驚きのあまり奇行に走ってしまった私は悪くないはずだ。
皆さん、ありがとうです。
誤字脱字の報告を指摘してくれて大変助かります。
街中で爆発テロに巻き込まれた。
自分でも何を言っているかはわからない。だけどこれだけは言わせてほしい。
俺は何か悪い事をしたか?
そんな事はないはずだ。俺は唯あのギスギスした空間からさっさと抜け出したかっただけだ。それなのにいきなり空から槍が振ってくるわ、通り魔よろしく斬りかかられるわ、わけわからん事くっちゃべるおっさんに襲われるわでさんざんだ。
フリードはフリードで俺の急所めがけて容赦なくナイフ投げつけてくるし、もう泣いてもいいと思う。
煙が晴れるとそこには誰もいないし、死体も無い。勿論、聖剣もない。
ふざけんなこの野郎。いきなりボス戦始まったと思ったら勝手に納得して戦闘終了、しかも戦利品も何もなし、クレーム入れに行くぞコラ。
ま、そうは言ってもクレーム入れる前に逃げられたんだけどね。
てかホント散々だよね。
会談ではゼノヴィアが爆弾発言しまくって一触即発どころか大爆発するし、爆発から逃げれたと思ったら今度は本当に爆発するし、有馬さんじゃなかったら8回は死んでる自信があるぞ?
まあ、コカビエルはまた後日とか言ってたし、本当に会いたくないけど、また会うことになるんだろうなぁ。
憂鬱だわ。
俺は投げ捨てたアタッシュケースを捜すために、爆発地帯に再び身を投じることになった。
コカビーマジ許さん
■□■□
その頃、ゼノヴィアとイリナは絶賛路頭に迷っている最中だった。
「え~、迷える子羊にお恵みをー」
「如何か天に変わって哀れな私達にお慈悲をぉぉぉ!」
・・・訂正、迷っているのは路頭ではなく、人の道を迷走しているようだ。
募金?活動をしている二人だが、道を通る人たちは明らかに2人を避けている。
それもそうだろう、誰が好んであんな危なそうな二人に近づくのか。
少なくとも有馬なら二人に近づこうとしないだろう。仮に見つけたとしても、何も言わずそのまま来た道を引き返そうとするだろう。それが正しい判断だ。
「なんてことだ・・・・これが経済大国日本の現実か。これだから信仰の匂いもしない国は嫌いなんだ」
ゼノヴィアは毒づいているが、信仰以前に気が付いた方がいい。
この土地は日本であり、信仰する対象は日本の神々が多いという事に。
それ以前に、この日本の中で白いロープを着ながら募金活動をする、その時点で日本からしたら異端であり、異色である。
そんな少女たちに近づき、募金を行おうとすることは余程肝が据わった人か、慈悲深い人物以外いない。
「そう言わないでよ、路銀が無い私達はこうやって恵んでもらわなと食事もできないんだから。ああ、パン一つ食べられない哀れな私達」
イリナはあたかも自分たちが哀れでかわいそうだと言っているが、その前に気が付いた方がいい。
任務で与えられた資金を任務外で使う事がもってのほかだという事に。
「イリナ・・・・何故私達は募金活動をしなければいけないんだ?」
「そんなの簡単じゃない。路銀が底をついたからよ」
「じゃあ、その路銀は何処で底をついた?」
そう、日本に突着するまでは路銀は十分にあった。それこそホテルで宿泊しても問題ない程に。
にもかかわらずなぜ路銀が底をついたのか?
「・・・・しかたなかったのよ、この絵を買うには」
イリナは一枚の絵を大事そうに抱えながら答える。
この少女、驚くべきことに相方であるゼノヴィアと少し離れている間に、展覧会に飾られていた一枚の絵を購入していたのだ。
勿論、展覧会に飾られている絵が安いはずがない。
その結果、任務で与えられた路銀を全て、この絵を購入するためにつぎ込んでしまったのだ。
それを知った時のゼノヴィアの表情は、大層悲痛な顔をしていた。
この時彼女たちは忘れていたが、食事代だけではなく、帰りの飛行機代もない事に気が付いたのは有馬と合流してからだった。
「・・・じゃあ聞くが、この絵に描かれているのは誰なんだ?」
「多分・・・ペトロ、さま?」
ゼノヴィアの問いに頭をかしげながら答えるイリナ。
任務で与えられた路銀を使う時点で論外だが、その購入した絵がさらに問題だった。
それは子供の落書きと言うほどではないが、およそ教会に飾るにふさわしいとはいえないような絵だった。
聖人や神様と言うには些か威厳や神聖さが足りず、むしろ黒々とした邪悪な者を彷彿させるような一枚の絵。本人はペトロ様だと言っているが、この絵がぺトロだというのなら、少しばかり、いやかなり本人に失礼だろう。
「ふざけるな!聖ペトロがこんなわけないだろう!」
「いいえ、そんなはずはないわ!私にはわかるもん!」
「ああ、相方は馬鹿だし、有馬さんはいつの間にかいなくなっているし、路銀も無いしで散々だ・・・主よ、これも試練ですか?」
ゼノヴィアは天を仰ぎながら嘆息する。
この場に有馬がいたら『君も大概だよね?』と言っていただろう。
実際のところ、この惨状の原因はゼノヴィアにもあった。
ゼノヴィアがあそこまで場の空気を悪くしなければ、今も有馬は彼女たちと一緒に行動をしていただろう。
あくまでIFの話だが、もし有馬がこの場にいたらイリナももう少し大人しくしていただろう。何度も言うが、あくまでIFの話だ。
「どさくさに紛れて私のこと馬鹿にしたわよね?確かにいつの間にか有馬さんがいなくなってるわね。何処に行ったのかしら?」
二人ともまさか自分たちのせいで有馬が離れていったとは考えもしないだろう。
戦闘では無類の強さを発揮し、敵を駆逐する有馬だが、こと対人関係においてはそのスペックが反転する。
つまり、面倒事をわざわざ作った二人によって有馬は二人から離れ、そのせいで通り魔よろしく堕天使幹部と聖剣使いに襲われたのだ。
勿論、二人はそんなことは知らないが。
ぐぅ~~~
何やかんやと痴話喧嘩を繰り広げているが、彼女たちはあれから何も食べていない。空腹の虫が鳴くのも無理はないだろう。
そんな二人に天の助け、ではなく悪魔の囁きがかかった。
「少しいいか?」
現れたのは兵藤一誠とそのお仲間たちだった。
■□■□
ここで有馬貴将の事について少し話そう。
有馬貴将は東京喰種内では、最強と言っても過言では無いほどの実力者である。
状況判断、空間把握、精神力、どれをとってもずば抜けたものを持っている。
必要となれば自分の武器すら使い捨て、投擲する。例え想定外の出来事が起きたとしても、冷静に対処し、障害を排除する。
どんな人間でも長年使い込んできた武器を容易く手放すという判断を即座に下すことは難しい。ましてや使い潰すことができる物がどれだけいるだろうか。更に心構えができていたとしても、予想外のことが起きれば多少は動揺するのが生物と言うものだ。
普通なら困難であろうことを平然とこなし、やってみせるのが有馬貴将だ。
そしてこの憑依した男はある意味有馬と同じような人間だった。
身体能力、空間把握能力、精神力は後から付いたものだが、それ以外の項目は有馬と同等とまではいかないが、それに近いものを持っていた。
生き残るためなら平然と自分の武器を使い潰すし、投げ捨てる。例え想定外の出来事が起きたとしても、『どうせこうなると思っていたよ』、と考え許容する。
それが有馬貴将に憑依した男の考えだった。
この男はこの身体に憑依する前、所謂前世ではそのノーと言えない性格から、厄介事に遭遇することが多かった。つまり不幸体質だった。酷い時にはヤクザと追いかけっこをしたこともある。
だからこそ、この男は並々ならぬ生への執着心があり、あらゆることを許容し、対処しようとする考えがある。
死すらも許容している有馬貴将と死だけは許容しない有馬貴将、これが二人の違いだろう。
さて、長々と話してしまったが、結局のところ何が言いたいかと言うと、この有馬貴将は本人とは違った強さを持ち、その不幸体質ゆえに厄介事を引き寄せる。
「遠隔起動」
だからこそ、この闘いは必然だったのだろう。
わざわざ聖剣奪還の任務を受けながら、偶然遭遇してしまったはぐれ悪魔と戦闘を行ったのは。
コカビエルの襲撃を受けた有馬は、あれからコカビエルが居るのではないかと思われる場所に片っ端から足を運んだ。
その度にはぐれ悪魔と偶然遭遇し、その命を摘み取っていった。
その数、5体だ。
任務でもなんでもないにもかかわらず、なぜこうもはぐれ悪魔と遭遇するのかと問われれば、それはその体質が原因だとしか言えない。普通の悪魔祓いでも日に5体も遭遇することは滅多にない。
IXAの遠隔起動を駆使し、はぐれ悪魔を狩り獲るとナルカミでその死体を焼却する。この動作を今日だけで5度行った。
有馬は頭が痛くなる思いだった。
コカビエルを捜せば出てくるのははぐれ悪魔ばかり、一体リアス・グレモリーは此処をどういった統治方法で統治しているのか、有馬は切実にこの疑問を問いかけたかった。
有馬は後処理を終え、再び別のポイントに向かおうとするが、すでに夜が回っていることにようやく気が付く。
「二人と合流するか」
一人の方が効率が良く、動きやすいが、仮にも同じ任務に就いている仲間をこれ以上放置し続けるのはどうか、と考えた有馬は合流するために駒王学園に向かう。
おそらくそこに仲間がいると有馬の勘が言っていた。
■□■□
有馬が学園に到着すると、学園には結界が張られていた。中ではコカビエルと闘っているグレモリー眷属とゼノヴィアの姿が見える。何故かイリナの姿は見えないが、それはそれだ。
結界を張っているのはソーナ・シトリーとその眷属だ。
有馬はその状況から現状を把握、自分がやるべきことを瞬時に把握した。
「ソーナ・シトリー」
「有馬さん!?いったい今までどちらに!?」
突然現れた有馬に驚くソーナ。
今まで何をしていたのか、此処で有馬が『はぐれ悪魔を狩っていました』などと言えば、彼女はどれだけ頭を痛めることになるだろうか。
未確認のはぐれ悪魔が5体もいた。それだけでも問題行為だというのに、それを無関係である有馬が代わりに討伐したとなれば、彼女たちの評価は相当悲惨なことになるだろう。
「コカビエルを討伐しに来た。道を開けてくれ」
最も、有馬にとってそんな事は日常茶飯事であり、誰かに一々伝えるようなことではないのだが。
「わ、わかりました」
ソーナは有馬の発言に少々驚きながらも、結界に人が一人通れるような穴をあける。
ソーナは有馬が結界に入る前に幾つか注意事項を説明する。
「私達の結界ではそんなに長く持ちません。その上大規模な攻撃には耐えることができませんので、それを覚えておいてください」
要はこのまま戦いが長引けば結界は維持できないし、大規模な攻撃は結界が壊れるので、迅速にコカビエルを倒してくれ、という事だ。
普通ならコカビエルをそう簡単に倒すことはできない。
だが、有馬はその普通の枠から大きく外れた人間だ。
「3分で終わらせる」
有馬はそれだけ言い、結界の中に入っていった。
ソーナは呆気にとられた表情で結界の中に入る有馬を見送る。暫くしてからソーナはすぐに結界の穴を閉じた。
3分で終わらせる、普通なら無理と断じるところだが、有馬ならやりかねない。
ソーナは有馬に畏怖の籠った視線を向けながら、この闘いが早期終結することを願った。
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「あぁ~あ、聖剣ちゃんが折れちゃったよ。酷いことするね
「・・・深く斬りつけたつもりだったんだけどね。随分としぶといじゃないか」
有馬が結界に入る前、フリードが木場とゼノヴィアを相手に戦っていた。だが、様子を見るにフリードは聖剣を破壊されて、腹に深い傷を負っているようだ。
「そろそろ有馬さんも来そうだし、それじゃあ、俺っちも退散させてもらいますか」
「逃がすと思っているのか?」
フリードは戦況がよろしくないと見るや撤退しようとするが、ゼノヴィアと木場がそれを許さない。
「邪魔しないでくんない?ただで聖剣なんてクソくだらんもん使って気分悪いんだからさ~」
フリードは顔を顰めながら悪態をつく。
「聖魔剣……そうか!わかったぞ!聖と魔を司る存在のバランスを崩れている、それならこの現象にも説明がつく!つまり魔王だけでなく、神も――――――ッ!?」
司祭服を着た初老の男が言葉を言いきる前に、身体に光の槍が突き刺さる。それはその男だけではなく、フリードも光の槍に貫かれていた。
光の槍を投げたのはこの場を支配している強者、コカビエルだ。
「こ、こいつ・・・・仲間をッ!?」
一誠は平然と仲間を殺したコカビエルを睨め付ける。
だが、一誠とコカビエルの力の差は歴然、コカビエルは一誠をつまらなそうに見下ろす。
「仲間と言ったな、赤龍帝。元からこいつらは余興の為に用意したにすぎん。余興が終了したのなら、捨てるのが道理と言うものだろう?」
「余興だと?どういうことだ!?」
余興、コカビエルはそう言った。つまり彼女たちが決死の思いで闘った今までの戦いは、コカビエルにとって今までの戦いは唯の遊び、本当の戦いの場を整えるための前座でしかなかった。
「簡単だ、貴様らでは俺の相手にもならん。だから奴が来るまでの暇つぶしに招待しただけだ」
「奴?有馬さんの事か!」
「ククク、奴はイイ、あれが悪魔や天使ならどれだけの力を持っていたか。そう考えるだけで武者震いするよ」
コカビエルは重い腰を上げ、眼下の有象無象に向けて光の槍を放つ。その威力は開幕前に、体育館をいとも容易く吹き飛ばしたことから、どれだけの威力か窺える。
一誠は慌てて神器、
リアスは全魔力を使った滅びの魔導砲を放つが、光の槍は未だ威力に衰えが見られない。
そこでリアスの女王、姫島朱乃が極大の雷を放ち相殺を狙う。
そこまでして、ようやく光の槍は相殺されるが、既にコカビエルは新たな光の槍を放つ態勢に入っていた。
「聖魔剣よ!」
「デュランダル!」
このままではまずいと感じた木場とゼノヴィア、木場は新たに得た力、
「散れ」
コカビエルから放たれた光の槍、木場が全身全霊で創りだした聖魔剣の盾、本来の進化の過程からかけ離れた力は、コカビエルの力を削ぐには十分だった。だが、悲しいかな、神器の力は担い手の実力に大きく依存する。つまり、実力不足だった。
聖魔剣は光の槍の威力を削り、その刃を散らす。
残ったのはゼノヴィアのデュランダルのみ。
ゼノヴィアはデュランダルの腹で光の槍を正面から受け止めるつもりだ。
光の槍とデュランダルの聖なるオーラがぶつかり、眩い閃光を放ち爆発する。
「ふん、あの一撃を受けても尚、生き残るとはな。流石伝説に名高い聖剣だ。担い手が凡庸な輩でもこれほどの力を発揮するとはな」
煙が晴れると、そこにはデュランダルを杖代わりにし辛うじて立つゼノヴィアと、膝をつきながらコカビエルを見据えるリアスとその眷属が見える。
だが、その姿は確認するまでも無く、戦闘ができる状態ではない。
「さて、奴が来る前に貴様らを殺しておくとするか。貴様らを生贄に、かつての大戦を再び始めるとしよう」
コカビエルは上空から地面に降りたち、ゆっくりとリアスたちに向かって歩き始める。
魔力も体力も底を尽き、身体もボロボロ、もはや抗うことは不可能。
せめて最後まで抗おうと四肢に力を入れたその時
バチチチチチ!
極大の雷がコカビエルを薙ぎ払う。
コカビエルは咄嗟に5対の翼で身体を覆うが、それでもダメージは少なくない。
そんな状況でも、コカビエルは狂ったように笑みを浮かべていた。
「ハハハッ!ようやく来たか!?死神!」
彼女たちの窮地を救ったのは教会の白い死神、有馬貴将だった。
「遠隔起動」
有馬がボソリと呟くと地面からIXAが現れ、コカビエルを貫こうとする。
死神と戦闘狂の戦いが幕を開けた。