総士はダンボール箱を手に宿泊施設に向う。
この施設はアークエンジェルやナデシコが停泊しているドックの真上にあり、有事には徒歩五分もかからず乗艦出来るようになっていた。
彼はここ数日、敵勢力の解析や味方の謎の多い機体についても調べるために研究所を出入りしていた。
次元連結システムである美久とヴァルヴレイヴ隊のアキラにも協力を頼んでいたのだが、そこへ荷物の誤配送があったのだ。
そしてたどり着く鉄華団がいる場所。
「オルガ、君に荷物が来ていた」
「俺に?誰から」
「名瀬・タービンという人物だ」
驚いて荷物を受け取る。
「兄貴か!……これは、兄貴が着てたスーツ?」
「確かに渡した。それじゃあ」
「あ、待ってくれ。その、ミカが世話になったみたいだな。礼を言う」
「力になれなかった。……オルガ。一つ余計な事を言わせてもらうが、鉄華団はこの先の可能性を持ち合わせた団体だ。だからこそ阿頼耶識の使い手は増やすな。必ずしも三日月のような結果になるとは限らない」
「それは、言われずともってやつだ。……こんな時間で悪いが、火星に通信を送れる施設はあるか?」
「アルヴィスの第二CDCだ。万丈も申請をだしていたから、彼と時間を合わせて行くといい。こちらから許可を出す」
「感謝するぜ。皆城」
頭を下げられ、総士は再び歩き出した。
もう一騎の店は閉まっている筈だが、仕込みをしている頃だろう。少し顔を見に行くか。
「総士も感じているのでしょう。オルガ・イツカや三日月・オーガス達に未来を感じていない」
道端に佇む皆城織姫。唐突に現れた彼女に驚きもしない総士。
「呼び捨てはやめろ。俺は君の叔父にあたる。それに鉄華団の事は口にするな」
「……優しいんだね」
「未来はいくらでも変えられる。我々が見えているのは一部の分岐に過ぎない。それを回避する力を持ち合わせているのはフェストゥムだけではない。人間もだ」
「やっぱり優しいよ。総士は」
翌日の朝、タカヤノリコは外を走っていた。
ガンバスターパイロットであり宇宙軍の中尉である彼女は、この島に来てから漫画家の手伝い担当になった。
エステバリス隊のヒカル主導の下、指南ショーコとハーリー、サブロウタと共に原稿と戦っていたのだ。
早朝になってからヒカル以外が睡魔に撃墜され、作業が止まったことによりノリコは仮眠の後に体を動かすため浜辺へ足を運んでいた。
「二人とも。ここにいたんだ」
騎士ユニコーンと太陽騎士ゴッドがアルヴィスの歩兵を鍛えていたのだ。
二人にひと声かけようかと思ったが、真剣に訓練したのでやめておく。
「あの二人にも、戦いとは無縁な時間を知ってほしかったな……」
ノリコは再び走り出す。漫画を書くために。
大勢が戦いを離れた生活をおくるなか、アルヴィスに定期的に集まっている将官達は時々雑談にも時間を費やしていた。
エルエルフ、キラ、マリュー、ユリカ、伊奈帆、真壁司令が適当に座って寛いでいた。
「苦戦しているようだねエルエルフ」
「まったく、冗談ではない」
定例報告を終えてからコーヒーを手に落ち着く。
「リッツが来なくなったが、何か情報は?」
「アークエンジェルにいるわよ。何かあったのかしら」
マリューが総士を見る。
「スレイン絡みだ。報告は受けている」
「若いな……」
真壁が僅かに微笑みながら呟く。
「ミスマル艦長。ラーメン屋についてアキト君は?」
「屋台を選びました。お気遣い感謝します」
丁寧に頭を下げるユリカ。
「構わないさ。まぁ君達には島の住人になってほしかったのもあったのだが」
冗談とも本気ともとれる返答をする真壁に対して屈託のない笑顔を見せるユリカ。
「ラミアス艦長、キラ君も同様だ。帰る場所があるとは言え、この島が気にいればいつまでも居てくれて構わない。君達二人はアルヴィスのスタッフからも意見があった」
「オーブやプラント……エルエルフにはジオールがありますからね……伊奈帆くん、どうかした?」
何処か思い詰めた様子の伊奈帆が気になったキラ。
「いえ。ただ……」
どうにもはっきりと言葉を出せない伊奈帆。それを皆が珍しく見ていたが、エルエルフが話題をかえる。
「そう言えば、この部隊の名前がまだ無かったな」
「部隊名?」
「ふむ……」
伊奈帆はチラッとエルエルフを見てから。
「確かにそうですね。アークエンジェルとナデシコ。そしてアルヴィス、美容室プリンスとペンギン帝国」
「ジオール革命軍と黒部研究所部隊、界塚小隊と異世界の来訪者、そして鉄華団」
「これだけ雑多な組織構成を一まとめに呼べる部隊名か。」
「……統合革命艦隊」
エルエルフの提案に、キラは僅かに笑う。
「やっぱり革命は外せない?」
「勿論そうだが、既にエフィドルグや101人評議会に侵食されている地球軍と敵対する組織だ。さらに宇宙生物とも戦っている以上、多少なり格好をつけてもいいだろう」
統合革命艦隊という部隊名が決まってから伊奈帆がアルヴィスを出て海を眺めていると、エルエルフが来る。
「さっきはありがとう」
「構わないさ。それで、さっきのは何だ?」
海に視線をおくる伊奈帆は。
「戦いが終ったら何をしよう、そんな事を考えるようになって」
「……」
「……竜宮島で今の生活になってから初めて口にした。軍人でい続ける気はないなんて」
エルエルフは少し驚いた。伊奈帆の発言とは思えなかったからだ。
「何れは退役も考えようとは思っていた。でも何をするかって」
「……網文韻子はなんと?婚約者なのだろう?」
「その話が出来なくてね。僕がエドモントンで無理を通した件で怒っている」
ため息をつくエルエルフ。
「すまない。人生相談に対応出来る人間ではないのでな。ただ網文韻子と話すしかないだろうとは思うぞ」
「……君は?戦場から離れたらどうするんだ?」
「……お前ほど簡単な状況ではない。俺は戦いしか知らない。時縞や指南に話すことは出来るかも知れないが、結局は自分で決めなくてはいけない重大な案件だからな」
伊奈帆はふと気付く。
「多分こんな悩みが普通なのかもしれない。僕たちの、年相応の」
「まぁ、悪くない」