カティア・ヴァルトハイム。彼女を見ると、私は孤児院のとある少女を思い出す。私以外唯一の女子の義勇軍参加者であり、戦闘の一番最後で慈悲を与えた少女だ。
実は彼女は元々義勇兵に選ばれてはいなかった。ところが誰かの代わりにわざわざ志願したのだそうだ。何でも自分より幼い私が志願をしたのを見て、何かを感じ入ってしまったのだという。愚かなことだ。私は下心ありまくりだったのだし、彼女は戦闘などまるで出来そうにない、如何にもな女の子だった。
要するに、カティアはその娘に似ているのだ。性格や雰囲気、容姿も多少。なので私は彼女を見ると、何とも言えないモニョッとした気分になる。
さて、本日は私の第666戦術機中隊員としての初任務。戦術機に乗って、部隊の出撃に初参加だ。任務は基地に放置されたBETAの死骸片付けだ。
『ではエーベルバッハ少尉。作業が終わったら航空路でヴァルトハイム少尉、デグレチャフ上級兵曹の戦術機機動の技術指導を頼む。許可は私が取っておこう』
アイリスディーナはそう指示した。クリューガー中尉あたりの安定した技術の指導を受けたかったな。まあ、エーベルバッハ少尉も技術は高いが、性格が陰気で取っつきにくい。人とあまり関わろうとしないのだ。
「よろしくお願いします、エーベルバッハ少尉」
『お願いします、テオドールさん! ターニャちゃん、がんばろうね!』
まったく、いくら言っても『ターニャちゃん』をやめてくれない。上官だから強く言えないが、せめて任務ではやめてほしい。
『「エーベルバッハ少尉」だ。小さいのを見習え』
くっ! かつてないほどに低い階級が恨めしい。前世なら魔導刃で切り裂いてやるのに!
目的地到着寸前、突然に警報が鳴った!
「全員傾注! 緊急事態だ。損傷した航空爆撃機がここに来る!」アイリスディーナが叫んだ。
出撃した爆撃機隊が、緩衝地帯にて光線級BETAの照射を受けた。どうにか離脱に成功した内、損傷の激しい2機がこの基地に来るというのだ!
機体はカーゴ損傷により燃料、爆弾の投棄に失敗したもよう。つまり、下手な着地をしたら大爆発、大惨事という訳だ。そして、その救助補助が初任務に変わった。はっはっはっ、なかなか心躍る初任務に変わったではないか。予備要員向けのお掃除任務とは段違いだ。
私と部隊員らはアイリスディーナの誘導に従い、航空路脇にて待機。
一機目………………危なくも無事着地。さすが!
二機目………あ、ダメだ。遠目からでも見てわかる。操縦手逝っている。コクピットから火が出ているのだから。
『総員退避! 全員その場から離脱せよ!』
私はその命令に神速服従! アイリスディーナの尻を舐めるが如く、彼女の機体の後ろについていく!
程よく空中で距離を取ったところで、私ら三機とも停止。……………三機?
私の近くにいた機体は三機だったはずだ。アイリスディーナ、カティア、エーベルバッハ少尉。
いない機体は……カティア? 周囲を探すと、さっきまでいた現場から離れていない! 何をやっている!?
『07、何をしている!? 命令だ、離脱しろ!』
『でも後ろに格納庫が! 整備班のみなさんが!』
確かカティアは整備兵らの手伝いなどをしていて、彼らと仲良くなっていたな。
だが馬鹿者! とっくに彼らも退避しているだろうに!
『バカやろう!』
その声と共にカティアとへと突進して行ったのはエーベルバッハ少尉だった! 以外だ。あんなにもカティアと距離を取りたがっていたのに。だが………
(駄目だな、アレは。とてもカティアを庇いきれるもんじゃない。一緒に死ぬだけだ)
事故機は航空路に爆発せずに降りたものの、そのまま滑り、二人の機体へと迫る!
「『主よ、その大いなる朝日の如く偉大なる御姿を前に―――』」
私は何故か神を称える言葉―――”聖句”を唱えていた。
いつの間にかエレニウム九五式宝珠を起動させていたのだ。
「『汝の子は唯、頭を伏して讃えるのみ――――』」
『デグレチャフ上級兵曹、何を言っている!? やめろォ!』
アイリスディーナが叫んでいる。
そうだ、正気か!? 管制ユニット内の言葉は全て録音されている!
私がクリスチャンと思われて、国家保安警察が飛んで来る!
「『おお、狭く苦しき道なれど、なんと喜びに満ちたことか』」
エレニウム九五式宝珠の発する魔術式は大きく高まり、爆発寸前まで機体を強化した!
――――――仕方ない、覚悟を決めよう。
この国の社会主義理念も存在Xもどちらも甲乙つけがたい最悪のクソ。
今までそう位置づけていた。
だが以後、存在Xの方が多少マシなクソと昇格しよう。
―――この状況でカティアを救えるなら………
「『主よ、つたなき身なれど御許に近づかん――――』」
存在X、お前をも讃えよう!!!
飛行機はエーベルバッハ少尉とカティア両機の前で前頭部から航空路に突っ込んだ!
機体は逆さに大きく跳ね上がる!
そしてそれは両機に向かい墜ちてくる―――――!
私はバラライカを全速力で、大きく跳ね上がった後ろ胴体部に、向かわせる!
そして倒れゆく機体の横より、両足でぶつかる!
ドッゴォォォォォン!!
(逸れろ迷惑なデカブツ! カティアに落ちるな!)
グワッシャァァァァァァァ!!!!
ズウゥゥゥゥゥン………!!!
私のバラライカは大きくはじき飛ばされ、施設のひとつに背中から突っ込んだ!
………が、私は無事だ。
カティアと、ついでにエーベルバッハ少尉は………?
………無事か。私の方に集まって来た機体の中に、二人のものも有る。
そしてアイリスディーナのも。
墜落機をチラリと見ると、見事、工廠を避け、残骸から激しく火を放っていた。
私は気が遠くなっていたのでわからなかったが、どうやら爆発したらしい。その周辺も赤々と燃えている。
通信からカティアが煩いくらいに『ターニャちゃん、ターニャちゃん!』と叫んでいる。
「ターニャちゃんはやめていただきたい」と言おうとしたが、背中が痛くて声が出ない。
騒がしいカティアの声に混じり、
『この馬鹿者………!』
と、小さくアイリスディーナがつぶやく声が聞こえた――――
全然、神なんて敬ってないのにクリスチャンと思われた!?
次回、思想矯正労働キャンプへご招待!
ターニャはそこで何を見る!?
以上、ウソ予告でした