「あれ?ハサウェイさん。どこにいくんですか?」
ルリとハサウェイが顔を会わせたのは、ナデシコ正規クルーの居住区域。
普段は他の出向者は立ち入らない。
「……アキトの部屋ってどっちかな?」
「そこの通りを左に……」
言葉がつまる。
仮にもテロリスト・マフティーが自分達の領域に入ろうとしている事に警戒を覚える。
アキトの部屋はルリやユリカが乗艦する限り、本人不在の状況が続いていても確保されてた聖域でもある。
「……借りていたアニメを返しにね」
何処か恥ずかしげに紙袋を見せてきたハサウェイ自身が、ルリの警戒をさっした。
アキトから借りるアニメといったら、恐らくあれだろう。
「案内します」
僅かに微笑むルリ。
相変わらずのアキトの布教活動と、それにかかったハサウェイ。
昔のナデシコとさほど変わっていない。
そんな今が嬉しくなった。
「ハサウェイさん」
「なんだい?」
「提案があります」
その日の昼だった。
「お祭り?」
「はい。娯楽の少ない艦内でのちょっとしたイベントです」
ユリカがブリッジに訪れたルリとハサウェイを笑顔で迎えた。
「……アキトは?」
「ユリカさんならOKだしてくれるって、今格納庫で準備中です」
「さすがアキトね。でもまだまだ」
「と、言うと?」
「実はね、竜宮島部隊からの提供で’ゴーバイン‘ってアニメがあるの。トップ部隊のノリコさんも乗り気だし、大規模にやろうか」
一方格納庫ではアキトが何やら始めたと人が集まっていた。
剣之介や万丈、鉄華団は彼の奇行を怪しげに見つめていた。
「……ようアキト。なんかあったのか?」
思わずオルガが声をかけた。
火星にいたメンバーは彼が復讐鬼だった頃を知っているが、過去の明るいアキトをあまり知らない。
「皆には刺激が強いかもしれない……それでも逃げ出さないでほしい」
「そいつは……」
三日月も現れる。
「ねぇアキト。それは皆がいれば乗り越えられそうな事?」
「できる限り人数がほしい。少なくとも俺とハサウェイ。ナデシコの皆が乗り越えた事だ。」
大型のモニターや数々の配線を運ぶアキトを見て、三日月もおもわず首をかしげた。
次の日の昼。
ユリカが艦内放送で格納庫に全ての乗員や協力者を集めた。
テーブルや料理等が列べられ、ちょっとした立食会が始まるのだと誰もが思った。
しかし司会にユリカとアキトが現れて、アニメの上映をするといい始めた時は、僅かに響動めきがおきた。
「ゲキガンガーのお祭りか」
「界塚。これは日本のアニメだよな?」
スレインにとって初めて見る日本アニメ。
「あぁ。実は僕も初めてだ……僕らより彼らの方がショックを受けているようだな」
鉄華団と騎士ユニコーン。彼等はアニメを見るのが初めてだ。
「熱血ロボット?どういう事だ?」
「なんだよこの暑苦しい絵は。なんで合体中に攻撃しないんだ」
ざわめきの中で隅っこに座る万丈が複雑な顔で彼らを見ている。それを剣之介が気にした。
「どうしたのだ?」
「剣之介か。いや、あぁ言ったスーパーロボットの概念をボロボロに言われるのはね。何せ僕も当事者だし」
「気にする必要はあるまい。ノリコ殿を見ろ。あのように堂々として、誇らしげな顔をしているではないか」
「あれは……布教活動中のオタクの顔だよ」
ゲキガンガーの話はすすみ、次第にシリアスシーンやラブストーリーも出てくる。
いつの間にか三日月とアトラが床に座って見入っている。
「最初はよく分からなかったけど、なんかいいね」
「三日月はその……こういうの興味あったりするの?」
ゲキガンガーのパイロットがヒロインとのキスシーンを演じている。
「どうだろう。でもアトラならいいかな……してみる?」
「えっ、ちょっと三日月……ダメだよぅ」
顔を真っ赤にして照れるアトラを微笑ましく眺めるオルガとクーデリア。
そしてマクギリスも……しかし、彼の前には騎士ユニコーンが。
「幼女趣味はどうかと思うぞ。種族が違えどそれは等しく非難されるものだ」
「フッ……何のことやら」
マクギリスは前髪を弄りながらアトラから距離をとり、ゲキガンガーの映像をみる。
「中々魂に響く曲じゃねぇか!戦闘シーンが多いのは気に入らねぇが、熱いロックのオープニングは認めてやるぜ!」
どうやらバサラもゲキガンガーを認めたようだ。
「リッツはアニメとかわかるのかよ?ペンギン帝国がどんなものかはしらないが」
孝一と恭子がリッツに声をかける。
「それなりに見てるわよ。ゲキガンガーも見たことあるし。クールなロボットアニメより熱さがあった方がいいわ。」
「成る程ねぇ」
恭子がスレインの方を見たのをリッツが察した。
「彼はクールだけど、熱さもあるの!朕は絶対に諦めないんだから!」
ダイミダラーパイロット達が騒いでいるすぐそばで、ヴァルヴレイヴ隊も楽しんでいた。
「グッズ販売による経済への影響。ストーリーで惹き付ける事による麻薬的中毒症状、導きだされる結論は……」
《また始まった……で?》
「アイドルによる人心掌握をやめよう。ヴァルヴレイヴや神憑きをネタにアニメを」
珍しくゲキガンガーの熱にやられているエルエルフの手を、サキがつねる。
「……何をする」
「現役アイドルの前で言う台詞じゃないわよねぇエルエルフぅ」
サキが笑顔で怒るのを見てショーコが苦笑いしながら。
「と、所でアキラちゃんどこに居るか知らない?」