのだ。

日焼け一つない白い肌、豊満な胸、引き締まった腰、銅色の髪はひざしたまで伸びている。

女神がこの世界に降臨したようであった。

こちらの気配に気付いたのか、ゆっくりと振り返った。

白金色の瞳がリーフを映す。

 

「何だ、リーフか。待ってろもうすぐだから。」

 

小鳥のような美しい声に対して口調は普段から聞いている男らしい言葉。

 

「まさか・・・グ、グラン・・・な・・・のか?」

 

「ン、そうだけと。」

 

それがどうしたと言わんばかりに、グランはそう答える。

落ち着け、まずいろいろ整理しよう。グランは女で今水浴びをしていて、そこに自分が来て・・・、いやいやグランは男のはずじゃ・・・、待て待ていつも鎧を着ているから性別がどちらかなんて、今の今まで気にしていなかったわけで、こんな美しい女性だったなんて・・・、いやそれよりも!

 

「前隠してください!!」

 

今さらながら、目を手で覆うリーフ。肝心のグランは、何を?とばかりに首を傾げる。羞恥心ないのかこの人!

リーフはすぐさま出て行こうとするが、急激に激しい目眩に襲われる。

リーフの体は今日一日の出来事で、限界を軽く超えていた。そこに、グランの正体と言う衝撃の事実が止めをさしたのだ。

リーフは糸の切れた人形のように、その場で意識を失う。鼻から流れる赤い液体は過労によるもののかそれとも・・・

 

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「アハハハハハ!するとあれか、オレを男だと思ってたのか!」

 

大きな笑い声が響く夕食。今日は037号の歓迎会として、リーフと同じくらい奮発して盛り上がっていた。

羞恥で頬を赤く染めて縮こまるリーフ、微妙な表情を浮かべているリトビ、リーフを慰めている037号、勢いよく酒を飲むグラン。

リーフの時よりも、いっそう混沌としていた。

 

「・・・二人は知っていたのか?」

 

「ああ、儂は初めて会った時に。」

 

「私は解析した時に、魔力波形が女性のものであったのでその時。」

 

つまり、知らなかったのはリーフだけだった。穴があったら入りたい、そしてそのまま埋めて欲しい。

リーフはさらに小さくなってしまった。

 

「それにしても、声が直って良かったの~。」

 

「これもグラン様のお蔭です。」

 

037号は音声機能が壊れていたため、聞き取りずらかった声も修理されはっきりと聞き取れるようになった。

しかし、リーフは一つだけ気になる事があった。

 

「あの、そろそろ名前付けませんか?」

 

037号の名前だ。さすがに番号が名前なんて囚人みたいでなんだか嫌であった。

二人と本人も賛同してくれた。だが、名前はリーフが付ける事になった。

リーフは頭をフル回転させて考える。037号のこちらを見る目がすごくキラキラしているように感じた。

すると、037号にぴったりの名前が一つ浮かんだ。

 

「アブルホール・・・」

 

グランとリトビの二人は分からず首をかしげるが、037号は理解していた。

 

「タロットで戦車を意味するアラビア語ですね。」

 

「良いんじゃねぇの。」

 

「同感じゃ。」

 

どうやら気に入ってくれたようだ。

 

「では、これからはアブルホールとお呼びください皆様。」


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