FateのSS呼んでてふと思いついたネタ。
転生者を媒介に亜種聖杯戦争に嘘屋スチパンのニコラ・テスラが召喚されてしまう話の冒頭部。
そのままだと蹂躙系になってしまうので、霊基がFate世界のテスラなので弱体化している上、召喚実験の心算で亜種聖杯戦争に参加した降霊術師が、召喚術式に手を加え、依童にサーヴァントを呼び降ろしたら、依童がFate世界によくいるIPPANNJINNだったせいでデミサーヴァント化しちゃった設定です。
続きません。

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聖杯戦争SSを見ていてふと思いついたネタ。

 そんな心算は毛頭なかった。

 そんな勇気など、持っている筈がなかった。

 心の内から、黒い物が沸き上がる。

 

 くそっ、くそっ、くそっ、くそっ……。

 

 胸の内に籠るは怨嗟。

 誰かではなく、自らへの、それ。

 ともすれば溢れそうになるそれを必死に飲み下し、男は前を見た。

 そんな事をするつもりは無かったのに、この身は偽者と弁えていたはずなのに、しかし、それを見たその時、この体は勝手に動きだしていた。

 男の背後には、若い男女が数名。

 度胸試しの肝試しにでも来たのか、ここしばらく悪い噂のある、この界隈の路地裏に蹲っていた。。

 けれど、けれども、彼の背に庇われて尚、その向こうから振りかかる威圧に哀れに腰を抜かして、けれどもその男達は、健気にも更に背後にいる女達を庇っていた、そう見えた。

 それは、輝きだと、彼は思う。

 誇りとか、見栄とか、時には下らないと評される事のある、しかし、生命保存の本能を超えて湧き上がる、一瞬の輝き。

 そんな輝きを目にして、戦う力を持った己が逃げる等、到底出来はしなかった。

 だから体は動く、少し前まではただ人だった彼が、到底立ち向かえなかっただろう、巨影を前にして。

 偶然かもしれない、本当は逃げ出したくてたまらないのかも、心を染めようとするそんな弱気を口の中でかみ砕く。

 長身、黒瞳、黒い短髪……その身を白い詰襟で包んだ青年は、不敵に見えると良い、そう願いながら強くかみしめたその両の口角を、なんとか吊り上げてみせた。

 その首から伸びる黒いボロボロの襟巻(マフラー)が、風もないのに長く棚引く。

 そうして彼は、目の前の巨影に向けて両手を構える。

 無手の格闘技の構え、ちゃんとした形には成っているが、その程度、世界を攫えば履いて捨てる程度には居るだろう。

 風格は無い、弱くはないが、あくまでもそれは常人の範囲――そう見て取ったのか、対手の巨影の口元が弦月に歪んだ。

 それを見た男の心の中に、更なる炎が、否、雷が点る。

 【彼】ならこんな時、どう返しただろう、そんな想像が、思わずその唇から漏れた。

 

「――見下すか、狂気に飲まれし英霊が如きが」

 

 嘲りに、怒りを返す。

 狂気に飲まれ、ただの殺戮機械と化し、その誇りを見失い無辜の殺戮に手を染めるが如きが、この背後の輝きを見下すとは片腹痛い。

 そして彼自身の身を救い、その心に燦然と焼き付いたその輝きを嘲る事も、また、許せそうになかった。

 そんな怒りと、それが掻き混ぜた心の奥から浮かび上がってきた稚気が、内に巣食っていた怯懦を、終に駆逐せしめる。

 

「己が浅ましきを満たす為、今を生きる者達の輝きを奪い、飲み込む、禽獣が如き輩が。

 この輝きを前にして、それでもなお嘲り嗤うか」

 

 耳の奥に音楽が聞こえた、そんな気がした。

 かつて聞いた音楽、何の変哲もないゲームのBGM。

 処刑音楽、勝利確定、【彼】はテンプレ戦闘を持っていなかったけれど……。

 軽く息を吐く、目を瞑る、敵手を前にして自殺行為、けれども、閉じられたその目の前に、見えていた。

 それは、彼の目の前に立つ、英雄の後ろ姿。

 巨影を前にして傲然と、その両腕を組んで――そして彼のその両腕に、青色の輝きが宿る。

 構えたその両拳、緩く握られた掌の内に、納まる小さな球電がパチパチと音を立てた。

 いつしか両手には、その表面に青白い光線(ライン)が走る黒い長手袋、その上に被さるくすんだ金の、真鍮めいた装甲。

 人差し指、中指、薬指の付け根と、手の甲の真ん中に、アナログのメーターが一つずつ配された、それはスチームパンク、そう呼ばれる意匠と、その元となった物語群を思い起こさせる、金色の機械の籠手(マシンアーム)。

 

「輝きを持つ者よ、尊さを失わぬ若人よ――」

 

 そして彼の口から、再びの言葉が漏れる。

 借り物の言葉、偽者のこの身、けれど、けれども、内に宿した輝きだけは、紛れも無い本物だ、そう信仰する。

 宿す器は凡庸なれど、宿した輝きは正しく紫電。

 譬え、世界が灰に染まったとしても、闇に鎖されようとも、灰燼に燃え尽きた燃え差しの世界でも、失われる事のない物があるのだと、残る輝きは確かにあるのだと、高らかに叫び、輝いて天に示すもの。

 

「お前たちの声を聴いた。ならば呼べ、私は来よう」

 

 心、雷、その二つはもはや同じものだった。

 宿したものに動かされたか、それとも元よりその内に根を張るものか、胸の奥から湧き上がる感情に合わせて、その全身から青色の輝きが溢れる。

 男の腰に巻かれた真鍮色の機械の帯が、その輝きを受けて照り返し、風も無いのに棚引く襟巻が、雷の尾を引いた。

 そして、開かれた彼の瞳、輝いて――

 

「絶望の空に、我が名を呼ぶがいい。

 ――雷鳴と共に、私は来よう」

 

 ――宣する。それは荒唐無稽な雷霆のお伽噺。

 

「私の名は、テスラ……キャスター・ニコラ・テスラ・オルタ。

 その身に飲み込んだ幾多の輝き、返してもらうぞ!」




敵は何処にでもいそうな弱いサーヴァントを強化させた系バーサーカーと、
悪化した燃費を魂喰いで補おうぜ系の効率厨魔術師です。


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