捕縛したエフィドルグ兵への尋問が始まる。
「イオク・クジャンは地球軍の施設に脱走したのね?」
「……あぁ」
「貴様の目的はミールを傷付ける事だな?」
「あぁ」
随分と素直に応答するエフィドルグに、マリューとエルエルフが片をすくめる。
総士は精密検査に行っているため尋問には参加出来ない。
「嘘は言っていませんね」
伊奈帆のアナリティカルエンジンが、嘘を暴こうと試みていた。
「我等エフィドルグはこの星の軍事施設に精通している。そしてミールやフェストゥムの存在は我等の仇敵。攻撃は当然の事」
「黙れよ」
オルガがエフィドルグの胸ぐらを掴む。
「なんでお前がビスケットの顔をしているんだよ!」
「そのような名の者は知らぬな」
するとムエッタがオルガの拳に手をあて。
「エフィドルグ辺境矯正官、グリフォンと言ったな」
「……貴様は?」
「かつてはお前の先輩にあたる存在だった。ムエッタだ」
エフィドルグ兵、グリフォンは僅かに笑う。
「脱走兵か。エフィドルグの恥さらしめ。腹を切って罪を償うがいい」
「罪か……それは我等が産まれた事そのものだぞ、グリフォン」
オルガがグリフォンから手を離す。
「我等辺境矯正官は現地の人間の情報を元に複製された、ただの骸だ」
「何を世迷い言を」
「……やはり情報が流れている訳がないよな。お前はビスケットの紛い物。今一度問うぞ。お前はエフィドルグとして命令を全うするのか?それともこの真実を確かめるために足掻くのか」
グリフォンはムエッタに唾を吐きつける。
「……そうか。ならばそれを尊重しよう。最後に聞きたい。貴様の上官の名は?」
「……ミラーサ様だ」
大きくため息をつくムエッタ。
「ミラーサか……生きていたのだな」
ムエッタはグリフォンに背を向ける。
「私の用は終わった。後は任せる」
「ねぇムエッタ」
三日月が声をかけた。
「難しい事はよくわからないけどさ、こいつはビスケットじゃない。死んでいいやつなんだよね?」
「……それは」
「待ってくれミカ」
「オルガ?」
「すまん。俺は……このビスケットの姿の野郎を殺す事に躊躇ってしまっている」
数人がオルガの甘さに辟易としながらも、理解していた。
「どこまでも愚かな劣等種め!大人しく滅びの時まで震えていればいい!」
ビスケットの顔と声でオルガに吐き捨てる罵声に、三日月は銃をとろうとする。
「待ちたまえ」
三日月を制止して自らの銃をグリフォンに向けたのは、破乱万丈だった。
「グリフォン。お前は自分の存在が人間よりも優れていると考えているのか?」
「貴様らを劣等種と言ったぞ」
唐突に響く銃声。
万丈はグリフォンの足を撃ち抜いた。
「ぐあぁっ!」
「続けよう。この場でエフィドルグである君を生かした場合、どうする?」
「決まっている!私を侮辱したお前たちを根絶やしにして」
再び銃声。
今度はグリフォンの腹。
「万丈。もうやめろ」
騎士ユニコーンが止めようとする。
「いや、駄目だ……お前たちがこの星で集結しようとしているのは、やはり黒部なのか?」
「エ……エフィドルグに安寧を……」
「やめてくれ万丈!」
思わず声が出たオルガ。
「……人間をなめるなよ……その身勝手な理想ごと滅ぼしてやる」
「や、やめ……!」
頭部へ二発の銃弾。
絶命したグリフォンの遺体が横たわる。
「……オルガ。どうすればいい?俺は万丈のやり方で良かったと思うけど、納得いってないよね」
「ちょっと待ってくれ……」
「メガノイドとは違うが人の形をとりながら機械に作られた紛い物の存在を、僕は受け入れられない。軽蔑してくれてかまわない」
「それは、わたしもか?」
ムエッタが万丈に。
「君次第だ」
次の瞬間、オルガは万丈に掴みかかる。
「お前何様だ!どんな事になっても俺はお前のやり方を認めねぇ!ムエッタだって俺の命に変えても守り抜いてやる!」
オルガは自らの言葉の重さが感情的すぎてよく分かっていなかった。
思わずオルガを注視するムエッタ。
「……そうか」
どこか感心したような、安心したような顔を見せる万丈は退室する。
グリフォンの遺体が処理されて解散から数分後に、その場所に現れたのは熱気バサラと太陽騎士ゴッドだった。
「結局殺すんじゃねえか……」
「万丈の独断ときいていたが、気に入らない。どうする」
どうする。
つまり今後もこの革命統合艦隊に参加していいものかと。
捕虜の尋問中の殺害。
決して許されるものではない。
「俺は歌う。フェストゥムやエフィドルグに聴かせてやる。何よりこの部隊の連中に」
「……万丈は太陽の化身だと知らされていたが、奴にも陰りはあるようだ。本当の意味で魂を震わせるべきなのは、仲間内……バサラ、お前の戦いに俺も存分に力を貸そう」