精霊転生 ~転生したけど崩壊した現代でした~   作:緒方 ラキア

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まことに勝手ながら、リトビの技を「乱極拳」から「限無覇道流拳法」に変えました。


9話「暴走」

あれから一ヶ月が過ぎた。

慣れとは、恐ろしいものだ。まるで生まれた時からここに住んでいたように思ってしまう。

 

現在、リーフはいつものように修行場に来ていた。

だが、いつもと違い昼の修行を監督するはずのグランがいるのだ。

 

「リーフ、今日は趣向を変えて儂とグランと戦ってもらうぞ。」

 

話を聞くと、最近のリーフの実力を二人が知っておきたかったのと、相手が複数いた場合の戦い方を学ばせるためだ。

ルールは変わらず、何でもありの試合形式。グランの投げるコインが地面に落ちた時が合図となる。

 

「じゃ、そろそろ始めるか。」

 

リーフは、幻龍を鞘から抜き構える。初めて持った時より軽く感じる。これも修行の成果であろう。

リトビは相変わらず武器を持たない。しかし、拳には防刃素材のグローブが付けられている。確かに素早い動きが多い限無覇道流拳法は、ガントレットみたいな重量のあるものでは、本来の威力を殺してしまう。実に理にかなった装備である。

一方のグランが右手に持っているのは、170センチほどの銀色に輝く大槌であった。相当な重量であるにもかかわらず、グランは片手で軽々と振り回す。

 

コインの弾いた音が響く。

リーフはリトビに注意を向ける。機動力のあるリトビが仕掛け、グランが後方支援にまわるのだろうと推測する。

姿勢を低く構え、剣を持つ手と脚に力を込める。

 

チャリンと落ちた音を合図に、三人は動き出す。

 

リーフは、バネが弾けたように目にも止まらぬ速さで駆け出す。

だが、予想外の事態にリーフは驚いてしまった。

 

飛び出したのは、グランだったのだ。

 

そして、グランは図体に似合わず素早い。

リーフのわずかの油断の隙を突き、大槌を降り下ろす。

リーフは咄嗟に避けきれないと判断し上に飛ぶ。その直後、大槌が地面に落とされ、半径3メートルほど辺り一面に亀裂を生じさせる。

避けなければ、確実に一撃で戦闘不能になるところであった。

しかし、安心したのは間違いである。

すでにリトビが走り出していた。

リトビはグランの背中を踏み台にして、空中のリーフに拳を放つ。

 

「限無覇道流正拳突き!」

 

掛け声とともに勢いよく拳が放たれる。

ラビット族は跳躍力が非常に優れた種族である。リトビはそれを生かした攻撃を得意としている。

正拳は吸い込まれるようにリーフに当たる・・・直前にリーフの姿が消え、拳は空を切る。

リーフは瞬時に触手を伸ばし、上の枝に巻き付け避けたのだ。

二人から距離を取り、幻龍を構えなおす。

接近するグランを正面から迎え討つ。先程とは違って、落ち着いてグランの動きを見る。

大槌が振り下ろされる。前の一撃よりも遥かに重い、だが落ち着きを取り戻したリーフはしっかりと見据える。

リーフは紙一重で大槌を避け、グランの懐に飛び込む。そして、カウンターの一撃を食らわせた。

しかし、グランの装甲は幻龍を容易く弾く。

リーフは衝撃で体勢を崩す。そこにリトビの鋭い蹴りが迫る。

腕をクロスして受け止めるが、リトビはすぐさま回し蹴りをリーフの右側頭部に食らわせた。

地面を転がり、立ち上がろうとするが辺りを影が覆う。

グランが飛び上がり勢いよく大槌を振り下ろす。なんとか直撃を免れるものの、衝撃波によって吹き飛ばされ木に打ち付けられる。

グランとリトビの連携は見事リーフにダメージを与えてゆく。阿吽の呼吸で放たれる鋭い攻撃に、リーフは食らい付いていた。少しずつであるが二人の動きを捉え始めていた。その証拠に、リーフは気が付いていないが、リトビの拳を受け流し、グランにカウンターがよく当たるようになっていた。

しかし、疲労とダメージはピークを迎え、すでにフラフラで立っているのがやっとであった。

そこにグランの横殴りの一撃が突き刺さる。当たり所が悪く、ボキッと嫌な音が響き数メートル飛ばされ仰向けに倒れ込む。

痛みよりも疲れが体を包み、リーフは意識を失う。

 

意識が闇に沈んでゆく中、また何処からか声が聞こえた。前に聞いた優しい声ではなく、感情のこもっていない不気味な声だった。

 

『壊せ。』

 

リーフの体に嫌な何かが流れてくる。抵抗しようにも疲れとダメージがひどく、体がうまく動かない。

 

『潰せ。』

 

意識が更に遠退いていく。完全に意識を失ってはいけないと助けを求め手を伸ばすが、いくつもの黒い手に掴まれ引き込まれてゆく。

 

『滅ぼせ。』

 

リーフの意識は更に深い闇へと落ちていく。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ヤベッ!やり過ぎた。」

 

「何しとんじゃ!」

 

グランはつい本気で攻撃してしまった。二人は白熱する戦いに夢中になっていたため致し方ないとも言えるが。

しかし、リーフの左腕はあらぬ方向に曲がっている。

 

「リーフがいくら中位木精霊(アルラウネ)だからといって!これだからお主は!」

 

「悪い悪い、無事かリーフ?」

 

すると、リーフは起き上がった。だが何処か様子がおかしい。立ち上がるリーフは、腕が折れているにもかかわらず痛みを感じている素振りすらない。

よく見るとリーフの体に謎の模様が浮かび上がってくる。紫色に輝く模様は何処か不気味で、ただならぬ気配を漂わせている。

 

「リーフ?」

 

グランが声をかけると、リーフは黒から紫に変わった瞳を向けてきた。

すると、立ち上がったリーフは右手を天に掲げる。何をしているのか理解するのに時間はかからなかった。

 

突如、リーフの手のひらから膨大なエネルギーの球体が浮かび上がったのだ。

 

これには、さすがの二人も驚くしかない。二人は知っている、リーフが今何をしているのか。

リーフはグランに向けて、それを解き放つ。エネルギーは更に膨れ上がり、グランへと迫ってゆく。

グランとリトビは、放たれる前に感じたわずかな殺気に気付き、回避する事に成功する。

しかし着弾したエネルギーは地面をえぐり爆発し、衝撃波によって周りの木々を吹き飛ばす。後に残ったのは巨大なクレーターであった。

クレーターの中で、リーフは表情一つ変えず立っている。リトビとグランは、回避には成功したものの衝撃波のダメージを完全に殺す事は出来ず、グランの鎧には所々亀裂が入り、リトビは飛んできた岩に頭をぶつけ額から血を流していた。

しかし、今の二人にはどうでもいい事であった。

 

「おいリトビ、お前いつリーフに『攻撃魔法』を教えた。」

 

「心外じゃな。儂は魔法に関しては全くの無知じゃ、お主こそ、リーフに教えたのではないのか?」

 

『魔法』精霊と他種族によってもたらされた、科学に変わる新たな力である。

元々、この世界には科学では説明できない現象が数多く存在していた。その現象の一つが『魔法』によるものであった。

『魔法』には、大きく分けて4つのタイプに分けられる。

相手などを倒す事を目的として使用する『攻撃魔法』。他者、自分などを癒すために使用される『回復魔法』。自身、他者を守る時に使用する『防御魔法』。様々な物質に魔法の力を込めたり、他者の力を高める『付与魔法』。

リーフが使用したのは、『攻撃魔法』に分類される『エナジーボール』であった。しかし、普通ならばサッカーボールほどの大きさが限界とされ、初心者が最初に扱う基本魔法の一つだ。

だがそれよりも、二人はまだリーフに魔法の存在を教えた事などなかった、更に体の中に存在する『魔力』を制御しなければ使えない。だから使い方を知らなければ、魔法は決して使えないはずなのだ。

しかし今のリーフはとても正常ではない。すでに折れたはずの左腕は問題なく動いている。

更にリーフの魔力が溢れ出し、新たに『エナジーボール』を生み出す。先程と違って通常サイズだが、今度は数が多すぎる。その数およそ200以上、とても防げるものではない。

リーフはグランに照準を合わせ、指差す。すると、全ての『エナジーボール』は二人に殺到する。360度全方位からの攻撃は二人の逃げ道を断つ。

 

「任せろ!!」

 

リトビはグランの前に立ち、次々に致命傷になりかねる『エナジーボール』を弾いていく。

全ての『エナジーボール』を放ったリーフはリトビに接近する。動かない表情と紫の瞳が、やけに不気味に感じられる。

しかし、そんな事など関係ない。リトビは構える、おかしくなってしまったリーフ(弟子)を正気に戻すために。

 

「かかって来い!」

 

無表情なリーフは無情な一撃を放つ。リトビと同じ限無覇道流正拳突きであるが、込められているのは純粋な殺意。相手の命を確実に刈り取ろうとする一撃だ。

けれど、リトビは落ち着いている。放たれた拳を受け流し、合気道のように投げ飛ばす。しかしその程度ではリーフにダメージは通らない。リトビの目的は別にある。

 

「いい玉だ、リトビ。」

 

後ろには、バッドを持つ野球選手が如く大槌を構えているグランがいた。

足を踏み込み、大槌を振る。見事なフルスイングがリーフに突き刺さる。

だが、リーフは微動だにしない。それどころか、とてつもない違和感を感じる。

 

「なっ!?」

 

グランとリトビは驚愕した。大槌はリーフに当たる前に、光の小さな壁に阻まれている。

その正体は『防御魔法』『グラスシールド』である。

 

「これは、参ったな。」

 

距離を取り、そう呟く。このままでは、二人のどちらかが確実にやられる。今のままでは、リーフを殺して止めるしか方法はない。それだけは、どうしても避けたい、いやしてはならない。

 

「リトビ、向こうにお前の装備がある。取って来い!」

 

「・・・30秒で支度する、それまで耐えてくれ。」

 

リトビは奥へと消える。

1対1の戦い、グランの装甲はすでに悲鳴を上げている。下手すれば、もう持たないほど追い込まれている。

それでも、グランは諦めない。リトビが装備を整えるまで。大槌を構える。

 

「さて、この装甲持つかな?」

 

次の瞬間、リーフは飛び込んできた。大槌を振るが、リーフは次々と拳をぶつける。

グランは必死に防御するも、リーフは装甲の隙間と防御の薄い関節部分を確実に攻撃する。

装甲の亀裂が深まり、小さな破片がぼろぼろ落ちる。

胸の鎧の一部が砕ける。そこにリーフは手刀を突き刺さんとする。

しかし、グランの中身をえぐりにいく一撃が当たる事はなかった。

 

リトビの強烈な蹴りが、リーフを吹き飛ばしたからだ。

 

リーフの姿はいつもの中華服ではなく、言うなれば始皇帝。

グランの作り上げた最高傑作の一つである。オリハルコンとアダマンタイトの合金糸で縫われ、より動きやすい格闘に特化したリトビ専用の格闘服である。

 

「遅くなってすまん。」

 

「・・・35秒かかってるぞ。」

 

リトビの謝罪に、グランは皮肉めいた返答をするがあと1秒遅れていれば、本当に命はなかった。

グランは木に凭れ込み、後は任せたと手で合図を送る。リトビは黙って頷きリーフに向き直る。リーフは変わらず、無表情でこちらを見ていた。

 

「さて、正気に戻してやる。覚悟せい!!」

 

リーフは駆け出し、正拳を放つ。

 

「幻影天掌!」

 

リトビは技を発動させる。するとリトビは三人に増えた。リーフの拳はリトビをすり抜ける。すぐさまリトビは分身を解き、リーフの背中にカウンターの蹴りを食らわせる。

 

「まだまだ!!限無覇道流!七破必殺拳!!」

 

正拳、回し蹴り、発勁、リーフに絶え間い重い技は確実にダメージを与える。防御しようにもその暇を与えない神速の連撃。そして、止めのアッパーカットがクリティカルヒットする。

飛ばされ地面に落ちたリーフは、少し痙攣した後、完全に意識を失った。同時に浮かび上がっていた模様は消え、いつものリーフに戻っていた。

 

「我が拳は覇を掴む剛の拳!天下を統べる最強の拳!!」

 

「・・・リトビ、それ着ると本当に若返るな。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「・・・うっ!?」

 

リーフは全身の痛みによって意識が覚醒する。目を開けるとリトビとグランが自分を覗き込んでいた。

ゆっくり体を起こしているとグランが尋ねた。

 

「大丈夫かリーフ?」

 

「ええ、大丈夫です。かなり痛いですけど。」

 

「そうか・・・、ところでさっきの事を覚えているか?」

 

リトビの質問にリーフは疑問を浮かべる。

確か、リトビと拳を交えていた時にグランの大槌をおもいっきり食らってそのまま・・・。何か忘れているような気がするけども、思い出せない。

 

「まあ、無事ならそれでいいだろ。」

 

グランの鎧が今までにないくらいにひび割れている。ここまでひどく戦ったっけ?

リトビなんていつの間にか服変わってるし。周りも、こんなクレーターみたいだったか?

何が起きたのか全くわからないリーフはそう考えていると、

 

ピシッ!と後ろから嫌な音がする。

 

三人は音がした方を見ると、修行場の近くの崖の表面に亀裂が入る。亀裂はどんどん広がってゆく。

不味いと三人が感じた時には、もう岩が雪崩の如く頭上に降り注ぎ始めていた。

 

「「「あぁぁぁぁぁぁぁーーーーー⁉」」」

 

三人は仲良く逃げ出した。岩を砕くほどの力を先程ほとんど使ってしまったために、逃げるしかなかった。

三人がいた場所は大量の岩が落ち、土煙が舞い上がっていた。

だんだんと土煙はおさまっていく。

すると、明らかに岩とは異なる何がそこにある。土煙が晴れ、その正体がはっきりする。

緑迷彩柄の装甲、錆び付いたキャタピラー、遠くの目標を撃つ巨大な主砲、俗に言う戦車であった。


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