「シミュレーションより遥かに忙しいですね……」
閉店時間になり暖簾を片付けるルリ。
ルリとユリカとアキトはアルヴィスで用意してもらったラーメン屋で働いていた。
「こういう忙しさを目指してたんだ」
厨房を綺麗にしてエプロンを外すアキト。
「何か……いいね」
テーブルに突っ伏して脱力するユリカ。
島に僅かしかない飲食店は、時間帯により一斉に人が集中する。
一騎の喫茶店や、由希奈達が働くようになった定食屋もそれだ。
そしてアキトのラーメン屋。
アルヴィスの軍務用出入口と、住宅街の丁度間に位置した立地上で最高の場所にラーメン屋があった。
「……自分で建てた店じゃないのが悔しいよな。いつか……また屋台から始めて……」
アキトはユリカとルリにお茶を入れる。
「少しホッとしました」
「何?」
アキトはルリを見つめる。
「アキトさんが戻ってきてくれて、また一緒に屋台をやる。でもそれはアキトさんの熱意次第だったので深く話すつもりはありませんでした」
次にユリカは湯呑みを両手で持ちながら。
「ここがゴールじゃなくて良かったって事。確かに竜宮島はいい場所だし、アキトがこのお店でいいのなら、それならそれで受け入れていたけど」
「真壁司令には、この店の譲渡の話をされていたんです」
借り物だと思っていたアキトは、譲渡という単語に首をかしげた。
「もしこのお店をアキトが選ぶなら、わたしとルリちゃんは離艦と除隊。そしてナデシコはハーリーくんに任せて、ここで旅は終わり」
「なんだよそれ」
ユリカがアキトの呆れ顔を見て笑う。
「嫌だもんね。そんな後味悪くなるの。私たちはアキトを信じていた。だから借り物のままにしておいたの」
何だか気恥ずかしくなり顔を背けるアキト。
「こんな立派なお店ではチャルメラを吹けません。夜空を眺めながら仕事する方が好きですし、さっさと戦いを終らせて屋台を引っ張ってください」
「……ありがとうな。二人とも」
その頃、ムエッタとオルガは二人で夜道を歩いていた。
メドゥーサの自己修復が完全に終わり、グレートゼオライマーから受けたダメージの影響が無かったかを確認するためアークエンジェルに出向いたムエッタ
。
時を同じくして、バルバトスとグシオンリベイクの装甲や武装などが届いたので書類上の手続きに向かったオルガ。
アークエンジェルで出会し、島の宿泊施設まで一緒に戻ろうとオルガの方から言い出したのだ。
ふとムエッタは気付く。
オルガと二人きりで歩いているというのに、普段のジャージではないか。
昔、由希奈から借りたままのボロボロになった数少ない私服。
「あれ?オルガ」
「ミカ。なにやってんだ?こんな時間に」
道端で三日月が一人あるいていた。
「うん。皆城総士に呼ばれて、目と腕の様子を見てもらってた」
「……で、結果は?」
「駄目だった。色々とバルバトスに持っていかれたから」
「……そうか」
「所で二人は?」
「あ、あぁ」
アークエンジェルでの仕事について話す。
「じゃあバルバトスも戦えるんだね。ちょっと見てくる」
「おいおい。明日でもいいだろ」
「駄目だよ。常に準備はしておかないと。オルガはムエッタをおくってあげて」
然り気無く二人きりにされる。
「なんだあいつ……」
三日月は去り際にムエッタと目があった。ムエッタもそれを見て三日月の気遣いを知る。
「……どうにもこの島に来てから初めての事ばかりだ」
「あ?ま、まぁそうだな」
それから二人は他愛の無い話をしながら宿泊施設へと戻った。
「あ、ムエッタ遅かったね」
「随分とゆっくりでしたね……どうしました?ニヤニヤして」
同室の由希奈とソフィーが迎えた。
ムエッタは自らの顔が緩んでいる事に気付いて、両手で顔を押さえた。
「い、今オルガと一緒に帰ってきたのだが」
二人がガバッと顔をあげムエッタに詰め寄る。
「それでそれで!?」
「尋問の時間ですね」
「……今日ほとんど一緒に過ごしていた気がするのだが……」
ムエッタは由希奈に。
「由希奈。すまぬが洋服を見繕ってほしい」
「あー。そうだよね。火星から戻ってからナデシコの支給品しか」
言葉が途切れてソフィーと目が合う。
エフィドルグの兵だったムエッタが恋をして、お洒落に興味を持った。
彼女の進化は止まらない。加速する。
「味方援軍が必要です」
「そうだねソフィー。ムエッタの為に一肌も二肌も脱いじゃおう!」
「脱ぐのか?……というか何故二人の方が元気になるのだ?」
勝手にテンションが上がるソフィーと由希奈に、ムエッタは呆れる。