スーパーロボット大戦Re・disk3   作:jupi

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4話-優しい時間

「それでは講義を終える」

 

「先生堅苦しいってばー」

 

「む……」

 

 クスクスと笑われながらエルエルフが教壇から降りて、教室を後にする。

 

「戦い以外の生活を学ぶ……か」

 

 幼い頃から武器を手にしていたエルエルフが、今はこうして学校で教師の真似事をさせられている。

 無下に断るわけにも行かない。

 補給や戦力の提供なとで多くの借りを作っている竜宮島の彼等を裏切る気にはなれなかった。

 仕方ないとはいえ、戸惑いがある。

 

「エルエルフ。浮かない顔だな」

 

「アスラン・ザラ」

 

 彼もまた、お偉い方の息子にして軍属。ザフトやオーブをフラフラ裏切ったりする余り印象の良くない人物だ。

 

「どうにも、俺の印象が良くなかったのかも。真壁司令には」

 

「……自覚はあるようだな」

 

「後悔のない結果だが……まさかメカニックやプログラミングの仕事からも外されるとはね」

 

「資格を持っていたのか?」

 

 自嘲気味に笑うアスラン。

 

「あぁ。キラとは同じ学校だったから。そういやエルエルフ。君はどこで教育を?」

 

 エルエルフは適当に誤魔化そうかと思ったが、特に嘘をつく相手でもないので。

 

「ドルシアの軍事施設で調教された」

 

「調教?」

 

 首をかしげるアスラン。

 

「今思えばやっていたことは何処にでもある軍事教練だったと思うが」

 

 ふと、女性徒からの黄色い歓声。

 

「アスラン様ぁっ!こっちむいて!」

 

「アスラン様ぁっ!連絡先を」

 

「アスラン様ぁっ!保健の授業を」

 

 他の学年の教室から聞こえた声に、アスランは頭を抱える。

 

「助けてくれ……」

 

「精々生徒には手出ししないよう頑張れよ。アスラン様」

 

 チャイムがなり、エルエルフは次の教室へ。

 

「……お前達か………」

 

 教室では明らかに浮いた存在。オルガと、ムエッタが端の席に座っていた。

 

「三日月や昭弘はどうした?」

 

「あいつらは読み書きができねぇ。マクギリスの所で初等科のガキ共と勉強してる」

 

 三日月は辛うじて許せるが、昭弘ような筋骨粒々の大男が初等科の子供達と席を並べているのか。

 複雑な気持ちになってからエルエルフはムエッタをチラッと見てから。

 

「そっちは?」

 

「私は簡単な勉学は由希奈に教わったし、高校にも数日間通った」

 

 ではなぜ参加しているのか。

 

「エフィドルグの兵をしていた頃に学ばなかった道徳と青春とやらが、わたしには必要らしい」

 

 その手の事は戦艦内でも学べるし、そもそもエルエルフが教わりたいくらいだった。

 実のところエルエルフは、ムエッタとオルガの間にあった真玉橋事件について情報を持っていたのだ。

 少しだけ面白そうだと思ったのは自分だけではなく、もしかしたらムエッタの心配をしていた由希奈達も同じ気持ちかも知れない。

 

「では、講義を始める。号令を」

 

 

 その校内の片隅でホウキを持って体育館近辺の掃除をしていたスレインとリッツ。

 先日のライブの後、ゴミ等が少々目立つようになっていた。

 

「他の方に比べれば楽なものかも知れませんね」

 

 二人は学校の用務員として、簡単な雑用をこなしていた。

 火星やペンギン帝国で多少なり教育を受けていたので授業は免除されていたが、彼等に合致する職業があるわけではなかった。

 

「ねぇスレイン様」

 

「だから様はよしてくださいと」

 

 振り向いてリッツの顔を見ると、いつもと違う真剣な表情。

 

「朕は本来ならペンギンさん達と合流した時点で帝国に帰るべきだったかも知れない。でも」

 

「貴女がこの先の戦いにおいて貫ける大義名分は無いはずだ」

 

 まるで拒絶するように言葉を遮る。

 スレインはアセイラムやエデルリッゾを救う為に戦い、その先には火星騎士達の統率という仕事もある。

 他の者に至ってはエフィドルグや101人評議会を打倒したり、異世界の仲間を集めたり救われた恩義を返すためなど、様々な理由があった。

 だがリッツには無い。

 スレインと一緒にいたくて艦に乗り、仲間意識が芽生えて共に何となく戦っていた。

 今までリッツが経験してきた戦いには’重さ‘がなかった。

 どこか軽いノリもあり、常に戦場において他とは違う何かが無かったのだ。

 

「恐らく次はフェストゥムとの大規模戦闘がある。心の弱さがある人間は同化される。悪いことは言わない。君はペンギンコマンド達と」

 

 冷淡に言うスレインも、リッツの涙には気付いていた。

 

「……帰るべきだ」

 

「いや、帰らない」

 

 反射的に反されるも次の言葉まで数秒、間が空く。

 

「……朕が火星騎士の人達とスレイン様を支える。ペンギン帝国と友好国になって」

 

「悪いが必要ない。僕はアセイラム姫を敬愛し、レムリナ姫が待っていてくれている。既に多くの支えもあるんだ」

 

「どうしても、朕はスレイン様と一緒に」

 

 スレインはリッツの頭に軽く手をあて。

 

「決して君の事を嫌っている訳じゃないんだ。冷静に考え直してほしい。君が僕に着いてくると言うのなら、ペンギンコマンドを危険にさらす事につながる」

 

 涙をポロポロの落としながら、リッツはスレインに背を向けて。

 

「……諦めない。諦めたくない。だって初めてこんな……」

 

 リッツはその場にいることに耐えきれず、走り去ってしまう。

 

 溜息をついて、頭をかきむしるスレイン。

 すると教員が二人スレインに近付いてきた。

 

「えっと……」

 

「わりいな。聞くつもりは無かったんだが……大変だな。あんた」

 

 スレインにとって初対面の男女。

 

「ファフナー隊の指揮をしている、近藤剣司だ。」

 

「あたしは近藤咲良。同じくファフナー隊で、一騎や真矢と同期なの」

 

「初めまして……でしたよね?僕は」

 

「銀仮面でしょ?前にナデシコで来たとき補給作業で見かけたわ」

 

「……今はスレイン・ザーツバルム・トロイヤードです」

 

 簡単な自己紹介を済ませて。

 剣司はスレインに。

 

「あの子は君の為に戦いたいんだろ?どうしてその気持ちに答えてやらない」

 

「彼女が僕のために誰かの命を奪うと言うのは納得が出来ない。僕はそこまでしてもらうような人間じゃないし、これから先は人間同士の戦いも増える」

 

 剣司はチラッと咲良を見てから。

 

「……俺はな、ガキの頃から咲良に惚れていて、咲良を守りたくて戦っていたんだ。最初はボロクソに言われて拒まれたけど今でもちゃんと仲間としてやってる。それなりの時間お互いを信頼して」

 

「……二人は同じ部隊だったのですか?」

 

「スリーマンセルだった。……それより」

 

「あんたさ、もっとあの子を戦友として、仲間としてしっかり見てあげな。そして頼る。今まであんたらがどんな付き合いやってたか知らないけど、突き離すだけが優しさじゃないよ」

 

 咲良の言葉に、スレインは改めてリッツの事を考え直す事にした。

 


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