幼女 シュヴァルツェスマーケン来たりて   作:空也真朋

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第24話 欧州連合軍の危機

 海王星作戦二日目。昨日の戦いは大軍を展開できる戦場をつくるためのもので、今日が本番。ポーランドの大量のBETA群を包囲殲滅だ。

 意外なことに、作戦開始前にキルケ・シュタインホフ少尉が昨夜の謝罪にきた。

 

 「昨夜は失礼いたしました。西ドイツ軍人として恥ずべき言動だったと反省しています。ご寛恕いただけたら幸いです。我がフッケバインは予備として控えておりますが、貴官らワルシャワ条約機構軍に不測の事態が起こった場合、助力するよう命令されております。万一の場合、よろしくお願いします」

 

 つまり昨日のようにBETAを包囲網から逃がすようなことがあれば、手伝ってやるから邪魔すんな、というわけだ。まぁ、ミサイル撃ち込まれるよりはマシだな。イェッケルン中尉は悔しそうな顔をしているが、上の方で話はついているらしく、何も言わない。ワルシャワ条約機構軍は、西側諸国より装備も劣っているし、人数も足りないのだから張り合ってもしょうがないのにな。

 それにしてもシュタイインホフ少尉は意外に下手に出ている。バルク少佐に説教でもされたのかもしれない。昨夜のように恩着せがましくイヤミを言っていたら、意地でもイェッケルン中尉は手伝いを拒否するだろうから、有難い限りだ。

 

 作戦が開始された。欧州連合軍の大量の戦術機部隊、そしてアメリカのさらに大量の戦術機部隊は、湾岸に展開する多数の艦船の支援砲撃を受けながら、左右側面より膨大なBETA群を包囲。そして激しく砲撃を叩き突ける! アメリカ軍と欧州連合軍は、水上打撃部隊と地上部隊の砲兵による面制圧、多数の戦術機と攻撃ヘリによる側面攻撃によって急速にBETAを殲滅していく。光線級の封殺も、水上打撃部隊の常時AL弾を交えた砲撃により成功している。

 我々ワルシャワ条約機構軍はBETA群の正面に防御陣地を敷いて待機しているが、いらない子だね。西側の物量攻撃だけで作戦は終わりそうだ。第666は通信映像で悔しそうな顔をしている者は何人かいるが、こうなっては仕方ない。アイリスディーナの目論見も外れてしまったな。

 

 やがて連中の猛攻を抜けてきた突撃級BETAがこちらに突進してきた。スピードに長ける奴らは、西側の側面攻撃を突破してきたのだ。やれやれ仕事かと突撃砲を構え、こちらの戦車と共に斉射の号令を待った。

 すると突然、予備であるはずの欧州のF-15が後ろから飛び出し突撃級に向かった! それらは搭載してあるフェニックス・ミサイルを一斉斉射し、そして離脱した。爆音、爆撃。その煙が晴れた後には半数以上数を減らした突撃級が、前衛の死体に足を取られながらもこちらに来ようとしている姿があった。

 

 「あいつら………!」

 

 と、イェッケルン中尉はいまいましそうに呟いた。まぁ、こちらの戦区で先に攻撃されて面白くないのはわかる。しかしミサイルを有効活用するには、攻撃の一番最初に放つのは正しい。

 問題はワルシャワ条約機構軍の面目をしたたかに踏みつけ、お寒い立場に置くこと。そして私もこちらの立場にいることぐらいだ。ま、私たちが突撃級とじゃれ合っている中に撃ち込まれるよりはマシと思っておこう。残った突撃級は楽々狩れるが、『やっぱり私達いらない子だね』という気持ちはぬぐえない。

 

 しかしイェッケルン中尉らがいらついているのは面目を潰されている、などということだけではないだろう。社会主義の敗北、それを目の当たりにしているからに他ならない。西側は物量だけではない。指揮系統の命令も我々社会主義圏より余程洗練されており、素早く的確に動いている。なにしろ我々は部隊ごとに政治将校などを置き、指揮官はいちいちそいつに判断の許可をもらわねばならない。さらにその政治将校も司令部の政治将校の許可を取らねばならない。つまりアホな鈍亀そのもの。とても果断な決断などできるものではない。

 アイリスディーナは指揮官の才の他に、この政治将校を丸め込むことに長けている。さらにイェッケルン中尉もある程度は戦局を読む才があるようで、アイリスディーナから無理矢理指揮権を奪ったことは無い。故に我が第666戦術機中隊は我が国最強なのだ。

 しかし我が隊はそれでいいとしても、やはり社会主義は人類の害悪だな。このBETAの危機にさらされた世界において、一刻も早く抹殺せねば人類全体が危うい。

 

 

 

 

 「………うん?」

 

 ふと私は、艦砲射撃のものではない振動を感じた。それは前面の戦闘に関係なく、一定のリズムで刻まれている。

 

 ――――――これは? いや、まさか!?

 

 ピ――――! ピ――――!

 

 緊急通信がCPのファム中尉から来た。

 

 『シュヴァルツ00より中隊各機。国連軍より緊急入電! ポーランド内陸部より新たな大規模BETA挺団が出現! 個体数は不明。その針路上には欧州連合軍地上部隊の先鋒が!』

 

 くそっ、昨日と同じBETAの援軍か! しかも個体数不明ということは、昨日の一万を遙かに超えているということだ。

 その新たなBETA挺団は、死と破壊の本流となって欧州連合軍を急襲した!

 

 (だが問題は数じゃない。どれだけ多くても、欧州連合軍の火力なら圧倒できるはずだ。そう、あれさえいなければ………)

 

 もちろん欧州連合軍も応戦し、支援砲撃を放った。が、無数の光線級のレーザーがミサイルを全て撃ち落としてしまった!

 

 (くそっ、やはりいるのか!)

 

 人類がBETAに押され、後退を余儀なくされている理由の多くは、この光線級の存在だ。超長距離からの強力なレーザーによって、人類の最大火力を封じられてしまうのだ。

 

 『光芒の数より推測。光線級200以上!』

 

 『BETA挺団、欧州連合に先頭接触!』

 

 『AL弾も目標との距離がありすぎて、規定濃度に届きません!』

 

 私に見られる情報など雀の涙だが、数少ない情報からでも欧州連合軍が全滅の危機だということは分かった。出現した新たな挺団のこの位置じゃ、水上打撃部隊の射程圏外だ。つまり重金属雲を張れない。ミサイルは全て光線級に撃ち落とされるので、支援砲撃は不可能。戦術機部隊の防衛戦闘だけじゃ、いずれ欧州連合軍は食い破られる。そしてそれは合同軍全体の敗北へと繋がるだろう。

 この状況を打ち破るには、我が隊が動き、光線級を一刻も早く殲滅するしかない。が、社会主義的発想だと戦場の敵より政敵を蹴落とすことを優先する。つまりワルシャワ条約機構軍司令部が私たちにそんな命令を出すはずが無い。

 さて、この状況。アイリスディーナは動くのか? 動くとしても、司令部やイェッケルン中尉を説き伏せることが出来るのか?

 

 

 

 

 戦況をじっと見つめていたアイリスディーナは、ゆっくりイェッケルン中尉に言った。

 

 『同志中尉。この危機に際し、我々がすべきことはわかるな? 今すぐワルシャワ条約機構軍へ上申しよう。”光線級吶喊”だ!』

 

 『な!……同志大尉、そんなことできるわけが………』

 

 その後、光線級吶喊の要請が、なんとワルシャワ条約機構軍司令部を飛び越えて、国連軍司令部より来た。ワルシャワ条約機構軍司令部があまりにごねるので、直接アイリスディーナに頼みに来たらしい。それに対しアイリスディーナは受諾。もちろんワルシャワ条約機構軍司令部は猛反発したが、イェッケルン中尉を味方に引きずり込んで強引に、独断で受けた。いや~~お見事!

 

 『今回の作戦において、予備を二機残す。ヴァルトハイム少尉、デグレチャフ上級兵曹は外れ、橋頭堡へ帰還しろ』

 

 

 私たちはハブですか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




欧州連合軍へと襲いかかる第BETA挺団!
怒濤の勢いで攻めかかる!

この大いなる危機を救えるか?

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