死にたくない   作:ウィレン

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真奈のココロ

「……え」

 

 

 涙はすっかり引いて大きく目を見開いていた。

 何をそんなに驚くことがあるのやら。

 

 

 

「嫌いではない。たっちゃんのことは“大事”だよ」

 

 

 この言葉に嘘偽りはない

 

 

 

「!!で、でもっなんで離れようと………っ!!!」

 

 

 また、たっちゃんの目にジワリと涙が浮かんできた。

 有沢たつきはこんなにも泣き虫だったかな。正義感の強い男みたいな性格だった気がするけど、子供だからか?

 

 泣かれたら些か、いや、かなり迷惑だ。私はランドセルから物差しを取り出してたっちゃんに向けると、ビクリと肩が大きく跳ね上がった。どうせ、叩かれた時のことを思い出してんだろう。

 これは軽くトラウマになってるな。

 

 

 

「泣き止んで、」

 

 

 いつもより低い声が出たのはほんの少し機嫌が悪いからだ。威圧的にたっちゃんを見下ろして物差しを持ちながら言った。

 

 お、泣き止んだ

 驚くほど早く涙が引っ込みたっちゃんが怯えているように見えた。たっちゃんだし、圧をかけるのが丁度いい。

 

 

 

 

 

「貴方の事は大事」

 

 

 もう一度言う。

 

 

 

「避けていたのは風邪だったから。移らないようにするため。最近治ったから近づいただけ」

 

 

 

「!?うそ、……じゃあ、あたしの勘違い?」

 

 

 信じられないとでもいうかのように、口をあんぐり開けて驚いている。彼女は早とちりし過ぎだ。

 

 

 

「それに、」

 

 

 

「それに?」

 

 

 首を傾げて聞いて来るたっちゃんに爆弾投下

 

 

 

「貴方が休んだら誰がプリント届けると思ってるの」

 

 

 そう言った瞬間、カチン、とたっちゃんが固まった。

 本当に、ね。残念なことにたっちゃんと私の家は近い。本当に残念。たっちゃんはこれまで一度も休んだことはないけど、万が一ということも有り得る。

 

 

 

「なんだよそれ!結局あたしのことバカにしてんじゃん!!」

 

 

 馬鹿にした覚えはない、馬鹿だとは思っているが。まあ、これでいつもの調子に戻ったか。面倒になる前に話を逸らそう。

 ギャーギャー騒ぐたっちゃんに一言、

 

 

 

「黒崎一護、彼と友達になりたい」

 

 

 むくれた表情をしている。が、目はしっかり私を向いていた。さっきみたいな煩いことにはなりそうにはない。

 

 

 

「………た、」

 

 

 

「聞こえない、いつもの馬鹿元気は何?」

 

 

 必要以上に煩いのに、こんな時だけなに恥ずかしがってんだか。彼女のどこに恥じることがあるというんだ。常日頃から煩い彼女が。

 

 

 

「なっ!?馬鹿元気ってなんだよ!あたしはっ、“わかった”って言ったんだよ!!」

 

 

 

「そう」

 

 

 

「反応薄っ!!!」

 

 

 うるさいな、

 私はたっちゃんから逃げるように早歩きをする。後ろから待てよ!、と聞こえるがそんなものは無視だ。

 

 

 

 

 

「ねえ、坂本」

 

 

 突然、らしくもない無理に作ったような笑った顔をするたっちゃんをちらりと見るが帰る方向へと足を進める。

 

 

 

「……あたしと坂本は、友達だよね」

 

 

 私は無意識の内に目を細めていた。

 

 ?何故聞いてきたのか分からないけど、そうだね、と答えておいた。何故彼女がそんなに不安そうなのか私には分からない。どんな感情なんだろう。不安になるって、

 

 

 

「坂本!またな」

 

 

 !!

 いつの間にか分かれ道まで来ていた。たっちゃんは右に曲がり私はそのまま真っ直ぐ行く。口角が緩み声も若干高い。

 

 

 

「……うん、また」

 

 

 たっちゃんには聞こえているのか分からない大きさで言って、見えなくなるまで呆然と彼女を見ていた。あんな言葉のどこが嬉しいのか。

 

 

 数分歩いて家へ着いた。

 ガチャ、と玄関のドアを開けると母さんが迎えてくれる。

 

 

 

「おかえりなさい、真奈ちゃん」

 

 

 

「……ただいま、」

 

 

 目を子供のようにキラキラ輝かしている。純真無垢な母さん。そんな目で見られると私が直視できない。

 私の今の母さんは良い人すぎる。そのうちどっか悪い商売人に引っかかりそうで怖い。

 

 

 

「あ!お隣の山川さんにケーキを貰ったんだけど、食べるかしら?」

 

 

 

「うん、食べるよ」

 

 

 

「ミルフィーユとショートケーキ、どっちが食べたい?」

 

 

 母さんはミルフィーユが好きだったな。

 

 

 

「ショートケーキ」

 

 

 

「分かったわ、今用意してくるからランドセル置いて待っててね」

 

 

 

「ん、わかった」

 

 

 二階にある自分の部屋にランドセルを置いてくる。

 

 その間にも、私はショートケーキよりもたっちゃんのことを気になっていた。正確には、たっちゃんの心理が気になっていた。私は

 

 

 

 さっぱり分からない、

 

 

 私は人並みの感情を持っているが、それが常人より極端に乏しい。今だって、たっちゃんが何に対しそんな感情を抱いているのか分からない。どうしてそういう感情になるのかも。

 

 どうでもいい人であれば、感情なんて気にはしないが、たっちゃんは別だ。彼女を利用して黒崎一護等に近くのだから。それに、

 

 

 たっちゃんと黒崎一護は根本的なところが似ている。

 仲間思いだとか、正義感が強いだとか、短気なところとか、優しすぎるところも、他にもたくさんある。

 

 同類だから合わないところだとか色々あると思うけど、私がいい感じにストッパーになってその間に入ったら、より早く仲良くなれる気がする。要するに仲介人になるってことだ。

 

 

 これからのたっちゃんとの付き合い方で、私の運命が変わる。黒崎一護に誰よりも近い存在になるために、たっちゃんは必要不可欠な人。それ程までに私はたっちゃんが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “大事”なのだから。

 

 

 

「真奈ちゃーん!ケーキ食べるわよ?」

 

 

母さんの声でハッとなり急いで二階の階段を降りる。

 

その時私は、無意識にも自分の口角が上がっていたことに気づかなかった。

 

 

 

 





どーも、ウィレンです。


坂本さんはたっちゃんが黒崎一護に近づくための道具として“大事”、たっちゃんは坂本さんが友達として“大事”だと思ってるから、勘違いって内容によっては本当に怖いっスねえ。
坂本さんの母さんを出して見たけど、坂本さんマザコンですかね。無意識に母さんのことはちゃんと考えてるからねえ。まあ、それには理由があるんスけど、後々出ますよ〜



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