幼女 シュヴァルツェスマーケン来たりて   作:空也真朋

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第72話 光ある場所

 キルケSide

 

 

 湧き出たBETAは足を潰され止まり、巨大BETAも、吐き出したBETAに足止めされて、動けなくなっている。

 この機を逃さずクリステルは再び自分の機体に乗り換え、私はワイヤーで要人の乗っている車両を私とクリステルの機体に繋いだ。

 すると、バルク少佐ら生き残ったフッケバイン大隊の機体が集ってきた。残存部隊はBETAの群れから這い出してくる戦車級を倒しながら、私達をガードする。

 

 「バルク少佐、ご無事で何よりです」

 

 『シュタインホフ、お前もな。どうにか伝説様のお陰で離脱できそうだ。しかし、あの眉唾物の戦場伝説が実在していたとはな。

 ともかく、その要人の方々を守って離脱しよう。俺らはサークル・ディフェンスを敷いて警護を務める。お前らは中心で守られながら、しっかりその要人らを引いていけ』

 

 「了解しました。あの、あの紅のアリゲートルに連絡は………」

 

 『ふん、そうだな。礼ぐらい言っておくか』

 

 バルク少佐は通信をアリゲートルの操者に繋ぎ、連絡をした。

 

 『アリゲートル搭乗者に応答願う。こちらは西ドイツ軍フッケバイン大隊隊長のヨアヒム・バルク少佐だ』

 

 私は無数のBETAの足のみを潰し、BETAを押し止めるという奇跡的なことを一瞬で行ったアレに乗っている衛士の正体が気になり、つい出るのを遅らせてしまった。

 

 『救援を感謝する。いい腕だが、そんなに高度をとり続けるのは危険だ。すぐ地上に降りて、そちらも離脱してくれ』

 

 

 ――――『残念ですが、それはお受け致しかねます。バルク少佐』

 

 私は通信に応えた衛士を見て驚愕した。いや、バルク少佐ら他の皆も一様に驚いている。

 

 網膜投影に映るその衛士は、子供――――

 いや、東ドイツ軍の子供衛士『ターニャ・デグレチャフ少尉』その人であった。

 

 

 『デグレチャフ少尉。お前さんだったのか、それに乗っていたのは。だが”お受けしかねる”とはどういう意味だ。地上に降りることか? 離脱か?』

 

 あの子は妙に厳かな声で応えた。

 

 『両方です。

 ここは我らが首都。我らが空。我らが祖国。侵さんとする邪悪はただ討ち滅ぼすのみ。

 私はこのままこの空であの信仰無き不逞の怪物共に鉄槌を下します。

 バルク少佐、貴官らは即時の撤退をいたしますよう要請します。どうかお気をつけて』

 

 『バ、バカな!? たった一機であのデカブツを相手にするつもりか? 

 正気か、デグレチャフ!!』

 

 『ええ、私は決めたのですよ。どうしてもアレだけは倒すと。

 もう一度言いますが、バルク少佐らは私にかまわず撤退をお願いいたします。

 ホラ、どうやら向こうも奥の手を出してきたようです』

 

 デグレチャフ少尉の言葉に再び巨大BETAを見てみると、奴は多数の光線級、そして重光線級を吐き出している最中だった。

 

 『シュタインホフ、出ろ! 他の者は要人の車の盾になってレーザーから守れ!』

 

 バルク少佐の叫ぶような命令に、私たちは急いで戦術機を発進させた。

 

 

 一瞬、空中のアリゲートルを見た。

 それはあれだけの光線種にも動じず、あまりに平静に空中に留まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 

 ターニャSide

 

 

 ああ、くそったれ。

 今現在私は存在Xを称え、讃美している糞を口からたれているに違いない。

 何故なら今、エレニウム九五式を最大稼働。

 あまりに静謐な信仰心に心が満たされていくにも関わらず、そんな無謀をやっている。

 

 戦争に仇なんてものを持ち出すのは間違っている。

 撃った者は悪意も何もなく、ただ真面目に仕事をしただけ。

 前世、私を仇呼ばわりした者がいたが、あまりに的外れな感情をぶつけられて辟易したことを覚えている。

 

 だがその立場になってみると、そんな理屈はゴミだ。

 エレニウム九五式を全力展開などという無謀。

 くそったれの存在Xに心を奪われ崇め称えようとも、カティアの仇、あのデカブツを討つと心に決めたのだ。

 

 「エレニウム九五式四核同調さらに増幅。地上目標座標把握完了。全天に広域魔導陣さらに拡大。拡張した術式に、さらに魔力充填増幅」

 

 あのデカブツを討つために、今回初めて限界までエレニウム九五式を稼働させようとしている。

 だが、コレには本当に限界が無いようだ。

 いくらでも魔力は増幅され、魔力光は眩い程に全天を照らしている。

 やはり、か。

 前々から魔力が前世より強力になっている気はしていた。

 だが、それは私自身の魔力が強まったわけではないことを理解した。

 それは、このエレニウム九五式宝珠のためだったようだ。

 本来、魔導宝珠とは術者本人の魔力を呪文や魔方陣の代わりに術式に変換し、決められた効果のある現象へと変えるためのものだ。

 しかしこのエレニウム九五式宝珠は、前世のものとは違い、これ自身が強力な魔力を発生させている。

 存在Xめ、小細工しおって!

 しかし流石に私自身には限界がある。

 忌々しい信仰などに心を白く染められる前にケリをつけねばならない。

 

 「光輝であれ。崇高であれ。荘厳であれ。祈り高く届きたまえ」

 

 糞忌々しい祈りなどを唱えながらトリガーを構え眼下を見ると、どうやら向こうも準備完了。

 十数体の重光線級及び数十体の光線級が巨大BETAより吐き出され、一面に展開している。

 そして一斉に照射準備を終え、照射口から溢れる程に光を湛えている。

 タイミングを合わせ、一斉照射とは面制圧を覚えてきたか?

 私を討つのにレーザーの集中照射など必要ない。

 ただ一発当てるだけで事足りる。

 空域全てにレーザーを放てば、それだけで私は神の御許へ送られるのだ。

 が、こちらは既に準備完了。

 光線種は確かに脅威だが、この状況に限りはこちらが先手をとっている。

 くそったれな信仰心と共に天空一面の魔導術式陣展開。

 トリガー一つで、一斉に爆裂術式入りの銃弾が地上に降り注ぐ。

 悪趣味なヤンキーの西部劇染みた真似で恐縮だが、ひとつ撃ち合いといこう。

 

 

 「遙かなる道の旅路。祈りの果てに……………」

 

 

 幾度も体に覚えさせた光線種からのレーザー照射のタイミング。

 その経験に基づき、レーザー照射より数瞬早く、

 

 

 「主の御許に至らん――――」

 

 

 トリガーを引いた。

 

 

 天の光と地の光。

 互いの光輝はベルリンを眩く照らし―――――――

 

 激突した。

 

 

 

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 

 キルケSide

 

 「嘘…………………何なの、アレ?」

 

 生き残りの戦術機部隊と共に、要人の乗る車をワイヤーで引いてのベルリンからの撤退途中。

 私たちは急いで最寄りの基地に帰還せねばならないにも関わらず、機体の足を止めてしまった。

 突然、あの子の乗るアリゲートルのいた天空から、眩い程に輝く光が発生したからだ。

 それはBETA光線種のレーザーとは明らかに違う、聖光の如き光。

 それはあまりに清らか。あまりに荘厳。

 幼い頃からキリスト教の洗礼を受けてきた私たちには、教会での教えを思い出させられてしまうものだったのだ。

 

 

 ――――世界の終末。審判を告げに天使来る。

 

   彼の者、地にはびこる邪悪なる者悉くを断罪し、

 

   浄火の炎は大地を大いに浄める―――――

 

 

 そんな黙示録の言葉が思い出されてしまった。

 

 「東ドイツは宗教否定の社会主義国だったハズでしょう? なのに、神様を呼び出す方法を見つけたとでもいうの?」

 

 「では、これまでの革命政府の奇跡染みた数々の事柄は、神の恩寵かな?」

 

 隣のレルゲン外務官は呟くように言った。

 

 「前々から、私はあの”ターニャ・デグレチャフ”という子の写真を見ると、妙な腹痛がしたのだよ。情報より先に、私の体は『あの子がただ者では無い』と訴えかけているようだった」

 

 「確かに……………あの子はただ者ではありませんね。あんな現象を引き起こす彼女を、連邦情報局(BDN)は全力で調べるべきでしょう」

 

 心なしか、私も腹痛がしてきた。

 

 

 

 ―――――そして

 

 

 天空の光は地上より湧き出た光とぶつかり、大きく膨らんだ。

 

 

 光はみるみる膨らみ、ベルリンを煌々と照らす。

 

 

 『審判の日』を思わせるその光景は数秒続き――――

 

 

 やがて消滅した。

 

 

 

 しばらく私たちは機体を動かすことも出来ず、その場に留まった。

 

 激しく光と光のぶつかった向こうの先は、一切の光が消えて静まり返っている。

 

 いったい、あの場所はどうなった?

 

 未だ巨大BETAと光線種、その他のBETAが蠢いているのか、

 

 それとも、何か”別のもの”でも降臨したのか――――――?

 

 異変の起きた向こうは、それから一切の動きは見せず、静かに倒壊したビルと瓦礫の影が佇むばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 やがてバルク少佐は全員に回線を開き、言った。

 

 『総員傾注。俺とラーケンはこれより引き返し、先程の現象の観測を行う。シュルドベリ。次席指揮官として要人、及び隊を率いて安全圏に到達せよ』

 

 「バルク少佐!? 正気ですか、あそこに戻るなど!」

 

 『ああ。あれは明らかにこれまでのBETAとの戦いでは見られなかったもの……………いや、おそらくはあの紅のアリゲートルが引き起こしたものだろう。

 そしてアレの所属する東ドイツとの統一を控えた我ら西ドイツとしては、危険でもアレの正体を見極めない訳にはいかない。

 なに、遠距離から観測をしてくるだけだ。帰還せねば情報を持って帰れないからな』

 

 しかし、あの場には多数の光線級や重光線級までもがいる。もし、それらが健在なら、無事に帰れる確率はかなり低くなってしまうだろう。

 

 『バルク少佐、大隊長である少佐自ら観測に行くなど! 偵察なら我々部隊員に命じ下さい』

 

 次席指揮官のシュルドベリ大尉はそう言ったが、バルク少佐はかぶりを振った。

 

 『いや、これは俺の仕事だ。俺は今の東ドイツ革命政府が反体制派だった頃から、そいつらとの協調を推進してきた。

 だが、それがあの訳のわからないものを内包しているというのなら、俺の責任としてその正体を見極めなきゃならん。

 ラーケン。付き合わせて悪いが、あれの観測に付き合ってくれ』

 

 バルク少佐は彼のバディと共に引き返して行った。

 

 

 私たちはバルク少佐らの無事を祈りつつ、ベルリンを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ターニャと母艦級との決着は如何に?

その戦いの場所には何が存在する?

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