ミセス・ヨーロッパ   作:ふーじん

7 / 12
第一話、投下!!
日刊一位という実績がバスターニトロを作者に注ぐぅ!

言うまでもありませんが原作をプレイしてること前提です。
それとステータスも思いの外難しかったので次回以降に持ち越しです。
楽しみにしてくださってた方、大変申し訳ありません……


Fate/Grand Order編
オケアノスに輝くワンピース


 

 ざあと吹き抜ける潮風が鼻を擽った。

 濃厚な潮の香り。照りつける日差しは容赦なく体力を奪い、かと思えば唐突に吹き荒れる嵐が与えた以上に熱を奪っていく。

 果てしない蒼穹。限りない水平線。数少ない陸は点在する島々以外に無く、否応無しに海の旅路を強いられる閉じた海で有象無象の海賊どもがしのぎを削る!

 

 そう、世はまさに大航海時代――!!

 

「さぁ全速前進よ! 次なる陸地を求めて突っ走りなさーーい!!」

「アイ、アイ、マム!!」

「汝、思いの外順応するのが早いな……」

 

 荒波強風なんのその! 船首に陣取る美少女の、白いワンピースが眩く揺れる。

 人理崩壊を目論む第三の特異点で、エウロペは海賊生活を満喫していた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エウロペがこの特異点にはぐれサーヴァントとして召喚されたのは数日前のことだ。

 寄る辺となるマスターも存在せず、因果に引き寄せられるようにして現界したエウロペだが、マスター不在の弊害か魔力がほとんど枯渇した状態で見知らぬ森へ放り出されていた。

 召喚に際して与えられる諸知識こそあり状況の把握には困らなかったが、それゆえに逼迫した状況に釣り合わぬ己の状態に当初は途方に暮れた。

 

 なにせ、ステータスにして軒並みワンランク下降するほどの魔力不足。クラスこそサーヴァントとして最大戦力を発揮できるライダーだったものの、当然ながら宝具を展開できるだけの魔力は無く、存在を維持するための最低限しか確保できていない。

 

「んがー! あたしを呼びつけるのはいいけれど、せめて前準備くらいしっかりしろってのよ! 宝具も満足に使えないあたしなんてただの美少女なんですけどー!?」

 

 応答する声も当然ない、正真正銘ひとりぼっちのはぐれサーヴァント無情派。

 当方の保有戦力は、魔力不足でただの可愛い子犬ちゃんでしかなくなった"星界猟犬(ライラプス)"と、ちんまりとした鉄の棒っぽい"雷霆の枝(オゾス・ケラウノス)"。なぜか無駄に愛らしい有翼の少女にまでグレードダウンした"守護神像・青銅巨人(ガーディアン・タロス)"――以上!

 本来であればこれ以上無く頼もしい配下たちが、可愛いだけのマスコットと化した現状。エウロペは早速己の存在意義に疑問を抱いた。

 ちなみにヘラエレオスはお留守番らしい。この先の戦いにはついてこれそうにないと勝手に判断されたようだ。エウロペはちょっぴり泣いた。

 

「――ま、ウジウジしてても仕方ないわ! できることからコツコツとやっていかなきゃね! それで……ええと、人理崩壊の特異点……だっけ?」

 

 適当にあたりをつけて歩を進めつつ、己が呼び出された現状を整理する。

 座で何度か呼び掛けのあった通常の聖杯戦争とは違う、人理の存続を賭けた一大事件での要請と理解し――

 

「ってそれなら余計に中途半端な召喚してんじゃないわよー!? マジで意味不明なオファーなんですけどぉ!!」

 

 ばっかじゃねーの人理と思わず悪態を吐いた。

 後世にギリシャ四大英雄の一角と讃えられ、人類史に燦然と輝く名を遺したエウロペを選出したのはいい。花丸をあげよう、なんせ世界を守るための戦いのプロだから。

 だがそのためのバックアップに不備があるとはどういうことだ。宝具の使えないエウロペなぞ、鱗のないドラゴン、あるいは髭の無い男にも劣る――!! 吹き出す不満が止まらない。

 

 とはいえ、嘆いたところで現状がどうにかなるはずもなく。

 エウロペはすっかり臍を曲げて、すっかり愛らしくなったおともを連れて森をかき分け進んでいった。

 気候や風土から察するに、どうやら海にほど近い島のようだ。生前は長年を海上交易の盛んなクレタ島で過ごしたエウロペである、風の薫りや地質からその程度を察するのは容易い。

 とりあえず海辺に出ればなにかしらわかるだろうという判断のもと、一歩一歩着実に外周へ進んでいく。

 はたしてその推測は的中し、日没前には海岸線へ脱出することができた。

 

「う~~ん……知らない海だわ……」

 

 が、その様相は彼女の知る海とはまったく一致しない海域だった。

 詳細は実際に海へ出てみねばわからないが、地形、海流、風向き、その他諸々――どれ一つ取ってエウロペの知るクレタ島近海のそれとは異なる。

 

「くっそー、魔力さえ十分ならタロスに乗ってひとっ飛びなのにぃ~~! こんな状況であたしにどうしろってのかしら!!」

 

 魔力不足により取れる手段が限られている以上、現状エウロペにこの島を脱出する術はない。

 サーヴァントと化したために生理的な食事や水分補給の必要性は限りなく薄いが……

 

「少しでも魔力を回復するために、ちょっとでもいいから食事はしておきたいところよね……ヘラエレオスがいれば、あの子のミルクで事足りたんだけど……」

 

 そこまで言って、ないものねだりの虚しさにうがーと唸って地団駄を踏む。

 女傑エウロペ、死後に至って遂に貧乏生活突入! ――冗談ではない。いや、実際冗談の欠片も無い状況なわけだが。

 神託ねぇ、魔力もねぇ、宝具もそんなに役立たねぇの三重苦。何気に生前にも無かった大ピンチである。

 

「はぁー…………仕方ない、しばらくはサバイバルね。今のライラプスでも、子供くらいなら狩れるかもだし。……とりあえず今日のところは寝床の確保ね、狩りはまた明日にしましょ」

 

 そうして無一文サバイバル生活を始めて数日が経った頃である。

 島の探索もすっかり終え、ここが正真正銘無人島であることを確かめ、海辺で水平線をぼーっと見つめていたところ、ふと彼方から近づいてくる影を発見した。

 

「うーむむ、船……かしら? でも見たことのない造りね、あたしの生きた時代のではなさそう」

 

 帆に風受け波を掻き分け、真っ直ぐに島へ近づいてくる数隻の船。見たところ船団を組んでいるようで、一定の距離を保ったまま規則正しい配置で沖合に停まる。

 そこから小舟を出して漕いでくる姿を認め、エウロペは大きく手を振って呼び掛けた。

 

「お~~~~い!! こっちこっち~~~~~!!!」

「――――!!」

 

 エウロペの声が届いたのか、俄に漕手を早めて近づいてくる。

 そうして接岸した小舟から降りてきたのは――

 

「おいおいおい、まさかの戦利品だぜ」

「身奇麗なナリして見た目もいいじゃねぇか、とんだ拾いモンだな!」

「んじゃ船へ連れてくべ」

「ちょ、ちょっとぉ!? なに無遠慮に抱えてくれてんのよコラ――ってぎゃーお尻触ってんじゃないわよこのスケベ!!」

「遭難してたっぽいくせに無駄に元気有り余ってんなぁコイツ」

 

 まさかの海賊御一行様であった。

 そうとは知らず存在をアピールしたエウロペ、見事にロックオン。

 瞬く間に簀巻にされ、戦利品としてえっさほいさと運び込まれ、念願の島脱出を果たしたのだった。

 

 

 

 

「で、貴様らは食糧の確保も忘れて、この小娘を連れ帰ってきたというわけだな?」

「へい、姐御!」

 

 意気揚々と答えた下っ端海賊の額に矢が突き立った。

 エウロペを担いで船上に戻るや否や向けられた、険しい声をした女の質疑の顛末である。

 

「まったく、簡単な使いすらもまともにこなせぬ軟弱どもめ。目先の欲に囚われ目的を忘れるなぞ……大体よく見ろ、それはサーヴァントであろうが」

「す、すいやせん姐御……」

「もう一度行け、次は無いぞ。しくじれば汝をこの先の糧にしてくれる」

「ひぃっ、それはご勘弁を! すぐいってきやーす!!」

 

 射抜いた女は深緑の髪をした、随所に獣の相を宿す狩人であった。

 遊びのない表情に呆れを浮かべ、今しがた射殺した海賊を顧みるでもなく頭を振る。

 見たところ彼女が海賊たちの頭目であるようで、下っ端たちは情け容赦の無い仕打ちに震えながらそそくさと島へ再び向かった。

 

「お馬鹿な手下で大変ねー。見たとこあなた、そういうのに向いてそうにないし」

「わかるか。まったく、やむを得ぬとはいえあのような輩を率いねばならぬとは甚だ不本意だ」

 

 船上に残されたのは頭目の女と、連れてこられたエウロペの二人。

 手下たちは一人残らず島へ向かって食糧を狩り集めているのだろう。そしてエウロペ一人、己だけでどうとでもなるという自信が透けて見える。

 

 先程この女は、エウロペを指してサーヴァントと断じた。

 エウロペもまた、そう言い放った女を直視して、彼女もまたサーヴァントであると確信を得る。

 獣の相を持ち、弓を携え、過たず標的を射抜く腕の冴え。隠しきれず薫る同郷の匂いに、よく知る神気を纏った女狩人――それは

 

「あなた、麗しのアタランテよね? アルテミスの気配が強いからわかりやすいわ。おまけにあたしより先に喚ばれたようね、てことはあたしよりもずっと状況に詳しいんじゃなくて?」

「如何にも、私こそはアタランテだが――」

 

 一目で真名を言い当てられたことが意外だったのか、驚いたように目を見開き――同時に矢を番えてエウロペに向けた。

 その目には警戒の色を濃くしながら、少しでも不審な動きあらば射るとばかりに、エウロペへ問い質す。

 

「名を問うよりも先に訊いておくべきことがある。汝はイアソンに与するものか? あるいはこの歪んだオケアノスを正さんとするものか。答えよ」

「……イアソン? イアソンって、えーと……直接会ったことはないけど、玄孫の婿殿よね? なんでその子の名前が出てくるのかしら」

「奴に加担する者ではない……いや、待て。汝、今なんと言った? 奴が貴様の血に連なるだと?」

「ちがうわよー、婿殿って言ったじゃない。ていうか遠すぎてほとんど他人みたいなものだし。それ以前にその子とうちの子、ほとんど行きずりの関係だったみたいだし?」

「待て。待て、待て……だとすると汝、何者だ? 奴と血筋を交わす女の英霊など、かのアリアドネか――――まさか!」

「ふっ、さてはバレてしまったようね……」

 

 エウロペの証言からその真名に思い当たったアタランテが、よもやと驚愕を露わにする。

 その表情に気分を良くしたのか、ふふんと得意げに笑って。

 

「いかにもあたしがクレタのアイドル、エウロペよ! さぁ驚いたなら盛大に崇めなさいチヤホヤなさい!!」

「な、なにィ――――!!?」

 

 

 

 

「いや、それにしてはあまりにも弱すぎはせんか? かの大英雄が貴様のように小娘同然に脆弱であるはずがなかろう」

「うーそーじゃーなーいー!! 正真正銘エウロペちゃんだっての!! ちゃんとタロスもライラプスもいるし! 槍だって持ってるし!!」

「……その子犬と、ハルピュイアもどきと、みすぼらしい鉄棒がか?」

「魔力不足だから仕方ないんですーうーうー!!」

 

 真名を名乗ってみたものの、対するアタランテの反応は冷ややかだった。

 それに立腹するエウロペが駄々をこねて反論するも、それがますますアタランテの疑念を深める。

 あまつさえ証拠に宝具すら開示してみても、ご覧の言い様である。是非も無いネ。

 

「まぁいい。汝が本物であろうとなかろうと、奴に与しないのであればそれで構わん。欲を言えば戦力も確保したかったが……それを求めるのは酷なようだしな」

「ふんだふんだ! いいわよ、あたしはエウロペじゃないもん! ただの謎の美少女Eだもん!」

「拗ねるな拗ねるな。私も汝のような子供相手に言い過ぎた、許せ。なに、貴様を捨て置こうというつもりはない。戦力としてはアテにならぬが、最低限の人手は欲しかったところだ。私の力及ぶ限り守ってやる故、手を貸してくれ」

「……まぁ、別に? 手伝ってあげるのはやぶさかじゃないけどぉ……でもいざとなったときに助けてなんかあげないんだからねっ!」

 

 笑うアタランテが、すっかり臍を曲げた様子のエウロペをあしらう。

 最早彼女の中でエウロペがかの大英雄であるという可能性は完全に失われていたが、そうとするなら今のエウロペはただの子供。確かにサーヴァントのようではあるが、非力である以上彼女の庇護対象となった。

 

「さて……同行するとなった以上、私の目的も汝に伝えておかねばなるまい」

「ふぅん……?」

 

 そしてアタランテが語ったのは、この閉じた世界が形成されるに至った経緯の全て。

 イアソンを基点として西暦1573年のとある海域が特異点と化したこと。

 それに伴ってダビデというサーヴァントが召喚され、彼と同時に現界した契約の箱――アークと呼ばれる聖遺物を求め、イアソンが軍勢を形成し、それへ捧げる贄と同時にこの特異点を彷徨っていること。

 そして――その軍勢の中に、大英雄ヘラクレスが存在すること。

 

「イアソン自身はまったく考慮する必要の無い小物だが、ヘラクレスだけは別だ。アレが居る限りヤツの戦力は万全となり、対抗する手段も限られるだろう。故に、やつらよりも先にダビデとアークを確保し、やつらの手に渡らぬよう護らねばならない。でなければ待ち受けるのは――」

「この特異点の崩壊と、それによる人類史の破滅……ってワケね。んもー、こういうときこそあたしの出番なのにー!!」

「はっはっはっ、威勢だけはいいな娘。だがまぁそれくらい意気込みがあるほうがこの先行動するにはちょうどいいだろう」

「……ほんっっっと欠片も信じる気がないわね! なによなによ、ちょっとロートルだからって馬鹿にして! 言っておくけどね、あなたたちが倒したタロスは本気の欠片も出してなかったんだからねっ、そこんとこ覚えてなさいよ!!」

「まだ言うのか……ふふ、まぁ汝が真にかの女傑であるというのなら、いつか見せてもらいたいものだな! アルテミス様から幾度となく聞かされた武勇の冴え、楽しみにしているとしよう」

「むっかー! 超上から目線でムカつくんですけどぉー!?」

「姐御! お嬢! 準備が整いやしたぜ!!」

「そうか」

 

 憤慨するエウロペをアタランテが微笑ましくあしらっていると、船出の準備を終えた手下の報告が上がる。

 一度離れれば何日彷徨うとも知れぬ海の道だ、それを補う大量の水と食糧を積み込んだのを確認すると、アタランテは船首に立って号令を発した。

 

「では出発せよ! 可能な限りの島々を巡り目標を確保する! 道中の海賊は私が蹴散らすが、アルゴー船だけは回避を徹底しろ。観測手は決して油断するなよ、一度見つかれば逃げられはせんからな」

「アイ、サー!」

「うわーなにそれかっこいい!! 次はあたしが命令するからね!!」

「はしゃぐなはしゃぐな。しばらく揺れるぞ、転んで落ちては大事だからな」

 

 勇ましくも凛々しい大号令に目を輝かせるエウロペ。割りと男の子的な趣味の持ち主であった。

 そして船は陸を離れ、見果てぬ水平線に躍り出る。マストに張った帆が風を受け止め、大きく膨らんで船体を加速させる。

 久しく無かった船旅にエウロペは大いにはしゃぎ、あちこちを走り回りながら強風一つ、波飛沫一つに一喜一憂していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人理を燃やす七つの特異点、その三番目。

 封鎖終局四海オケアノスにおけるエウロペの旅が、こうして始まった――――

 

 

「さぁ全速前進よ! 次なる陸地を求めて突っ走りなさーーい!!」

「アイ、アイ、マム!!」

「汝、思いの外あっさり順応したな……」

 

 

 ――海賊暮らしを大いに満喫しながら!!

 

 

 

 

 




FGO編もそんなに長くはならないと思います。
オケアノス編と最終決戦編を予定し、全部ひっくるめて十話いくかいかないか……といったところですね。
だらだら続けてネタが切れる前に駆け抜けるんだ!

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