第103戦術機歩行戦闘隊が合流した。部隊を構成するF-14は、光線級群を殲滅するに足る多数のフェニックス・ミサイルを搭載している。第666戦術機中隊は彼らを先導し、光線級群へと導くことが任務だ。
なんとアイリスディーナはグレーテル・イェッケルン中尉を説得し、司令部の政治将校の意向をもねじ伏せさせ、国連軍司令部の要請する光線級吶喊へと行くことに成功したのだ。
『どうして! どうして私とターニャちゃんは予備なんです? そんなに私達は足手まといなんですか?』
『ああ、そうだ。この光線級吶喊はこれまでのどの任務より厳しいものだ。お前達の機体制御じゃついていけないだろう。それに第666の全滅は何としても避けねばならん』
私とカティアは予備として残された。おそらくアイリスディーナは、この任務に帰ってこれないと予想したのであろう。
『聞き分けてくれ、カティア。お前には為すべき事があるのだろう? それとデグレチャフ。悪かったな、まだ幼いお前をここまで戦わせて』
第666戦術機中隊は約20機のF-14を引き連れ出発した。確かに彼女が部隊の全滅を覚悟する程に、この任務は相当厳しい。
まず、光線級のいる場所に十分な重金属雲が張れない。水上から離れた内陸部にいるため、艦船のAL弾が届かないのだ。そして光線級集団が固まっている地点が二カ所ある。そのため、かなり広い範囲が十字砲火を浴びてしまう地域になってしまっている。さらに光線級集団の周りには数体の要塞級がおり、ガードをしている。これで任務を達成して帰ってこられたら、本物の世界最強だな。
これからのことをカティアに相談しようとすると、
『ターニャちゃん、お願いがあるの。これから一緒にフッケバインに頼みに行って欲しいの。おそらく彼らが光線級吶喊部隊の撤退路を作る役だと思うわ。私たちも参加させてもらいましょう』
と、私が言おうとしていたことを先に提案されてしまった。情報から彼らが退路の確保の役割だと結論づけたが、もう一歩進めて誘導までやってもらおう。
アイリスディーナはじめ第666戦術機中隊は、得がたい優秀な暴力装置。こんな所で消費されて無くなってしまうのは余りに大きな損失だ。そして昨夜できた西ドイツ部隊のフッケバインとの縁。早くも使わせてもらおう。
私達は予備兵力として詰めている西ドイツ第51戦術機甲大隊『フッケバイン』のもとへと進んだ。カティアの西ドイツからの亡命者としての経歴で、大隊長のバルク少佐に繋ぐことができた。
『一昨日のお嬢ちゃんたちか。そっちのおチビちゃん、本当に衛士だったんだな。で、何の用だい?』
『はい、貴隊は今、光線級吶喊行動中の部隊の退路を確保するための移動中と思われます。我々もそれに加えさせてください!』
『お断りだな、そんなことは』
カティアの交渉は難航した。ま、西ドイツに災厄ばかりもたらす東ドイツ部隊の私たちでは当然だな。では私が一枚カードを切るとしよう。
「バルク少佐、共に行動すれば私の戦闘データの収集などが可能ですよ。幼い私の衛士としての能力、そのデータはそれなりに貴重と思いますが」
『…………ふん、自分の身を切っての交渉まで出来るのか。いいだろう、そういうことなら遠慮なくお前さんのデータはいただく。ついて来い!』
成功だ。シュタインホフ少尉が謝罪に来た時、どことなく私を見る目が妙だったが、やはり私の年齢は気になっていたようだ。
『ターニャ・デグレチャフ上級兵曹』
バルク少佐が私に話かけた。
『機密とかなら、答えなくていいが………なぜお前さんは戦っている? その年じゃ、今頃は先生にいろいろ教わってるって時間だろう』
私はバルク少佐の質問に少し考えて、そして答えた。
「戦場がね、私を離してくれないんですよ」
我々はフッケバインと共にBETA群に突入! 退路予定区域内のBETAを次々葬る!
『…………たいした射撃技術だな。どうやったらその年でそこまで到達できるんだ』
などとバルク少佐からお褒めの言葉をいただいた。
照準補正魔術です。言えませんが。
やがてA集団の光線級吶喊をしている第666、第103の背中を見れる位置まで来た。
だが、彼らは光線級の照射から逃げるのに精一杯で進めないでいる。
………………?
おかしい。もう一方のB集団光線級の照射が第666を狙っている。A集団の光線級吶喊の間、向こうは別の部隊が陽動を仕掛けることになっているはずだ。
だが、それが機能していない。そのせいで進むことができず、足止めされている。
ピ―――――! ピ――――!
私が不思議に思っていると、バルク少佐から通信が来た。
『お嬢ちゃんたち、すまんがここまでだ。新たな任務が入った。B集団光線級の陽動を担当している部隊が失敗したらしい。そこで俺たちがやることになった。お前さんたちは下がれ』
『ええ!? じゃあ撤退路は………』
『A集団殲滅の後、再び行う。このままじゃ向こうは身動きがとれん。だが、フッケバインの名にかけて必ずお仲間は生還させる。進んできた道が無くなる前に急げ』
くそっ、つまり第666はこの任務でさらに生還が厳しくなったということか。
私もこの位置ではどうしょうもない。魔術で狙撃をするとしても、要塞級の巨体が邪魔だ。
アレを何とかするには、やはり足をへし折るのが手っ取り早い。しかし要塞級の足はダイアモンド並に強固。それに、こんなBETA共がわらわらいる場所では落ち着いて狙撃などできない。
一発を誘導させて全ての足を折りたいが、貫通、爆裂術式を入れたとしても曲線を描く弾道では威力が落ちる。
威力を上げるため、できるだけ近くで、射線を曲げることを最低限の場所で撃ちたいが、空を飛んだら光線級の最優先目標になってしまう。なにかないか………
その時、赤グモの様な戦車級が一体、私に飛びかかってきた!
反射的に私は撃とうとして………………やめた。
当然、赤グモは私のバラライカに取り憑いた。
『タ-ニャちゃん!? 待ってて、今ナイフで……』
「構わないで! これでいいんです。バルク少佐、陽動は私が引き受けます。このまま撤退路の構築をお願いします」
赤グモをぶら下げたまま、私はバラライカを噴射跳躍!
――――ああ、やりたくない。でも思いついてしまった。何とかできる方法を。
『おい、何をしている!? レーザーの的になりたいのか!』
バルク少佐が私にどなる。
「ええ、あなたの部下のシュタインホフ少尉に教えたくてね。アカの中にもあなた達のために命を捧げることの出来る者がいると」
精一杯の皮肉をこめ、あの時の彼女に少しだけ意趣返しをする。
私のバラライカに向かい、AB両方の光線級集団から予備照射が来る!
だが、赤グモ一匹ぶら下げているので撃てない!
赤グモは逃れようとする。が、バラライカの腕を絡め、さらに拘束術式でそれを許さない!
――――はっはっはっ、いい眺めだ。人間からもBETAからも注目の的だ。
そして、さすがはアイリスディーナ。全ての光線級の意識がこちらに向いている隙を逃さず、果敢に第666と第103を率いてA集団に突撃をかけている。あちらは任せていいだろう。
ならば私は第666と別方向のB集団光線級に向かって空中突進!
目標は光線級を守っている要塞級の足。
「『おお、我らの主上におわします天の御使い。願わくば其の邪悪を討ち滅ぼす力を』」
突撃銃を構え、光学、誘導、貫通、及び爆裂術式展開。
狙撃術式に集中していると、赤グモはピョン!と逃げてしまった。
――――やれやれ、ダンスの相手に逃げられてしまったか。
――――だが、去る者は追わず。こちらはこちらの仕事をするとしよう。
狙い――――――――――発射!
ダァ――――――ン!!
そしてその瞬間、全ての光線級が、一斉に私にレーザーを照射してきた。
シュカアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!
シュカアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!
シュカアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!
シュカアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!
シュカアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!
シュカアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!
――――ああ、眩しい。こいつらはいつも過剰だ。
それは、白い――――
あまりに白い、一面の白だった
眩い光につつまれながら、私は愛機バラライカに詫びた
―――すまんな、こんな使い方をしてしまった私を許してくれ
―――だが、ありがとう。君はまぎれもなく勇者だった
行こう、私と光の空に――――