教会の白い死神   作:ZEKUT

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終幕

 突如結界を破り校庭に降り立った白い流星。

 落下の衝撃により、校庭に砂煙が舞う。

 

 

「今度は何なの!?」

 

 

 ただでさえ、頭の中が整理できていないリアスたちは突然の出来事に狼狽する。

 そんな中、有馬は唯一人、煙に目を向けていた。

 有馬は胸中『どうせ何か起きると思ったよ』と内心愚痴を零す。

 端からなんのトラブルも無しに、今回の任務が終わるとは有馬も思っていなかった。

 何かしら面倒事が転がり込んでくるだろうという事は、あらかじめ予想済みだ。

 

 

「すまないが、コカビエルを殺させるわけにはいかないな」

 

 

 煙の中から現れたのは、白い鎧を全身に纏う人物だった。

 その人物はコカビエルは庇うように前に立つ。

 

 

「な、何故白龍皇が・・・」

 

 

 白龍皇、かつて三大勢力の戦争中に乱入し、三大勢力に多大なる被害を出した二天龍の片割れ。

 結果的に二天龍は神器に封印されたが、神器に封印されても尚、二天龍はその宿主を代行に、勝っては負けてのゼロサムゲームを繰り返している。

 そして、此処には白龍皇だけではなく、赤龍帝をその身に宿す兵藤一誠もいる。

 今までの通りなら、此処で赤と白の戦いが始まってもおかしくはない。

 

 

「俺はコカビエルを回収しに来ただけだ。そちらとの戦闘意思はない」

 

 

 そう言いながら、血だらけのコカビエルを担ぎ上げる。

 どうやら本当に戦闘する気はないようだ。

 

 

「は、離せ!?俺はまだ――――――」

「少し黙っていろ」

 

 

 未だに戦おうとするコカビエルを殴りつけ、意識を刈り取る。

 

 

「コカビエル、お前の心は既に折れている。これ以上は見苦しいだけだ」

 

 

 そう、口ではああ言い強がっているが、コカビエルの心は既に折れていた。

 圧倒的と言う言葉すら生ぬい程絶望的な力の差。

 技術や経験、知恵では埋めることすら敵わない、圧倒的な才能の差。

 なまじ長く生きているが為に、効果は抜群だった。

 

 

「生きているかわからないが、フリードも連れていくとするか」

 

 

 白龍皇は血の海に沈んでいたフリードも担ぎ、空へ上がる。

 

 

『無視か、白いの?』

 

 

 一誠の神器、赤龍帝の籠手から声が発せられる。

 

 

『起きていたのか、赤いの』

 

 

 それに呼応するように白龍皇の翼から声が発せられる。

 

 

『このような場所で再び出会うことになるとは、因果なものだな』

『全くだ、柄にもなく何かに引き寄せられているのではないかと考えてしまった』

『仕方のない事だ。それにしても赤いのは随分と敵意が少ないな』

『今回の宿主は面白いからな。それに、またあれと闘うのは御免だ』

『同感だな、あれは異質だ。どうしてもと強いられねばやり合おうとは思えん』

 

 

 赤き龍と白き龍は緊迫とした空気の中、呑気に会話を続ける。

 その場に居る者も、二天龍同士の会話が物珍しいのか、会話を遮ることはない。

 

 

「アルビオン、そろそろいいか?」

 

 

 ここで会話に張って入ったのは白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)の所持者だ。

 流石に宿主も二天龍同士の会話が物珍しいとはいえ、この場には長く居たがらないようだ。

 

 

『すまない。ではなドライグ、また会おう』

『ああ、またな』

 

 

 白龍皇は一誠に視線を少しやると、すぐにその場から離脱していった。

 残ったのは、クレーターだらけの校庭と戦闘により疲労困憊な者達だけだった。

 内心、面倒事が悪化しなくてよかったと安堵する有馬。

 白龍皇が去り、何とも言えない空気が流れる中、一人の少女がその場から去っていくことに有馬は気づく。

 

 

「終わった、かしら?」

 

 

 リアスは、余りの連続の出来事に、これで事件が終結したことに実感がわかない。

 突然起きたコカビエルの襲来、コカビエルとの戦闘、途中参戦した有馬の蹂躙劇、そこに白龍皇の登場。余りにも出来事が多すぎた。

 実感がわかないのも無理はない。

 そんな中、有馬は砕けた聖剣の破片を集め始める。

 有馬たちに課せられていた任務は聖剣の回収だ。聖剣の破片を回収するまで、有馬たちの任務は終わらない。

 聖剣の回収を終えると、有馬はIXAとナルカミをアタッシュケースに収納し、その場から去る。

 残ったのは嵐のあとの静けさの様なものだけだった。

 

 

 

■□■□

 

 

 

 コカビエルとの戦闘が終わり、ゼノヴィアはフラフラとした足取りで町の中を彷徨っていた。

 少し、一人で考えを纏めたい。その先に行きついた場所は、昼のような活気が失われた夜の公園だった。

 ベンチに腰を掛け、目を瞑る。

 思い出すのは、心の中に入り込んだ一つの言葉。

 

 

『神は居ない。それを悲しむことは良い、だが絶望することは正しい選択ではない。お前にはまだ、帰る場所も、帰りを待っている人もいる。少しずつでいい、前を向け』

 

 

 対して親しくもない、初対面の人間の言葉に、何故こうも考えさせられるのか。

 思い出すのは、あの戦闘。

 自分とは比べることすら烏滸がましい程、圧倒的な技術。

 何を考えているかまるで分らない冷酷で残酷な瞳。

 相手を一方的に蹂躙するその姿は今もこの眼に焼き付いている。

 私は魅せられたのだ。

 あの強さに。

 相手の血が、絵の具のように校庭に滴り、その上で戦うあの人が、私は不思議と綺麗だと感じてしまった。

 あの時の光景を、私はきっと忘れることはないだろう。

 神は居ない、既に死んでいる。

 コカビエルに言われ、神がいないことに、私は絶望した。

 今もそうだ、神がいないことに何とも言えない喪失感を感じる。

 それでも、前よりも少し、ほんの少しだけ、前を向けている気がする。

 これから何の為に戦えばいいのかはわからない。

 だが、有馬さんは少しずつでもいいから前を向けと言った。

 今まで神の為に生きてきた、その目的が失われた今、私がやらねばならないことは、何のために生きるのか決めることだ。

 

 

「難しいな」

 

 

 思わず愚痴を零してしまう。

 今まで神に全てを委ねてきた。

 神を基準にし、何が正しく、何が間違っているのか、全て全て神に委ねてきた。

 だからこそ難しい。

 自分の基準で考え、目的を作る事が。

 

 

 

 コツコツコツ

 

 

 公園の外から足音が聞こえる。

 こんな時間に誰が公園に来たんだ?

 

 

「ここに居たのか」

 

 

 現れたのは意外にも意外、有馬さんだった。

 まさか私を捜していたのか?

 有馬さんは両手の荷物を置き、私の隣に腰掛ける。

 私は何か喋ろうとするが、上手く言葉が出ない。

 言いたいことや聞きたいことはいくらでもあるはず、にもかかわらず、私の口は一向に動いてくれない。

 有馬さんはベンチに座ってから、一言も喋らない。

 私が話しかけるのを待っているのだろうか?

 私はすぐに話しかけるべく、会話の内容を考える。

 まずは、謝罪をするべきだろうか、それとも助けてもらったお礼を先に言うべきか?それよりも急に謝罪したり、感謝の言葉を述べるのもどうなのだろうか?まずは前口上を言うべきではないのか?

 そうやってグダグダ考えていると、有馬さんは少し、ほんの少しだけ笑う。

 

 

「な、なんだ?私は何か可笑しいことをしたか?」

「いや、随分と表情豊かだなと思っただけだ」

「なっ!?」

 

 

 み、見られていた!?

 予想外の言葉に顔が熱くなる。

 赤面していることが自分でもわかるぐらい顔が熱い!?

 

 

「ふ、ふざけるな!こっちがどう話をしようか迷っているというのに、その言葉はないだろう!?大体今までどこに居たんだ!?私達が聖剣を捜している間、お前は何をやっていたんだ!?」

 

 

 思わず有馬さんの言葉に怒鳴り返してしまった。

 目上の人に大変失礼な言葉だとは思っているが、それでも言わずにはいられなかった。

 混乱しているのが分かる、急いで話題を変えようとした私を褒めてやりたい。

 そ、それはともかく、私達が苦労している間に、彼は何をしていたのか。

 私には聞く権利があるはずだ。

 

 

「コカビエルの根城を捜していた」

 

 

 それはわかっている!

 この人がコカビエルを捜していたのは知っている。

 私が聞きたいのは、その間に何があったのかだ。

 コカビエルとの戦闘に遅れたのには何か理由がある、私の勘がそう言っている。

 

 

「・・・そうか」

 

 

 だけど、それについて聞けなかった。

 コカビエル相手に手も足も出なかった私には、有馬さんの行動を咎めたりする権利はない。

 だが、一つだけ聞きたいことがあった。

 顔の熱が冷めていく、私は意を決して口を開く。

 

 

「何故、私にあんな言葉をかけてくれたんだ?」

 

 

 とてもじゃないが、友好とは言い難い関係だった。

 私がこの人を無意識に下に見ていたからかもしれないが、それを差し引いても、あのような言葉をかけてもらえる程の仲ではなかったはずだ。

 あの言葉があったからこそ、私は落ち着きを取り戻すことができた。

 感謝こそはあれど、文句を言うようなことは一つもない。

 だからこそ、聞きたかった。

 何故、私にあんな言葉をかけてくれたのか。

 しばらく沈黙が公園を支配する。

 ・・・どこか気まずい、もしかして私は聞かない方がいい事を聞いてしまったのだろうか?

 いや、今聞いておかねば後々聞くことは難しいだろう。今聞こうとしたことは間違いではないはずだ。

 私が、うーんと唸っていると有馬さんはようやく口を開く。

 

 

「理由はない、俺がそうしたかっただけだ」

 

 

 短い言葉だった。 

 今までの間は何だったのかと聞きたくなるほど、短くて、それでいて単純な言葉だった。

 それでも、今の私にはその言葉だけでも十分だった。

 

 

「そうしたかっただけ、か。私にはよくわからないが、その言葉に救われた。ありがとう」

「気にするな、俺が勝手にしただけだ」

 

 

 今までわからなかったし、知ろうともしなかったが、この時、初めて有馬貴将と言う人間がどういうものなのか、私は少しだけ知ることができた気がした。

 

 

「ところで、帰りの旅費は君が持っているのか?」

「………あ」

 

 

 この後、私は額を地面に擦りつけることになった。

 

 

 

■□■□

 

 

 コカビエルが現れた!

 

 たたかう

 さくせん⇦

 にげる

 

 いのちをだいじにを選択!

 

 安全第一、怪我なんてしたくねぇと言わんばかりの戦闘スタイルで、コカビーを瀕死まで追い込んでやった。

 このレベルだったら無茶な回避やガンガンいこうぜ、しなくていいからありがたい(紙一重で回避の何が無茶ではないのか、細切れにしかねない斬撃の何処がガンガンいこうぜじゃないのか)

 コカビーは神はもう死んでいるとか言っているが、どうでもいい。

 正直、生まれてこの方神様と言うのを信じたことはない(神父がそれでいいのか)

 神様がいるって言うなら、もう少し俺を労わってくれ。

 下らん話のせいで苛々していたからだろうか、俺は余計なことを考えてしまった。

 コカビー、死に晒せ!

 みたいなことを心の中で思ったのが悪かった。

 完全にフラグが建ってしまった。

 いきなり白龍皇が出てきてコカビーとフリード持ってくし、ダブルドラゴンは意味深な会話し始めるし、さっさとお帰り下さい。

 俺の祈りが聞いたのか、白ドラは特に何かするわけもなく、この場から帰ってくれた。

 珍しく俺の祈りが聞いたことに、嬉しさ半分、恐ろしさ半分と言ったところだ。

 こういったイベントが発生してなにも無かったら、大体その後碌でもないことが起きる。

 これはネガティブだとか、考えすぎとかそう言う次元の話じゃない。

 今までがそうだったのだから、今回だけ起きないなんて通りがない。

 自分で言ってて悲しくなってくるほど、ついてないな。

 とりあえず厄介事が悪化する前に仕事を終わらせますか。

 これ以上の厄介事とかマジで御免こうむります。

 ただでさえ、コカビエル捜しではぐれ悪魔と何回も戦闘したのに、そこにさらに戦闘とか精神的に来る。

 てことで、聖剣の破片を回収!そのまま何も言わず、この場からスタイリッシュに立ち去ってやるぜ!

 話しかけられる様な隙を見せずに、この場から立ち去った俺を誰か褒めてくれてもいいぐらいだ。むしろ褒めてくれ、慰めてくれ!

 そんな頭の悪い事を考えながら俺はゼノヴィアを捜す。

 ぶっちゃけ、このまま彼女を放置して帰りたい気持ちは山々なのだが、そうなるとグリゼルダに折檻されそうで怖い。ただでさえ女性と話すのはそんなに慣れてないのに、説教とかもはや拷問でっせ。何より、教会から渡された資金は二人が持ってるから、どのみち二人と合流しないと帰れない。

 億劫になりながら俺はゼノヴィアを捜す。

 そう言えば、イリナは何処に行ったんだろ?戦闘中には見なかったし、もしかして何処かでサボってるのか!?

 こっちは必死に働いてたのにその間にサボりとかマジ許さん。

 そんな事を考えてると、ゼノヴィアを発見。

 声をかけようとするが、その姿は端から見れば仕事をクビにされた中年男性のような哀愁が漂っていて声をかけずらい。

 コミュ障の俺に、こんなメンタルやられてるやつの世話しろとかふざけんな。おい相方どこ行った、これこそイリナにさせるべき仕事だろ、断じて俺の仕事じゃねえ!お願いですから他の窓口にお越しください、マジでお願いします。

 そんな事を考えても状況が好転するわけでもなく、俺は意を決してリストラされたおっさんのような雰囲気を醸し出すゼノヴィアに歩み寄る。

 

 

「こんなところに居たのか」

 

 

 あたかもさっき見つけたかのように話しかけ、そのまま流れるように隣に腰かける。

 ここで俺は重大なことを忘れていた。

 俺は自分から会話のきっかけを作ることができないことに。

 いや、業務関係の物なら問題ないよ?でも今は状況が違う、こんな重苦しい空気の中、自分から話しかけるなんてことは俺には無理だ。まずその場に居たくない。

 沈黙が痛すぎる、身体の穴と言う穴から変な汁が出てきそうだ。

 ゼノヴィアもこの沈黙が辛いのか、表情がコロコロ変わってる。

 不覚にもそれが面白いと感じてしまった。

 

 

 

「な、なんだ?私は何か可笑しいことをしたか?」

 

 

 ま、まずい!今表情に出てたか!?

 どうやって誤魔化す、教えてくれ!?

 何か、何か喋るんだ!

 

 

「いや、随分と表情豊かだなと思っただけだ」

「なっ!?」

 

 

 何てこと言ってんだ!

 よりにもよって何でそんなわけわからんことを口走った!?

 

 

「ふ、ふざけるな!こっちがどう話をしようか迷っているというのに、その言葉はないだろう!?大体今までどこに居たんだ!?私達が聖剣を捜している間、お前は何をやっていたんだ!?」

 

 

 ほら怒ちゃったじゃん。

 しかもその間何やってたかって?

 一狩りどころか連続狩猟してました。

 なんていったらどんな表情するんだろ・・・今度こそキレられるビジョンしか思い浮かばないな。

 

 

「コカビエルの根城を捜していた」

 

 

 うん、無難な言葉が一番だ。

 これ以上何か口に出すと色々とボロが出るし、何より頭がおかしくなる。

 コミュ障なおっさんが、高校生ぐらいの女の子と話すってかなり難易度高いから。

 初期装備で魔王倒しに行くぐらい難易度高いから。

 

 

「・・・そうか」

 

 

 ……………

 …………

 ……

 沈黙が痛い!

 えっ、何でここでだんまりになるの?

 俺なんか悪い事言った?

 いや、かなりぶっきら棒かもしれないけど、これが限界なんです。

 これ以上は求めないでください。

 

 

「何故、私にあんな言葉をかけてくれたんだ?」

 

 

 あんな言葉・・・ってどれだろ?

 やばい、あんな言葉がどれの事を指してるのかわからん。

 ど、どうする・・・曖昧に返すか(諦め)

 

 

「理由はない、俺がそうしたかっただけだ」

 

 

 それっぽい事言えば世の中大概どうにかなる。

 コミュ障の俺が理解した世界の真理だ。

 

 

 

「そうしたかっただけ、か。私にはよくわからないが、その言葉に救われた。ありがとう」

「気にするな、俺が勝手にしただけだ」

 

 

 よくわからんが、感謝されてるし、どうにかなったっぽい。

 やはり曖昧に答えるは万能だ。

 さて、話も区切りがついたところで、本題に入りますか。

 

 

「ところで、帰りの旅費は君が持っているのか?」

「………あ」

 

 

 大きな間を空けてから聞こえた間抜けそうな言葉だけで把握した。

 どうやら俺は教会に帰れないらしい。

 

 

 

 

 

 

 


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