ごめんなさいです・・・
「・・・全く、俺のとこもかよ。何故裏切った、ヴァーリ!」
「悪いな、アザゼル。俺はその和平に賛成することができない。その和平は俺にとってマイナスにしか働かない。だからこそ、俺はこの場を持って、お前のところから去らせてもらう」
「戦いを求める白龍皇らしいな。だが、
「いや、そう言うつもりはない。俺は俺の為に戦う。その為の場所がオーフィスの近くだっただけさ」
『Half Dimentision』
この場の次元を捻じ曲げるような強い力が全員を拘束する。白龍皇の半減によって齎された拘束は、重症の傷を負ったジークとミカエルに大きな負荷を与える。片腕を失ったアザゼルも抵抗力が弱っており、一時的に身動きを封じられる。そんな中、コンマ数秒で拘束を抜け出した有馬はナルカミを放ち、フリードに止めを刺そうとする。
「じゃ、ばいちゃ!」
だが、フリードはそれよりも早く転移し、この場から消え去る。
標的を失った雷は追尾することなく、空中に霧散する。
「相変わらず抜け目のない人だ。俺の事を意に介することも無く、離脱しようとしていたフリードを狙う。その判断能力の高さは見習わなければいけないな」
「ジーク、邪魔だ」
「すいません・・・・任せます」
その言葉を最後にジークの意識が落ちる。
ただでさえ骨の何本かが折れ、そこに強烈な圧迫感を伴った拘束、天使であるミカエルはまだしも人間であるジークには耐えきることができなかった。
上空に滞空するヴァーリ、それを見上げるような形で対峙する有馬。
一触即発、どちらが先に動くか。上空と言う生物にとって死角でもある場所で構えていながらも迂闊に攻めこむことができない。少しでも攻め方が甘ければフリードの二の舞になることは必定。だからこそ、ヴァーリはこの好位置から動き出すことができなかった。
対する有馬はヴァーリが動くことを待っていた。それは先手を譲るとか舐めているとかそう言った理由ではない。有馬は人間だ。人間を超越し、人外を簡単に屠るほどの実力を持っているがそれでも人間だ。人間であるが為に人外のように空を自由に飛ぶことはできない。
ナルカミを使えば遠距離による攻撃を行う事ができるが、その一撃は単発でしかない。点と点が繋がらない攻撃は牽制と変わらない。むしろ隙を作ってしまう可能性すらある悪手だ。だからこそ動かない。
両者の思惑が絡み合う中、睨みあいが続く。
何秒、何分、どれだけの時間が流れたかは定かではない。攻めるに攻め込めない者、攻める手立てがない者、そんな睨みあいに割り込むことができない者、誰もが動くことを憚られた状況。
だが、そんな戦況は簡単に崩れ去る。
「な、なんだ!?」
ギャスパーの救出に向かった一誠とリアスが救出に成功したギャスパーを連れてこの旧校舎に現れた。そしてあまりにも無残な校庭の惨状に驚きの声を上げる。
それが開戦のゴング代わりとなった。
有馬の意識が一瞬だけ一誠に向けられる。
それを合図に上空から白い閃光が奔る。一瞬、隙と言えるか定かではない一瞬の空白。僅かと言えど対応するのにコンマ何秒かのラグが発生する。それを狙っての強襲。
タイミング、拍子、自身の最高ともいえる動き出しに口角すら上がる。これなら有馬にも一矢報いることができるだろう。
それが、わざと作られた隙でなければの話だが。
「遠隔起動」
ボソリと呟かれた言葉。その言葉に呼応するように地面が隆起し、凶刃が迫る。
「っ!?」
意表を突いた強襲。にもかかわらず、意表を突かれたのは逆、ヴァーリだった。
―――――なんだコレ・・・隙を、付いたはずなのに、どこから・・・・
腹部に走る強烈な痛み。見ると鋭利な刃物が純白の鎧を破壊し横腹を引き裂いている。突然の痛みに身体が硬直する。万全の態勢で仕掛けたはずの攻撃、それが理解不能の攻撃を受け逆に態勢を崩される。それは晒すまいと心がけていた致命的な隙を晒すには十分だった。
ナルカミの刃が四枚に開く。
今まで魔法使いを相手にしながらフリードとの戦闘を見ていたヴァーリは理解する。あれは損傷した鎧では受け止めきれない。その危険性を察すると同時に前方に腕を押し出す。
ナルカミに充填された雷が空中を奔る。
態勢を崩したヴァーリに自動追尾する雷を避けるすべはない。ならせめて被害を最小限にとどめる。
前方に押し出した腕と雷が接触する。
数コンマのズレも許されない刹那、その刹那のタイミングに合わせて能力を発動する。
白龍皇にだけ許された唯一無二の力、半減を行使する。
『Divide』
ナルカミから放たれた雷が縮小し、その力を弱める。
この威力ならどうにかやり過ごせる。
弱体化した雷がヴァーリを喰らう。本来の威力なら、白龍皇の鎧を消し去るほどの攻撃を、鎧を半壊させる程度で被害を抑える。IXAの攻撃によって損傷した鎧でよく耐えたというべきだろう。こればかりは神器の力ではなく、本人のスペックが高いからこそ防げたものだろう。
すぐさま鎧を修復しようと試みるが、そんな時間を与えてもらえるほど相手は優しくない。
有馬は上空に跳びIXAを一閃。鋭い一撃だが、上空を自由に動くことのできるヴァーリを仕留めるほどの一撃ではない。
「くっ!?」
得物を振り切るまでの速度が常軌を逸している。眼で捉えることも困難、時間が飛んだと錯覚してしまうほどの圧倒的剣速、これではこの間合いの不利は簡単ではない。この一撃を躱し、上空の利を生かし攻勢に出ようと身体を動かす。
お世辞にも余裕を持って回避することはできたとは言えないが、それでも躱すことに成功する。ここまではヴァーリの目論見通り、此処から再び攻勢に移ろうとするが
「なっ!」
攻勢に出ようとした瞬間、続く二閃が放たれる。足場のない空中で二連撃。通常ならバランスも取りづらく、踏ん張りも効かない空中では精細さも威力も下がるはずの一撃。だが、卓越した身体能力と空間把握能力がそれを可能にする。
完全に意表を突かれた二撃目、思考のに追いやった攻撃に避けるタイミングを逃す。
それでもヴァーリは戦闘センスの塊だ。すぐさま停止した思考を高速回転させ、行動に移す。咄嗟に両腕をクロスし、堅牢な籠手の防御を持って威力を殺そうとするが、後手に回った苦し紛れの手では相殺することができず、両腕に纏っていた籠手ごと無残に破壊され皮膚を浅く斬りつけられる。そこに畳みかけるように鋭い蹴りが放たれ、そのまま地面に叩きつけられる。機転を利かし受け身を取るが、それでも肺の中の空気が口から洩れ、一時的な酸欠状態となる。それでも目の前の有馬から目を離さず、身体を動かす。案の定、息を突く間もなく駄目押しと言わんばかりの雷が降り注ぐ。
「全く、空が飛べないことも関係なしとは恐れ入る!この鎧も並大抵の強度ではないのだがな!」
愚痴にも似た言葉を吐きつつ鎧を再び纏い、驚異的な反応速度でナルカミの一撃を避ける。
例え何度鎧が破壊されようと、ヴァーリに余力がある限り鎧は何度も修復される。禁手を日に何度も使うことができるのは、膨大な魔力と才能によるものだろう。並の者では日に一度か二度が限界だ。
一度距離を開け、態勢を整える。この程度の空白では安心することなど到底できやしないが、それでもないよりはマシだ。
「それでこそ挑む価値があるというもの!教会最強の称号は今日で幕引きとさせてもらう!」
その言葉と同時に再び襲い掛かる。
四方八方、縦横無尽に動き回り魔力弾を放っていく。一つ一つが人間にとっては致命傷な威力を持つ攻撃。それをその場から一歩も動くことなく、左手に持つナルカミで斬り払う。僅かでも隙を作れればと考えて放った攻撃は全くと言ってもいい程、意味をなさず斬り払われる。その非の打ち所の無さに舌を巻きながらも内心焦りを覚える。このままでは埒が明かないと考えたヴァーリは魔力弾を撃ちながら自らもヒット&アウェイをの接近戦を繰り返す。しかし、拳打、手刀、蹴撃、その全てが片手でいなされる。それどころか攻撃を仕掛けたにもかかわらず、気がつくと反撃を受けている始末だ。
兜が破壊される、それをすぐさま修復。脚鎧が破損する、距離を取り修復。両籠手が粉砕する、再び修復。攻撃を仕掛けているのにもかかわらず傷を負っているのは自分だけ。相手には掠り傷すら与えることもできない。
決して届かない距離ではないはず、近いのに遠い、ここまで距離が近いのにその身体に触れることすらできない。触れることさえできれば白龍皇の力を行使することができる。たったそれだけの事、それすらできない。
その事が一層ヴァーリの思考を狭め、焦りを促す。
何度も何度も果敢に挑むが触れることは愚か、その場から動かすこともできない。
ヴァーリは歯を食いしばりながら懸命に挑みかかるが、それを足蹴にする。魔力は栓をきった湯船の如くまたたく間に減っていく。
それに対して有馬は傷一つ、汗一つ、表情一つ変えることなく、相変わらず何を考えているかわからない眼でヴァーリを見下ろしている。
このままではまずい。今のままでは勝ち目は愚か、生き延びることすら危うい。今は有馬が攻勢に出ていない為この程度で済んでいるが、一度攻勢に出られてしまえばタダじゃ済まない事は明白だ。
上空に上がり距離を開けることも考えるが、そうなればナルカミによる追撃の餌食になることは必定。
進むことも難しく、退くことも難しい。
現状、ヴァーリが取れる手段は2つほどある。
一つは、奥の手の一つである
二つ目は、迎えの者が来るまで逃げに徹することだ。これも現実的ではない。逃げに徹すれば有馬だけではなく、アザゼルやミカエルも参戦しヴァーリを捕縛しようとするだろう。こうなると逃げに徹しても、数分も経たないうちに捕まることは避けられない。
この二つが最も現実的な方法だが、どちらも状況を好転させることが難しい。
取れる手段は多くない。
それでも僅か、ほんの僅かと言えど勝ち筋があるのなら、それを選ぶ。
それがヴァーリの選択だ。
今まで忙しく動かしていた足を止める。
目まぐるしい攻防が止まると、校庭に静けさが戻る。既に魔法使いたちの掃討戦は終了し、残るはヴァーリだけだ。
時間にすると約10秒。その間、攻撃を受けることは許されない。
一番理想的な展開はこの間に有馬が何もしかけてこないことだが、わざわざこちらの準備を待ってくれる程お人よしにも見えない。
ならどうにかして時間を稼ぐしか方法はない。
「我、目覚めるは」
カウントダウンが始まる。
それと同時に有馬が動き始める。
馬鹿正直と思える直線的な突進。それを魔力の弾幕によって、少しでも速度を落とさせようと試みる。無数の魔弾がその動きを封じようと迫り来るが、その程度では死神の歩みは止まらない。
魔力の弾幕を意に介することなく、最高速度を維持したまま雨の中に突貫する。まるでシューティングゲームのような弾幕を最低限の動きで潜り抜け、ナルカミの刃が再び開く。
「覇の理に全てを奪われ、し二天龍なり!」
覇龍の呪文を詠唱しながら平行して雷を避ける。呪文の詠唱に集中力を割いている為、回避行動がワンテンポ遅れる。強烈な電撃が鎧に掠り、身体が一瞬硬直する。だが、身体が硬直しようとも考える事は止めない。相手の一挙一動にも注意を割きながら数手先の未来を予測する。
(IXAの刀身がない。なら次の攻撃は回避先への)
お馴染みのIXAの遠隔起動、その刃は予測通りナルカミを回避した先に展開される。
それを避けるために急加速、強烈なGによって身体が軋むがそれで回避できるなら安いものだ。
「無限を妬み、夢幻を、想う!」
急激な加速、その先に待ち受けるのは先回りしていた死神。
この速度では完全に回避することは不可能。
(予測は立てられる。だが、身体の反応が追いつかない!)
普段でさえ反応しきれない攻撃を、集中力を割いた状態でついて行くことは不可能に等しい。
無駄がなく、全ての攻撃に意味があり、繋がっている。
警戒していたはず、それがいつの間にか間合いに入り込まれている。
ナルカミの刺突、それを首を傾けることによって兜の破損のみで被害を抑える。しかし、ナルカミの刺突が空を突くと同時に、突きから斬撃に変化する。狙いはその両眼だ。如何に常人離れした肉体を持とうと生物である限り粘膜は弱点となる。当たれば一溜りも無い。
ヴァーリは反射的に左腕を翳し、両眼を守ろうとするが、それは防御と言うにはあまりに稚拙すぎた。
突から斬に変わった一撃は左腕諸共ヴァーリと共に吹き飛ばされる。咄嗟の判断で左腕に魔力を集中させていなければ、先程の一撃で左腕と眼球は失われていただろう。
「我、白き・・龍の・・・覇道を、極めぇ!」
弾き飛ばされたヴァーリはすぐさま左腕の状態を確認する。やはり無理な防御が祟ったせいか完全に左腕は折れていた。それを理解すると額から脂汗が噴き出す。猛烈な痛みによって呪文を止めそうになる。だが、此処で止めてしまえば今までの苦労が全て泡となる。
強靭な精神力を持って自我を保ち、残り一小節となった呪文を口にしようとするが
『止せ、ヴァーリ!今の状態で覇龍など使えば二度と戻ってこれぬぞ!』
長年付き添った相棒から制止の言葉が発せられる。
アルビオンの言うことは最もだ。いくらヴァーリとて、覇龍を使うとなればそれ相応のリスクが伴う。今の状態では理性無き唯の化物になりかねない。魔力は半分以上消耗し、体力に至っては底を尽きかけている。
ヴァーリとてアルビオンの警告は重々承知のこと。それでも呪文を止めないのはその身に二天龍を宿し、白龍皇としての生きてきた矜持があるからこそだ。
二天龍が、たった一人の人間を相手に一矢報いることすらできない。そんな馬鹿なことをヴァーリは決して認めない。それを認めてしまえば、今までの築いてきた自分と言うものを自ら否定するようなものだ。
だからこそ、やめない。
当然だが、ここで死ぬつもりなど毛頭ない。
このまま苦汁を舐めさせられるだけでは終われない。
何故ならこの身は誇り高き白龍皇なのだから。
「汝を無垢の極限へと誘おう!」
アルビオンの制止を振り切り、最後に力を振り絞って呪文を詠唱しきる。
―――――――ほんの少し、ほんの少しの時間だけでいい。
――――――――奴に一矢報いるだけの力をよこせ!
歴代所有者の残留思念を無理やり封じ込め、その身体を龍へと昇華させる。
校庭に一体の龍が舞い上がる。
その羽ばたきは弱々しくも、眼力だけは未だ衰えておらず、その瞳に闘志を燃え滾らせている。
「ガアァァァァ!」
周囲の結界を破壊しかねない程の咆哮を上げながら、有馬に向かって肉迫する。
これが正真正銘最後の一撃。
覇龍の力は想像を絶するほどの威力だ。それこれこそ魔王や神を葬ることができるほどの。
「防御壁展開」
それすらも避けようとせず、正面から受け止めようとする有馬。
これには流石のアザゼルやミカエルも度肝を抜かれる。
「馬鹿野郎!さっさと逃げろ!」
「逃げなさい!いくら貴方でもそれはッ!?」
両者が怒声を上げながら逃げるように促すが、それで動く有馬じゃない。
身動ぎ一つせず、その攻撃を受け止めようと四肢に力を込める。
アザゼルとミカエルはこれから起きるであろう出来事に備え、周囲の者を護るための結界を展開する。
それが完了すると同時に、龍の拳とIXAが衝突する。
刹那、校庭が爆ぜる。
爆発何て生易しいものじゃない。
核弾頭でも爆発したかのような衝撃波が駒王学園を揺るがす。
衝撃波だけでも人が消し飛びかねない。
その中心地に居た有馬も唯で済むはずがない。
しばらく時間が経ち、校庭を覆ていた砂埃の中から二人の人影が見える。
一人は地面に身体を預け、身動き一つしない。
もう一人は依然とその場に立ち続けている。
ピシッ
何かが罅割れる音が校庭に響く。
「やるな・・・ヴァーリ・ルシファー」
その場に立っていたのは頬から僅かにだが血を流す死神、有馬貴将。
倒れているのは力無く、それでも不敵な笑みを浮かべているヴァーリだった。
有馬の表情は、心なしか僅かに口角が上がり笑みを浮かべているようにも見える。
終幕
これで終わりだというように、有馬は地面に伏しているヴァーリに向け、ランスの状態に戻したIXAの刃を向ける。
「待て!」
事態が完全に収束する。
その瞬間に有馬の行動に待ったをかけたのはアザゼル。
その表情は動揺を隠しきれておらず、声も上ずっている。
自分より立場が上の者の言葉もあってか、寸でのところで切っ先が止まる。
深く深呼吸をし、一度頭を冷やしアザゼルは言葉を続ける。
「戦闘意思のない奴に止めを刺す必要はない。それにこいつには聞かなきゃならんことがある。殺すな」
堕天使の総督として当然の意見。
だが、いくら取り繕うともその本心は隠すことはできない。
ヴァーリはアザゼルにとって息子のような存在だ。
テロリストに加担しようとも、その事実が無かったことになる訳ではない。
この男、意外なことに身内に甘いところがある。
「こいつの処遇は俺らが決める。だから殺すな。頼む」
有馬と初めて会った時には見せなかった真剣な表情。
数秒ほど睨みあうように視線が交じり合う。
暫くにらみ合いが続くと、それに疲れたのか有馬はIXAの矛先を下げ、ヴァーリから離れる。
当然と言えば当然なことなのだが、この場で決定権があるのは有馬ではなく、各勢力のトップであるアザゼル達だ。例え協会きっての実力者であってもその決定を妨げることは許されない。
有馬はアタッシュケースに得物を仕舞い、その場から去る。
有馬が校庭から去ったことにより、緊迫した空気が弛緩する。
色々と物申したいことがあるが、それはこの後始末をしてからでも遅くはない。
一先ず瀕死の重傷を負っているヴァーリを回収しようと近づこうとするが
「よっと、お邪魔するぜぃ」
そこにようやく迎えの者が現れる。
突然現れた新手、アザゼルとミカエルはすぐさま臨戦状態に入り、何が起きても対処できるように身構える。
「び、美猴か・・・随分と遅れた迎えだな・・・」
「おいおい、せっかく迎えに来たってのに酷い言い草じゃねえか。第一、あんな爆心地に入り込むなんてまっぴらごめん被るぜぃ」
「・・・それもそうか」
突然現れた男と軽口を交わすヴァーリ。
「だ、誰だあいつ?」
今までの壮絶な戦闘に唖然し、呆然と立ち尽くしていた一誠が疑問を投げる。
「闘戦勝仏の末裔、お前らにもわかりやすく説明すると西遊記に出てくるクソ猿―――――孫悟空さ。まあ、正確に言うなら孫悟空の力を受け継いだ猿の妖怪だ」
「おっ、流石堕天使総督。一目でそこまで見破るだなんてやるねぃ」
「茶化すな猿、そんな奇抜な服装してるやつは多くねえ。しかも如意金箍棒まで持ってりゃ、自ずとわかることだ。で、お前は此処に何しに来た?」
「カテレアのバックアップとして参加したヴァーリの回収、それが俺っちの仕事だよ」
「そうか、ご丁寧に教えてくれてありがとよ。ついでだ、俺らに情報の一つでも置いてけよ」
アザゼルは左腕を失っても尚、その力が衰えた気配を見せず、鋭い眼光で美猴を射抜く。
美猴は並の者なら縮み上がるような眼光を涼し気に受け流し不敵に笑う。
「熱いお誘いは嬉しいが、生憎これから予定が入っちまってるからねぃ。さっさとヴァーリを連れ戻して、北田舎の奴らを相手に喧嘩しないといけないんでね!」
美猴は器用に如意棒を回し地面に突き立てる。
すると地面に黒い闇が広がり、ヴァーリと美猴を捉え地面に沈んでいく。
「ちっ!貴重な情報源をみすみす見逃すかよ!」
アザゼルとミカエルは予め打ち合わせていた様に光の槍を形成し、同時に放つ。
咄嗟とはいえ、転移を妨害するには十分の威力を持っている。
「世話になったな、アザゼル・・・」
ヴァーリの言葉を最後に二人は完全に姿を消す。
標的を失った光の槍は空を切り、地面に刺さる。
「・・・アザゼル」
「言いたいことはわかってる。今回ばかりは俺の失態だ・・・・」
ミカエルが言いたいことはアザゼルは痛いほどわかっている。
白龍皇を仕留めるチャンスがあったにもかかわらず、そのチャンスをみすみす棒に振った。
今回の戦闘で白龍皇の実力が高い事がよくわかった。
だからこそ、白龍皇を見逃したことが痛かった。
あれは単騎で戦況を変えることができるほどの実力者だ。
味方であればこれ以上頼りになる存在は居ないが、敵に回れば厄介極まりない。
それを見逃したアザゼルの責任は重い。
「今回の会談、多くの進展もあったが、それ以上に各勢力の問題が浮き彫りになった。これから先、時代は大きく動くぞ」
こうして数々の問題を起こしながらも、三種族の協定は無事結ばれた。
その後日、ミカエルによって作成された有馬貴将の情報が各勢力に資料として配られる。
その情報がこれから各勢力にどう影響を及ぼしていくのか。
遠くはない未来に起こる出来事は、まだ誰も知らない。
この作品を書いて後悔したことが一つ。
人間だから空飛ばれたらどうしようもねぇです。
でも有馬さんだからどうにかなりますよね(投げやり)